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18時30分。中央エンジンルーム内部


轟音響く部屋の上、通気孔が延びる細い空洞に二つの人影があった。
「こちらローズ5。現在パイブラインに沿って移動中。ローズ2、私達の位置は追えてる?」
小型無線を使い指令室に呼び掛ける。すると直ぐに返事が帰ってきた。
『こちらローズ2。バッチリ映ってるかしら。そのままポイント・デルタまで移動するかしら』
「ローズ5、了解なのだわ」
少し急ごうかしら…そう思って進むスピードを上げると、後ろから情けない声がした。
そうだった。今回は一人ではなかったんだった。こういった任務は一人で行うのが常なので、ついつい忘れてしまっていた。だが、それにしても…
「もう少し早く進めないの?あんまり遅いと置いていくのだわ、ジュン」



「ん~、どう?あの二人は。上手くやってるぅ?」
奥でコーヒーを沸れていた水銀燈が尋ねてきた。
「まぁ、とりあえずは…かしら」
コンテナ内部に設置された画面上に表示される二人の移動速度の違いと無線から伝わる口喧嘩を除けば、だが。
「…それにしても、よく真紅のワガママを飲んだわね?カナは心配で仕方ないかしら」
今だって二人の声が船員に聞かれないかハラハラしているというのに。
「ふふっ、まぁ…ね」
それは、今からちょうど一時間前の事だった。 


カチャリ。水銀燈が銃をジュンへ向け、その引き金を引こうとした時、
「ちょっと待って欲しいのだわ」
ジュンを庇うように体を割り込ませながら真紅が言った。
「あら真紅ぅ、自分の男は自分で始末を付けたいのぉ?…それとも、その人間を逃がせとでも言うのぉ?」
声はいつもの猫撫で声だったが、目は真剣だった。
「私達は無関係な人間は巻き込まないようにしているわぁ。でもココを見られては無関係どころか危険因子よ。それに殺すワケじゃない、眠ってもらうだけ」
実際、水銀燈がジュンに向けていたのは『デイザー』という小型の電気銃だ。体に受ければ成人男性を五、六時間黙らせる事ができるが、殺傷力はない。
まぁ、真冬の倉庫に何時間も放置されればどうるなるか解ったものではないが…こちらの知った事ではない。

やや間があった後、真紅が言った。
「そうね…私が巻き込んでしまったのだから、私が責任を持って対処しなければいけないのだわ」
やっと解ってくれたか…と水銀燈が真紅にデイザーを渡そうとすると、
「だから、この人間は私が連れて行くのだわ。問題になりそうだったら私が始末をつける。それなら問題ないでしょう?」
水銀燈はもちろん、他のメンバーも唖然としてしまった。あの男自身も。
「は…?アナタ、自分が何を言ってるか解ってるの?」
「当然なのだわ。それに、貴重なデイザーをこんなところで使用するのは得策ではないわ。ただでさえ今回は一般船客との接触の危険が大きいのだし」
確かにデイザーは便利である反面、小型であるがゆえにバッテリーに限界がある。出来るかぎり残弾は残しておきたいのだが…
「もちろん、彼の同意があっての話しだけれど。さあ、選びなさい人間。電気銃で気を失い、気温8度の格納庫に明後日港に着くまで綴じ込められるか、それとも私と一緒にくるか」


こうして、現在に至るわけだ。
「あの堅物真紅が、あんなに夢中になるなんてねぇ…」
「何か言ったかしら?」
「なんでもぉ。それで、彼にも通信機は渡してあったわよねぇ?」
「もちろんかしら」
一応、真紅の相方を勤めるというのだから、最低限の装備は渡して置いた。もっとも、一般人に扱えるものは限られていたが。
「じゃ、真紅にヤられる前に声くらい聞いておきましょうか」
いろんな意味で危険な台詞を吐きつつ、無線マイクに手を延ばした。 


『こちらローズ1よぉ。Jボーイ、生きてるぅ?』
「あ、はい…一応」
いきなり無線が入ってびっくりしたが、まごつきながらも小型マイクに答た。
ちなみに、“Jボーイ”というのは僕に与えられたコードネームだ。なんでも『ジュン』と『ジャンク』をかけたらしい。
…さて、今現在僕は目の前の女性の計らいで凍死を免れ、晴れてテロリストの仲間入りを果たしたワケなのだが…
『気をつけてねぇ。油断すると真紅に食べられちゃうわよぉ』
「は、はぁ…」
「何を言っているのローズ1!作戦中よ!それに無線ではコードネームで呼びなさい!」
『あらごめんねぇ、お邪魔だったかしらぁ。またねぇ~』
「ちょっとローズ1!?…まったく…」
「・・・」
何が悲しくてこの聖夜にテロ活動をしなくてはならないのか…。せっかくこのクルーズの為に用意した一張羅も、埃にまみれ物騒な機材を巻かれて、今では見るも無残な状態になっていた。
ああ、神様。一体僕が何をしたと言うのですか…?

