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──はぁ…朝か?
ん?…あ、床に転げ落ちたのか…僕も相変わらず寝相悪いな…
しかも蛍光灯つけっ放しで寝てたのか…
カーペットの上に大量の座布団が散らかってる…
タオルケットもあんなところに…
でも…外は真っ暗。何が何だか…
それで、今何時だ?

ジ「ん…まだ夜の8時?」

ベッドの枕元の時計を見て、まだ寝れるや…とベッドに戻ろうとした。
だがしかし、ベッドは既に翠星石によって支配されていた…。
ベッドに横たわる翠星石──

ジ「…ギャアアアアアアアア!!!!」

唐突に猛烈な寒気が僕を襲う──僕は何もしてない!僕は何もしてない!!
…翠星石は僕の悲鳴に反応してか、不機嫌そうにこちらへ寝返った。
同時に、制服を着ているのがチラっと確認できた。
…そうそう、翠星石を上がらせたんだ。

──あ、まだ家に帰らせてなかった…

さあどうしよう…
もう8時を回ってるのに、こいつはぐっすり眠ったままだ。
起こすべきか起こさぬべきか。
僕が向こうの家に電話して「今日は泊まらせます」なんて勝手なこと言えるわけないし…
とにかく、手遅れでもいいから、さっさと家に帰らせよう──
僕は翠星石を揺すって起こそうとした。

ジ「翠星石~起きろ~晩メシの時間…」
翠「ん~あ~…くぅ~!…」

涙を流し、うなされる翠星石。
どれだけ悪い夢を見ているのかと少し心配になった。
…しかし、それは一瞬にして吹き飛んだ。

ピンポーン

さぁ、どうやらねーちゃんが帰ってきたようだ…鬱だ。
この状態をねーちゃんに見られたらどうしようか…
2人っきりでこの時間まで一緒…きっと要らん妄想を膨らませるに決まってる。
高校に入学してから変なことで五月蝿くなりやがって…
だから話したくないんだよ!!ったく…

はぁ…万事休すか…

ジ「翠星石~頼むから起きてくれ」

ユサユサ

翠「う…」
ジ「起きろ!」

ユサユサ

翠「…うぅ」
ジ「起きろ、早く…」

『ガコン!』

──下で玄関のドアのアームロックが引っ掛かる音がした。
毎度毎度、鍵持ってるんならイチイチ鳴らすなよな…とは思ってるが、
今回ばかりは内側から誰かが開けないと、ねーちゃんは家に入ることが出来ない。
面倒臭いなぁ…

の『ジュンく~ん!何でこっちの鍵閉めてるの?』
ジ「あー!」
翠「…ん~…」

ユサユサ

ジ「翠星石、早く起きろ」
翠「…はっ」
ジ「やっと起きたか」
翠「…?」
ジ「今、8時だぞ…しかもねーちゃんが帰って来た」
翠「──怖いです!怖いです!あぁぁ…」

翠星石は急にガバッと起き上がった。
かなり焦った。

ジ「え?」
翠「…な、何でもないです」

息が荒い翠星石。
絶対何かあっただろ…
僕が黙って翠星石を訝しげに見つめていると、
翠星石はプンスカと怒り出した。

翠「だから何でもないって言ってるです!これ以上は何も話さんです!」
ジ「あ、そ」
翠「そうです。それでいいのです」
ジ「…で」
翠「どうしたですか?」
ジ「…ねーちゃんが帰ってきたから…」
翠「…あ!そうですね。翠星石も帰ります…」
ジ「…」
翠「ほら、何をもたもたしてやがるですか…」
ジ「!」
翠「鍵も開けに行くですよ」

翠星石は掛け布団を除けると、
ベッドを降り、鞄を持って部屋のドアを開けて玄関へ下りていった。

翠「のり~ちょっと待つです~」
ジ「…」

──お、何か勝手に行ってしまったなw

実はこの時、翠星石がこの時間になってもまだ居ることがバレることや、
自分の家に帰る翠星石のお見送りをすることより、
ねーちゃんに会う事を避ける方が大事だった。
だから僕は部屋を出ようとせず、ドアを閉めた。
澱粉のりには僕の部屋に入ってきてほしくない──
しかし、思惑通りにはなかなかいかないものだった。
翠星石はわざわざ僕の部屋に戻ってきて、僕の右手をギュッと握り締めた。

