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心臓がバクバク言っている。
今こそ引き篭もりたいのに、適する場所が思い浮かばない。
…僕は覚悟を決め、2階へ上がることを選択した。

2階へ上ると廊下の奥で翠星石が力なく座っていた。
ねーちゃんは既に自分の部屋に入っていたようだった。
水銀燈は僕を真顔で見つめ、口を開いた。

銀「ジュンくんの部屋で話してもいい?」
ジ「…はい」
銀「そ~んな緊張しなくてもいいのよ?」

水銀燈はそう言うが、僕は態度を緩めることはしなかった。

僕と水銀燈は僕の部屋へ入る。
散らかっていた座布団から2枚選んで、それを敷く。
正座で一対一。まるで親に叱られるかのような雰囲気だ。
やっぱり翠星石のことで叱られるのかなぁ…

銀「ジュンくん」
ジ「はい…」
銀「のりや翠星石から聞いたわ…」
ジ「え…」
銀「…今朝、のりとは殆ど何も話さなかったんですってね」
ジ「…」

そっちを聞いてきたか…
僕は何も返さなかった。というより返したくなかった。
少し間が空き、水銀燈はまた話し始めた──

銀「──上の子ってのはね、下の子の事をいつも気に掛けてるものよ」
ジ「…」
銀「もし、ジュンくん様子が急に変になったら…のりはどうなると思う?」

そんなこと、いきなり言われても…
僕が返事を渋っていると、水銀燈は少し表情を曇らせた。

銀「はぁ…今日は私もそうだったわぁ」
ジ「…」
銀「蒼星石が何にも話してくれなかった…」
ジ「…」
銀「ジュンくんのこと。昨日から知ってたみたいなんだけど…」
ジ「…」
銀「翠星石にも話さなかったらしくてねぇ」
ジ「…」
銀「まぁ、あんまり広がるとジュンくんにも迷惑がかかると思ったんでしょ。確かにそれは判るわぁ」
ジ「…」
銀「でも…」
ジ「…」
銀「そんなことされるとね、距離が生まれた感じがして…」
ジ「…」
銀「姉としてはつらいのよ。とても…」
ジ「…」

暗いトーンで話す水銀燈に、僕としてはどう反応していいのか判らなかった。
だが、ここで水銀燈はフッと微笑んだ。

銀「だから、これからはのりに優しくしてあげなさい」
ジ「…」
銀「ちゃんと話すべきことは話す。そうすればきっと相談に乗ってくれるだろうし──」
ジ「…」
銀「いや、それが姉としての役目なんだから」
ジ「うっ…」
銀「辛いことがあるなら全部ぶちまけなさぁい…」
ジ「…」
銀「家族は、あなたにとって一番の味方──」
ジ「…」
銀「人ってね、1人では生きていけないのよ…」

気がつけば、僕は涙を流していた。
1回拭う…もう1回拭う…だが、ボロボロと零れ落ちていく──
くそっ!

…水銀燈はそんな僕を見て、クスッと笑って足を崩した。
大事な話ってのもここまでなんだろうか──
僕もゆっくりと足を崩す。

銀「はぁあ~…」

声も混じるほど大きな溜息。これで一気に緊張がほぐれた気がした。

銀「ジュンくんが3年早く生まれてきてくれてたらなぁ」
ジ「…な、何の話?w」

泣いているのが恥ずかしくて、笑って誤魔化そうとしてしまう。

銀「今頃付き合ってたかもしれないわねぇ」
ジ「ぶw」

僕は噴き出した。

銀「もしかすると、今も…」
ジ「えw」
銀「だって、ジュンくん可愛いんだもん」
ジ「…」

ドキドキするんだか可笑しいんだか…

銀「こんなこと言ったら、怒るかしら…」
ジ「…」

そこでふと思い出した。
幼稚園卒業の頃に水銀燈に「だっこぉ!だっこぉ!」ってせがんで、
翠星石や蒼星石と取り合いしたことがあったな…
──ねーちゃんの時も取り合いになったっけw
2人とも、当時は小学3年だったかな…抱き上げるなんて無理だよな…
今、改めて明確に思い出すと──うっ、鼻血が出そうだ…