「ローズ5よりローズ2へ。ポイント・デルタに到着。これから機材の設置起動を行うのだわ。…ほら、下りるわよジュン」
「…はい」
彼女の声で現実逃避を止められてしまった。まぁ、事が済んだら解放してくれると言うし、それまでの辛抱なのだけれど…。
狭苦しい通気孔から下りると、そこもやはりケーブルやメーターの並ぶ部屋だった。見ると彼女は既に準備に取り掛かっている。
「ジュン、そのカバンをとって…違うわそっちよ…これを持ってて…これをそっちに繋いで…ほら、ここをライトで照らしなさい…もっと手元を…」
確かに(半強制的に)手伝う約束はしたが、えらいコキ使ってくれる。
…言っておきますが、僕はアナタの下僕になるなどと誓った覚えはないんですよ?
そんな気持ちが顔に出てたせいか、真紅が睨みをきかせてきた。
「なによ、不満でもあるの?イヤだと言うのなら、今すぐコレで眠らせて海に投げ込んであげるけれど?」
黒光りするデイザーを腰から取り出してちらつかせる。
「いえ…スミマセン…」
「結構。じゃあ次は…」
…これが大きめの毛糸のセーターだけを羽織り、僕の部屋で『言うこと聞かないと呪いとやらで口を塞ぐわよ』なんて言うんだったら(なぜかそういうシーンが思いうかんだ)まだ萌えるなりの予知があっただろう。
「(だけど…)」

ゴウン!ゴウン!ゴウン!

それがこんな轟音響く無機質な機械満載の場所で、黒い防護服に身を包み、完全武装の状態で銃を突き付けられてああ言われては…素直に従う他ない。
初めて会った時の可憐で気品に溢れた姿は、今では夢幻となってしまった。

ああ、どこか平行世界でそんなシチュエーションにいる僕がいたなら、どうかその生活を大切に。
こちらはなんの祟りか、その女性とテロ活動をしているのです…



19時00分。パーティー会場。

檀上に上がった司会者が高らかに演説を開始する。
「皆様、お待たせ致しました!これより、ブロッサム・ダ・ノリス号のクリスマス・パーティーを行いたいと思います。ではまず、船長の…」
集まった人々が檀上に視線を送る中、会場のスミで揉み合っている二人がいた。
「お姉ちゃん…!まだ…まだ食べちゃだめ…!合図があるまでお願いだからじっとして…!」
「離して下さいばらしーちゃん!あああもんも堪えられませんんん…今すぐあのロブスターにぃいいい…」
「目立つ行為は避けろって言われてるでしょ…!?」
薔薇水晶が本気でこの分からず屋にデイザーを食らわせようか考え始めたところで、ようやく食事のゴーサインが出た。
ぱっ。限界に近かった腕を離す。
「待ってて下さい私のエビちゃんにターキーちゃん!!!!!」
まるで猪の如く料理に突進し、ハヤブサの如くテーブルに(立食スタイルのパーティーではあるが、部屋の両サイドには丸テーブルがもうけられている。)舞い戻って来た。
「はぁ…」
とりあえず薔薇水晶も料理をとって戻る。するとこの姉は既に二皿目に突入していた。
「お姉ちゃん…少しは自重してね?いつ御呼びがかかるかわかんないだから…」
色とりどりの料理から目と手を離さずに答える。
「まぁまぁ、そう言わずに。それに、指令が入ったら行動すれば良いだけの事ですし、わたくしに限ってお腹いっぱいで動けないなんて事はありませんわ」
「まぁ…そうなんだけど…」
実際、この二人は緊急のトラブルが発生した時の対応班なので、何も起きなければ何もしなくていい。
「それまではこの食事を楽しみましょう。では、次はあのお肉を…」
そう言うと、そそくさとお皿を持って料理の並ぶ場所へ行ってしまった。 



