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ジ「…」
翠「…」

それからお互い黙り続ける2人。
この均衡をどう破ればいいのだろう。
リビングから時計の秒針の音が『カチ…カチ…』と響くだけのこの沈黙。
翠星石は僕に何と言って欲しいんだろう…

翠「──だから、引き篭もるです」

そしてまた僕を睨みつけるようにして言う翠星石。
翠星石の唇が震え始めてきた。
やばい、本気だ──
これは何か言わないと脛蹴りが飛んでくる、いつもの空気だ…
どうする、僕…

翠「…ばっか!さっさと…」
ジ「!」

翠星石は脛蹴りのモーションに入った。僕はいつも通りに、それをかわす体制に入る。
だが…何を思ってか、翠星石は僕を蹴飛ばすのをやめた。
唇をキュッと結んで俯く翠星石に僕は何も声を掛けてあげられない。
どうしたらいいんだ──
そんなこんなで混乱しているうちに、翠星石は声を絞るようにして言った。

翠「ジュンに許してもらうまで…翠星石は生きて行けんです…」
ジ「…?」

──う~ん…
さっき蹴ろうとしたことか?
そんなこと、殆ど毎日じゃないか…どうして今頃になって…

翠「……悪いことをしたですぅ…許してくれですぅ…」
ジ「…何で謝るんだ?」
翠「ジュンはクラスの奴らに苛められて引き篭もってるんですよね?」
ジ「…」
翠「でも翠星石だってジュンにあいつらと同然のことをしてきたです…」
ジ「それはない!」

まーっさか…何を言い出すんだ…
確かに…雛苺に『うにゅ~ですよ』と言って食べさせたのが『雪見だいふく』だったり、
勝手に僕のチャリのタイヤの空気を抜いてたり、ホントに性悪で困った奴なんだが、
普通に雛苺の面倒はよくみてると思うし、時々クッキーも焼いてくれるし、
そういうところを見てると、根は優しいと思うんだ…
翠星石だけじゃない。水銀燈から雛苺まで、翠星石のとこの姉妹はみんないい奴だと思う──

──ところが、翠星石は血相を変えて僕に迫ってきた。

翠「お前は蒼星石ですか!」
ジ「あ?」

鼻と鼻とがくっつきそうなぐらい顔を近づけて声を荒げる翠星石。
こっちが否定してるのに怒ってくるなんて、腹立つなぁ…
…あ…でも…これは学校で何かあったな?
「お前は蒼星石ですか!」か…
また蒼星石と姉妹喧嘩でもしたんだな?…多分。
今日は僕だってねーちゃんとは上手くいかなかったし…

