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下校する生徒の談笑の声が聞こえなくなったのはいつ頃であったか。
外には月が高くまで登っていたが、三人が居残る教室には電気は点けられてはいなかった。


『普通の女の子だったら』
その言葉以来、雪華綺晶は口を閉ざしたままである。いや、正確には三人とも沈黙を続けていたままであった。

「ねぇ」
水銀燈は歯切れよく語りかける。

「普通の女の子だったら…ってことは、貴女はやっぱりその異常な大食いを気にしてるのよね?」
雪華綺晶は小さく頷いた。
「貴女が想いを寄せている人は、そんな事とっくに知ってるんじゃない?はっきり言って絶食を続ける意味はないわよ?」
「お姉様にはわからないわ…!」
鋭さを取り戻したその眼は夜の暗闇の中で一層輝いて見えた。

「…もう一度言うわよ。貴女が好きな男、ジュ…」
「わからないわ!!」
言葉を遮るように叫ぶ雪華綺晶。その呼吸は荒い。

「あら、私にまで噛み付く気?」
「たとえ…お姉様であろうと…」


「邪魔をするのなら、食い千切ってやりますわ!!」

薔薇水晶は震えていた。
いつもあんなに仲がいい二人が、どうしてこんな言い合いに…
そして、自分の力ではもはやどうする事もできない事も理解していた。薔薇水晶は震えていた。


水銀燈は笑っていた。
笑顔というよりは嘲笑、というような…
自分に適うものなどいない。自信に満ち溢れた笑みだ。水銀燈は笑っていた。


雪華綺晶は……

「…嫌な女」
「なんですって?」
「貴女はわかっているはずよ。ジュンを想っている人が他にいることを」
「だから何ですの?まさか抜け駆けはするなと?」
「私達八人のバランスについて話しているのよ」
「だから…」
「貴女は!自分のアイデンティティをなくして、友達までなくしたいの!?」
「……!」
「なくすまではいかないかもしれない。でも…もう、昼休みに皆で屋上で…みたいなのはきっとなくなるでしょうね」
「皆の為に個人は捨てろというの?」
「違う。わからないかしら?」
「まさかお姉様、貴女も…」
「ふふっおばかさん。あんなヒョロ男君は願い下げよ」
「じゃあ!なんだっていうんですの!?」 

「手を引いて今まで通りに過ごしなさい。それが貴女にとって一番いいわ」
「ふざけないで!!」

乾いた、甲高い音が響いた。
雪華綺晶の平手が水銀燈の頬を打ち抜いたのだ。

「銀ちゃん!」

一触即発。
薔薇水晶は危険を察知し水銀燈を抑える。水銀燈は頬を抑えたまま俯いている。
「薔薇水晶。放しなさぁい」
「ダメ!銀ちゃん!堪えて!」
「いいから…どきなさいよッ!」
力任せに薔薇水晶を突き飛ばす。

「雪華綺晶。貴女がジュンに何をされたのかは知らないけれど…」
息が触れる位置まで顔を近づける水銀燈。
「ハッ、笑わせないでくれる?悲劇のヒロインを気取ってるつもり?」
その指は、雪華綺晶の喉を指し…
「私ごはんをバクバク食べるのやめましたよー、だから私を見てーって感じぃ?」
そのまま、喉を掴む。
「いいかげんにしなさいよ。それでジュンは振り向いたの?何も変わってないんじゃないの?」


「コホッ…う…」
その細い首は締め付けられ、反論は不可能となっている。
「ふざけているのはどっちかしら?雪華綺晶。」 

水銀燈は安いブローチなら軽々と破壊する程の握力の持ち主である。
雪華綺晶が締めあげられてから既に一分以上が経過していた。

「う…おね…さ…ま…」
「銀ちゃん!やめて!やめてよぉ!」
水銀燈はふっと思いついたように手を放した。

「ゴホッ!ゴホッ!うぅ…」
「……お仕置き、よ。貴女は私に従ってればいいの」
「私は…この気持ちは、どうすればいいのよ…!」
大好きな食べる事を制限しても…ダメ?普通の女の子になろうとしたのに…どうすればいいの!?」
「諦めなさい。辛いけど、仕方ない。」
「無理だわ!無理…よ…おねぇさまぁ…」
「……」
「まだ…想いを告げてもいないのに…」

再び涙腺が崩壊する雪華綺晶。黙って見下ろす水銀燈。

「待って、銀ちゃん」
「…何?」
「何でこんなにきらきーを止めようとするの?何か知ってるんでしょ?」
「…別に」
「嘘だよ!こんな真剣な銀ちゃん見た事ないし!いつもならもっと…」
「うるさいわねぇ!ジャンクにするわよ!」
常ならば薔薇水晶を竦み上がらせる言葉であるが…
「今日は怖くないよ。だって銀ちゃん…」

「泣いてるもの…」
つづく

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