19時20分。コンテナ指令室。

「こちらローズ2。ローズ5、機材の準備はオッケーかしら?」
『こちらローズ5。何時でもいけるのだわ。起動する時は合図をちょうだい』
「ローズ2了解かしら」
「ふ~ん。あの二人、上手くやれたみたいねぇ」
「そうでなくちゃ困るかしら。ねぇ“ピチカート”」
『イエス、マスター』
ここでしくじってしまっては、せっかくの作戦も、この“ピチカート”も無駄になってしまう。

金糸雀が呼んだピチカートとは、自作の高性能AI(人口知能)の事だ。パソコンを通して会話も可能なソレは、様々なプログラムを同時に素早く確実に使用する事ができる。
また、ハッキングの性能はこのピチカートの最も得意とする分野であり、金糸雀いわく『最新防御システムと名乗るなら、まずこのピチカートを防いでからにしてほしいかしら!』とのこと。 

「さてと、ローズ3、4、6。準備は出来てる?」
『ローズ3、バッチリですぅ』
『ローズ4、問題ないよ』
『ローズ6、同じくなの』
「ローズ7と8も問題ないわね?」
「大丈夫かしら。ちゃんとパーティー会場に潜り込めてるわ。きらきーが料理を食べ尽くさない限りは」
実は雪華綺晶の食事スピードと食料の在庫はしっかりと計算してあった。それだけ危険が大きいと水銀燈が判断したのだ。
「時間も頃合いね…。よし!じゃあいくわよぉ!全ユニットに告ぐ!作戦開始ぃ!」
「アイサーかしら!ローズ5、『妨害ちゃん4号』起動!」


真紅が起動スイッチに手をかけた。
「ローズ5了解。マシンを起動」
ここで『妨害ちゃん4号』と言わないのは、ただ恥ずかしいからだ。全く、あの子の技術には関心させられるけれど、ネーミングをもう少しどうにかならないのか。
キイイイイン…
装置が作動し、特殊な機械音が響く。
「なぁ、コレってなんの装置なんだ?」
隣で眺めていたジュンが聞いてきた。
「局部的に強力な電波妨害を発生させる装置よ。そしてココの真上には敵の指令室がある。今は通信機がダウンしてる頃でしょうね」
各部屋の位置配置は船内を歩き回って確認済みだ。
「ふ~ん。じゃあ僕はコレで…」
逃げるように立ち上がったジュンの裾を掴む。
「まだよ。まだ仕事が残ってるのだわ」
「やっぱり…?」
「さぁ、ぐずぐずしてないで行くのだわ」
深いため息をついたジュンを無視して、次の任務のために再び通気孔に入り移動を開始した。 



同時刻。対策班指令本部。

「みつ警部!通信回線か途絶!防衛システムにもいくつか不調が見られます!」
パソコンに向かっていたスタッフの一人が叫んだ。
「ついに来たわね…落ち着きなさい、想定されていた事よ。まず無線は放棄、システム復帰に全力をあげて。情報伝達はタイプBに変更よ!」
「いよいよですね…一体どんな手でくるのか…」
少し不安げに白崎巡査が呟く。
「どんな手が来ても私達は全力で当たるだけよ。待機の部隊員をAブロックとBブロックに配置して!第一種警戒体制よ!あとは…」
きびきびと部下に指示をだすみつ警部。
緊張しながらもどこか楽しそうだ。
「さぁ…来るなら来なさいローゼンメイデン…!」


「…と、言ってる頃には手遅れかしら♪」
実にご機嫌にワープロを叩いていく金糸雀。
「どう?上手くやれそう?」
さして不安そうな色を見せずに聞く水銀燈。
「モーマンタイかしら!」

先程の電波妨害は実はソレ自体の意味はたいして重要ではない。狭い船の上なのだから、無線以外の方法でも何とか伝達手段はとれるだろう。
本当の狙いは『防衛システムの不具合』にあった。突破は出来なくていい、多少不調を見せれば、本部のパソコンが防御システムにリンクし修繕にあたるだろう。
その瞬間、ピチカートが本部のパソコンに忍ばせておいたウイルスプログラムが目覚めるのだ。
結果、防御プログラムを全てピチカートが掌握し、本部のパソコンはただ『異常なし』の画面を写すだけのガラクタと化してしまう。 

「ん、セキュリティ解除完了かしら。お疲れ様ピチカート」
『サンキュー、マスター』
可愛らしい合成音が答えた。
「よし、じゃあ回収チームは行動開始。慎重に頼むわよぉ」
『ローズ4理解。作戦を開始する』



