※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。


20時05分。船尾、ランニングデッキ。

「うわああああ!!」
ズザザーーーー!!
今日何度目か知れない吹き飛ばしを喰らい、通路の外へ放り出される。幾度も壁や床にたたき付けられたおかげで全身打ち身だらけだ。
急に温度が下がった外気と傷に染みる夜風が、待望の目的地に辿り着けた事を知らせてくれた。
だが-
「っはあ!はあ!はあ…」
もはや限界だった。おそらく、次の連撃は防ぎきれない。
途中、剣を片方失ったのが痛かった。医務室を抜けた辺りで一般客(外見から判断するにだが)に遭遇してしまい、やむを得ずデイザーを使ったのだが、無論こんなスキを見逃してくれる相手ではない。
腰に納めた剣を瞬時にたたき落とされ、拾う事を意識する前にこちらが吹き飛ばされてしまった。
あの時にこちらに手傷を負わせる事も出来ただろうが、武器を奪う事が先決と判断したらしい。事実、それにより防戦どころかただ逃げる事しか出来なくなってしまった。

タッ、タッ、タッ。
相手もデッキに到着。紺の袴が風になびく。これだけ討ち合ったのに息一つ乱れないとは…たいした運動能力だ。
改めて顔を見ると僕に似ている気がする。歳もそう変わらないだろうに、どんな修業を積んだのやら…
「くっ…!」
頭を降って意識を正す。いけない、まだ僕にはやらなければならない事が残ってるじゃないか。ここで僕があっさり負けてしまっては、今金庫を相手にしている二人も同じ運命を辿る事になるんだから。
スッ…
残された剣を上段に構える。
防御は捨てていい。どうせ受けきれないんだ。なら、全力で一太刀を叩き込む。これに全てをかける。五体満足で他のメンバーの所へなんか、絶対に行かせない…!
「最後に君の名前…教えてくれるかい?」
「・・・」
返答なし。ま、当然か。こんな時間稼ぎに付き合ってくれるほど未熟では無いのはこれまでの戦いで十分過ぎるほど解っている。

ダッ!
来た。集中しろ。恐れるな。狙え。見切れ。どこでもいい。どこか、一撃を入れられる箇所は-
「!」
「え…」
パーーーーーン!
ズザザザ
あと1、2メートルという所であの剣士が横に飛びのいた。いや、何かを弾き返した…? 
『らしくありませんわよローズ4。貴方の剣は常に美しくなくてはいけませんのに』
無線に雪華綺晶の声が入った。そうか、水銀燈はそれで僕を此処へ…
パーーーーーン!
再び狙撃、そしてそれを彼女が再び弾き距離をとる。
『ローズ4!ここは私達に任せて貴方は金庫へ!』
「でも…」
そこに新たに無線が入る。
『ローズ4!大至急金庫へ向かうかしら!潜入がバレらしいの!急いで!』
「…っ!ローズ4了解!バラキラ、後は頼んだよ!気をつけて!」
蒼星石がデッキから先程の通路へと走る。直ぐさま巴がその後ろ姿目掛けて斬撃を放とうと構えた瞬間、
ひゅっ、スタン。
通路入口の上、二階のテラスから一人の『つるぎ』を持った乙女が舞い降りた。
「今度の相手は…私達…ここから先へは…通さない…!」


ライフルのスコープから見える様子では、蒼星石を追うのは諦めたようだった。
これで一先ずの課題はクリアした。そして次は…
「さてさて、あの蒼星石をあそこまで追い詰めたその腕…見せて頂きましょうか!」 
ガシャガシャ、ガチャン!
弾む気持ちを抑え、弾倉を交換しスコープを覗く。
今二人はデッキのほぼ中央の位置で向かいあっている。
深呼吸を一つ。そして、無線に告げる。
「お行きなさい!ばらしーちゃん!」
ダダッ!キュン!ガキャーン!!
二人の斬撃と狙撃が、同時にデッキに響き渡った。



