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「新説JUN王伝説~序章~」第21話

古びた建物の通路をコツコツと歩く音だけが響く。
男は漆黒の衣を引きずりながら暗い真っ直ぐな通路を歩いていた。
先の見えぬ長い廊下をゆく男の目の前にはやがて巨大な鉄の扉が立ちはだかる。
男は片腕でその冷たい扉を押す…すると鈍い音を立てながら開いた扉はその向こうの空間を晒した

牙「……」
男…牙喪守は無言のまま歩を進める…

『牙喪守よ…』

突如響く声。
牙喪守はその声に一瞬ビクリと体を震わすと静かに膝を地面に付いた

『貴公の敗走…すでに我が耳に入っておる。
さて……この償い、わかっておろうな…?』

牙喪守の全身を冷たい汗が流れ落ちる…
だが牙喪守は闇の中でその声に向かい口を開いた
牙「恐れながら申し上げます…私が挑んだは貴方様の追い求めし伝説の秘拳、『北斗神拳』の使い手にございます…。」

『……なに?』

暗闇に響く声が僅かに震える
牙「私は北斗神拳が我が組織にとって有益なものかを見極めに行ったものでございます……」

『ほぅ…して、貴公の見解は……?』

牙「結論から言いますと…北斗神拳は聞きしに勝る恐るべき拳、貴方様が手にするに相応しい拳でございます…。」

牙喪守は平伏したまま言葉を続ける
牙「ですが、その使い手はまだ未熟……北斗神拳に伝わるあの技をまだ習得していない様子でした…。
そのため私は3ヶ月の猶予を与えあえて身を引いたのです…。
私が本気を出してしまえばあの伝説の技を目にすることなく殺してしまうと思いましたから……。」

『そうか…そういうことか……ククッ…フハーッハッハッハッハッハ!!』

突如として闇の中に響く高笑い…
だが牙喪守にはその笑い声すら自分の首に突きつけられた死神の鎌のように感じられた

『フッ…よかろう、今回だけは貴公の手柄に免じて特別に不問に処す……だが、次はないぞ…?』

牙「ははっ!心得ております!!」
不問に処す…その言葉を受けた牙喪守は一度だけ暗闇の中の声に返事を返すと足早に部屋を出て行った。

『フッ…北斗神拳か……面白い、伝説の秘拳、我が拳で見極めてくれようではないか!
フフッ…フハーッハッハッハッ!!』

不気味な暗闇の中にただ笑い声だけが響き渡るのであった…。


部屋を後にした牙喪守は再び暗い通路を歩く…
牙「クッ…まだ震えが止まらぬ……」

だがその足は先程から震え続け、腕の痛み以上に牙喪守の全身を駆け巡っていた

「おいおい…四軍臣の1人が何てザマだよ……」

ふいに自分に向かい掛けられた声に牙喪守は首を向ける。
するとそこには2mを軽く超えるほどの大男が不適な笑いを浮かべていた
牙「剛瑠挫……何の用ですか?」
剛瑠挫、そう呼ばれた大男はゆっくりと牙喪守の前に歩み出た
剛「ヘッ、何の用だぁ?てめぇ組織の掟を忘れたたァ言わせねぇぞ…?」
剛瑠挫は丸太ように太い両腕をゴキリと鳴らすと牙喪守を上から見据える
牙「勿論ですよ……ですが、私は別に負けた訳ではありません。」
剛「ほざけ!貴様が何と言おうと敵の命を奪わぬことは敗北と同義!!」

ーー轟ッ!

