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《二人だけの合唱会》

私は悩んでいた。
最近、彼と彼女が一緒にいるのをよく見かける。
私だって、子どもじゃない―それが友達感覚のモノか、もう少し先の感覚のモノかの見極めはつく。
見極めはついたのだが…では、自身の胸のぐにゃりとした不快感をどうすればいいのだろう。

私は困っている。
いつも一緒にいる友達と、忘れ物を教室に取りに行き―目撃したのは、彼と彼女のキスシーン。
何もこんな所でしなくても…等と、入口で観察していたら、友達がぱっと駆け出して行った。
慌てふためく彼と彼女に「ごゆっくり」と冷静に告げ、友達を追う―得体の知れぬ不快感を覚えながら。

私は哀しむだろう。
自身の事ではなく、友達の事で。
感情表現の乏しい私と違い、友人は賑やかで明るい気持ちを振りまく。
その彼女が、今浮かべていた表情は哀しみ―そんな彼女を見続ける事は、悲しい。

友達を追いながら、ふと思う。
彼女に追い付いたとして、私に何が出来るんだろう。
自身の事すら理解できない私に、誰かの心情を理解し、声をかける事などおこがましくはないだろうか。
心の声とは裏腹に、疾走する体は、彼女の居場所―音楽室についてしまった。

「―金糸雀、……えと、その………」
「ぅ……ぐす………―薔薇水晶……?」
「うん。………何か、出来る事、ある………?」
「ぅ、ひぅ…く……、ごめん、なさい。今は、一人に……ぐす……」

ヤだ――言葉には出さないが、一瞬で却下する。
とは言え、先程の自問にぶち当たる―私に何が出来る?
脳内のデータベースを漁ってみるも、出てくるのは慰めに使えない無駄に熱い台詞ばかり。
『だぁからお前は阿呆なのだぁ』―うん、使えない。畜生。

「……一人にはできない、……したくない」
「ぅ、ぅ……ありが、とう。……でも、ぐす、カナはだいじょう……」
「―『大丈夫』なんて戯言は聞き入れない。……傍に、いさせて……」
「だめ、かしら……こんな、かお、誰にも、見せたく…ぅぁ…ないもの…」

初めて言い渡される、拒絶の言葉―先程と似た不快感が、私の中に芽生えた。
音を立てず、背を向け静かに哀しみの感情を吐露する友達に近づく。
彼女は私の接近に気付かない。
私は彼女の真後ろに膝をつく格好で座り、彼女の肩に手をかけ―ぐぃと此方に引き寄せる。

「やっぱり、泣いてる。………許せない。金糸雀は、友達」
「――ば、ばらすいしょうっ!?………貴女だって―」
「大切な、大切な友達。泣かせる人は、誰だって………え?」
「――貴女だって、泣いているかしら………ほら………」

私を振りほどこうとしていた手を、私の頬にあて――水滴を拭う。
気付かなかった…私も、彼女と同じ様に涙を流していたのか。
だとすれば、先程感じた不快感も、…………彼女と同じもの?
心は理解していないが、体は反応していたようだ。

「……金糸雀、どうして、私は泣いているの?」
「どうして……って、カナにはわから…―」
「そう…。―さっきからずっと胸がモヤモヤしてるのと、関係あるのかな…」
「そっか………やっぱり、貴女も、なのね。だったら、そのモヤモヤ、カナと一緒よ…」

そう言う彼女に浮かぶのは、愛しさと切なさがごっちゃになった様な、複雑な微笑み。
何がどう『やっぱり』なのか、私にはわからない。
でも、彼女と一緒…というならば、このもやもやも悪くない。
瞳に涙を溜めたままの彼女の愛らしい額に、自らの額をこつんと合わせる。

「――金糸雀と一緒なのは、嬉しい」
「ん――こんな気持ちで嬉しいのはどうかと思うけれど…」
「……じゃあ、どうすれば…なくなるの?」
「……なくすのは難しいと思う。けれど、薄める事は出来るかしら…」

そう言うと、彼女は目を瞑り、――大きく口を開き、涙を再び流し始めた。
哀しい嘆きと、切ない水滴を、滔々と曝け出す。
あぁ、そうか――私も、彼女に習い、声と涙を弾けさせる。
心のしこりを薄める為に―胸のもやもやを洗い流す為に。

「――ねぇ、金糸雀」
「……なぁに、薔薇水晶」
「私達の泣いている原因ってなぁに?」
「…まだわかっていなかったのね。――どうしてかしら…カナも、泣いている内に、忘れちゃった」

私達は、嗚咽と共に切れ切れの会話を交わす。
だけど、お互いの言葉は時々不鮮明になる。―今この場では言葉自体の意味は余りないが。
私と彼女はこの苦く切ない不快感を薄める為に、空が赤から黒に変わるまで―
――延々と二人だけの合唱会を続けた。

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