20時08分。対策指令本部。

「くっ…まさかウチのパソコンを経由してハックするなんて…!」
数分前、通路で部下が倒れているとの情報が入った。同時に、保管施設に何物かが侵入しているとも。
確かに電波妨害から次のアクションまで時間がかかっているなとは思ったが…しかし、ここまで素早くセキュリティを解除されるなんて思いもしなかった。
第一、電子系のセキュリティロックは現代技術の粋を集めたもののはず。これでは今の情報体制など向こうにとってはザルに等しいということではないか。

「みつ警部!右舷デッキの近くの一室で隊員二名が倒れているのを発見!衣類や装備は持ち去られています!」
指令室に飛び込んで来た一人が叫んだ。通信機がダウンしている今、不効率ではあるが口頭での情報伝達に切り替えたのだ。
「成る程ね…。で、金庫の方は?」
「若干の抵抗に遭遇していますが、準備が整い次第突入出来ます!」
「急がせなさい。隊員二人は控えのドクターに診てもらって」
隊員が返事をして出ていくと、白崎巡査が呟いた。
「しかし…施設が敵の手に落ちたということは…巴さんは…」
「あの子の心配は無用よ。恐らく相手もあの子の危険性に気付いて、人員をさいて足止めしてる頃でしょ。」
「はぁ…」
白崎巡査はいまひとつ納得出来なかったが、みつ警部は巴の実力を良く理解していたのでこの予想に確信が持てた。
あの子ならたとえ相手がローゼンメイデンだって、十分過ぎるほど渡り合えるはずだ。
「とにかく今は施設の制圧が再優先よ。金庫を開けられる前に突入できれば、奴らになす術は無いんだから」 



同時刻。機密保管施設。

「あー!次から次へとうぜえんですよ!この、この!」
今翠星石は入口の前で持ってきた武器と一緒に陣取り、金庫突破は雛苺に任せていた。
「チビ苺!進み具合はどうですか!?」
「う~、まだ時間がかかりそうなの…」
本来、あの金庫を開ける装置は三人で操作するものなのだ。雛苺一人ですんなり操作出来るものではない。
この金庫はこの部屋セキュリティとは独立しているためにピチカートの援助が望めず、さらに電子とアナログのロックが幾重にも重ねられ、解除にやたら労力と時間がかかるの仕掛けになっているのである。
それでも素早く開けられるようにと金糸雀が開発した画期的な解除装置『開けるんですSPECIAL』であったのだが、今はその複雑さが仇になってしまった。

「マズいですね…『ビックリマン』か『ぺとぺとさん』がありゃまだ何とかなるんですが…」
『ビックリマン』とはショックを与えると爆音と閃光を撒き散らす玉状の武器で、『ぺとぺとさん』は強烈な頭痛や痺れや痒みを引き起こす粘性の毒液入りの特殊弾だ。(開発、ネーミングはどちらも金糸雀)
どちらも混戦や時間稼ぎにうってつけなのだが、今回は一般客がいるという事で水銀燈が持ち込みを禁止したのだ。

バババババ!チュン、チュン!
相手は右舷通路の入口に集まり、射撃と回避を繰り返している。こちらはゴム弾のサブマシンガンと実弾のハンドガンを上手く使いなんとか凌いではいるが…
(だんだん…攻撃の手数が減ってきたですね…)
これは良くない兆候だ。仕留める撃ち合いから牽制射撃になったという事は、外で突入の準備が整い初めてるということだろう。
こちらがどんな巧妙な手で入口を固めても、煙幕弾を撃ち込まれ防弾シールドを掲げた隊員が二十人も突進して来られたら手も足も出せずにジ・エンドだ。