同時刻。機密保管施設。

セキュリティが外され、センサーの類が息を潜め、照明が燈る。
「・・・」
その中で、黒い布に被われていた何かが、ゆっくりと動き始めた。



19時23分。右舷デッキ。

「おい、いよいよ来るらしいぜ」
「全く、勘弁願いたいねぇ」
警戒していた隊員が雑談を交わす。本来ならもっと緊張感を持つべきだが、今日はなんと言ってもクリスマス・イヴ。愚痴の一つもこぼれるというものだ。
すると隊員の一人が小さな声を聞き取った。
「おい、向こうに何か…これは…泣き声か?」
その場を任されていた二人が慎重に声の元へ向かうと、ピンクのドレスを着た小さな女の子がへたりこんで泣いているのを発見した。どうやら、パーティーの合間にはぐれてしまったらしい。
「うわ~ん、ママ~!!」
「なんだ脅かせやがって…。ほら、お嬢ちゃん?大丈夫だよ。おじさんがママの元へ連れてってあげるからね」
少々悪態はついたものの、すぐ思い直して優しく語りかける。
すると女の子は不安そうに二人を見つめた。
「ぐすっ…おじさん達…船の人…?」
「ああ、だから安心していい。さあ、泣き止んでおくれ。今からパーティ会場の…」
「じゃあ、容赦しなくていいの」
ビビビッ!ババッ!
「ッ…!!!」バタバタッ。
後ろから放たれた二発のデイザーによって、何をされたかも理解する間もなく二人の隊員は動かなくなった。

ズリズリズリ…
のびた二人を近くの部屋に運び込み、制服を脱がし始める。
「全く、本部へ連絡も無しにその場を離れるなんて、とんだトーシローなの」
雛苺が二人に冷ややかな目線を送る。ツバでも吐きかけそうな勢いだ。
もっとも、簡単に連絡させないようにしたのはこちらなのだが。
「…時々、翠星石はアイツが怖くなるですよ。どんな大人になるですかねぇ…」
「多分、今のまんまだと思うよ」
脱がした制服や装備を身につけながら翠星石と蒼星石が言葉を交わす。その間に雛苺が指令室に連絡を入れた。
「こちらローズ6。作戦成功なの。今からローザ・ミスティカの回収にいくわ」
『ローズ2了解。セキュリティは解除したかしら。くれぐれも気をつけて』
「ローズ6了解なの。交信終了」
ちょうど二人の着替えも終わったようだ。胸には自分の写真付きの識別カードもかけられている。
「じゃあ、行くですよ?“迷子さん”」
「お願いなの。“警備員さん”」 



19時45分。機密保管施設前。

「ここですね」
船の設計図と部屋の位置関係からおおよその検討はついていたが、間違っていなかったようだ。
大量の警備員がいるワケではないが(不自然に隊員を配置するとここにお宝があると言っているようなものだと、みつ警部が判断したため)、玄人の勘が『ここ』だと告げている。
ここに来るまでに何人かの隊員に接触したが、 『デッキで迷子を発見した。転んで打ち身が出来ているので手当てしてから会場へ送る。本部へは連絡済みだ。』で切り抜けられた。
セキュリティが解除されていると言っても、それはこの部屋への侵入を防ぐものであり、こるから内部の金庫を突破してお宝を取り出さなくてはならない。
「じゃ、さっさとすませよう」
そう言って、蒼星石がドアを開けた。


「な…!!!」
三人に取り付けられた小型カメラからの映像に、本部の二人も驚愕した。
「ちょっとどういうことよぉ!!なんで部屋の中に人がいるわけぇ!?」
「そんな…ありえないかしら…」
あの部屋には僅かでも動いた物を探知するセンサーが働いていたハズだ。そして、出港してから今の今までこの部屋は開けられていないのは確認している。
…ならこの7時間以上もの間、足元の布を被ったままピクリとも動かなかったとでも言うのか…!?
ありえない。
しかし、そう考える他なかった。
マイクに向かって水銀燈が叫んだ。
「くっ、仕方ないわ!相手は無線は使えないハズよ!周りに気付かれる前に素早く無力化して!!」 


