※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

○あらすじ
トラブルでスカートが破れ下着が露出する事態に陥った真紅は、ジュンと密着することで破れを隠し、
ジュンの家に向かおうとする。その様子を見た翠星石はあらぬ誤解をし、聞く耳もたない翠星石から二人は逃げて公園にたどりつく。
そこへ今度は水銀燈がやってきて、二人は見つかってしまう。
真紅と水銀燈が口論する中、ジュンは自宅ののりにスカートをもってくるよう電話するが、そこには巴と雛苺もいた。
一方、ジュン、真紅、水銀燈がいる公園の空気はいよいよ激化し、ジュンは水銀燈に本当のことを話したが、
疑惑はすっかり膨らんでいて、本当のことでももはや信じてもらえず、「もっと大きなことを隠している」と疑われる。
そこへ翠星石がやってきた。 



終幕



今朝以来初めて顔を合わせた真紅、水銀燈、翠星石の三人は、
何も言わずにただ視線だけを交錯させ、お互いを牽制しながら一方で無言の圧力をぶつけ合っていた。
あたりにはピリピリと冷たい空気が流れ、ジュンは自分の肌が切り裂かれるような錯覚を覚えた。

そんな中、最初に口を開いたのは翠星石だった。

「…いったい、なんなんです?」
それは恐らく、この場にいる全員が、さまざまな感情をともなって、いいたかったことに違いない。
「…とりあえず、水銀燈、ジュンから離れるです」
水銀燈は肩を竦めて、二三歩後ろに離れ腕を組んだ。

「翠星石、いまさらあなたなんてお呼びじゃないのよねぇ…。
 私は今、ジュンと真紅に質問してるんだから…やーねぇ、嫉妬に目がくらんでる女って」
「な、な…す、翠星石は別に?ジュンと真紅が?どうなっていようと?
 ぜーんっぜん!これっぽーっちも、気にしちゃいないですよ!?」
「そう、それじゃさっさと帰ればぁ?」
「お、おい…」
「そんなところで喧嘩しないで…二人共誤解しているわ。水銀燈、あなたに言ったことがすべてなのよ」

「真紅、水銀燈に何を言ったのですぅ?」
「真紅のスカート、見てみなさぁい」
「スカートです…?」

真紅は後ろ手にスカートを抑えた。

「真紅…どうしたんですかそのスカート!破けてるじゃねぇですか!」
「つまりさ、これだけのことなんだよ」
「ジュン…?」
「呆れるわよねぇ。これを隠したいがために、こんなことになったんだって、白々しいったらないわ」
「…恋人のような振る舞い…乱れた着衣…」
「…おい、翠星石?」

「そんな、まさか…」
「翠星石ぃ?何をぷるぷると震えてるのよ、変な子ねぇ…」
「真紅…ひとつ聞きたいのですが、どうしてそんな風になったのです?」
「え…そ、それは…まぁ…」
「言えないのですか?」
「言えないということはないけれど、その…ちょっと、恥ずかしいから…」
「そうですか…わかったです…」
「そ、そう…?」

「ああ…水銀燈、もうだめです、おしまいですよ、まさか二人がそこまで進んでいたなんて…」
「…ちょ、ちょっと…その口ぶり…翠星石、あなた、途方もないことを考えているんじゃないでしょうね?」
「みなまで言うなですぅ!ふ…ふふ…翠星石にはわかってしまったですよ…
 ジュン、おめぇってやつは、真紅の色香に惑わされて…つ、ついに、襲ってしまったのですね!?」
「「「はぁ!?」」」

「こんなところで真紅のスカートが破れているなんて…
 真紅とべたべたくっついてるだけでは飽きたらず、ついに公園で真紅を…!」
「いやいやいやいやいやいやいや翠星石さん?なにをおっしゃっているのかよくわかりませんが?」
「とぼけるなです…!それで、それを水銀燈に見られて、口論に…」
「ちょっと待ちなさい!いったいなにをどうしたらそういう結論にたどりつくの!?」
「あああ…そして水銀燈は、負けじと色仕掛けでジュンに近づき…」
「わたしぃ!?」

「まさにその瞬間に翠星石は来てしまったのですね、ああ、もしあとほんの少し来るのが遅かったら、
 この公園は姉妹たちとジュンの痴態の狂宴会場に…」

「なんでそーなる!」
「翠星石…あなたの想像力の豊かさには本当に、舌を巻くというかなんというか…感心するわ…」
「あ、あのねぇ…いくらなんでもそんなわけないでしょお!?」

