ジ『(お前に俺の何が判るっていうんだ?昨日の昼休みにあったことも見てないんだろ?)』
翠「…(見てないから尚更心配なんですよ…)」
蒼「ちょっと…いいかな。大事な話があるんだけど…」
夕飯が終わり、風呂に入って歯を磨き、あとは寝るだけとなった夜11時過ぎ。
自分の勉強机でジュンに送ったメールの返信を頬杖をつきながら待ってたら、
背後から蒼星石の声がして、振り向けば一言…
蒼「今日の部活の帰りに、巴と2人であの3人を殴った──」
さらに悪夢に出てきたジュンを思い出していた時だっただけに、
翠星石の頭はすぐに沸騰したです…
翠「はぁ?先制攻撃したんですか??」
蒼「だって向こうがジュン君の悪趣味な替え歌をエンドレスリピートで──」
翠「だってもクソもあるですか!これで派閥間の対立が泥沼化すれば、
学校全体が荒れてジュンの復帰は絶望的になりますね」
蒼「仕方ないじゃないか!野放しにしてたらもっと酷い方向に進んでた!絶対!」
翠「はぁ…これでこっちも弱みを握られたです…先に手を出した方が負けなんですよッ!」
蒼「だからって何もしないままじゃジュン君は永久に復帰できないだろ?」
翠「もっと穏便に解決する方法があったはずです!」
蒼「穏便穏便って、翠星石はいつも楽観視しすぎなんだよ!」
翠「誰が楽観視なんか…」
蒼「君はジュン君を本気で助けたいって思ってないんじゃないの?」
今のは…本気でキレたです。
翠「…」
蒼「何だい?僕に論破されたからって…」
あなたがそこまで煽ってくるとは…
翠「…はぁ…はぁ…」
蒼「ふっ…」
翠「……ぐっ!」
ドスン…
胸倉を掴んで壁に叩きつけて──
変に無抵抗な蒼星石がさらに怒りの炎を燃え滾らせるです…
蒼「…人ってね、図星を突かれたら怒るもんなんだよ」
翠「黙れです…」
蒼「でも僕はあくまで冷静だよ」
翠「はぁ…はぁ…」
蒼「僕は翠星石に気づいて欲しいんだ。僕の大切な姉として…」
翠「はぁ…はぁ…」
蒼「ほら、今、僕にやってること」
翠「えぇ!それがどうしたですか!!」
蒼「僕に出来て、向こう側の人間には出来ないんだね」
翠「…」
蒼「我慢しなくていいと思うよ」
翠「…」
何か…フッと力が抜けたです…
蒼「それじゃ、おやすみ」
それに気づいたのか、蒼星石は翠星石の右手からすり抜け、
何事も無かったかのように二段ベッドの下段に寝やがったです…
そして入れ替わりに翠星石の横に現れた水銀燈。
銀「…ねぇ──」
翠「口を開くなです!」
銀「…」
翠「おやすみです」
銀「…」
水銀燈は時々とんでもない発言をしやがるですからね…
今の翠星石だと水銀燈にも手を出しかねんので静かに引き返してもらったです…
冷静になれです…翠星石──
~~~~~
──う…眩しいです…
…もう朝ですか。
全然眠た気がしなかったです…
翠星石はどうすりゃいいんですかねぇ…
やっぱり蒼星石や巴の行動は非難すべきではないんですかね…
それにしても、まだ返信返って来てねぇんですか。
引き篭もりになった瞬間、ますます冷たくなったですね!
…ったくジュンの奴ぅ…くっそぉぉ…このトースト苦いですぅ…
母「ジュンくんとは…」
翠「あぁ、心配しなくても分かってるですよ」
母「…そう」
翠「そうです。翠星石と蒼星石に任せろです」
蒼「心配しないで下さい」
母「ふふ」
翠「それじゃ、行って来るです」
蒼「行ってきます」
さてさて、巴が家の前で待ってくれてますね。
この2人には、昨日はちょっと腹が立ったのですが…
巴「…これからずっと警戒しないといけないって、疲れるわね」
蒼「そうだね…」
ま~た、怪しい会話を始めやがったです…
──はぁ。
昨日はあんな喧嘩になるとは思いもしなかったです…
しゃーねぇですから…100歩譲って「あの3人」に対してだけ自由にさせてやるです。
でも他の部分では翠星石の意志を通すです。
あのクラス…あの学校も元々は良い奴ばかりのはずです。
今、向こう側に立ってる人間はあの3人に操られてるだけなんですよ。
だから、敵に回すのではなくて仲間として取り囲む感じで、
最終的に「あの3人」が孤立するように仕向けてやればいいんです。
その為にも、何としてでも穏便に解決する方法を探さねば…
~~~~~
今日は昨日みたいに黒板への落書きもなく、
あの3人組もまだ登校して来てなかったので、
学校でも平和な朝を迎えることが出来たです。
でも、イタズラ監視目的で朝早くに来るのはちょ~っと眠いですけどね。
“対症療法”的なやり方ですが“原因治療”の方法が見つかるまでは我慢です…
ま、ジュンのためなら何でもやりますよ。
ブーブーブー
あっ、返信が届いたみたいです~
遅いにも程があるですよぉ…
□ジュン
□Re:Re:Re:Re:Re:Re:Re:
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はいはい
翠「は…ははは…」
…叩き壊してやりますかね…。
~~~~~
ふぅ…
しっかし、今日はやけに静かです。
授業中も全くもって普段と変わらん状態に落ち着いてますし、
あの3人組も普通に授業を受けてるですね。
蒼星石と巴の力は恐るべしですね──
見た目の割にはかなりのヘタレだったってことですね。
いや…ちょっと待つです…
その分を差し引いたとしても、今日は気味が悪いほど静かです…
嵐の前の静けさっていう様相を呈してきてるです…
向こう派の人間が圧倒的に多いはずですのに、
ジュンを罵って騒いで盛り上がる集まりも朝から全く見てないです。
コソコソ話もクスクス笑いすら全く聞こえねぇです…
STが終わって掃除!部活!っていう空気になった瞬間に
ABCの野郎共はすぐに教室から消えやがるですし…
──今日は昨日と違って園芸部は元から休みですから、
誰にも知られないようにコッソリ跡を追ってみますかね。
~~~~~
あの3人、あまりにも行動が奇怪ですぅ。
何でこう蛇行を繰り返すですかね。
左へ曲がれば右へ曲がり…キョロキョロしてるです。
また立ち止まって…ハッ!振り返ってきそうです…
この停めてある車の陰に隠れるです…
サササ…
A「なぁ、俺たち誰かに跡をつけられてる予感がするんだけど」
毛染め茶髪のデカ人間め…勘が鋭いです…
天然茶髪の翠星石に比べりゃ、人間としてのレベルは低いんでしょうけどぉ?