剛瑠挫はその剛腕で側面の壁を粉々に砕くとより険しい顔で牙喪守を睨みつけた。
だが牙喪守は表情一つ変えることなく冷たい瞳で剛瑠挫を睨み返す
牙「フゥ…相も変わらず短慮な人ですね…。私ならすでに“あのお方”から許しは得ています…」
剛「なっ…!?何だとぉ!?」
牙喪守の言葉を受けた剛瑠挫の表情が強張る
牙「それとも…貴方は“あのお方”の意思に背くとでも……?」
剛「ぐぬっ……」

剛瑠挫は牙喪守を睨みながら苦虫を噛んだように言葉を無くした

「お前の負けだ…剛瑠挫。」

剛「!?」
突然掛けられた声に剛瑠挫は背後を振り向く。
そこにはいつからいたのか、もう1人の男が腕を組み壁にもたれて冷ややかな瞳を向けていた
剛「ば…刃鬼死矛…てめぇまで…」
その男…刃鬼死矛は剛瑠挫を見上げながら口を開く
刃「“あのお方”が不問に処すというのなら…我々四軍臣はそれに従うまで……違うか?」
剛「け…けどよ…!?」
刃「剛瑠挫…それ以上言うのであらば……俺が相手になるぞ?」
尚も言葉を続けようとする剛瑠挫を刃鬼死矛は更に鋭い目つきで見据えた
剛「てめぇ…本気か?」
刃「無論だ……」
剛「ケッ…上等じゃねぇか……最近ザコを殺ってばっかでイラついてたとこだからよ…」

ゴゴゴゴゴゴゴゴ…

両者の間に一触即発の気配が流れる。
双方の闘気はその空間でぶつかり合う激流の如く周囲の大気を激しく震わせた…
牙「お止めなさい二人とも…我々四軍臣同士争ったところで仕方がありません…」
だが、そこへ双方の闘気を冷ますかのように牙喪守が口を挟んだ

牙「これは私の問題です…あなた方とて組織内、それも幹部同士の無用な争いが“あのお方”の耳に入れば色々と面倒でしょう?」
刃・剛「「!」」

牙喪守の言葉に剛瑠挫と刃鬼死矛は同時に反応する。
そして二人の放っていた凄まじい殺気は徐々に収縮し、やがて嘘のように消え失せた…
刃「そうだな…済まない、牙喪守…」
牙「いえ…」
剛「ケッ!やめだやめ!!シラケしまったぜ!!」
冷静に話す刃鬼死矛とは対象的に剛瑠挫は大声を張り上げるとドスドスと足を踏み鳴らしながら二人の前から去っていった

刃「全く…もう少し落ち着きというものを知らぬのか…あいつは…」
牙「クックック…今に始まったことではないでしょうに…」
刃「ふむ…して、牙喪守よ……」
刃鬼死矛が牙喪守に鋭い視線を向ける
牙「…なんでしょうか?」
刃「お前ほどの男を退かすとは…敵はそこまでの使い手なのか?」
刃鬼死矛の問いに牙喪守は小さく笑うと自らの腕の裾をまくり差し出した
牙「見てください…これがあの伝説の秘拳、北斗神拳を受けた傷跡です…」
刃「北斗神拳だと!?
まさか…、実在していたのか?」

牙喪守の腕にはあちこちに深い裂傷の跡と骨折を示す膨らんだ黒紫の痣が見られた。
その真新しい傷跡からも未だに激痛が彼を苛んでいることは容易に伺える
牙「…私も驚きました。しかもあちらには裏切り者の邊鬼羅までがいましたから尚更です…」
刃「邊鬼羅だと…?まさか…奴が北斗神拳を?」
牙「いえ…北斗神拳の使い手はまだ高校生の少年でしたよ…ですが、油断したとはいえこの私に一矢報いたのですから、大したものです……」
牙喪守は傷付いた自らの腕を見ながら恨めしそうに眉をしかめた
刃「そうか…だが信じられんな…そんな年端もいかぬ少年にお前が不覚を取ろうとは。」
牙「フッ、少々お遊びが過ぎただけですよ……
ですが、次はこうはいきません…せいぜい私が与えた3ヶ月の猶予の中で微かな希望を抱いて無様に足掻いていなさい…
そしてその後で最大の絶望と屈辱を与えながら私が何もかもズタズタに引き裂いてあげますから……クックック…ハーッハッハッハァ!!」
暗闇の中に牙喪守の凶気を孕んだ高嗤いが響き渡る…
刃「相も変わらず趣味が悪いな…
だが、相手が本当に北斗神拳の使い手となれば、“あのお方”も黙ってはおらんのでは……?」