「……違うのですか?」
「当たり前だ!だいたい水銀燈に見つかったのは、真紅が大笑いしたからで…」
「真紅が大笑い?真紅がそんな大笑いしてるとこなんて見たことねぇですよ。…何があったのです?」
「大笑いじゃなくてよ。感動のあまり思わず感嘆を漏らしてしまっただけなのだわ。なにしろ水銀燈が素晴らしいポエムを…」
「黙りなさいこの露出魔ァ!パンツ見えてるのよ!」
「ろ、露出魔!?」

「…ポエム?水銀燈と何の関係があるですか?」
「…うふふ。ええ、だからね翠星石、この公園は水銀燈の隠れた才能の独演会場だったわけで…」
「いい加減にしないと怒るわよぉ!?…だ、だいたい、今はそんなこと話してる場合じゃないでしょう、
 翠星石、この二人は私とあなたの会話を聞いていて、それでこの公園に逃げ込んだのよ!」
「そ、そうなのですか!?」

「…そうよ。あなたたちに見つかりたくなかったから。
 それでずっと隠れているつもりだったんだけど、さっきから言ってるように水銀燈の素晴らしい…」
「し・つ・こ・い!!」
「なんだかすごい気になるんですが…ジュン、何が…」
「…ジュン、わかってるわよねぇ?」
「…あー…僕の口からはちょっと…」

水銀燈は咳払いを一つすると、改めて話を切り出した。

「よろしい。じゃ、もうそれはおいといて…今問題なのは、どうして翠星石から逃げたのかということよ」
「そ、そうでした!やましいことがないならどうして逃げたのですか?…やっぱり、二人は…」
「ああもう、スカートが破れて恥ずかしかったからだって言ってるでしょう!
 私とジュンがくっついていたのだって、ジュンにスカートの破れを隠してもらうためだったのよ」
「え?ほ、ほんとですか…!?」
「本当だよ。破れたのはお前に会う前だし、僕が真紅を…お、襲うとか…そんなわけないだろ?」
「そうだったのですか…」

翠星石はぺたりと座り込むと、安堵の息をついた。
が、そこへすぐさま水銀燈が厳しい声で言った。

「翠星石、よく考えてみて。たったそれだけのことで、どうしてここまでする必要があるの?
 破れたなら破れたで、素直に言ったらそれで済むことじゃない。
 言えなかったってことは、何かもっとまずいことを隠しているからよ」
「え?い、言われてみれば…」
「水銀燈!せっかく話が収まりかけていたのに…」
「だぁって、そうじゃないのぉ?それにジュンの様子もちょぉっとおかしかったしねぇ…
 いい加減正直にいいなさいよ。どうせ真紅から告白されたとか…」
「水銀燈もそう思ってたですか!?」
「ええ」
「はぁ!?お、お前ら…」
「ま、ま、待ちなさい!さっきから二人で勝手なことをベラベラと…私がジュンに告白したと言いたいの!?」

「そうねぇ、ジュンからあなたに告白したとも思えないしぃ?」
「水銀燈も同じことを考えていたなんて…うぅ…やっぱり怪しいです!ジュン、本当に本当のことを正直に話すですぅ!」
「や…ほ、本当のことって…さっきから真紅が言ってる通りなんだけど…」
「この期に及んでまぁだそんなこと言ってるのねぇ…」
「二人ともいい加減にして!どうしろというの!?」
「なにもかもを洗いざらいしゃべったらいいのよぉ」
「そうですぅ!」
「だからそれは…」
「だーっもう!」

平行線。いつまでたっても進展しない状況に、ジュンは頭を抱えてひとりごちた。

「……クソ、なんでこんなことになったんだ!?
 僕はありのままを全部話した、これ以上なにも言うことはないっていうのに…。
 こいつらはあれだ、真紅が僕に告白したとか、どうもそんなようなことを想定してるみたいだけど、
 僕も真紅もそんなことないって言ってるのにそれを信じてくれないんじゃ、
 これはもう結果の決まった魔女裁判みたいなもんじゃないか。
 どこでどうしてこうなったんだ?水銀燈にすぐに事情を話さなかったから?
 水銀燈に見つかったから?翠星石から逃げたから?…いや、それとも真紅に会ったから?今日僕が外に出たから?
 ちぇ、なんで今日に限ってこう、次から次へと…」
「ジュンくーん!持ってきたわよーぅ!」
「……ん?」

そのとき、ジュンの耳に突如として届いたのは、いまや懐かしさすら感じる姉の声。
ジュンは「そういえば、そうだったっけ…」と呟き声の方向に振り返ってみれば、
恐らく真紅たちがいることに驚いているのりと、そのすぐ後ろには出がけに顔を合わせた雛苺が両手をあげてアピールしていた。
そしてその後ろまで見てみれば、俯いてはいるが、その黒髪のショートカットはまさしく彼が今日本来会うはずだった少女巴に違いなかった。




