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私はジュンを抱え、町を目指す。
私の風で抉られた地面が、町の方向へと伸びているのは幸いだった。
森の中は雑草が自由気ままに節操なく無秩序に生えさらばえているし、何より苔ですべる。
引きこもりで、体力を使い果たし、且つ自分より体格のいい男性を抱えている私にとっては天の助けにも等しい。
ジュンは自分の怪我については
『そんなに問題はないよ。多分。縫合したし』
と、言って私に縫った箇所を見せつけ、笑っていたけれど。
いざ立たせてみれば、足元がおぼつかない。
というわけで、私の肩に寄りかかっていたのだけれど、いつの間にか彼は寝息を立てていた。
レディに肩を抱かせ眠るというのも、紳士のすることではないと思うけれど、彼は私の命の恩人なんだから。
その程度のことなら、許して然るべきだと思う。

私の屋敷が建っていた丘を下ると、密林のようであった森にも少しずつ光が射しだす。
すぐに海が、町が、見えてきた。
海が太陽の光を浴びて、宝石のようにきらきらと光り輝く。
白で統一された建物が、陽光に照らされている。
美しい町。
私はそう思った。
彼いわく、『小さな町ではあるけれども、緑があるし海が近いから魚もうまい。いい町だよ』
ということらしいのだが。
私は一応地元民ということになるのだろうが、この町については何にも知らない。
私の世界は、あの屋敷の中だけだったから。
ここ1、2日前にやってきた彼の方がこの町のことをよく知っている。
ジュンはここで一泊し、私の屋敷に来たそうだ。
彼の事務所は、もっと遠いところにあるそうで、
『けっこう気楽だし、タダで色んなところ回れるいい仕事だよ』
と言っていた。
『旅気分』だからこそ、あらかじめ調べておくというのもあるのだろうけれど。
こんな手の届くところに、こんな美しいものがあるなんて。
引きこもりのこの私は知る由もなかった。
そよ風が吹く。これが潮の香りというものなのだろうか。
塩気を含んだ風が木立の隙間を駆け抜ける。
まるで私を、町へと、この世界へと、誘うように。

私が感じたのは、熱せられた鎖が体に巻きつけられたような、そんな重み、痛み。
ふと自分の腕を見やる。覚えの無いみみず腫れや、血豆ができている。
傷はやけどのような痛みを絶えず私に与え続ける。
これが太陽の痛みなのか、と私は痛みを感じるために、少し立ち止まる
ハーフとはいえ、私だって吸血鬼なのだ。直射日光はそれなりにキツい。
しかし、ハーフでなければこんな真昼間に外なんて出ていられなかったろう。
ジュンは『2時間歩いたら30分くらい休憩とる。このペースでいけば死にはしない。僕もお前も』
と言ったけれど。
彼の唯一にして最大のミスはこのひきこもりのこの私にまともな時間感覚を求めた事だ。
1分や2分なら数えればなんとかなるけれど、2時間もそれをやれるほど私の集中力は良くない。
とまぁ、そういうわけでいつの間にか、『疲れたら休憩』というダラダラペースに陥る。
死にはしなくとも、全身がひりひりと痛む。日光の下にでるのがこれ程辛いとは・・・。
私は確かに吸血鬼(ハーフ)。
しかし吸血鬼といえど引きこもり。
血を吸わなければ体力は普通の女の子以下である可能性だって十分にありうる。
いけない、もう少し頑張らなきゃ、と思っていても、
またすぐ休憩が欲しくなり、木陰に駆け込む私がいる。
こんなときばっかり元気なのは・・・人のサガって奴なのだろうか。
ああ、私ってダメ人間なのかしらぁ・・・。
「人間じゃ、ないよな」
間髪を入れず、私の右から、手厳しい突っ込みが入る。
「あ、ら・・・。起きてたの?」
「揺すられながら、安眠できる奴なんて、いない」
半覚醒、といった感じだろうか。ひどく機嫌の悪そうな顔をしている。
「・・・もう大分体力も回復したよ、ありがとな、水銀燈」
橙色と紺色で染まる視界。
太陽はすでに、水平線へと沈む準備を始めてしまっている。
気がつけば、強く輝いていた町は、淡く煌いていたエメラルドブルーは。
それぞれ橙に、紺に、そまってしまっていた。
そしてまだまだ、町は遠い。

