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私は窓の向こう側に憧れた。
私は病気だ。
よく解らないが、心臓の病気らしい。
物心ついた時からこの病室が私の世界の全てだった。
両親は助からないと諦めたか、それともまだ助けようと頑張っているのか。
年に数回しか会えないから諦めたんだろう。
後は死の宣告を更新し続ける医者と、パートタイムの笑顔の看護士。
それが私の世界の住人だ。
だから私は窓の向こう側を見続けた。
向こうには私が欲しがった物があったから。
私が居た証は何だろう。
誰にも知られる事無くこの空虚な箱の中で朽ち果て、日記だけが残るんだろうか?

今日時計が止まった。
電池切れみたい。
飾られていた花を供えてお葬式をした。
私もこんな風に唐突に止まるんだろうか。 

朝の時間。
何時ものように病院の前を学生が登校していく。
その姿を観察するのはもはや日課。
今日もまた、男子学生が向こうから歩いてくる。
彼の周りには何時も複数の女の子がいて、音が届かないここからでも解る位に大騒ぎをしている。
私が憧れた物。
私が望んだ物。
私が得られない物。
それが今日も通り過ぎていく。
不思議な事で、そんな彼らを見ることが私の1日の楽しみとなっている。
その姿が見られない土日は憂鬱で死にそうだ。
きっと彼らを見ている時だけ、私は窓の向こう側に居るんだろう。
姿を見送ると夕方の下校の姿を楽しみにする事にして、不味い食事をとる事にしよう。 


急だけど死ぬことにした。
夕べ医者がまた更新をしに来た。
いい加減飽き飽きしたし、最近発作も頻繁になってきて苦しいからそろそろ終わりにしたい。
ただ死ぬだけじゃつまらないから、窓の向こう側に行ってみることにしよう。
朝の検診が終わると薬を飲まず、寝間着っぽくない服に着替える。
目を盗んで玄関にたどり着いた。
ここから未知の世界。
私の憧れた世界が広がっている。
その一歩は途方もなく怖かった。
時間をかけてようやく病院の門まで来れた。
人に混じって歩き出したが、私はとても遅い。
周りの人は事も無げに歩いているのに私の速度は亀のよう。

ここでは私は何も得られない。
だから私は窓から見続けてたんだ。
改めて思い知った。
そんな事は日記をつけ始めた時から解っていたのに。

そう思って元来た道を引き返す。
途中見慣れた顔が近づいて来るのが見えた。
彼らだ。
私は精一杯の意地を張ってしゃんと立ち歩き出す。
目があうこともなくすれ違った。
同じ場所に居た、それだけでここまで来た意味はあったかな、そう思えてちょっとだけ救われた気分。

『ちょっと、なんで上の空なのかしら?』
『今すれ違ったコねぇ?ああいったタイプが好みだったのぉ?』
『ほっほう、それは見逃せねえですねぇ…』

思わず吹き出してしまう。
笑いなから振り返ると締め上げられる彼と目があった
彼女達も気がついて曖昧な笑顔を浮かべる。
これで私が死んでも、彼らは私を覚えていてくれるだろうか?
急に息苦しくなり、自由がきかなくなった体が倒れ込むのを感じながら、ふとそんな事を思った。

気がつくと私の世界に戻って来ていた。
側には医者がいて、お説教をされる。
残念、死に損なってしまったみたい。
医者と入れ替わりに彼らが入ってくる。
驚いて身を起こすと、彼らが君を担ぎ込んだ命の恩人達だよ、と出て行く医者が教えてくれた。
御礼をし終えた時、時計が目に映る。
お葬式をした後電池は入れなかったから誰かが入れたのだろう。
既に昼過ぎで、彼に学校をサボらせてしまった事に気づいた。
彼らは笑いながら気にするなと言い、また説教をされてしまった。

それから彼らはよく遊びに来てくれて、空虚な私の生活に彩りが生まれた。
時計は生き返り、私も憧れた物を得られたから、もう少し足掻いてみよう。
書いていた日記を閉じ、窓の向こうを見ると彼らがやってくる。

『よ、遊びに来たよ。』
『あら、いらっしゃい。』

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