翠「…」
ジ「ま…まぁ上がれよ。愚痴りたいんだろ?」
翠「──ややややっぱ帰るです!」
ジ「は?」

何かよく分からないことに、踵を返し、閉めた鍵を慌てて再び開けようとする。
こっちも何で逃げるのかよく考えないままにそれを引き止めようとした。

ジ「ちょっと…落ち着けよ。僕に用があって来たんだろ?」

玄関の鍵を開けるのにもたつく翠星石の左腕を何となくがっちり掴む。
それでも翠星石は何としてでも出て行こうと必死にもがく。

翠「誰がジュンなんか!──は~な~せです!」
ジ「イヤだ」
翠「は~な~せ──」
ジ「いいから入れ!」

僕は翠星石の二転三転する態度にイライラして怒鳴ってしまった。
顔を曇らせる翠星石。やっぱり怒鳴るより宥めるべきだったのか…
別に怒るつもりではなかったんだけど。

翠「…」
ジ「ほら早く…」
翠「…」

翠星石はようやくジュンに抵抗するのを止め、再び鍵を閉めた。
ばつが悪そうな顔をする翠星石。

翠「…」
ジ「じゃあ、こっち来い」

怒鳴ってごめん──
…と言ってやるようにやさしく言葉を掛ける。
そうすると、翠星石は照れ臭そうな顔をしながら靴を脱いで上がってくれた。

まったく…よく分からない奴だな──

~~~~~

僕は翠星石を連れて自分の部屋へ入った。
僕が勉強机の椅子に座ると、翠星石も僕のベッドに腰掛ける。
が、翠星石はさっきからしょんぼりしたままだった。

ジ「ほら、さっきのは別に怒ったわけじゃないだから、そんなに元気なくさなくても…」
翠「…」
ジ「な。だから気にするなよ…」
翠「…」

それでも俯いたままの翠星石。
仕方ないな…横に座ってやるか。

ジ「よいしょっと…」
翠「…」
ジ「…」
翠「ジュン?」
ジ「何?」
翠「ジュンが苛められてたのは昨日からだったんですね」
ジ「え?」

こっちを向く翠星石。

翠「今日気づいたです。昨日の5時間目の休み時間に何で五月蝿かったかが…」
ジ「?」
翠「昨日は机て寝てましたし…ジュンも突っ伏してたから寝てたのかと思ったです…」
ジ「あ…そうなんだ」
翠「改めて謝るです…昨日はあんなこと言って悪かったです…」
ジ「僕こそ、冷たくしてごめん…」

ポケットからハンカチを取り出して涙を拭う翠星石。
おいおい、こんなことで泣くなよ…w
話し始めからこれじゃあ後々どんなことになるのやら…

翠「…それで、主犯格はAとBとCですね?」
ジ「C?」
翠「え?…違うですか?…今朝はその3人が黒板に落書きしてたですよ?」
ジ「昨日はAとBだったんだけど…」
翠「じゃあ、増えたんですね…」
ジ「…」
翠「まぁ…クラスのほとんどの奴もジュンを貶める発言ばっかしてやがるですし…」
ジ「…」
翠「この増殖の動きは何としてでも食い止めたいんですけど…」

どんどん話す翠星石だが、急に正面を向いて俯き、話さなくなった。
次に話し始めた時には声が震えていた。

翠「…蒼星石が…怖いんです」
ジ「え?」
翠「巴も怖いです」
ジ「…?」
翠「2人で何かコソコソやってるです。翠星石はまるで弾き出されたような感じなんです…」
ジ「…」
翠「翠星石も…もはや孤立したんです──」

再び目にハンカチを当てる翠星石。
僕ももらい泣きしそうになっていた。

ジ「…」
翠「──ぐずっ…」
ジ「…」
翠「まあ、向こうは他クラスですもんね…仕方ねーです」
ジ「…」
翠「それに、クラスの奴はみんなジュンを貶めるようなことを言うです…」
ジ「…」
翠「ジュンがいないのに、学校に行くだなんて…無茶ですよぉ…」

翠星石は膝に乗せた拳をギュッと握り締める。
僕にもグサッとくるような話だったが、
それとは別に、僕のせいでまた迷惑を被る人が増えたのか…とも思えてきた。

ジ「…そうか。ごめん」

翠星石はパッと僕の方を向いた。

翠「そ、そんな…ジュンは悪くないですよ!」
ジ「全く悪くないってわけでもないと思うよ…」
翠「でも…」
ジ「それで、今学校はどんな感じなんだ?」

『悪い』『悪くない』で喧嘩になることは避けたかったので話題の転換を図る。
翠星石はまた暗い顔をして俯いた。

翠「──戦争が…勃発しそうなんです…」
ジ「戦争?」
翠「そうです。ジュンを擁護する側とAとBの野郎の側とで火花が散ってるです」
ジ「…それで、まだ取っ組み合いとかは起こってないんだ」
翠「今朝小規模ながらありましたよ。だから近いうちに大規模なのも起こるはずです…」
ジ「深刻だな…」
翠「…それも多分、こっち側の中心は蒼星石と巴です…」

──だから翠星石は弾かれたのか…
もっと深刻だな…
あ、そうそう、朝のこと…翠星石に言っとくかな…

ジ「──そういや、朝に柏葉が『潰しに行って来る』なんて言ってたな…」
翠「はぁぁっ?…巴が??」

翠星石はバッと立ち上がって僕の方を向いた。
それに対して、僕はゆっくりと2回頷いた。
翠星石は頷いた後、ドスドスと足音を立てながらベッドに乗り、
横になり、そのまま頭まで布団を被った。
あちゃー…制服着たままで入られては砂埃が布団の中に…

ジ「おいおい…外の服で入──」
翠「もうこの世の中が嫌ですぅ~どう考えても引き篭もるしかねぇです!」
ジ「…」
翠「…今晩…泊まってもいいですか?」

──心臓が…止まりそうになった。

ジ「…」
翠「…」
ジ「お…お前のお父さんとお母さんは…許さないだろうな」
翠「ほ…本気にするんじゃねーです。ちょっと言ってみただけです!」
ジ「…ふんw」
翠「笑うなです!」

ひょこッと顔を出す翠星石。
しかし、僕と目が合った瞬間、膨れっ面のままそっぽを向いた。
何だよそりゃ…と思った時、翠星石はボソッと呟くようにして聞いてきた。

翠「でも…せめて、あと少しくらいは…ここに居てもいいですか…?」

──弱弱しい翠星石の声。
そうだ。僕だけじゃない。
翠星石も傷ついているんだ…
だから、せめて僕の部屋では可能な限り暫く自由にさせてやろう。
そう思った。

ジ「…まぁ、好きにしろよ」

そう言うと、翠星石はまた布団を頭まで被って、
無言のままベッドの奥の方に移動した。
それを見た僕はその意味を悟って思わず大いに吹きそうになった。
そこまで寂しがり屋なのか?w
…いや、まぁこんなに夕日の差し込み具合が良いと眠たくなるけど、
1人用ベッドなんだから、そんな狭いところで寝返りうったら即落ちるだろ…w

でも外が明るいうちに一緒に寝るなんて、幼稚園の昼寝の時間の時以来だよなぁ──

…そうやって幼き頃を思い出した僕は、隣に座布団とタオルケットを持ってきて寝ることにした。

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