銀「──あっはははwなぁに照れてんの?」
ジ「…あ、いや…まぁ…」
銀「うふふ…ほ~んとカワイイ♪」
ジ「…そ、そんな」
銀「…何か、思い出しちゃった」

──げっ…まさか…

銀「抱っこしてあげよっか?」

──これには盛大に吹いた。
それから、ぴょんぴょん飛び跳ねて大いに笑った。
いきなり何を言い出すんだ…
苦しい~苦しいw

銀「いやぁ~ん、そんな喜ばないでぇ♪」
ジ「いや喜んでないってばw」
銀「じゃあ何でそんなに顔が赤いのぉ?」
ジ「この年になって抱っことか恥ずかしいよw」
銀「ウソつきなさい!」
ジ「ウソなんかついてない!」

水銀燈はスッと立ち上がった。
…笑いすぎて怒らせてしまったのだろうか──

銀「──ふん…」
ジ「何でまた…」

だが、僕の問いは受け入れられなかった。
水銀燈はすぐさま僕を抱き上げようと両手を伸ばしてきた。
サッとかわしてベッドの上に逃げる僕。そしてまた走って逃げる。
水銀燈も走って僕を追いかけてくる。
だが、ドアが閉まってるので外に出るのに僅かながら時間が掛かる。
出ようものならすぐ捕まるだろう。

──さて、部屋の中をグルグルと回り続ける僕と水銀燈。
僕たちは果たして何歳の子どもなのだろうか…
まぁ、今は別にどうでもいいか…

銀「待ちなさい!」
ジ「イヤだ!」
銀「あ!…じゃあもう捕まえたら、でこピン一発!」
ジ「え?そんなの聞いてないよ!」
銀「追加ルールよ!」

もはやお互い本気だった。

銀「このっ!」
ジ「そうは簡単に捕まらないよ」

調子に乗ってフェイントを掛けながら煽る僕。もう後戻りは出来ない。
だが、ちょっと油断して、ベッドの横に膝をぶつけて、
ベッドにうつ伏せに倒れこんでしまった。
これぞチャンスとばかりに僕の上に圧し掛かってくる水銀燈。
おまけに、僕の首に腕まで絡めてきた…怖い…
でも、このままだと呼吸が出来ないので、僕は顔を左に向ける。
…と、水銀燈の顔が目の前に現れた…恐怖の笑みを浮かべて──

銀「ふは…ふはははははは…」

──目が、笑ってない…

ジ「ぎゃぁぁぁぁ!!!」
銀「さぁて、どうして差し上げましょうか…」

ガチャッ!バタン!!

翠「ジュン!!」

ドアが勢いよく開く音が聞こえ、僕と水銀燈はその方向を見て一瞬にして固まった。
そこには、溜息をつき、腰に手を当てて仁王立ちで構える翠星石が…
さらに、その後ろには心配そうな表情で様子を窺うねーちゃんの姿が見える──

銀「…」
ジ「…」
翠「…お、おめぇら…ドタバタうるせーです!ばらしーたちと変わんねぇじゃねーですかッ!」
ジ「あ、いや…」
翠「言い訳は無用です。さ、何してたんです?」

水銀燈はゆっくりと立ち上がり、僕に右手を差し出した。
僕はその手を握り、引っ張り上げられるようにして立ち上がった。
それから、水銀燈は1つ咳払いして僕にこう言った。

銀「ジュンくん?」
ジ「?」
銀「なっ…何キョトンとしてんのよ?…おばかさぁん」
ジ「…あっ…今日翠星石が泊ま──」
銀「そ~いうことじゃなくてぇ~」
ジ「?」

水銀燈は僕を抱き締めた。

銀「頑張るのよ」

そして背中をポンポンと軽く叩かれる。
あぁ…

翠「水銀燈!尋問はまだ──」

水銀燈は僕から離れ、翠星石の方を見ずにボソッと言った。

銀「翠星石、早く帰りましょ」
翠「えぇぇぇ?」

水銀燈は翠星石をスルーするように、ねーちゃんのいる方へ向かった。
そして、ねーちゃんと合流した後、何か話しながら視界から消えた。
僕と翠星石はしばらく棒立ちだったのだが、翠星石が先に口を開いた。

