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疑い。それは『絆』を絶つ物。
今まで何も考えずに付き合っていた、親しい友人たち。
何を考えているのか、どう思っているのか、気になりだす。
それと同時に、何も打ち明けられなくなっていく…


「どうしたのー?蒼星石ー?最近何かおかしいのよー?」
「なんでもないんだ」
「大丈夫?巴に相談してみるの?」
「平気だよ」
そうとも。平気だよ。友人だと思っていた、真紅。ただ、それが僕の思い込みだっただけじゃないか。
きっと、人はこうして『成長』するんだ。いい意味でも、悪い意味でも。
いいや、いい意味ではないか。決して。
誰しもが経験するんだろう。おそらくは。だから、平気だよ。
「ありがとう、雛苺」
ああ、嫌だ。彼女まで疑い始めている。彼女も『友達』じゃないんじゃないかって。
昨日まではなにも気にならなかったのに。嫌だ嫌だ嫌だ。
大丈夫、きっと彼女は『友達』。大丈夫、大丈夫、大丈夫。
「やっぱり顔色、悪いのよー?」
「うん、家に帰ったらゆっくり寝るよ」
「それがいいのよ。そしたらたぶん明日は元気いっぱいなの!」
「ありがとう、雛苺」
「どういたしましてなの!」
ああ、きっと、一週間前の僕なら。
彼女に洗いざらい打ち明けていたんだろうな。
疑いたくないけど。僕は『疑う』ということを知ってしまったんだ。
なにもかもが嘘に見えてくる。
これが、『成長』か。嫌なものだな。

 

 

五日前。高校に入ってできた『友人』真紅。
彼女はとても優雅で、何事にも動じない。そんな人だった。
僕は、彼女と、友情を培っていた。つもりだった。
「ねえ、真紅。今度映画でも見に行かない?雛苺と、翠星石も誘って。」
雛苺―僕の、小学校からの友人でまさに『親友』。幼馴染に巴さんとものすごく仲がいい。
巴さんはいい人なんだけど、部活動とかの関係であんまり会わない。でも、そこそこ仲がいい。
今回映画に誘う人に、名前が上がらなかったのは、やはり、部活の関係だ。とてもいい人なんだけど。
雛苺自身は、いつも明るく、純真無垢のようで時々ものすごく黒い。
鈍いようで鋭く、鋭いようで鈍い。小学校3年生ぐらいから、あんまり成長していないような気もするな。
翠星石―僕の双子の姉。実は、本当は僕と翠星石どっちが姉かわからなくて、一応僕が姉ということになってたんだ。
けれど、小学校に上がるとき翠星石がオネェちゃんがいいですぅ!っていって引かないもんで、僕が妹ってことになったんだ。
なんか納得いかないけど。翠星石は、人見知りが激しい。そのせいで、よく知らない人には可憐な乙女としかうつらない。
けれど、親しくなった人には横柄だ。とても。非常に。けれど、人を気遣う心も人一倍なので、一度友人になったらとてもいい友人になる。
いざというときには頼りになるし、頼りがいもある。たとえ普段どんなに辛口でも。いや、舌が凶器じみていても。
本人は照れくささの裏返しなんだろう。実際、まともな言葉にしたらこそばゆすぎるようなことも、凶器でくるんだら案外喋れるものだ。 
とにかく、本当はやさしい人だ。

「蒼星石、紅茶を入れなさい。」
「えっと、これでいいかな?」
僕はダージリンをいれて渡す。
「まぁまぁね。…―それで、映画?内容はなんなの?」
「幸せの青い鳥―その名は史上最悪の猟奇連続殺人犯千人殺しの人食いジャック。ラブロマンスだよ。」
「なんなのそのものすごい名前は。」
「猟奇殺人犯と看守の禁断の愛を描いた映画だよ。すごく泣けるらしいよ」
「私は行かないわよ。そんなの見たくもないわ」
「同時上映くんくんと兎紳士―禁断の恋職場編(R―18指定)」
「ぜひ一緒にイかせてもらうわ!」
「そうこなくっちゃ!」
そう。その二日後、僕らは楽しく映画を見に行った。そう、僕は信じて疑わなかった。
なにしろ、僕の知っている『疑う』は、あくまで推理小説や、サスペンス、梅岡に対してのものだったから。
親しい『友人』を『疑う』。僕には思いもよらないことだった。
いや、少し違うか。『疑う』ことは確かにあった。しかし、どこか心の底では『信頼』していたのもまた事実。
僕が知らなかったのは、『友人』を『信じない』『信じられない』ということがありえるということだったのだろう。
たとえ、その日より少し前から、真紅の様子がどこかおかしい事は、体調が悪いんだろう。
程度にしか考えていなかった。どれほど、真紅が『よそよそしく』なり始めていても。
あくまで僕の気のせいだと、言い聞かせていたことに、自分自身気がついていなかった。
だって、真紅は僕の『友達』なんだから。