「みんなこんなところにいたのねー!」
「みんなで集まってなにしてるの?あ、はいジュンくん、約束のものよぅ!」
「あ、うん…サンキュ…」

雛苺の場違いに快活な声が公園内に響き、
のりがあくまでマイペースに、張りつめていた空気にも気づかないで笑って公園に入ってきた。
そのままのりはスカートの入った紙袋をジュンに手渡して、嬉しそうにその場の顔ぶれを見渡した。

「公園でみんなで遊んでるの?あ、ねぇねぇジュンくん、もしかしてスカートが必要なのは…」
「あ、まぁ…真紅なんだけど…」
「やっぱり!遊んでたらスカート汚しちゃったのね、もう、そうならそうで最初から言ってくれたらよかったのに…。
 みんな仲がいいのねぇ、お姉ちゃん嬉しいわぁ…」

「あ、あの…のり?」
「翠星石ちゃん!みんななにしてるのかなぁ?」
「あ、えっと…」

奇妙な沈黙がその場を支配した。
なんともいえない珍妙な空気が流れていたが、やはりのりは依然としてにこにこと笑っており、
ジュンはこのマイペースな姉を恨めしく思う反面、助かったという思いがないではなかった。
つい先まで強ばった表情をしていた水銀燈はすっかり気の抜けた様子で、
翠星石もまた混乱の色を隠せないようだった。

「…桜田くん?」

振り向くと、巴が心配そうにジュンをのぞき見ていた。

「…柏葉…今日は、ごめん…」
「…やっと会えたね」

巴は意味ありげに微笑んだ。
その光景を見て、水銀燈ははっとして、ジュンのすぐ傍まできていた巴を突き飛ばすようにはねのけると、
ジュンの腕にぎゅっとその細い腕を絡ませて、

「と、巴、いきなりでてきて何のつもりぃ!?今取り込み中なのよ、悪いけれど、あなたの出る幕じゃないの!」
「…そういうわけにはいかないわ。桜田くんには、何があったのか話してもらわないと。
 だって、今日は私と図書館で勉強するっていう約束だったんだから…っていうか、水銀燈、くっつきすぎじゃあ…」
「…なにそれぇ…そんなの初耳よぉ…ジュン、本当なの?」
「ああ、うん、そうだよ。だけどお前、あんまり変な誤解は…」
「はぁ…ジュン、あなたって、見かけによらず節操がないのねぇ。もしかしてダブルブッキングしちゃったってわけ?」
「だ、ダブルブッキング!?」
「や、待て、話をややこしくするな!」

再び緊張が走りかけたとき、
「よくわからないけれど、ジュンくんモテモテねぇ…」
のりが目を細めて言った。
彼女が声を出すたびに、場の緊張はゆるゆるとほどけていった。

「…コホン。ジュンは真紅と巴、両方とデートの約束しちゃったとか、そういうわけじゃあないのねぇ?」
「あー…水銀燈、それは違うですよ。ジュンが元々巴と約束をしていたのは確かみたいですし。
 翠星石が思うにはですね、巴と約束をしていたのですが、道中真紅に出会ったジュンは、
 真紅に思いを告げられて急遽真紅に乗り換え…」
「人聞きの悪いことを言うなぁ!いいか、真紅と一緒にいたのは、さっきも言ったけれど…柏葉も聞いてくれ、
 真紅のスカートが破けちゃったから、それを隠すのに仕方なく協力したっていうだけなんだ」
「真紅、本当?」
「……ええ、まぁ…本当よ、巴。ごめんなさいね、約束を破らせてしまって…そのことは、本当に申し訳ないと思ってるのよ」

「…くっ…それなら、どうして翠星石から逃げたのですか!」
「だから恥ずかしかったからだって…お前は人の話全然聞かないし…」
「それはベタベタいちゃいちゃとひっついてるからですよ!!」
「スカートの破れを隠すにはそうするしかなかったんだよ」
「う~……」

翠星石は唸ってジュンを睨み付けた。

「私は、桜田くんの話を信じるわ」
「おめでたいわねぇ、巴。ちょっとは疑うことを知らないの?」
「そういうけれど、桜田くんも真紅も違うと言っているし、話も一応筋が通っているんだから、
 疑っても仕方ないと思うの。なんでもないってことを証明するのって難しいのよ?」
「そりゃあそうですが…」

水銀燈と翠星石は顔を見合わせると、眉根を寄せて黙り込んだ。
そんな姉たちの様子から、事情のわからない雛苺は当惑して巴の袖をぎゅっと握った。

「うぃ~…?」
「…雛苺、なんでもないから、心配しなくていいのよ」

それから1分近くの間、誰も何もしゃべらなかった。
のりもさすがに異変を察知したのか、ジュンや思い思いの感情が顔面に浮かぶ少女たちの間をオロオロとしていた。
が、やがて、翠星石が肩を落として、大きく息を吐いた。

