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それは四月の朝。桜並木へと続く校門前にボク達はいた。
「…覚悟は出来てるですね?後戻りはできねーですよ」
ゴクッ。
やっぱり少し震える。恐怖感もある。だけどそれ以上にボクの心を支配する感情が存在した。
「うん…行こう」
そしてボクは一年ぶりとなる登校を果たす第一歩を踏み出した。

その学校の名前は、『聖アリス女学園』といった。


「おはようございます」
「あら、ごきげんよう」

穏やかな風。温かな木漏れ日。乙女達の華やかな挨拶の声。そんな健やかな朝の学園のはずなのに、緊張で狂い死にそうな生徒がここに一人。
「…ちょっとジュン。もう少しリラックスしたらどうなんですか?」
「そ、そんな事言ったって…」
ただでさえ久しぶりの登校だというのに、初めての化粧に馴れないスカート。自然に振る舞うなんてできっこなかった。
「ねぇ…皆こっち見てるよ…?本当に大丈夫かな…?」
「そりゃ、転入初日なんですから注目を浴びるのは当然ですぅ。さ、こっから私達はおしとやかな女の子。言葉使いも気をつけるですよ?」
「うん…あ、はい…」
挨拶をしてきた生徒に翠星石がこれが手本だとばかりに応対する。
…確かに自然な“お嬢様”っぷりだ。これをボクもやらなければいけないのか…

(はぁ…なんでこんな事に…)
それは、三月の始めの事だった。 



桜田ジュン。高校一年生の終わり頃のある出来事が原因で一年間の引きこもり生活を送っていた。
家族も出来る限りの事はしてみたが彼の心の傷を癒すには至らず、また彼も努力はしてみたものの、体が示す拒否反応を抑える事は出来なかった。
そこで掛かり付けの医師から転校してはどうかと提案された。
なるほど、周りの環境を変える事で彼の心を楽にすることは出来るかもしれない。
だが、一年間学校に通っていなかった弟が知らない場所で、それも一人で適応していけるのだろうか…姉ののりは不安でならなかった。

(せめて知り合いがいる学校ならいいんだけど・・・あら?)
あるではないか。弟の幼なじみの少女が通う学校が。それに、あそこなら-
(ジュン君も喜んで通ってくれるぱずよぅ!)
その後の手続きは神の御加護か悪魔の計らいか、予想に反してすんなりクリアできた。しかし…


「いやだ!絶対行かないからな!」
今までとはあきらかに別の拒否反応を示すジュン。顔が真っ赤なのは怒っているからだけではない。
「往生際が悪いですよジュン!せっかくこの翠星石がサポートしてやろうと言ってるんですから、腹決めやがれですぅ」
「そういう問題じゃないだろ!?ボクは男だぞ!?どうやって女学園に通うって言うんだ!」
「ふっふっふ…オマエさんはまだ自分の才能に気付いてねーのですよ…」
半笑いを浮かべてジュンににじり寄る。
「な、なんだよ…うわ!」
いつの間にか後ろにいたのりに羽交い締めを食らう。
「さぁジュン君~。おめかしの時間ですよぅ~」
「い~ひっひっひ…さあ、この翠星石に全てを委ねやがれですぅ…」
「ひっ…うわーーー!!!!」
こうして、近所迷惑な断末魔を響かせつつ、彼の人生に大きな変化をもたらす瞬間を迎えることとなった。 


「う…嘘…これが…ボク…?」
ボサボサの髪にストパーをかけ切り揃えウイッグを重ね、一通りのメイクを施した結果生まれたのが、目の前の少女。
「そ、素質はあると思ってましたが…まさかここまでとは…」
メイクをした本人も、予想以上の出来にいささか当惑しているようだった。中性の顔立ちに華奢な体つき、長年の引きこもり仕込みの白い肌が見事にマッチしている。
「あらあらあら…お姉ちゃんびっくり~。ジュン君実は女の子だったのねぇ~」
そんなワケないだろ、と内心で呟くジュンだっが…
(これは…確かに…)
自分は妹だったか?などと本気で考えてしまいそうだ。なにせ、目の前の少女は自分の意思と同じ行動をとるのだから。
どことなく、剣道をしているもう一人の幼なじみに似ているような気も…

「くっ…翠星石よりキレーとは気に食わねーですが…まぁこれで晴れて一緒に学園に通えるんだからよしとしますかね」
「そうねぇ。じゃあ早速荷物とかも運ばないと…寮はあそこで…制服はコレで…それでいい?ジュン君」
「・・・」
無言の肯定。そうとられても無理はなかったと思いはしたが、あの時自分に見とれていた自分に激しく後悔したジュンであった。 


コンコン
「どうぞ」
「し、失礼します…」
ここは校長室。転入初日の挨拶をしにやってきた。校長先生は自分の事を知っているため少しは安心出来たが、女装して大人に会う事自体恥ずかしくて堪らなかった。

「あっはっは!これは可憐なお嬢さんだ!うん、これならノープログレム!何の問題も無い!」
「は、はぁ…」
この人はこの聖アリス女学園のローゼン校長。学園の創設者のお孫さんなんだとか。はっきり言って…変な人だ。
「お姉さんから話しは聞いたよ。女装してまでこの学園で教育を受けようというその心意気!いやぁ、私は感動した!」
「・・・」
あの岩ノリめ…ボクをどんな風に紹介したんだ。
「おっと、もっと話しをしていたいのだがそろそろ時間のようだね。では、君の担任を紹介しよう。みつ先生!」
ガチャ
「失礼します」
そういうと、メガネをかけた女性が入って来た。
「みつ先生にも君の事は話してあるから、何かあったら相談してくれたまえ」
「ど、どうも。桜田ジ…春(シュン)です」
“桜田 春”これがここでのボクの名前だ。ジュンではマズイだろうからと翠星石に付けられた。安易な名前だとは思ったが、全然別の女の子っぽい名前を付けられるよりは少しはマシか。
ちなみに、のりが考えた名前は『桜田ジュリアンヌ』…とりあえず蹴飛ばしておいた。
「か・・・」
…か?
「可愛いぃー!!」ぎゅむ~!
「ちょ!先生!?みつ先生!!やめっ…!」
突然の跳躍からの肉薄。異性接触の精神攻撃に続き、ホールディングを外さずに頬による摩擦の連続攻撃。
「はっはっは。どうやらみつ先生もお気に召されたようだ」
何でもいいから助けてください。
こんなことならもっと超接近戦での立ち回りを覚えておくんだった…
ああ、パパ…ママ…ボクはもう…ダメかもしれません… 