(今です…!)
少々危険でも、もっと効果的な射撃が出来る場所、前に蒼星石が飛び込んだ横道に移動しようと出口から乗り出した瞬間…
バッ!
「あ…!」
なんとその通路から銃を構えた隊員が突如現れたのだ。この体制では回避も出来ない。もっと注意深く周りを確認すべきだったと自分を呪い目をつむった時…
ビビビッ!
「ぐぅ…!?」
「ひやあ!!」
これまた突然その男が体を痙攣させ倒れこんできた。これは…デイザー?それじゃあこれを撃ったのは…
「蒼…!」
ガラガラガラガラガラ!ドガシャーン!!
「ぎゃああああああ!?」
次に勢い良く飛び出して来たのはまさかの簡易折り畳み式の医療用ベッドだった。あまりにも意外な物が転がってきたのでつい叫んでしまう。
そのすぐ後にようやく期待した蒼星石が来てくれたのだが、
「翠星石!援護!」
「は、はいですぅ!」
無事を喜ぶのも、何するんだと怒るのも後にして直ぐさま言われた通りに援護射撃を行う。
すると蒼星石はベッドを斜めに傾け通路を塞ぎ、両端の手摺りとベッドを手錠で繋いでしまった。
「これで…完成!」
さらに、床にのびていた隊員をベッドに寝かせてやる。
こうすれば相手は手錠とベッドを壊すためにサブマシンガンやアサルトライフルを連射することが出来ない。当然、こんな位置に金属バリケードがあっては突入する事など不可能だ。

「さっすが我が妹ですぅ!血も涙も無い見事な策です!!」
「御託はいいから早く雛苺と金庫を開けて!!」
「ア、アイサー!ですぅ!」
妹の叱責におずおずと従う姉。
まったく、あの姉はいつでもどこでもあの調子だ。こっちは死ぬる思いで助けに来たと言うのに…
「ふぅ~」
ようやく一息つく。あの女侍に会ってからは走りっぱなしだったが、なんとか体は持ってくれた。基礎体力の重要性を改めて実感する。
もっとも、全身あちこち痛かったが泣き事など言える場合では無い。このバリケードを壊そうと身を乗り出してくる相手に威嚇射撃をしなくては。
…だが、なんとかこれで時間は稼げるハズだ。向こうの指令室が新たな策を実行に移す前に、あの二人が金庫を開けられればよいのだが… 



20時20分。ランニングデッキ。

煌めく星空、差し込む月明かり、そして空と海の漆黒の闇。
そんな世界に照らされたデッキで、二人の乙女が踊っている。
もし、何も知らない人がこの場に居合わせたらそう表現するかもしれない。それほどに二人は美しく、優雅に舞っているのだ。

実際、その動きは巴にしては遅すぎた。本当ならばもっと集中して素早く切り込みたいのだが…
キラッ…フッ…キラッ…カッ!
時折デッキを照らす厄介な照明。それが薔薇水晶が振るう剣(つるぎ)“エンジュリル”によるものだと巴が気付くのにそう時間はかからなった。

この“エンジュリル”は一見すれば芸術品かと思うほど美しい水晶の剣である。自然界が造り出した神秘の結晶…のように見えるのだが、実は金糸雀と共同開発した様々な機材が装備された特殊兵器になっているのだ。
この剣には背後が暗闇であれば瞬く間に闇に同化して肉眼では確認出来なくなり、背後に光源があればたちまちそれを増幅して輝く閃光を振り撒く性能が搭載されており、相手の意識を撹乱させることが出来る。
さらに-
「氷牙…!」
ヒュン、キーン!
薔薇水晶が大きく剣を振り抜くと、剣から小型の水晶が投擲される。それが床や巴の刀に衝突すると水晶の粉塵をばらまく目くらましになるのだ。
その粉塵目掛け閃光を当てようものなら、ストロボライト級の光が巴を襲うことになる。

こうした装備が初期搭載されているのは、薔薇水晶が主に緊急事態の対処を任される事が多いからだ。どんな状況でどんな指令を与えられても完遂出来るようにと、薔薇水晶は通常装備と同じく常に携帯している。
だが、同時に欠点もある。
様々な機能が搭載されているために、質量がかなりのものになっているのだ。加えて、機能発動のプロセスが非常に複雑でありもする。
(開発時、金糸雀が本当に扱えるのかと危惧していたが、薔薇水晶は僅か数週間でモノにしてしまった。余談だが、薔薇乙女の中にテレビゲームの類で彼女に勝てる者はいない)