朱に染まる空を見上げ、彼は呟く。
「実はな、僕以外にここに来ている奴が二人ほどいるんだ」
「そうなの?」
「まー、本来は僕一人で来る予定だったんだが。一人がダダこねてな。
 付き添いということで連れてきたんだが。よもや本当にあいつの世話になるとはね」
そういって、くくくっ、と笑う。自嘲気味に。
「全くです。呼ばれてきたと思ったら、なんてザマですか!!」
突如目の前から聞こえる叫び声。
「怪我負うなんて化け物とでも戦ったんですかこのとんちんかん。
 どーせおまぬけなお前はどっかですっ転んでその傷でもつけたんでしょう?
 だーからジュンは大馬鹿ちんののろまだと言うんです! 全くお前はし様の無い人間です!
 翠星石の仕事増やすんじゃねーです! 市場で蒼星石とのんびり過ごしてたですのに!
 急に呼び出すから折角のくつろぎタイムがぱーです! ぱー!
 ていうかそこの女! 誰ですかおめぇは!」
ジュンへと詰め寄っていた彼女は、標的を私にかえ、ドスドスと近づいてくる。
突如彼女は、同じくらいの背丈のはず(むしろ私の方が背が高い)なのに、
私の首根っこをつかみ、持ち上げ、ギラギラとした目で見つめている。
なぜ初対面の彼女にこんなに威圧されなければならないのだろうか・・・。
「ジュンも! こんな変な女を傍になんて置いとくんじゃねーです!
 こんな変な髪の色と目の色して、何様ですかこの女は!」
なんというマシンガントーク・・・。

夕日の沈む水平線と町並みが一望できる丘の上、その木陰にたたずむ男女。
それだけなら十分絵になると思うのに、彼女の存在ひとつで全てが台無しである。
というか『変な目』ってあんたが言うな、あんたが。
彼女は相も変わらず喋くりまくっている。
彼女は言葉で弾幕作れるんじゃかろうか。
その女の喋る勢いはそういうレベルであり、さらには弾切れやジャムを起こすこともないようだ。
なんという高性能マシンガン。
・・・私は引きこもりだったからだろうか、彼女のような人間は苦手のようだ。
彼女のマシンガン掃射に、ジュンがちょこん、と申し訳なさそうに口を挟む。
「こいつは、そこの屋敷で拾ってきたハーフの吸血鬼だ。悪い奴じゃないよ」
ジュンがそう言った瞬間、彼女の怒涛のマシンガン掃射が突如終了する。
今までとはうって変わって、長過ぎる沈黙。そして見る見るうちに血色が変わっていく彼女の顔。
土くれのような色に変わったと思ったら、次の瞬間には真っ青になり、後方へとすっとんでいく。
「ひ、ひぃぃいいぃいぃいいぃい!!!
 な、な、ななななぁっ!? きゅー、きゅーけつ!? きゅーけつきなんですかぁ!?
 じょ、じょ、じょろ、如雨露は・・・! 大変ですぅ! 宿に置いてきちまったです!
 ジュンも『魅了』されてるみてぇですし、翠星石は丸腰じゃねぇですか!
 もう一巻の終わりですぅ! あ、そ、そう、蒼星石! 助けてぇ!」
「大丈夫だよ、翠星石」

翠星石、と呼ばれた彼女。
彼女の後ろから、私が今まで、誰もいないと思っていた所から、一人のヒトが出てくる。
そのヒトも、あのいけ好かないマシンガン女と同じ目をしていた。
唯一、瞳の色が逆であるということを除けば。
「ジュン君は正気だ。それにその子から殺気は少しも感じられないよ。
 ジュン君の言うとおり、その子は『いい子』だよ、翠星石」
「そ、そうなんですか?」
まるで最初から、このやりとりを見ていたかのような言葉。
完全に、気配が無かったと思ったところから現れたそのヒト。
・・・私が今までに殆ど人と会うことが無かったからだろうか?
マシンガン女の背後から登場したそのヒトがなんなのか、よく分からなかった。
背広のスーツを着こなし、冷静に振舞う姿は、紳士そのもの。
しかし体型は丸みを帯び、胸なども膨らんでいるように見えなくも無い。
整った顔立ち。『凛々しい』という言葉が良く似合うけれど、そこに男性的な鋭さは見られない。
女性のようで、男性のようにも見える。それが、そのヒトだった。
そのヒトは、私に向き合って、頭を下げる。
「はじめまして、僕は蒼星石。ジュンさんの仕事の後輩。
 こっちは翠星石。僕の姉。ほら、翠星石も謝って、挨拶しなきゃ」
あの威勢の良かったマシンガン女は、蒼星石の背後にぴったりとくっついていた。
「・・・・・・・・・ですぅ」
ぼそぼそぼそ、と何かを言った気がするが、よく聞こえない。
先ほどまでの勢いは何処へやら、今では水鉄砲ほどの威力もないだろう。

それにしても似ていない姉弟である。
顔立ちもよく見れば似ていないこともない。
けれどこの性格の違いはなんなんだろうか。
どんな環境で育ってきたのか、非常に気になった。
そんなことを思いながら二人を眺めていると、ジュンが私に耳打ちをする。
「蒼星石な、弟じゃなくて、妹。女の子だ」
絶句。驚愕。
あんぐりと開く口。
蒼星石は、しょうがないか、という風に笑う。
彼女の笑い方は美しかったけれど、やっぱり、そこには悲しみが滲んでいるようだった。
「・・・そういえば、君の名前は?」
そう、『彼女』、蒼星石に聞かれて、ようやく口を閉じる。
「・・・水銀燈」
翠星石に負けず劣らずのボリュームで搾り出された私の言葉。
「すい・・・いんたお? 変わった名前だね・・・?」
惜しいんだか惜しくないんだかよくわからない間違え方である。しかも語尾疑問形。
すかさずとなりのジュンがフォローを入れてくれた。
「水銀燈、だよ」
蒼星石は照れくさそうに笑う、ふふ、間違えちゃったね、と呟く。

