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「じゃあ行ってくる」
「行ってらっしゃい。車に気をつけるのだわ」
「いってらっしゃいなの~」
まるで親子のような会話をしてから、ジュンは外出した。日曜日の午後三時。
真紅は一人リビングで紅茶片手に読書という平和な時を過ごし、雛苺はテレビの前に陣取りお気に入りのDVDを鑑賞していた。

「あれ?ジュンは出かけたですか?」
二階から降りてきた翠星石が尋ねる。
「ええ。ベジータ達と夜まで遊ぶそうよ。だから夕飯もいらないと言っていたのだわ。…何か問題でもあるの?」
「ん~、ちょいとジュンのパソコンを使わせて貰おうと思ったですが…」
「構わないのではなくて?後でジュンに言えば問題はないのだわ」
「そうですね」

簡単に相槌を打ってから二階のジュンの部屋へと向かう。
ウ゛ォン、カタカタカタ…
電源を入れて起動させる。別にたいした用ではなかったのだが、調べモノを手際よく済ませ、ついでに最近凝り始めた観葉植物の資料に目を通した後、ネットを終了した。
「ふぅ、こんなもんですかね」
後はスタートボタンから終了するだけ…とマウスを動かしていると、とあるファイルに目が止まった。
「なんですかね?これ…」
デスクトップに一般的なアイコンが並ぶ中、少し離れた場所に黄色いファイルが孤立している。ファイル名は「GAME」
ジュンが新しいPCゲームでも買ったのだろうか?たが、たまにやらせてもらうゲーム類はこんな場所には無かったハズだ。とりあえず興味半分で開いてみることに。 
…アイコンとテキストファイル、あとはよくわからないファイルが並ぶ。やはりゲームのようだ。疑問に思いながらも、まぁ暇つぶしに…と、先頭の可愛いデザインのアイコンをクリックした。

「……な!!!!!!」

画面いっぱいに現れたのは、なんとも際どい姿の女の子三人と『シスターズ☆パラダイス』というロゴ。
「ま、まさかこれは…例のギャルゲーというヤツですか…!?」
これで意外に耳年増なところがある翠星石。画面から溢れんばかりのいかがわしいオーラから瞬時に正確な判断をくだした。

まさか…あのジュンが!?いやいや、ジュンだってお年頃。しかしこの手のゲームは18歳以上が対象のハズ…
色々ハラハラしながら考えていたが、とりあえずこのゲームを調べてみることに。聞いたところによれば、こういったゲームには様々なジャンルがあるようだ。ドラマのような恋愛モノから、奇怪な専門用語に満ち満ちたマニアックなものまで…
「ん、コレですね…」
なんとかレビューサイトを見つけ出す。要約すると『押しかけてきた三姉妹と主人公が二週間イチャつきながら生活する』ゲームらしい。
…とりあえずは安心した。これが健全と言えるかはわからないが、自分が危惧した●●●を●●したり、●●●が●●●●になるような類ではななったようだ。
しかし、登場人物を見て再び緊張が走る。

・登場キャラクター
長女『露善 赤音(ろぜんあかね)』
次女『露善 緑子(ろぜんみどりこ)』
三女『露善 桃花(ろぜんももか)』

金髪のほっそりとした小柄な長女に、長い栗色の髪の次女。そして可愛らしいリボンを付けた三女…
さらにこの名前である。言うまでもなく、今の私達の状況に酷似しているではないか…! 
なにか言いようもない不安に駆られながらも読み進めていくとサンプル画面の欄があった。小さくてよく見えないソレをクリックして拡大すると…

「ほわーーーー!!!!!」

コレは…一体何を!?先程の女の子と主人公が、アレな格好で凄くアレな状態であったりしていたりなかったりする。
(まさか…ジュンはこんな事を望んでいるのですか…!?)
これは穏やかではない。むしろ緊急事態だ。何か対策を練らなければ、とんでもない事が起きるのではないか…!?