「ローズ4…了解…」
カメラ越しの二人と違い、直接対峙している蒼星石達はすぐに理解した。
この女剣士は…強い。
それも、ケタ違いに。
白い胴着に紺の袴姿の剣士を取り巻くオーラがピリビリと伝わってくる。気を抜いたら気絶してしまいそうだ。
この相手とやり合えるのは、僕しかいない!
シャキン!
腰から蒼星石の特殊装備、『双剣レンピカ』を抜き放つ。
挟み型のソレは、一枚なら風を切るほど素早く、二枚なら鉄線を砕くほど強靭な武器になる。
「僕が彼女を止めるから、二人はローザ・ミスティカを!」
「わ、わかったですぅ」
部屋の中央に陣取る剣士を避けるように、翠星石と雛苺が金庫へと周り込もうとする。

それは、一瞬の出来事だった。
「・・・飛太刀」
ズハーーン!!!
「ひゃああ!!!」
翠星石が咄嗟に後ろに飛びのく。見れば足元の床が鋭利にえぐれていた。あと一歩踏み出していたら右足とはお別れだっただろう。
しかし、あの剣士は動いていないのに…いや、違う。腰の刀を振り抜いたのだ。
まさか、剣の太刀筋だけで!?
「くっ…剣士のくせに遠距離攻撃とは…なんてデタラメな野郎ですか!!」
こちらにも銃はあったが、避けられた時に壁のセンサーを壊してしまったら警報が鳴ってしまう。
「蒼星石!頼んだなの!」
「はぁあああ!」
雛苺が叫ぶのとほぼ同時に蒼星石が女剣士に跳びかかった。この剣士相手に牽制行為など無意味なのだ。できるかぎり接近して、動きを止める…!
ガキィイン!!
二人が初撃を討ち合った瞬間に、翠星石と雛苺が金庫へと走った。 


「マズイわね…」
この頃になると、指令室の二人も相手の力量を計れていた。
画面に写し出される戦況では、確実に蒼星石が劣勢だ。あんな狭い部屋で、かつ動きが制限されたとあっては致し方ないか…。
いや、もしかしたら、純粋な実力でもあの蒼星石を上回っている…?
『くあっ…!?』
イヤホンに蒼星石の叫び声が入る。このままではマズい。どうにか相手を金庫から遠ざけ、蒼星石がまともに戦える場所へと誘導しなければ。
それに適した場所は…今は警備が手薄な船尾のランニングデッキ…!
「蒼星石!その相手を二階の医務室を経由してポイント・フォックスロットへ誘導して!!」


返事はしなかった。否、させて貰えなかった。
ガキン!ジャキン!バキィイイン!
「ぐあっ…!」
入り口付近に吹き飛ばされたついでに、部屋を飛び出して誘導ルートへ駆け込んでみる。これで狙いを中の二人に変えられたら終わりだったが、どうやらこちらの誘いに乗ってくれたようだ。
「はっ!」
ヒュン!ズハーーン!!
「うわっ…!?」
部屋を出るやいなや放たれた技をギリギリで回避。
…まったく、これでは誘うと言うよりただ追われているだ。

この相手は確かに強い。が、自分とて並の使い手ではないつもりだ。実際、一撃の重みやスピードなどはそこまでの差はないように思える。
圧倒的なのは、『集中力』だ。
こちらが退路を意識したり、動きの算段をしたり、相手のクセを読もうとしたり…そんなスキとは言えない瞬間でさえ、この相手は付け込んでくる。

防戦一方だ。これでは長く時間を稼ぐことは難しい。まして、無力化するなんて…!
ガキン!ヒュン、ヒュン、パーン!
今医務を通過した。目的地までは、あと200メートル…! 


「金糸雀!エマージェンシー・アラート!」
水銀燈にはこの二人を広いデッキに誘導しても、蒼星石の勝機が薄いのはわかっていた。だから“控えの二人”を使おうとしたのだが、今はまだパーティー会場にいるのだ。
そこから武器を隠してある準備室に向かい、装備をすませてランニング・デッキへ向かう…。果たしてそれまで蒼星石が堪えられるのか…!?

水銀燈の指示に金糸雀が無言で頷き、マイクに叫ぶ。
「こちらローズ2!エマージェンシー・アラート!ローズ7、8は直ちに…あら?」
「なにしてるの!?一刻を争うのよ!?」
「あの二人…もう準備室にいるかしら」
「え…?」 



20時03分。緊急班準備室。

「ようやく私達の出番ですわね。食事を打ち切って来た甲斐があるというものです」
二人はパーティー会場で無線から施設内部の様子を聞きとり、念のために準備していたのだ。
「…うん。じゃあ急ごう。蒼星石が危ない…」
「もちろんですわ、ばらしーちゃん…!」
各自、自分達の“相棒”を連れて、全速力で控え室を飛び出した。

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