「ところで、君はなんでここに?」
「え?」
言葉につまった私のかわりに、ジュンが答える。
「上の館で拾ってきた。なぜか突然ゾンビまみれになっちゃって、ほっとくのも何だから連れてきた」
蒼星石はあきれた、という風にため息をつく。
課長になんて説明する気なのさ・・・、とか何とかぼやいていた。
というか何? 私は雨ざらしにされた子猫か何かだっていうの?
「子猫、か。うん、そんな感じだな」
「何よぉ! 最後に化物やっつけたのは確かにジュンだけど! 吹っ飛ばしたのは私よぉ!」
至近距離でジュンとにらみ合う。ちょっとその気になれば、簡単にくっついてしまいそうな距離。
・・・何だか歯軋りが聞こえた気がするけど気にしない。
蒼星石のため息は止まらない。苦労人のオーラがむんむんと彼女の背中から這い出している。
「ま・・・ぁ、とりあえず、さ。つもる話もあるってことで、一回宿に戻ろう?
 それにジュン君の治療もしなきゃならないしさ。ここじゃ応急処置くらいしかできないでしょ?」
蒼星石の視線の先・・・。いつの間にか、性悪女はジュンの横で、彼を介抱していた。
「まったく・・・こんな怪我するなんてジュンはしょーがねー奴です」
文句を垂れてはいたけれど、彼女の表情は穏やかで、どこか幸せそうだった。

・・・・・・
どうでもいいのだけれど、なんだかジュンの傍に私以外の女の人がいると気に食わない。
本当に、本当に、どうでもいいのだけれど。
「何だ? ヤキモチか?」
当人がさっきの化猫のような、いやらしい笑いを浮かべる。
嗚呼、神様。
・・・こんな下品なニヤニヤ笑いを浮かべる男は私の恩人ではありません。
だから、ぶんなぐってやってもいいですよね。
ということで、こぶしを作り、軽く彼の頭をこづく。あいた、とか言ってるけれど、気にしない。
「ヤキモチぃ? そんなもん焼くわけないじゃなぁい。だって私は、貴方の『友達』なんだから」
「そうか」
青年はふふふ、と笑う。
私の顔からも、笑みが零れる。

一滴、一滴と零れ落ちる笑みの水滴は、乾いた地面に染み渡るように。
ここに生まれた、私の新しい世界を濡らした。






不定期連載蛇足な補足コーナー「玉子ジャンキーと元引き篭もり吸血女」

金「ということで! 今回はこの金糸雀がジュンに作ってあげたショットガン、『烏』の説明をしたげる!
  あの銃は重量21kg、全長65cmの、作った本人が言うのもなんだけど、化物みたいな銃かしら!
  口径は30mmで、長さ8cmの弾丸のなかにたっぷり直径7mmの球がつまってるかしら!
  そのばかでかさ故に弾丸もカナ特製のものかしら!
  本編での活躍を見れば分かるけれど、退魔仕様にしない通常弾の状態でも
  化物を相手に十分ダメージを与えられるだけの威力があるわ。
  金糸雀なんて撃ったら木っ端微塵になっちゃうかしら! ・・・想像して気持ち悪くなっちゃった。
  反動も銃とおなじくらいばかでっかいし、というかそもそも持つのも難しいから、
  多分この銃を撃てるのは、作中ではジュンだけかしら。ジュンは意外と力持ちなのよ。
  本編でジュンも言ってたけれど、この銃は三点バースト対応かしら!
  一回引き金を引くだけで3発も弾丸が発射できるのかしら! 一瞬で、一人で、弾幕がつくれるわ。
  そういうことから、『烏』は『点』ではなく『面』を攻撃することに特化した銃とも言えるかしら。
  ・・・ここだけの話、ジュンはあんまり銃撃つの得意じゃないの。
  『頼む、簡単に目標に当てられる銃作ってくれっ』ってカナに泣きついてきたから、特別に作ってあげたの。
  苦労したかしら・・・。それこそアイディア出すだけで一苦労かしら。
  完成したときには、カナはプ○ジェクトX出られるかもしれないと本気で思ったかしら・・・」
銀「・・・」
金「・・・」
銀「・・・延々と喋ってたけど、あんた、誰ぇ?」
金「かしらー!!」

銀「作者はこの銃の説明文を妄想とにわか知識だけで書いています。
  もしこの説明に、『現実にはありえない!』みたいなことがあっても、
  『まぁどうせフィクションだしね』ということでスルーして下さるとありがたいです・・・」


第七夜ニ続ク

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