「それじゃあ…なんですか。結局私たちは、真紅のパンツのために振り回されたってわけですかぁ…?」

いかにもけだるげに、翠星石は溜息をついた。

「…ちょっと翠星石、そういう言い方はしないでくれる?」
「そうじゃないですか…パンツくらいでもう…なんだかすっかり力が抜けちまったですよぅ…」
「まったくねぇ…まさか、本当にたったそれだけのことで…パンツごときでこんなに大騒ぎになるなんて…」
「けれど、パンツが見えたらやっぱり恥ずかしいんだし、仕方ないわ」
「だから…そうやってパンツパンツと連呼しないでちょうだい…」

ついさっきまでの嵐が嘘だったかのように、感情の熱でヒートアップしていた公園は急激に冷めていき、
今度は逆に重々しい冷気が降り始めたのだった。

「よくわからないけれど…解決したのね?よかったわぁ…みんな喧嘩してるのかと思って、
 私ドキドキしちゃった…やっぱり仲良しが一番よね!あ、真紅ちゃん、スカートのサイズ合ってるかなぁ?」
「のり…お前…」

ただ一人のりだけが、先までの異常にとげとげしかった空気が変わったことに、無邪気な喜びを示していた。

「……ま、そういうことだから……」
「はぁ~~……」

溜息のユニゾンなんてそう見られるものじゃないな、とジュンは思った。

「…水銀燈、今日のことはお互い忘れましょう」
「…そうね。そうしましょうか…」

真紅と水銀燈はそういうと、力無く笑った。
翠星石はもはや興味もなさそうに、そんな二人を眺めていた。
いつの間にか、影がずいぶんと伸びていた。

そんな倦怠感溢れる中、再び流れを変えたのは巴の一言だった。

「…桜田くん、今日はもうこんなだし…よければ、また明日勉強しようか?」

それを聞くと、まず雛苺が反応した。

「そういえば、ジュンとトモエは今日いっしょに勉強する予定だったのよね。ねぇねぇ、ヒナもいっしょにやっていい?」

次に、のりが反応した。

「そうそう!ジュンくんと巴ちゃんが、二人で…ねぇヒナちゃん、二人のお邪魔しちゃ悪いわよぅ?」
「うぃ?ひ、ヒナお邪魔なの?」

のりの言い方には、男女間の話にはつきものの、いかにもいやらしい含みがあって、
それは焼えさしに火をおこすには十分なものであった。

「なっ…ふ、二人だけ……ふ、ふふ…やいこのチビにチビ女!
 今日はちぃ~っとばかし迷惑かけちまったですから…勉強ならこのす、翠星石が教えてやるです!」

それが皮切りだった。
瞳の色を失っていた真紅と水銀燈は、ぎょろとその目を光らせると、
「そうね、私も随分悪いことをしてしまったのだし、お詫びとして手伝わなくてはね」
「それなら私だってぇ…ジュン、いろんなことをたっぷり教えてあげるわぁ」
と言ってジュンと巴の間に割り込んだ。

「え、あ…別にそんなの…」
「遠慮しなくていいのよ、巴。…今日はごめんなさいね。
 さぁジュン、この私が直々に教えてあげるといっているんだから、感謝なさい」
「お、おま…!どの面さげてそんなことを…」
「はぁいジュン、疑っちゃってごめんねぇ、お詫びするから許してぇ~」
「す…水銀燈、ジュンから離れやがれです!お前なんか必要ないですよ!」
「そうよ、あなたは家に帰ってポエムでも読んでなさい」
「なっ…そ、そのことは忘れる約束でしょう!?さもなきゃ今日のあなたのことを噂にしてやるわよ!?」

三人はまたとっくみあいを始めた。
小さな公園の中には、あっという間に活気が戻ってきて、のりはそんな光景を見て楽しそうに笑った。
雛苺は、元気を取り戻した姉たちの輪に溶け込んで、わけもわからずにはしゃいでいた。

「…どうも、みんなでお勉強会、っていうことになりそうだね」
「…ごめんな、こんなことになって」
「ううん、いいの」

そう言いながら、公園の固い地面を、巴は靴先で掘り返していた。

「ちょっと残念かな…」
「何が?」
「…違うのよ。むしろね、ほっとした」
「ほっとした?」
「うん」

巴は微かに笑っていた。
しばらくして、「僕もだよ」とジュンはこたえた。 




『はた迷惑な人たち』 おわり
|