『金糸雀堂』
大きな草原の真ん中に小高い丘がありました。
丘の頂上には大きな大きな木が一本、木の下には小さなお店がありました。
お店の名前は『金糸雀堂』。
今日はどんなお客さんがくるでしょう?
その1
今日は雨。
お店の窓からはグレーとグリーンの二色しか見えません。
準備をして待っていると、トントン・トントン、お客さんが来たようです。
ドアを開けるとずぶ濡れの女の子が立っていました。
「ちょっと雨宿りさせてくれなぁい?」
「いらっしゃい、貴女を待っていたかしら。」
「私を待っていたですってぇ?」
「だからタオルも着替えもお茶の準備も出来てるわ。」
タオルで拭いて着替えさせると、あったかいお茶を淹れました。
「さてさて、貴女の探し物は何かしら?」
「別にぃ、私は探してなんか…」
「ここは『金糸雀堂』。探し人が最後に辿り着く所。ここに無ければ、求める物は何処にも無いかしら。」
「そんなっ…!」
「ほら。さあ、貴女の探し物は何でしょう?」
「…私の友達が病気なの。治すには特別な木の実が必要なのに何処にも…」
それを聞くと立ち上がって壁に掛かっている扉の絵に近づいて。
「そこの棚からノブを1つ選んで持ってくるかしら。」
「この中から?…う~ん、はぁい。」
「この絵にはめて回しなさい。」
少女は恐る恐る絵にノブを差し込み回しました。
ガチャリ
絵の扉の先はとても大きな部屋でした。
夕暮れ色の部屋の真ん中には大きな木が生えています。
「…!この木!この木の実よぉ!」
「よいしょっ…はい、これでいいかしら?」
「ありがとう!これで…」
「ふふん♪なんていっても『金糸雀堂』、大抵の物は置いてるかしら♪」「あ!…その…これ幾らするの…?」
「う~ん、一曲位かしら?」
「一曲?どういう事?」
「お代は貴女が一番好きな歌一曲分、素敵な歌を聴かせて頂戴?」
少女の歌が終わる頃、空はすっかり晴れていました。
手を振りながら帰っていく少女を見送ると、今日は店じまいです。
「このお店の品揃えがまた一つ増えたかしら♪」
つぶやくと手の中の小箱をそっと開きました。
すると先程の少女の歌声が辺りに流れ出します。
「歌を聴きながらお茶にしましょう。」
そう言うとパタンと扉が閉まりました。