「ふぁ…今何時…?」
寝ぼけ眼で枕元の時計を確認してみる。
「8時……」
平日なら完全に会社に遅刻する時間なのだが、今日は日曜日であるからしてこの時間に起きる必要はない。そこから導きだされる結論は…
「もっかい寝よ…」
二度寝決行。まだまだ朝は寒いしね。やっぱりこんなときは布団でぬくぬくしているに限る。
「んー…やっぱりお布団はあったかいなぁ…」
布団の暖かさをひしひしと感じていると、ふと昔のことを思い出した。
「そういえば…昔はよくジュン君に起こしてもらってたなぁ…」
昔から寝ぼすけだった僕は、毎日のように幼なじみの桜田ジュン君に起こしてもらっていた。
朝が弱くてなかなか起きない僕を、ジュン君はいつも困ったように笑いながら優しく起こしてくれたっけ。
……まぁ、それはあくまで高校までの話。
高校を卒業したジュン君は、ファッションの勉強をしに東京に行ってしまった。
最初は彼がいなくてかなり困ったものだが、今では結構改善されてきて、目覚まし時計があれば起きられるようになった。
…ジュン君に起こしてもらうのに比べたら、かなり目覚めは不快だけども。
「全く…休みの日だからって、二度寝はよくないんだぞ?」
そうそう…土日で学校が休みの日も、いつもこうやって8時ごろには……
「って、えぇっ!?」
突然布団ごしに聞こえてきた声に驚いて飛び起きると、そこには懐かしい彼の姿があった。
「おはよう蒼星石。ちょっと見ない間にすっかり大人の女性になったね」
「あ、うん…ありがとう……じゃなくて!どうしてジュン君がここにいるのっ!?てゆうかいつこっちに帰ってきたの!?それから…ゲホッ!ゴホッ!」
どうやら早口でまくしたてたのでむせてしまったようだ…不覚。
ジュン君は苦笑しながらそんな僕を見て、優しく背中を撫でてくれた。
「ほらほら…大丈夫か?」
「けほっ…う、うん…ありがと…ところで…」
「ん?」
「どうしてジュン君がここにいるの…?」
当然の疑問を口にすると、ジュン君は少しの間「うーん…」とうなって、そのあとに至極真面目な顔で言った。
「蒼星石の顔が見たかったから…って理由じゃダメか?」
「……え?」
今ジュン君は何て言った?僕の顔が見たかった?それってもしかして………ううん、そんなはずないよ。だって僕とジュン君は幼なじみで…
あ、でも幼なじみから発展する恋ってのも…
「って、僕は何を考えてるんだっ!?」
「そ、蒼星石…いきなりどうしたのさ?」
「えっ…?……い、いやっ!なんでもないよっ!」
「そうか?それならいいけど……あ、今日は蒼星石にプレゼントを持ってきたんだよ」
「ありがとう…すごく嬉しい……あ、よかったらジュン君がつけてくれる?」
「あぁ…いいよ」
ジュン君はにっこりと微笑みながら、首にペンダントをかけてくれた。
「…似合ってるかな?」
「あぁ。すごく似合ってるよ」
「へへへ…ありがとうジュンく……どうしたのジュン君?」
ペンダントをつけ終えたジュン君は、さっきと同じ体制のまま僕の目をじっと見つめている。そして…そのまま距離を縮めてきた。
………えっと、これはもしかしてもしかすると…キスをされようとしてる…よね?
「ちょっ…ちょっとジュン君っ!?」
慌てて体をひこうとするが、いつの間にか背中にジュン君の手が回されているために動くことができない。
……でも何故だろう…全然イヤじゃない…
…いや、これはイヤというかむしろ……
そんなことを考えている間にもジュン君の唇がどんどん近づいてくる。
「ん……」
自分でも知らないうちに、僕は目を瞑っていた。
…ジュン君なら…いいよ。
だって…多分僕は君のことが………
「………あれ…?」
気が付いたときには、僕は布団の中にくるまっていた。
時計を確認してみると、日付は午前8時。
「あれ…だってさっき…」
不思議に思って辺りを見渡すが、もちろん誰もいない。
…もしかして…さっきジュン君と…キ、キ、キスしたのは全て夢の中の出来事だったってこと…?
「そっか…そうだよね…ジュン君が僕のためにこっちに戻ってきてくれるなんて…」
ないよね。と言おうとしたそのとき、僕は自分の首に何かがぶらさがっているのに気付いた。
「あれ…これって…」
僕の首にぶらさがっていたのは、夢の中でジュン君がつけてくれた綺麗なサファイアのペンダント。
でもどうしてこれが僕の首に…?だってさっきのは夢だったはずじゃ…
そのとき、携帯電話に着信が入った。
「こんな朝から誰だろう……?」
まだ完全に覚醒していない状態だったので、相手の名前も見ずに電話に出てしまった。
「ふぁい…もしもし…」
「あ、蒼星石か?久しぶり…ジュンだけど」
「……えっ…ジュン君っ!?」
「あ、あぁ…そうだよ。元気してたか?」
「う、うん…元気だよ。それにしても……急にどうしたの?」
「あー…うん。変なこと聞くようだけど…蒼星石今サファイアのペンダントつけたりしてる?」
「えっ………?」
どうしてジュン君がそのことを知っているの…?だってさっきのは夢で…でも何故かペンダントは僕の首にあって……
「あ…ごめんな。いきなりこんなこと言われてもわけわかんないよな…」
ジュン君の話によると、彼も僕と同じように僕の部屋で僕にペンダントをつけて、キ…キスをしようとする夢を見たらしい。
それだけでも十分びっくりなんだけど、その後のジュン君の発言は、僕を更に驚かせた。
「実はさ…ペンダントは実際に買ってあったんだよ。次に休みがとれたときに蒼星石にあげようと思って…んでそのペンダントを机の上に置いてたんだけど、朝起きたらなくなってたんだよ…」
それで夢のこともあって、もしやと思って電話をかけてきたみたい。
その後に僕もジュン君と同じ夢を見たと言うと、かなり驚いていた。そりゃそうだよね。
それにしても……不思議なことってあるものだなぁ…
春の暖かな日差しが見せてくれた不思議な夢…でもそのおかげでジュン君と久しぶりに話せたからいいや♪
「ふふっ♪」
「…どうした?いきなり笑って…」
「うぅん。なーんでもないっ♪それよりジュン君―――」
おわり