「ちょっと、何を騒いでいるの?」
余りにも大きな声で叫んだために、真紅が様子を見に来てしまったらしい。
(マ、マズイですぅ!!…いや、よく考えたらこれは翠星石一人の問題じゃねーんですよね…。ここは…三人で話し合うべきですか…)
とりあえず真紅に雛苺を呼んで来させて、今までの経緯を恥ずかしながら説明することにした。 



午後四時半、ジュンの部屋。
パソコンは元気のいいメロディを流し、楽しげな女の子を映し出していた。
その一方で、深刻な面持ちの二人となぜか涼しい顔の雛苺。

「で、コレが一体何だというの…?」
始めは動揺を隠せなかった真紅たが、翠星石と似たような思考を巡らせたすえ、今はある程度冷静さを取り戻した。
「わからんのですか!?このキャラクター設定で(たぶん)やらしい内容のゲームをジュンがやっているなら…明日は我が身かも知れんのですよ!?」
「え…!?」
真紅は再び狼狽する。真紅自身はこの手のゲームにはかなり疎いのだが、確かにジュンが自分と似たキャラクターを用いて、何と言うか…そう、『教育上不適切』な行為をして楽しんでいるなら…これは見過ごせない事であった。
それをあろうことか、現実に行使すると言うのなら…(自称)彼の教育係の私が何とかしなければ…! 

「でも…具体的にどうしようと言うの?」
「翠星石が思うに…これはジュンがシュミレーションをしてるように感じるのですよ。だからここは、私達もこれをプレイして検討するべきかと…」
「なるほど…。もし万が一似たようなシチュエーションになった時に冷静な判断が下せるよう、こちらも予め想定しておくのね…」
「ですぅ。その上で、しかるべき処置と対策をジュンに施して…」
熱心な議論を交わす横で『ギャルゲーなんて今時珍しくもないのよ』と雛苺が呟いだが、それを聞ける二人ではなかった。



午後5時。そろそろ日も暮れてきた時に、桜田家の乙女三人はギャルゲーのタイトル画面と相対していた。
「じゃあ…いくわよ…」
「ですぅ…」
震える手を抑えながらマウスを握る真紅と、固唾を飲んで見守る翠星石。さながら世界の運命をかけたミッションへ向かう兵士のような面持ちである。
ちなみに雛苺は、一階からポテチなんぞ持ち出してきて食べながら観戦していた。

「…で、どれを押せばいいの?」
ガクッ。見事に肩透かしを喰らった翠星石だったが、見れば確かに色々な開始のボタンがある。とりあえず説明書きを読むと、気になるモノを発見した。
「リプレイ機能…ですか…」
どうやら昔のプレイ記録をもう一度見れるらしい。つまり…
「ジュンがどんな選択をしてどんな行動にでたか解るというわけね…!」
検討と対策にこれほど便利なモノはない。ジュンのプライバシーなど露ほども考えずにソレを選択。すると、沢山の欄に一つだけ記録があった。日付は…最近のものだ。
「よし…今度こそいくわ!」
「合点承知ですぅ!」
先程とはうってかわって、素早い動きでマウスをさばき、クリックボタンを弾いた。 

やたらテンションの高いムービーが流れた後、ようやく話しがはじまった。画面上には沢山の選択コマンドがあったが、とりあえず真紅はテンポよくマウスを叩いていく。(リプレイ機能では画面をクリックすると前と同じ選択が行える)
まずは自己紹介に現状説明。あらすじはあらかじめ押さえていたためスムーズに進んでいく。すると三姉妹が家にやってきて一悶着。
…しかし、ゲームの女の子が(歯の浮くような)可愛いセリフや恥ずかしい言葉を発するたびに、ボイスリピート機能が働くのは何故だろうか?真紅と翠星石が簡単に論議した結果、『ジュンが使用した外部出力型の音声機器の不調によるもの』と結論づけた。
雛苺は『ジュンもまだまだ青いの~』などと呟いていたが。

しかしこうして実際にこのキャラ達の境遇を見てみると…
(…確かに私達と似てるのだわ)
ジュンの両親が長期不在中なら部屋が開いているだろうと、この家を学生寮がわりに使っている真紅達。
実際は真紅達が幼なじみのジュンのヒキコモリを打開すべく取った苦肉の策であったが、今ではジュン共々上手くやっている(と思っていたのに…!)。

何分かして主人公が自分の部屋で落ち着きを取り戻すと、画面が代わり選択肢が表示された。

『赤音姉の部屋に行く』
『緑子姉の部屋に行く』
『桃花の部屋に行く』

「「!」」
二人が急に真剣な表情に変わる。つまりこれは…ジュンが誰を選ぶと言う事…?
「ジュン…わかっているわね…?」
「ジュン…信じてるですよ…?」
「まだ始まったばっかりなのよ…」
各人がそれぞれの思いを呟き、真紅がボタンを叩いた。