また、純粋な一対一の戦闘力だけで言えば、薔薇水晶は蒼星石よりもいくらか劣る。
そして巴ほどの使い手であれば、エンジュリルの特性を把握し、スキをみて高速の連続攻撃を行い薔薇水晶を撃ち倒すのはそう難しい話しではないハズだった。

しかしそれをさせて貰えないのだ。
それが、巴が苦戦する最大理由であるこの…
「…!」
パーーーーーーン!!!!
闇夜に潜むスナイパーの存在だった。
激しく動いているにもかかわらず、正確に足元や手元を狙ってくる。これでは目の前の相手だけに集中するわけにいかなかない。
せっかく上手く相手の体制を崩したり剣を弾いても、ここぞという時に限ってライフル弾が飛んでくるのだ。
「…くっ…」
その時初めて…この船に乗り込んでから本当に初めて、巴が表情が歪んだ。


「まったく、良く弾きますこと…!」
雪華綺晶が自慢の高性能スナイパーライフル“オーディール・H-173”の再装填をしつつ、呆れ顔で呟いた。
雪華綺晶が居るのはランニングデッキの隅、二人からは50メートルほど離れた場所。この場所からあの女侍の場所まで一体どの位の時間でライフル弾が到達することか。
確かに、他のメンバーが使うデイザーやゴム弾の類いは殺傷力を持たせないようにするために発射速度を減らしているので、避けられないこともない。
しかし、この“オーディール・H-173”はハイパワーライフルでもある。そして貫通力のある弾丸を使用し、下手な装甲板など楽々突き抜く威力を持っている。当然、その速度も半端なものではない。

「だと言いますのに…」
女侍が薔薇水晶の動きを読み攻撃に転じる瞬間を見定め、13ミリ弾を叩き込む。
…駄目だ、また弾かれた。
「ここまでくると、反射と言うより予知能力に近い気がしてきますわね…」
ガシャン!
ライフルのノズルを前後させ、次弾を装填し、スコープを覗く。 
しかし何だろう、この安心感と充実感は。私がこのライフルを握る度、こういった感覚が体を取り巻くのがわかる。
これはそう…大好きな食事をしている時に似ているかもしれない。

御馳走の香りの代わりに硝煙の臭い。
胸踊る食器の感触の代わりに鋼鉄の肌触り。
至福の味わいの代わりにターゲットへの命中。
つまりは、そういう事か。
性に合う、まさにそんな感じ。才能に恵まれたとも言えるだろう。
生まれながらに右目が不自由だったおかげで、人より遥かに左目が研ぎ澄まされたのも…思えば、運命だったのかもしれない。

私自身戦争への出兵の経験は無いけれど、もしかしたら…そう、別の世界の私なら、そんな経験をしているかもしれない。何故だかそんな気がする。
そしてその私は、奇妙な運命からとある学園の教師になるのだ。
バカな校長にあらゆる火器を叩き込み、生徒達に射撃を教えながら愛する妹と教壇に立っていて…
「…と、」
こんな妄想にふけっていても、戦士の嗅覚は働くものらしい。
スコープに写る女侍が不審な動きをしたような…それはほんの一瞬だったけれど、こちらの位置を探るような動作をした気がする。
念のためにポイントを移動しライフルを構えると、その直後に元いた場所に斬撃が飛んできた。まだあの場にいたら真っ二つになっていたところだ。
「油断もスキもない、という事ですわね」
少々自分を諌めつつ、再びスコープを覗く。妹はあのバケモノ侍相手に良く闘ってくれていた。
「あのお方とは、長い付き合いになりそうですわ…!」
ほぼ確信に近い予感を抱きながら、雪華綺晶は愛銃のトリガーを引いた。 



20時23分。対策斑指令室。

「医療用ベッドと手錠のバリケードに隊員付き~!?」
「なんと独創的な…」
この報告にはさすがの二人も目を丸くした。
「あ~、もう!突入して終わりだと思ったのに…」
次の対策を練る前に、ついつい愚痴ってしまう。一体どういう訓練をすれば、こんな非常識な策を考え実行に移せるのか。
普段ならこの位の障害など炸裂弾、毒ガス、その他もろもろの武器で簡単に突破出来るのだが、まさか民間船で使うわけにもいかない。
横の通路から部隊を突入させる事も考えたが、それには武装した大勢の隊員がパーティー会場の近くを通る事になる。私服警官ならまだしも、そんな事したらパニックになるのは必至だ。
この民間船というフィールドをいかに上手く使うかが、この勝負の分かれ目になっていくのだ。