翠「おめぇは馬鹿ですか!さっさと来るです!」
ジ「はぁ…」

ねーちゃんには朝に冷たくしたから気が進まない。
それに、今も面と向かって話すのが少し嫌だ。
そんなことを知ってか知らずか、翠星石は僕の手を握ったまま階段を駆け下りる。
…こんな時に限ってテンション上がりやがって──

~~~~

玄関に下りてきた僕たちは、
微妙に開いたドアの隙間から覗くねーちゃんの顔を確認した。

の「あら、翠星石ちゃん。来てたの?」
翠「ジュンの看病に…んぐぐ」
ジ「あ、気にしない気にしない…ははは…」
の「あ…」
ジ「…」
翠「…」
の「…」
ジ「あ、今開ける。一旦ドア閉めて」

ねーちゃんは一旦ドアを閉める。
僕は翠星石の口を塞ぎながらアームロックを開け、ドアを開く。

ジ「おかえり」

ぶっきら棒にそう言うが、ねーちゃんは平静を装った顔をした。
でも判るんだよ。ねーちゃん…結構ショックなんだろ…?
アームロックは翠星石のせいとしても、
鍵を開けに下りるのが遅いこととか、
「おかえり」の挨拶を吐き捨てるように言ってることが。
別にねーちゃんに苛められたわけでもないのに、何となく当たりたくなる。
まぁどうでもいい。
だが、その隣には水銀燈が不気味な笑みを浮かべながら立っていた。

……え!?
あ…マズイとこ見られたなぁ──

まぁ、同じラクロス部所属だから、帰りも一緒なのも当然か…
僕は翠星石の口から手を放した。

その直後、水銀燈はさっきの笑みを浮かべながら翠星石に静かに詰め寄った。
翠星石の顔は引きつっていた…

銀「翠星石ぃ?」

水銀燈の小さな声。辺りは独特の静けさに包まれる。
僕はこの雰囲気が苦手だ。冷や汗をかいてしまう。
話し掛けられている翠星石も狼狽していた。

翠「え~…」
銀「蒼星石よりも帰りが遅いから捜して来てって連絡があったわ」
翠「…」
銀「ここにも、ジュンくんの携帯にも、あなたの携帯にも連絡したのに誰も出ない…」
翠「…」
銀「それで来てみたら、やっぱりここに居たのねぇ…」
翠「いや…」
銀「お母様が心配しているわ」
翠「あっ!…」
銀「…連絡もなしに…」
翠「…」
銀「しかも学校から直接ぅ?」
翠「…」
銀「まさか、無断で部活休んだとか?」
翠「連絡はしましたよ!?」
銀「あっそぉ。ま、事情は知ってるからいいわ」
翠「…」
銀「でも、家族の中でその事情を知ってるのは私と蒼星石だけ…」
翠「…」
銀「判ってるわよね?」
翠「…ご、ごめんですぅ」
銀「家に連絡入れるか、一旦家に帰るか、どちらかにしなさいって言ったこと、覚えてる?」
翠「…」

ここで水銀燈の目つきが変わった。
鋭く翠星石を睨みつける。

銀「いくらジュンくんの家だろうが、言われたことは…」
翠「ひぃ!」

翠星石は鞄を置いて、大慌てで僕の部屋の方へ逃げる。

銀「待ちなさい!」

荷物を置き、靴を脱ぎ捨て、物凄い勢いで階段を駆け上がる水銀燈。
…やがて向こうの方から悲痛な叫びが聞こえてきた。

翠「きゃっ!来るなです!」
銀「ジャンクになりたいのっ!?」
翠「ごめんですごめんですごめんですぅ~~」
銀「謝るならお母様に謝りなさい!」

──こいつ、家に来る前に連絡してなかったのか…
電話に出れたら良かったんだけど、寝てて気づかなかったからなぁ…
これからは一旦確認してから家に上がらせよう──

しかし、家に来た頃と比べるとかなり元気になったようだ。
やっぱり姉妹っていいものだなんだろうか。
僕ら姉弟もあんな風に仲良くできるものなら──
僕はねーちゃんのいる方へ振り返った。

の「ジュンくん?」

玄関に入ってドアの鍵を閉めたねーちゃんが、おずおずと声を掛けてきた。

ジ「何?」
の「お夕飯すぐ作るからね…」
ジ「あ、うん」

ねーちゃんも制服から着替えるためか、靴を脱いで2階へ上っていった。
仲良く…か。抵抗があるな…
ま、見栄えが悪いからという理由で、この散らかったリビングでも掃除するか…
…そうやって取り掛かろうとした時、上から僕を呼ぶ声が聞こえた。

銀「ジュンく~ん?」
ジ「何~?」

僕は水銀燈とはしょっちゅうタメ口だし、
水銀燈にも「今まで通りにしてちょうだい」って言われてるから、
幼稚園の頃から、翠星石たちと話すように会話している。
だが、たまにタメ口を利いてはいけない時がある。

銀「…大事な話があるから、ちょっと来てぇ~」

──どうやらその時がやってきたようだ…

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