ピコーン
『赤音姉の部屋に行く』 

「ああ!そうよ!ジュン!!」
「くわー!なんでですかー!!」
片や眼前に天使でも現れたかのように呟き、片や閻魔様に『お前は地獄行きだ』と言われたかのように叫ぶ。
随分とご機嫌な真紅がマウスを操作していくと、主人公が赤音の部屋に入り雑談を交わし始めた。…のだが、何故か赤音は主人公にやたら積極的に接近し、やたら腕やら肩やらに手を置く。

「~~!!ちょっと真紅!!ジュンにべたべた引っ付き過ぎですぅ!!」
「わ、私に言わないで頂戴…!」
真紅の言い分がもっともなのだが、真紅自身も何だか恥ずかしくなってきた。
こんな風に接するのがジュンの望みなのだろうか…?ちょっと想像してみるが…駄目だ。恥ずかしすぎて出来るわけがない。

主人公も耐え切れなくなったのか、慌てて部屋を飛び出してしまった。すると先程の選択肢が現れ、今度は緑子を選択した。
「どうやら愛想尽かされたようですねぇ?真紅ぅ?」
「だから、私に言わないでと言っているでしょ…!」
とは言いながらも随分と不機嫌にゲームを進めていく。主人公が緑子の部屋の前まで来てドアを開けた。

『へ…?きゃーーー!?』
『うわわっ!?』

まさにお約束、着替え中に部屋に入ってしまったようだ。まぁ実際にこんな体験もあったので、ある程度理性をたもって画面を覗く二人。
…なのだが、なぜかこの娘は叫んでばかりで、主人公も弁解の言葉を呟くばかり。さらにそこにボイスリピート機能まで働くもんだから、随分と長い時間緑子の裸体が画面に表示されてしまう。

「~~!!ちょっと翠星石!!いい加減に服を着るなり体を隠すなりしたらどうなの!?」
「す、翠星石に言うなです…!」
なにか聞き覚えのある言い合いをよそに、今度はポッキーをかじりながら冷静に画面を見つめる雛苺だった。 



午後7時。大分慣れてきた(騒ぎ過ぎて疲れたこともあるが)のか落ち着いてプレイを続ける二人と雛苺。
なにせ、このゲームはやたら先程のような『誰を選ぶ?』的な選択肢が多く、その度に二人は一喜一憂して体力を消耗していくことになった。だが全体をとうしてみると、にジュンは三人をバランスよく選んでいるようだった。

そんな選択肢の度に雛苺が『そこは赤音ルートなの』とか『それじゃフラグ立たないのよ』とか呟いていたが、実際真紅と翠星石は釈然とはしないまでも、それなりに(キャラを自分の身に置き換えて)楽しんでいた。
二人っきりで買い物に行ったり、映画を見たり。たとえゲームの話しでも、ジュンが自分で選んだ選択肢なのだからまんざらでもない。

疲れてきた目をほぐしながら真紅が呟く。
「…だいぶ進めてみたけれど、何と言うか…思ってたよりも…その、普通ね。こういうモノなの?」
確かに過剰なスキンシップはあれど、このくらいなら『教育上不適切』というか…そこら辺のカップルとそう変わりない。
いいムードの中で体を寄せ合い唇を重ねた時などは(必要以上にリアルな効果音まで付いているし)顔から火がでるかと思ったが。
「う~ん、どうなんでしょうねぇ。ゲームによっても違うし、選択肢によっても随分変わるみたいですが…」
雛苺が『節操がないのがいけない』だの『フラグを見逃してる』だの複数指摘したが、二人には一つも解らなかった。


三姉妹が主人公の家にいるのも後僅かとなり、物語が佳境を迎える。
それまでは友達として仲良くやってきたキャラクター達だったが、互いに想いを重ねていく内に引かれあっていくのがキャラのセリフからも良くわかる。
だが、皆に優しくしてくれる主人公の態度は、次第に姉妹達を苦しめてしまう結果となる(雛苺いわく、へたれルート)。
自分だけを見てほしい、自分だけを思ってほしいという、身勝手だけれどどうにもならない感情が画面からひしひしと伝わってきた。

「・・・」
今や真紅と翠星石は黙って画面を覗くだけであった。自分に良く似たキャラの事を考え、同時に自分自身の事も考える。
もし、自分が同じ状況に置かれたら…やはりこの子と同じ行動に出るのだろうか… 

「「あ…」」

ついに、決定的な選択肢が画面上に表示された。
明日帰らねばならない姉妹は、主人公へ想いを告げた後、家を出てってしまう。
数分後、主人公の携帯に三人から自分の居場所を記したメールが届く。