牙「ククッ…その様子でしたね。
ですが彼らは私の獲物…私が味わった苦痛と屈辱を何倍にもして返して差しあげないと気が済まないのですよ…」
牙喪守は蛇のような冷たい瞳をより一層の狂気で充たしながらニタリと笑う
刃「だがそれでは…」
牙「わかっていますよ…
ですが、私に敗れるようであれば北斗神拳もそこまでのものということ…“あのお方”も納得してくれましょう。」
刃「ふむ、一理ある……だが、窮鼠猫を噛むともいう、次はくれぐれも油断せんことだな。」
牙「ククッ…所詮鼠は鼠、群れねば何もできぬ輩など恐るるに足りませんよ。
まぁ見ていなさい、北斗神拳…3ヶ月の後、必ずや我が手中に収めてご覧にいれますよ。
クックック…ハーッハッハッハァ!!」

牙喪守は高嗤いを浮かべると身を翻し暗闇の中へと消えていった…。




翌日・桃種駅前、午前7時。
旅行当日、ジュンは待ち合わせの駅へと足を運んだ

ジ「う~っす。」
翠「遅ぇですよジュン!レディを待たせるとは何事ですか!?」
ジュンの姿を見つけるなり翠星石が声を張り上げた
ジ「待たせるも何も時間きっかりだろうが!?」
翠「黙りやがれですぅ!男は少なくとも30分は前に来て待ってるのが甲斐性ってもんですよ!?」
ジ「ンな事知るか!」
蒼「まあまあ、2人とも…」
蒼星石が2人の間に入る
紅「まったく、朝から騒がないで調達…人が見てるわよ?」
ジ・翠「「うっ…」」
辺りを見ると通勤時間のサラリーマン達が2人の騒ぎを横目で見ながら改札へと歩いていた
金「ま…まあ、これで全員揃ったのかしら~。」
雛「うぃ~♪」
恐らく中身はお菓子だろうか…限界近くまで膨らんだリュックを抱えた雛苺と金糸雀が声を上げた
ジ「じゃ、出発しようか。」
薔「あ…ちょっと待って…」
ふいに薔薇水晶が言葉を挟む
ジ「どうした?」
薔「今…お姉ちゃんが……」
ジ「雪華綺晶がどうかし…そういえば、雪華綺晶の姿が見えないけど…どうしたんだ?」
銀「それが…あの娘ったらぁ…」チラッ

水銀燈がある場所に目を向けたそのときであった…

雪「お待たせしました♪」
ジ「いぃっ!?」
その視線の先からやって来た雪華綺晶の姿にジュンは目を見開く。
なんと彼女は巨大な段ボール箱を両手に抱えてフラフラと歩いてきたのだ
ジ「お前…それ、まさか…」
雪「はい。全部車内で食べる駅弁ですわ♪」
ジ「やっぱりな…」
呆れかえる一同をよそに彼女はえらくご満悦の様子だ…
銀「と…兎に角!みんな揃ったことだしそろそろ行きましょうかぁ!」
紅「そ…そうね!」

かくして一行は早朝の改札を抜け特急電車へと乗り込んだ。
そして数分の後、電車はゆっくりと動き出し、やがて見慣れた街の景色を高速で早送りしてゆく
ジ「……」
ジュンは遠ざかってゆく故郷を車窓からただ無言で眺めていた。
紅「ジュン…どうかしたの?」
その様子を見た真紅がジュンに話し掛ける
ジ「…え?い…いや、何でもないよ。」
紅「そう…ならいいけど…」
そのジュンの言葉に真紅は目を手に持っていた本に移す

ジ「あぁ…何でもない、何でもないさ……」

この時真紅を始め、そこにいた誰もが気付かなかった…
この旅の先にジュンが抱えた決意に…。

そしてジュン達を乗せた電車は桃種市を抜け、遥か遠い地へと向かい走っていった。

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