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Kiss me in the Stormy…
Kiss me in the Stormy…

蒼星石には、ガンのことは発覚した時点で打ち明けていたらしい。
私より先に。
どういうことだ、と怒りたかったが、言い出しにくかったそうだ。
でも…。そんな大事なこと隠されている方がよっぽどつらいのに…。

LUNA SEA 第九話 「STORM」

「桜田さん、そちらの方は?もしかして奥さんですか?」
「いや、違います。彼女ですよ」
「へぇ、うらやましい。本当に。美人ですねぇ」
「自慢の彼女です。でも、お医者さんもモテるんでしょ?」
「それが全然。忙しすぎて出会いがないんですよ…」
……………

私達は今、病院にいる。別に倒れて運ばれたとかではなく、診察で、だ。
それよりも目の前で恥ずかしい会話が展開されている。
なぜジュンはそんなに普通に話せるのだろう?
私なんて恥ずかしくて、目も合わせられない。

相手は若い医者だ。名前は…、笹塚というらしい。
第一印象は…学生時代は廊下に立たされてそう…。
優しそう、厳しそうじゃなく、まずそれが先にきた。
…不思議だ。そんなこと思うなんて。
そうこうしてるうちに、診察が終わりそうだ。
「ありがとうございました。行こう、翠星石」
「お大事に~」
あ、その前に一つ聞きたいことが…。

帰り道、私達は買い物をした。腕なんか組んでみながら。
恐る恐るだけど…。こうしてずっと腕を組んでいたいけど、やっぱり恥ずかしい…。
でも一番のきつかったのは、スーパーの試食コーナーで、
「そこのお二人。ご夫婦?新婚さんですか?うらやましいですね~」
なんて呼び止められたことだ。
あの時ほど体温が上がったことはないだろう。
…でも、その食品を買ってしまった私は満更でもなかったのかもしれない。
あとで夕食のメニューを考え直す必要があったが…。

その日、のりは仕事が長引くから、二人で先に食べてて、とのことだった。

二人きりの食卓。よくあることじゃないか。
でも駄目だ…。どうしても、新婚さんみたいとか考えてしまう。
うわ、昼間のおばちゃんのせいだ。ドキドキ聞こえる…。
この心音向こうに聞こえてるだろうな…、絶対。
ちら。あ、ジュンも同じようなこと考えてるのかなぁ?顔が赤い。
なんか照れ臭いなぁ。
その沈黙を破るように

「ねぇ」「なぁ」「「あ…」」

「あ、そっちが先にどうぞです」
「いや、先に言ってくれ」

本当に照れ臭い。

「あ、あのですね。えっと味付けはどうですか?」
違うだろ、私。本当に言いたいのは…。
「ん?うん。久しぶりに食うけどやっぱうまいよ。翠星石の料理」
「そうですか、よかったですよ。あとですね、あの、ひ、昼にスーパーで、
し、新婚さんって言われたじゃないですか。ジュンはあの、その、い、言われてみてどうでしたか?」

わ~、私の馬鹿~。言っちゃった~。何言っちゃってるんだ~。

「そ、そうだな。やっぱり恥ずかしいのはあったけど…。
うん、嬉しかったな」
「ホッとしたですよ。ジュンも嬉しいって思ってくれて」

ボッていう音が聞こえた。確かに聞こえた。

「で、ジュンは何を言おうとしたですか?」
「えっとな。病院で何きいてたんだ?あの後」
「いえ、なんでもないですよ。全然何もないです。変なことじゃないですから、心配しなくていいです」
「怪しいなぁ。本当に何もないのか?」
「本当の本当に大丈夫ですよ。何でもないです」

そうやって、夕食を終えて風呂から出た後、あ、もちろん一緒には入ってないですよ、
一緒に映画を見ることにした。
今日は…、うわ、ホラーだ。

ガクガクブルブル。怖くない。全然怖くなんてない。
時々私の口から「ひっ」とか出てるのは全くの気のせい。
ギュッ。
この手を繋いでいるのは、そうです、
ジュンが怖いだろうと思って翠星石がしょーがなく繋いでやってるだけですよ。
伽〇子なんて怖くない。怖くなんてないっ!

「ジュン!今日は怖くて眠れないだろうから、一緒に寝てやるですよっ!」
「え?いや、別に僕は大丈夫だぞ。はっはぁ~、それよりもお前、怖くて寝れないんだろ?
昔からこうだよなぁ。一人で夜に怖い映画を見ちゃったから
寝れなくて、わざわざ僕の所まで来たことあったよなぁ?」
「そ、そんなことあるわけないです!記憶違いですよっ!
いいですよ!一人で寝るです!
ジュン!眠れなくても知らんですからね!」
「ごめんごめん。意地悪しすぎた。一緒に寝てやるから、な?
ほら、もう泣くなって」
「ふぇ?な、な、泣いてなんかないですよ!
適当言うなです!」

なんて、そんな日々がいつまでも続いてゆくようなきになっていた。
忘れてしまいそうになっていた。
いや、目をそらしていた、の方が正しいかもしれない。

人生の中で最も輝いていたのかもしれない日々は二週間で幕を閉じてしまう。
幸せとは、夢とは、本当に儚いものであると知る。

何でもない日。いつも通りに続くはずだった日。
その日の昼、私は確かに夢の砕ける音を聞いた。

私が台所で昼食の準備をしていた時、
後ろの方でドサッと何かの倒れる音が聞こえた。

「どうしたんですかぁ?ジュン?」
返事などなく、駆け寄ると、そこにはジュンの苦しんでいる姿があった。

「ジュン?大丈夫ですか?ジュン?ジューーン!!!」

…その日、確かに夢の砕ける音を聞いた。


第九話 「STORM」 了

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