『赤音姉の所へ行く』
『緑子姉の所へ行く』
『桃花の所へ行く』
『このまま家にいる』

「ラストチャンスなの…」
雛苺が重々しく告げた。
真紅はマウスから手を離してしまう。次画面をクリックすれば、ジュンが選んだ選択が行われるのだ。
真紅と翠星石の心境は概ね同じだった。自分を選んでほしい…。だけど、もし選ばれなかった時の事を考えると、また自分が選ばれても他の姉妹の事を考えると…。
『このまま家にいる』の選択肢が、やけに選びやすく見えた。自分がもし主人公の立場だったら、1番選びやすい選択肢かもしれない。だけど同時に1番選んではいけない選択肢の気がする。
ジュンにも…選んで欲しくない。

何分か経った頃、翠星石が何かを決心したように言った。
「真紅、続きを見ましょうです。」
「…そうね。」
再びマウスに手を伸ばす。
「じゃあ…いくのだわ」
カチ。 

くっ…と目をつむった二人が目を開くと…
「あ、あら?」
カチ、カチ、カチ…
何回押しても画面に変化が現れない。よく見れば、カーソルが今までの時計型から一般的なものに変わっていた。

「これって…ジュンはここでセーブしたまま続きをやってないって事ですかぁ!?」
「あ、あら…そう…」
はぁ~。一気に脱力する三人。
「確かセーブの日付は四日前でしたか…。てことはあのヘタレは四日間も迷い続けてるですね…。全く、たかがゲームだってのに…とんだダメ男ですぅ!」
調子を取り戻したのか、いつもの毒舌に戻った翠星石。しかし、随分とホッとした様子だ。
「やっぱりダメダメなの…けど、ジュンらしいの」
妙に大人びた顔をする雛苺。
「ふふっ…そうね」
真紅も少々落胆したものの、それ以上に安心感の方が強かった。
確かにたかがゲームだが、ジュンは真剣に考えてくれている。なにより、安易に『このまま家にいる』を選ばなかった。逃げなかった事が真紅には嬉しかった。
ジュンが今後誰かを選んだとしても、それはジュンが全力で考え抜いた答なのだから、どんなモノでも受け止められる…そう思えた。

三人がそれぞれ自分の想いにひと区切り付けた頃、翠星石が思い立ったように提案した。
「せっかくですから、続き見てみませんですか?」
そんな気など全くなかった真紅だが、当初の目的を考えれば…まぁ、見ておいて損はないか。
「別に構わないけれど…その時は『緑子』を選びなさい」
自分を選んだ話しも見てみたい気はしたが、いささか恥ずかしい。
「りょーかいですぅ。ではでは、行くですジュン!しっかり翠星石を仕留めるですよ~!!!」
すっかり何時もの調子で、張り切って翠星石は叫んだ。
カチッ! 



午後10時。
「だだいま~」
ジュンが疲れた声で帰宅。リビングに入ると、出かける時同様テレビを見てる雛苺と、何故かこちらに目を合わせない真紅。
「お、おおおお帰りなのだわ…」
「?ああ…。あれ、翠星石は?」
「二階で寝てるのだわ…。その、ちょっと熱が出てしまって…」
「なんだ、カゼひいたのか?」
「に、似たようなモノよ…」
「ふ~ん…」
妙に挙動不信な真紅に疑問を持ちつつも、疲れていたのでとりあえず自分の部屋くことにした。

お風呂に入り、宿題を済ませ後は寝るだけ…と思ったのだが、パソコンに目が止まった。
「・・・」
最近、どうにも自分を悩ませてしょうがないあのゲーム。ベジータから借りたモノだったが、今日進行状況を伝えたらひどく笑われたものだ。まぁ、ゲームでこれだけ悩む自分が普通ではないのだろうけど。
なんとなくゲームを付けてみる。まだ答は出ていないけど…まぁ、ゲームなのだから、三人順番に選んでみるのもいいのかもしれないな…
「あれ?」
記録の日付が新しくなっている。これは…今日?今日パソコンなんて開いたっけか…
などと思いながら開いてみると、

「…!!!!!!!!!!!」

画面いっぱいに広がるあられもない姿の緑子姉。
しばらく思考停止状態のジュンだったが、『状況整理』→『情報収集』→『推論』→『結論』の一連の行為を済ませるやいなや、言葉にならない悲鳴を上げながら布団に飛び込み、ガタガタ震えながら涙ながらに夜を過ごしたのであった。

翌日、翠星石と一緒にベットで熱にうなされるジュンの姿があったとさ。

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