 

「翠星石!明後日の映画、真紅も来るって!」
「ほう!よくあの赤い石像を引っ張り出せましたね。来るわけねぇと思ってたですが」
翠星石の言ってることは確かにあたっている。真紅は確かにとんでもない出不精だ。
けれど、それと同時に異常なくんくんマニアでもある。
前、クンクンのポスターとキスしているのを僕は見てしまった…。
「雛苺もこれるって?」
「チビチビも大丈夫だって抜かしてたですぅ。ただ、巴はやっぱり部活でこれないらしいです。」
本当に、巴さんとは予定が会わない。いい人なだけに、余計残念だ。
「明後日が楽しみですぅ!」
「そうだね!」
本当に楽しみだった。なにしろ、『友達』同士で遊びにいくのだ。僕はあまり遊びなれていない。だからこそ、余計に楽しみだ。
『高校』は、まさしく『人生最良の時』。わずか三年、けれども、誰しもがあの頃はよかったと口をそろえる。
そしてまた、あれも、これも、しておけばよかった。あの時ためらわなければよかった。断らなければ、もっと積極的に活動していたら、もっと遊べば、勉強すればよかった。
とも口をそろえる。本を読んでも、テレビを見ても、誰一人高校時代は素晴しかった。といっているのだ。
このことに、僕は中学3年生のときにそのことに気づいた。そして、高校に入るとき。
こう決心したんだ。
“何事にも誰よりも積極的に食いつく”
そうは言っても、現実には難しい。

僕はいつも思う。人生を―高校時代をじゃない―それこそ気の済むまで何度もやり直したい。
今いる状況に満足していないわけじゃない。ただ、あの時別の高校に入っていたら。将来つくであろう仕事。それもいくつもやってみたい。
大学の学部。片っ端から学んでみたい。そう、僕は心の底から思う。
おっと、話がそれたね。つまり、『人生最良の時』に、『友達』と映画にいったこともないなんて寂し過ぎるだろう?
それで、今回映画にみんなを誘ったわけ。何事にも積極的に。ってね。
そうとも。僕はこのとき、まだ『信じて』いたんだ。うまくいかないことはあっても、『裏切られる』ことはないって。
何故か。答えは単純。『友達』だから。
それが当たり前。そう『信じて』『疑わ』なかった。
何もかもが思うとうりにいくなんて、馬鹿な『勘違い』をしていたわけじゃないんだ。
ただ、物事がうまくいかないことがあるのは、『僕自身』のせいか、『不可抗力』のせいだと思っていたんだ。
現に、僕はそれまで消極的だったからうまくいかないのは大半が『僕自身』のせいだったしね。
しかし、今の僕は違う。『消極的』だったから何も起きなかったのに、『積極的』になったとたん牙を剥くものがあるなんて、僕は知らなかったんだ。

 

三日前。
映画館の前に、僕たちはいた。大げさだけど、これから始まる映画への期待に胸を膨らませて。
「おそいですね、チビ苺たち。」
「僕らが早く来すぎたんだよ。」
「そうですかね?」
「そうだよ。ポップコーンでも買って待っていようよ」
「はいですぅ」
楽しみで楽しみでしょうがなかった。『映画』。『友達』。考えるだけでわくわくする。
世の中には、映画なんか一人で見ても何十人で見てもかわらない。『友達』と見に行くメリットがない。
感想なら次の日学校で話せばいい。なんて、そんなことを言う人もいる。
たしかに、理屈ではそのとうりだ。けれど、テレビ番組にしてもリアルタイムで見るのと録画したのを見るのとでは何か違うだろう?
映画も一緒だよ。あの大きなスクリーンで映画を見た後、友達とおもしろかったとか、喋るのって楽しいじゃないか。
「待たせたわね。」
「おっはよーなのー!」
「おせーですよ、チビチビに真紅!さ、早くいくです!」
「そうね。」
「はやくいくのー!」
「うん、そろそろ始まっちゃうね。」
映画は面白かった。特に、ジャックの回想シーンが。雛苺と翠星石は顔色が悪くなってた気もしたけど気のせいかな?
くんくんは……うん。思い出したくもない。ジャンルはまさしく梅岡。真紅だけは大喜びで見ていたけど。
吐いてる人はたくさんいた。(ryジャックの時に吐いてる人もいたけど、あれはきっと興奮しすぎたんだろうね。
「おもしろかったね!とくにさ、ジャックが昔若い女の人を生きたまま…」
「聞きたくないですぅ!まったく、妹ながら趣味悪すぎるですぅ…」
「くんくんは素晴しかったわね!でも、ちょっと兎に嫉妬してしまうのだわ…。それにしても、あの逞しい…」
「聞きたくないの!」
なんだか、翠星石と雛苺はげっそりしてる。きっと、長時間座りっぱなしだったから疲れたんだろう。
どうしようか。ナックにでも言って少し休憩したほうがよさそうだな。