頭を抱えているみつ警部に白崎巡査が指示を求める。
「それで、どうするんです…?」
「そうね…確かこの船には工作用の電子カッターがあったわよね?」
近くの隊員が素早く肯定の返事を返す。
「ならそれでいきましょう。さっきの作戦通りに隊員の配置を。ただし二列目には電子カッターを持った工作員を入れて、先頭の防弾シールドに身を隠しながら手錠を破壊させて。それが終わり次第突入よ!」
伝令係りが指令室を勢いよく飛び出して行った。
「…上手くいきますかね?」
「向こうの火力も限られてるし、残弾もそう多くはないハズよ。破壊工作を止める手段は取れないだろうけど…」
指令室にかかっている時計を見る。彼女達が金庫の突破を初めてから随分時間がたっていた。
「問題は時間ね。隊列を組み立てバリケードを突破するのが速いか、金庫を開けられるのが先か。これは時間との勝負よ」



20時30分。コンテナ指令室。

流石の水銀燈も焦りが見え始めていた。
予想外の強敵との遭遇、予感より早期の潜入発覚、予想以上の金庫開放の難航…
胃の当たりが少しキリキリする。これではお肌はかなりのダメージを受けていることだろう。明日の朝鏡を見るのがちょっと怖い。
いやいや、そんな事を考えてる余裕はもはや無くなっているんだ。
「ローズ3、6!あとどれくらいかかりそうなの!?」
『うい…もうちょっとなの!』
もう何度も繰り返したやり取り。だが、そろそろ本気で時間が危ない。先程は蒼星石の機転で時間を稼いだが、それもいつまで持つか…
「もうちょっとじゃなくて正確に伝えなさい!」
場合によっては、諦めて撤退する算段もしなければならないだろう。
すると、今度は翠星石が答えてきた。
『もうちょっとったらもうちょっとなんですよ!早くてあと5分!遅きゃ20分以上!…あー!なんでこの金庫は力任せなロックまでしてるですか!んぎ~!!!』

別にあの二人がもたついてる訳では無いのは十分わかっている。だがそれでも急かさずにはいられなかった。
そこに更に新たな無線が入る。
『こちらローズ4!マズいよ!相手が準備を終えたみたいだ!あと5分持つかわからない!!』
いよいよピンチだ。どうする?撤退するか?いや、まだ何かやれるはずだ。回収チームは動かせない。薔薇雪華の二人もあの女侍相手で精一杯だろう。私達が動く訳にもいかない。ならば残す手駒は…
「真紅とあの男だけ…」
今あの二人は脱出用ボートの整備をして待機しているだろう。だが、あの二人だけで何が出来る?男の方は一般人だし、真紅は撹乱・陽動には向かない。第一、今そんな事をしても突入を防ぐのはまず無理だ。
水銀燈が真剣に金糸雀と撤退の算段を相談しようかと思案した時、金糸雀がモニターの異変に気がついた。
「え…ここって…そんな!真紅達が船首のデッキにいるかしら!!」
「はあ!?」
そんなバカな…と画面を覗くと、確かに真紅達がそこにいた。だがそこは敵の指令室の目の前である。さらに何も隠れる場所が無い船首では、狙撃の的もいいとこだ。
事実、真紅のカメラから送られてくる映像には、何人もの狙撃隊の銃口がこちらを向いてるではないか。これでは陽動どころか時間稼ぎにだってなってない…!
今すぐ逃げなさい!…と、水銀燈がマイクに叫ぶ直前、二人の無線、及び対策班指令室にいたみつ警部にまで届く叫び声が船首に響き渡った。

「う、撃たないで~!!ボ、ボクに当たるぅうう~!!!!」

|