B「そうか?」
黒髪のデカ人間は真面目そうに見えて些かボケボケっとしてるみたいですね…
C「じゃ、俺見に戻ってみよか」
眉毛全剃りのスキンヘッドのチビ人間が…来るですまずいです見つかるです!!
隠れるところ隠れるところ…
A「ま、時間ないしやめとけ」
C「そか、ならええわ」
カツカツ…
──もう行ったですかね…
見失わないようにこっそりと急ぐです…
~~~~~
…いちいち右に曲がっては左に曲がって…忙しい奴らです。
車の陰に隠れならが尾行するのも大変です…ったく…
あれ?
ココってジュンの家の近くですよね?
まさか…
A「桜田死ねぇぇぇぇぇぇ!!!」
B「裁縫やってる奴は死ねばいいと思うよ」
C「おい!引き篭もってるんなら出て来い!」
…はぁ?
A「死ね!」
B「しね!」
C「シネ!」
──こいつら、人間味を感じられねぇです…
あっ…ジュンの部屋の窓が開いてるですね。
こりゃ絶対ジュンの耳に届いてるはずです…
嫌な予感がするです…
~~~~~
──執拗にジュンの家に向かって罵声を発する3人。
ここで1人で制止しに行ってもボコボコにされるだけでしょうし…
あぁ、蒼星石と巴さえ居れば…
ピーポーピーポー…
A「えっ?警察?」
B「いや、ただの救急車じゃねぇ?だってサイレンの聞こえ方が違うし」
A「とにかく逃げよう」
C「まぁ、後で時間はたっぷりあるしな」
向こうへ逃げ出す3人。悪いことをしてるって自覚はあるんですね。
しかし……貴様ら…今度同じことしに来たら石を投げてやるです…
覚えてろですぅ。
──って、救急車はこっちへ向かってきたです。
え…ジュンの家の前で停まりましたよ?
救急車から3人ぐらい救急隊員が出てきて…
隊「ブツブツ…」
隊「ブツブツ…」
何話してるのか聞こえねぇです…
ただ、物々しい雰囲気であることには間違いないです…
ストレッチャーも救急車から出されてきましたし、
これはちょっと嫌な予感がするです…
──気がつけば、駆け出していたです。
1人の救急隊員は呼び鈴を鳴らしていました。
でも、反応が無かったみたいなんです。
ジュン…まさか…
ここは翠星石が何とかしっかりしなければ…
隊1「…」
翠「すみません…この家の…桜田ジュンの友達なんですけど」
…この時間はあいつ1人しかいないです!」
ハッと振り向く3人の救急隊員。
一瞬凍る現場。
そしてまたある救急隊員が玄関の鍵が開いてないかと確認しに行ったです…
隊3「開いてます!」
隊1「よし、入れ」
ジュンの家に突入する2人の救急隊員。
隊2「意識がないな…」
翠「ジュン!!」
意識的に冷静になるのも限界でした。
反射的に駆け寄ろうと足が動いたのですが、止められてしまいました…
隊1「落ち着いて下さい。今すぐ運びますから…」
翠「…」
隊1「この子のご家族は?」
──ここで翠星石が冷静に受け答えしなければ、ジュンの命が助からないかもしれねぇです…
ジュンを一刻も早く病院に搬送してもらうためにも…冷静に…冷静に…
翠「両親が海外へ行っていて、姉は高校です…あっ、姉には連絡がつくかもしれんです」
大急ぎでのりの携帯に連絡を入れる。
Trrrr...Trrrr...
…出ないですぅ…
まぁ、もう部活が始まってもおかしくない時間ですね──
翠「連絡がつかんので、代わりに付き添いをさせてくださいです」
慌しくなってきた現場。
ジュンがストレッチャーに乗せられて救急車の中へ運ばれていく…
…あぁ…ジュン……冗談じゃねぇです…
隊1「じゃあ乗ってください」
翠「…あぁ…ジュン!しっかりするです!起きろです!死ぬなです!…」
隊1「大丈夫ですから落ち着いてください」
翠「…」
ガチャン…と後ろのドアがしまり、サイレンが鳴ると共に救急車は出発しました。
広い道路に出るとたちまち救急車は爆走し、激しく揺れる車内で、
翠星石はずっと脂汗まみれのジュンの手を握っていたです。
ジュン…翠星石のこの手を信じるです…
ジュン!!──