翠「…じゃあ翠星石も帰るです」
ジ「あ、そうか。それなら僕も下に下りるよ」

そう言って僕は部屋を出ようとした。が、翠星石に通せんぼされた。

翠「言いやがれです。さっき水銀燈としたことを──」
ジ「鬼ごっこだよ」
翠「…翠星石にはそうは見えなかったですよ?」
ジ「あ、最後のはだな…その…」
翠「…ま、ど~でもいいですけどぉ?」

翠星石はツンと言い放ち、僕の部屋から出て行った。
…まぁ、どう説明しても翠星石には理解してもらえないだろう。
僕は溜息をついて部屋を出て玄関へと下りていった。

~~~

玄関。
水銀燈と翠星石はそれぞれの荷物を持ち、
帰り際に僕たちと少しばかりの会話を交わしていた。

の「それで、翠星石ちゃんは泊まってくの?」
翠「え?泊まってい…」
銀「ダ~メ。泊まるのは週末だけにしなさぁい。それに今日は──」
翠「……わ、判ったです。さっさと帰るです」
の「そう。それじゃ仕方ないわね」
ジ「あ、あと…」

忘れないうちに言っておかなくちゃ…と思った。

ジ「ねーちゃん?」
の「…え?……何?」

戸惑っているねーちゃんを見ていると、やっぱり言いにくい…
けれど、今しかチャンスはないはずだ…

ジ「朝はごめん」
の「…」

そうだ。
ねーちゃんだって心配してくれてたんだ。
僕のことを…

の「ジュンくん…」
銀「ふふ」
ジ「ま、そういうことだから…」

…でも強制的にこの流れを終わらせたくなってしまう。
何だか、顔が熱を持ち始めたような気がした。

銀「さ、姉弟のすれ違いも解決したみたいだし…」

水銀燈…さすが空気を読める姉貴…
心の中で2つの事を感謝した。

銀「それじゃ、また明日ね」
翠「──あの…」
銀「ん?何か言いたいことでもあるのぉ?」
翠「…お前の服、待ってるですよ」

──翠星石…。

ジ「あ…あぁ。わかった」

笑みを浮かべる翠星石。
奴らに絡まれてからは、もうやめてやろうかとも思っていたけれど、
そう言われると、まだまだ夢を追いかけることが出来そうな感じがした。

翠「あと、時々お前を見に来るです。朝に起こしに来たり、クッキー焼いたり、ああ…それと…」
銀「ばっかねぇ…これからずっと会えないってわけじゃないんだから」
の「そうよ~。来たい時にいつでも来ていいのよ」
翠「…そ、そうですね…あはは…」
ジ「まぁ、好きにしろよ」
翠「…」

急に無口になる翠星石。
…え…僕が何かした?
また泣き出すんじゃないかとヒヤリとしたのだが、
水銀燈はそれをスルーするかのように玄関を開けた。

銀「それじゃ」
の「うん、またね」
翠「…」
ジ「な…何だよ、元気ないな」

まだ外に出ようとしない翠星石に僕が声を掛ける。
しかし、僕に一瞥を投げかけると、プイっとソッポを向いた。

翠「…そんなことねーです。お前こそ元気出しやがれです」
ジ「…そうだな」

──やっぱり、いつもと変わんねーなw
良かった。

翠「それじゃ、また明日~です」
ジ「あぁ」
の「また来てね~」

バタン

…玄関の扉が閉まった。
ねーちゃんと2人きり…か。

の「それじゃ、今から夕御飯つくるから」
ジ「あ、うん」

ねーちゃんはキッチンの方へと向かった。
僕はいつもなら2階へ上がるのだが、今はリビングに居たい気分だった。
些かぎこちない足取りでリビングに入る。

の「ジュンくん…どうしたの?」
ジ「あ、いや…まぁ、そういう気分なんだ…」
の「そう…」

キッチンの方からねーちゃんが聞いてきた。
僕は水銀燈に言われたことを思い出す。

親が仕事で海外へ行ってから暫く実感を持てなかった『家族』の存在…。
だけれども、ねーちゃんも『家族』の1人であるというのは変わらない。
さらに、周りにはこんなにも僕のことを心配してくれる人がいる。
そんな幸せを胸に抱きながら、僕はソファに腰掛けた──

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