「いやーさっきはごめんね~。まさかこんな可愛い子だとは思わなかったから」
「いえ…」
あれからたっぷりと愛情を注がれたボクは、ヘロヘロになりながらもクラスの前まで来ていた。
「さて、ここが今日からアナタのクラスよ」
「・・・」
学校。クラス。生徒。
やはり思い出すのか体が震えている。不思議と嫌悪感は抱かないが、それでも…

「はい、今日からこのクラスで一緒に勉強する、桜田春さんです。じゃあ桜田さん、自己紹介を」
「あ、はい…」
それでも…やはり怖い…と、思っていたのだが。
目の前には女子生徒のみ。そして自分は女装中というこの状況。
(は、恥ずかしい…!)
なによりもまず、それが1番だった。過去の傷に苦しまずに済むという点では、ある意味大成功かもしれない。が。

「は、はじめまして…桜田春といいます…よ、よろしく、お願い致します…」
しどろもどろに挨拶を済ませるが、なんと言っても女装中。
そもそも、こんな格好でバレないのか?大人達は大丈夫と言っていたが、女子高生から見れば一目瞭然なのでは…
ザワ…ザワ…
(み、見てる…ボクを見てる…!)
何やらザワつく教室。ああ、やっぱり無理だったんじゃ…! 

完全にバレた時の事を想像する。
男が女装して女学園に転入。
こんな事が騒がれないハズがない。きっと新聞の一面を飾り、ワイドショーで騒がれることになる。

【変態学生、女装して女学園に転入】
【家族ぐるみでの犯行。いびつな家族関係が明らかに】
【少年は引きこもりのオタク。ゲームによる影響か】

…なんだか気が遠くなってきた。
そしてボクは変態学生として、檻の中で永遠と生き恥を晒し続ける事に…
「…なんて綺麗なのかしら…」
…え?
「凛々しくて清楚で…」
「とても格好がよくていらっしゃるのね…」
え、え?
「…ほらね?大丈夫だったでしょ?」
耳元でみつ先生が呟く。
「え、あ…はい…」
そう答えるのがやっとだった。バレなかった事の安心感と、相変わらずの緊張感。そして今後の不安感が入り交じった混乱の中で、ボクはなんとか自分の席に座る事が出来た。

「では、ホームルームを始めます。まず今日の…」
みつ先生が教壇の上で説明を始めたのを聞きつつ、周りを見ながら改めて思う。

(ボク…どうしてこんなトコにいるんだろう…) 



「えっと…翠星石が言ってた道はこっちでいいのかな…」
放課後、寮に案内するからと翠星石に呼ばれた場所を探す。
結局、今日一日はバレずに済んだようだ。だが、今日だけで寿命が二、三年は縮んだ思いだった。
最初の授業が終わり、ほっとしたのもつかの間。

「どちらからいらしたの?」
「ご趣味は?」
「どうしてこの学園に転入なされたの?」
「お住まいはどちらに?」

…マシンガントークとはこの事か。普通の男性では女子高生特有のテンポについていけずに不様に取り乱した揚句、男だとバレて終わっていただろう。しかし、彼は違ったのだ。
その一つ一つに女言葉で返していく。かなりたどたどしい返答ではあったが、皆はそれを『奥ゆかしい』ととってくれたようだ。

『いいですか、ジュン。これからたぁあああっぷりと、翠星石が特訓してやるですからね!!』
女性の「じ」の字もしらないジュンにただ女装させただけでは足りないと踏んだ翠星石の宣言。
そして迎えた、この世の終焉を思わせた特訓の日々。その内容たるや…いや、あれは過ぎ去りし過去だ。あれは夢だ。そう、あれは夢なんだ…
彼の心に新たな傷を残した気もしないでもなかったが、この結果を見れば涙ぐましい特訓は無駄ではなかったようだ。 

「あ、あの場所かな…ん?」
正面から一人の生徒が歩いて来る。
しっとりとおしとやかに、されど優雅に。

風になびく銀の髪。
清楚な顔立ち。
気品のある物腰。
周りの風景と合わせて見ると、まるでそれは一つの絵画のようであった。
(わぁ…)
まるで突然天使にでも出会ったかのように、ただ呆然と立ち止まるジュン。
そして彼の横を通り過ぎる際に、

「ご機嫌よぅ…」

優しく。甘く。ジュンの耳に告げられたその言葉は、しばらく頭の中で反響していたのだった。



第1話
《スカートをはいた引きこもり》.END 


~次回予告~

ジ「ああ…ついにこの生活が始まってしまった…」
翠「何しょげてるですか!もっと自信もっていくですよ!」
ジ「で、でも一人じゃ不安で…」
翠「ああ、一人じゃないですよ。ジュンの周りには、心強い仲間がたくさんいるですぅ!」
ジ「…え?」

次回、【少女は薔薇乙女に恋してる】
第2話《卵と苺とヤクルトと》

それは、絆を結ぶ、友達の輪。

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