壱
「まったく…。お母さまもお父さまも人使い荒すぎです!」
ブツブツと独り言を呟きながら、少女は階段を降りていく。
「こうすればあぁしろ。あぁすればこうしろ。もううんっざりですっ!!」
少女は怒りマークを浮かべながら、最後の一段を降り正面の扉の前に立つ。
「こうなったら少し、心配させてやるです…」
そう言うと、古いドアのぶを回し、目の前の少し重い扉をゆっくりと開いていく。
この扉の奥の部屋は両親から、絶対に入ってはいけないと言われている、謂わば禁断の部屋だ。
この部屋に暫く隠れ、両親に心配させるつもりなのであろう。
「うっ…げほっ…げほっ……埃だらけですぅ…」
暫く掃除されていなかったので、少女が扉を開いた瞬間埃が舞い上がり、少女を襲う。
「う……、結構…暗いです…」
まだ昼間だというのに、部屋はまるで夜の様に暗い。
窓が無い為、日差しが入らないのだろう。
ふと上を見ると電球らしき物が見える。
辺りの壁を、電気のスイッチは無いかと手探りで探す。
が、それらしき物は無かった。
「…うぅ……」
少女は戻ろうかと考えるが、首を振ってその考えを追い払う。
「せ、折角ここまで来たんです…。い、行くっきゃないです…」
少女は意を決し、持っていた懐中電灯を付け、辺りを照らしながら奥へと進む。
「ま、まるでお化け屋敷ですぅ…」
掃除されていない為、クモの巣等があちこちに存在し、辺りに放置されている様々な物が異様な物の為、不気味さが増している。
「べ、別に怖くなんてないです!怖くなんか…」
その時、何かの物音が聞こえる。
「ひっ…!?だ、誰かいるのですか!?」
少女は言葉を発しながら、辺りを見回し警戒する。
しかし、自分の言葉がただ虚しく響くだった。
「き、気のせいですね…。きっとそら耳です…」
少女は再び歩き出す。
一番奥まで来ると、何かが懐中電灯の光りに当たり反射している。
「こ、これは…」
光りを反射していのは、自分を写している、この部屋にはあまりにも不釣り合いな、大きな鏡だった。
少女の身長より遥かに高く、鏡の淵は精巧な金の飾りで出来ており、より神々しさを増していた。
この鏡には少女も言葉を失い、じぃっと鏡を見つめていた。
「す、すごいです…」
少女は鏡に歩み寄り、そっと鏡に触れる。
鏡の僅かな冷たさが、少女の掌の体温を少し奪う。
しかし少女は気に止めず、ただ、何かにとりつかれたかの様に、鏡を見ていた。
暫く鏡を見つめていた少女は、ある異変に気付く。
「…!…と、取れない…」
鏡に触れていた掌が、離れなくなっていた。
必死に離そうとするが、何故か掌は鏡から離れなかった。
「ど、どうして……!」
少女が焦り始めていたその時、鏡が突然光を放つ。
しかし、少女にはどうする事も出来ず、片方の掌で光を遮り、光が止むのを待つしか無かった。
暫くすると光は止む。
少女はそっと光を遮っていた掌を避け、鏡を見る。
ここでふと、違和感に気付く。
「…私じゃ…ない…?」
鏡に写っていたのは、本来写っている筈の自分ではなく、見知らぬ少女だった。