「ねぇ、ナックにいかない?ちょっとお腹もすいたし」
そう。確かに、その時僕は『うかれて』いた。そりゃそうだろう。
滅多にない、といっても、これからはしょっちゅうするつもりの、『友達』と『遊んで』いたんだから。
「いい、です、ねぇ…」
「そうするのだわ」
ナックに着いて、僕はビッグナック、真紅はくんくんバーガー、翠星石と雛苺はコーヒーを頼んだ。
「ねぇ、二人は何か食べるものは頼まないの?」
「ちょっと遠慮するです。あー、何飲みましょうかねぇ…」
「カルピスにするのー!!」
「チビチビ、カルピスは白いですよ。くんくんの…」
「あー…。じゃあ、コーヒーにするの…」
「翠星石もそうするですぅ」
『うかれ』過ぎていた。確かに。けれども、僕は『信じて』いたし、『気づいた』としても、何のことかわからなかったろう。
真紅が、『冷たい目』を僕に向けていることなんて。
「おいしかったね。この後どうする?」
「もう、時間も時間ですし、帰らねーですか?」
「そうするの…」
「じゃあ、帰ろうか。真紅もそれでいい?」
「ええ。でも、ちょっと蒼星石、少しだけ付き合ってくれる?話したいことがあるの。」
「え?うん、いいけど」
「二人っきりで内緒話ですか…。翠星石も話が終わるまで待っていてやる…、といいたいところですが、
具合が悪いから先に帰ってるです。いいですか?蒼星石?」
「もちろんいいよ。」
『気付く』べきだった。いや、このときすでに『気付いて』いたのかもしれない。
真紅の僕を見る『目』は、『友達』向けるものじゃないって。

 

「で、話ってなんなの?」
「貴方が気に食わないの」
「え?」
僕は、耳を疑った。真紅の言ったことが、とっさに『理解』できなかった。
「気に食わないって言ってるの。雛苺の友人と聞いて貴方にあった時、貴方は控えめで、消極的で、地味で、NOといえない根暗ちゃん
それなのに最近妙に活発で、明るくて、積極的じゃない。自分から進んで私の前に立つこともあるわね。その上、素直に私の言うことを聞かないし。」
いったい、真紅は何を言っているんだろう。まったく、『意味』がわからない。
「私が貴方に近づいたのは、あくまで私の『引き立て役』、『下僕』として役に立ちそうだったから近づいたの。
けっして『友人』なんかとして付き合っていたんじゃないのよ。其処の所、しっかりわきまえておきなさい。
そんな綺麗な服なんか着ちゃって。貴方に似合うのはドブ色のセーターよ。
それから、最近ジュンと仲が良いそうね。どういうつもり?ジュンは私の『下僕』の筆頭なのよ?
手を出さないで欲しいわね。まあ、貴方みたいな華のない野暮ったい女にジュンが振り向くとは思えないけど。
今、私の言ったことを、しっかり心に刻み付けておきなさい。」
そういうと、真紅は席を立って、帰っていった。
今、なんて真紅は言った?『友達』じゃない?そんなことがあるの?僕は『友達』だと信じていたのに。
『下僕』?『引き立て役』?そんな風に僕のことを思っていたのか。綺麗な服?僕はおしゃれしちゃいけないの?
ジュン君に手を出すな?それは『誤解』だよ。僕は『友人』としてジュン君が好きなんだ。
異性としての意識なんかこれっぽっちもないのに。『恋人』?確かに欲しいよ。けれど、それはジュン君じゃない。
華がない?僕と翠星石じゃそこまで違うのか。

ひどいよ、ひど過ぎるよ。
ああ、頭がぐわんぐわんする。そうだよ、きっと『夢』だよ。だって僕と『真紅』は『友達』だもん。
『友達』じゃないなんて、きっと冗談だよ。そう、信じようとしても、あの『眼差し』が冗談じゃないといっていたのを思い出す。
どうしよう、どうしようか。翠星石に相談しようか。いや、翠星石も、僕のことを『引き立て役』としか思ってなかったらどうしよう。
どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう。
こうして、僕は人を無意識に『疑う』、つまり『信頼できない』ということが、身近な人、『大切』な人にもありえることを学んだ。
結局、僕以外の人の心なんて、覗けないんだ。ああ、誰が何を考えているのか知りたい。
あそこでああいっていたら、ここでこうしていたら、どうなっていたか知りたい。
また一つ、望みが増えて。
こんなことを考えながら。
僕は背中に地平線から僅かに覗く、紫色の夕日を浴びながら家に向かって歩いていった。

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