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中学3年になって少しずつ視力の落ちだした僕は、それに比例するように成績もまた落ち始めた。
黒板の文字も見えない日々・・・だけどどうしてもメガネはかけたくなかった。
メガネなんて僕には似合わないし、何より彼女にそんな姿を見られたくなかったからだ。

翠星石。クラスの中心的な存在で顔はまぁ可愛いけど口が悪い!
僕とは何かと衝突してばかりで悪口も言われ放題だった。
いつも僕を呼ぶときなんかは『チビ人間』と呼ぶのだからたまらない。
これでメガネでもかけようものなら『メガネチビ人間』にランクアップ・・・いやランクダウンしてしまうんじゃないか!
そう思うとメガネをかけたくなくて目が悪くなっていることを誰にも打ち明けられずにいた。

目を悪くして、それでも無理して勉強して、さらに目が悪くなる。
最悪の悪循環によって中学を卒業するときには5メートル先の人物を判断できないほどに視力は悪化していた。

それでもなんとかこれまでの貯えで志望校に入学した僕だったけど、前途は明るくはなかった。

春休み、散歩がてら堤防のあたりを歩いてみる。前方からくる人影に目をこらすが女性ということしかわからない。
そんな自分に嫌気がさし、ため息をついた。

「何、人の顔を見てため息ついてやがるですか!このちび人間!」

まさか彼女だとは思わなかった驚きと、彼女さえ見間違えてしまうのかという失意で僕の心はめちゃくちゃになった。

「お、誰かと思ったらオマエかよ、オバサンみたいな歩きかたしてるから見間違えちまったぜ」
言いたくもない言葉が口から勝手にとびだしていくような感覚。

「なんてこと言うです!チビ人間は頭だけじゃなく目まで悪くなったようですね!」

「ど、どうしてそれを!?なんで!?誰にも言ってないのに」 
一番知られたくない相手に知られたというのが僕をさらにパニック状態にさせる。

「ちょっと、落ち着きやがるです!翠星石をオバサンと見間違うなんて目が悪くなったと言っただけですよぅ」

・・・・・


翠星石はパニックの僕を土手に座らせて黙って背中をさすっていてくれた。
ようやく落ち着きをとりもどしたころ彼女は口を開いた。

「チビ人間・・・目が悪くなったですか?」
自分で自分を笑いたくなるよ。結局自分でばらしているのだから。

何も答えない僕に翠星石はさらに質問をぶつけてくる。
「だいじょぶなんですか?その・・・失明とか・・・そんなくらい悪いですか?」

なんだかうっすらと涙をためたような彼女の瞳を見てボクは少し笑いがこみあげてきた。
「な、なにを笑ってやがるです!人が心配してやってるのになんてやつです!」

ボクは大丈夫だ。失明なんてしないよ。と言うと安心したように翠星石は息をひとつはきだした。
怒ったり、心配したり、安心したり。表情がコロコロと変わる翠星石。
彼女がそんな風に変化するのをボクはついさっきまで忘れていた。
こんなに近くに寄らないともう彼女の表情を見ることもできないなんて。

このまま翠星石のことを見失ってしまうなんてことは何故だかとっても嫌だった。
嫌だったから。僕は一つの決断をくだした。
「僕、メガネにするよ」
つぶやくように、誰に言うでもなく発した僕の言葉。決意の言葉。

「そうですね、それがいいと思うです。似合わんでもないですよ、きっと」

翠星石は僕の決意を聞くと、そう言って微笑んでくれた。
その微笑を見た僕は自分の本当の気持ちに少し気づいたような、そんな感覚を味わっていた。


「ただいま」

ドアを開けると姉ののりが出迎えてくれた。

「お帰りなさいジュン君。あ!ほらコレきてるわよ」
彼女が下駄箱の上からひょいととりあげたのはまぎれもなく『くんくんゼミ』だった。
「あ、入会してすぐお試し期間だけで退会してやろうと思ってたやつじゃんw」
姉の手から手早くとりあげると部屋に持ち帰り中身を拝見する。

「ばかじゃねーの、子供だましみたいなテキストだな」
絵やふきだしの多いそのテキストを見て少々あきれた。
何やら探偵もののストーリー仕立てになっているようだった。

ちょっとやってみるか・・・
そうして軽い気持ちで中学復習マスターと書かれたテキストを選び取り、鉛筆を握った。
「どれどれ・・・なんだ簡単じゃんか・・・」

・・・・・・・・3時間後・・・・・・・・

「くんくんは天才だ!」

僕はただ感動していた。立ちふさがるような難問、それを解決(回答)に導くくんくんからのヒント。
立ち込める臨場感に思わず自分もくんくんとともに問題に挑んでいるようなそんな気分にさせられる。
気が付くと僕は休むのも忘れてほぼ中学の復習をやりとげてしまっていたのだった。

これならいける!いけるぞ僕は!

それから高校入学までの間、僕はくんくんゼミを使って視力とともに落ちていた学力を取り戻すことができた。

そして入学式の日がやってきた。

入学式の整列。後ろのほうになった僕だったがその瞳には翠星石の姿をちゃんと捉えていた。

「ホントにメガネにしたですね・・・まぁ、思ったとおり・・・その・・・悪くねーです」

翠星石に柄にでもないことをいわれたのがとても嬉しかったせいだろうか。僕も柄にもないことを言ってしまう。

「ありがとう。翠星石の制服姿がちゃんと見れてよかったよ。・・・とっても似合ってる。」

僕たちは互いに顔を赤くして、そして笑いあった。

2人の気持ちはとても近くにあるように感じた。

目が悪くなって見えてなかったものが全部見えてくるようで、僕はとてもこそばゆい感覚に陥る。

翠星石のことが好き。こんな近くにある感情さえも僕は見落としていたのだから。

「行こうか」

翠星石と新しい教室に向かう。僕たちの物語はまだ始まったばかりだ。

 

~二ヵ月後~

「ジュン!この問題おしえるです!」

中間テストを来週に控えたある日の休み時間。

いつも通り翠星石は僕のもとに教科書を携えてやってくる。

「ここは中間には出ないよ。っていうかまだ習ってないところじゃないか?今やらなくてm」

開かれたページはまだ授業に入ってないところだった。

「いいから教えるですよ。つべこべ言ってねーで早くするです!(うう・・・もう習ったところは全部きいちまったんですよ・・・)」

どこからくるのか分からない学習欲で翠星石の顔が迫ってくる・・・ちょっと照れる。

「まぁ、いいけど。くんくんゼミで予習はしてあるからさ・・」

高校入学時の実力テストでバッチリの結果を得られてからというもの

僕にとってくんくんゼミは手放せないパートナーとなっていた。

「そうだ、翠星石もくんくんゼミに入ったらどうかな?」

僕の提案に翠星石は露骨に嫌な顔をして、それからなんだかモジモジとし始める。

「・・・・翠星石はそんなもんいらねーです・・・だって・・・そんなことしたら・・・」

「そんなことしたら?」

「ジュンに教えてもらえねーじゃねーですか!このとうへんぼく!」

すごい大声で言うもんだからクラス中の視線が僕らにあつまった。

あまりの恥ずかしさに2人ゆでだこになってうつむきあう。

 

こうしてあっという間に翠星石にくんくんゼミをやらせる案は僕の中でも却下された。

そして現金な僕はすぐさま別のことで頭がいっぱいになっていたのだ。

『帰ったらもう少し先まで予習しとかなきゃな』

 

                  おしまい

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