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『メイメイ飼育日記』第5回

銀「はぁ…はぁ!」

水銀燈はどこまでも広がる荒野を1人で走っていた。
背後からは何かが…恐ろしい何かが追ってきている。

『捕まったら殺される』

根拠はないがはっきりと感じる予感…その不吉な感情を抱えながら息を切らしてデコボコの道を駆け抜けてゆく。

銀「きゃあっ!」

だが彼女は突き出した岩につまづき転倒してしまう。
銀「駄目…早く逃げなくちゃ…」
しかし何故か身体は鉛のように重く、そこから一歩も動けない。
銀「何でよぉ!動いて…動いてよぉ!
早くしないとアレが…アレが来ちゃうじゃな…」

--ン…ズシン…ズシン…ズシン!

銀「!」
背後に迫る巨大な足音…
水銀燈は恐る恐る首を後ろに向ける……

『ゼットォ~ン…!』

そこには見上げるほどに巨大な異形が自分を見下ろしていた。

銀「き…きぃやぁあああああああああああああああああッ!!」 

銀「ぁぁぁぁぁあああああああああああああッ!!」ガバッ!

銀「はぁ…はぁ…ゆ…夢?」
そこはいつもと変わらぬ自分の部屋。
安堵した水銀燈は深々とため息をつくが…

メ「……ゼット~ン…」

そのベッドの上にいたメイメイが水銀燈をの顔を覗き込む。

銀「ひいいいいいいッ!!」

悪夢から目覚めたばかりの水銀燈であったが、その直後に夢の中の異形を至近距離で目の当たりにした水銀燈は本日二度目の絶叫を上げた。


銀「まったく…夢の中でまで寿命を縮めてくれるなんてぇ…
このままじゃ三十路前に寿命が尽きちゃうわよぉ…」
水銀燈はブツブツと文句を言いながら寝汗が染み込んだシャツを脱ぎ捨て着替えを始めた。
今日は休日、それを利用して彼女はある場所へ出掛けることにしていたのだ。

メ「ゼット~ン…」
銀「あんたはウチでおとなしくしてなさぁい!今日は大事な用事があるんだから。」
着替えを終えた水銀燈は後ろを付いてくるメイメイに怒鳴ると
携帯と財布を持ちヤクルトを片手に家を出て行った。 

それから約一時間、電車とバスを乗り継いだ水銀燈は目的の場所の前に立っていた。
そこは有栖川病院と記された大きな病院。
水銀燈は病院の自動ドアをくぐるとエレベーターに乗り、降り立った階のある病室の扉を叩いた。

「はい。」

すぐに病室の中から響く声…それを聞いた水銀燈はゆっくりとドアを開ける。
そこには彼女と同じくらいの年齢の長い黒髪の少女がベッドに横たわっていた。
「あら、水銀燈。来てくれたんだ…」
銀「はぁいめぐ、乳酸菌摂ってるぅ?」
彼女は柿崎めぐ…水銀燈の幼なじみであり昔からの大親友だ。
しかし生まれつき心臓が弱く、現在はこの病院で入院生活を送っている。

銀「調子はどう?」
め「ん、相変わらず…かな?」
銀「そう。」

相変わらず…めぐの言葉に水銀燈は僅かに表情を曇らす。
ここ数年、以前に比べてめぐの病状はだんだんと悪化していっている。
今はこうして会えているが一時期は面会謝絶の事態にまで陥ったことすらあるのだ。 

め「…水銀燈?」
その表情に気付いたのかめぐが心配そうな顔を向ける。
銀「あっ…な、何でもないわぁ。
…ねぇ、めぐ?」
め「なに?」
銀「歌…聴かせて。」
め「…えぇ、いいわよ。」

水銀燈の言葉にめぐはゆっくりと歌い始めた…。

め「♪夢は風…光導く…」

水銀燈はその儚くも美しい歌声に黙って耳を傾けた。

め「♪幸せと…嫌な思い出…」

水銀燈はめぐの歌が好きだった。
昔から何度も聴いてきたが彼女の歌声はいつ聴いても飽きることはなく、いつも水銀燈を癒やし包み込んでくれてきた。
その歌声を聴くたびに水銀燈の脳裏にめぐとの記憶が蘇り、どんな辛いことがあってもその瞬間だけは幸せな気持ちにしてくれた…
もし、いつかこの歌声を聴くことができなくなったら…そう考えただけでも水銀燈の胸は張り裂けんばかりの苦しさを覚えてしまう。

め「♪すがる気持ち捨てて…全て想い繋げ……」

やがて歌声は小さくなり終わりを迎えた。 

曲を聴き終わり、水銀燈は閉じていた瞼の裏に熱いものを感じていた。
もし今ここで目を開くとそれが零れ落ちてしまう…
だがプライドの高い水銀燈はそんな顔をめぐに見られたくはなかった。

銀「まあまあね…また聴かせて貰うわぁ。」

ーーパチパチパチ…

水銀燈は目を閉じたままで拍手を贈る。

ーーパチパチポフパチ…ポフポフ…パチパチポフポフ…

銀「……ん?」
その時水銀燈の耳に自分のものとは違った小さな拍手が聞こえてきた。
銀「…え?」
不思議に思った水銀燈が瞼を開くと…

メ「ゼット~ン…」ポフポフポフポフ…

そこにはめぐのベッドの上で両手を叩くメイメイがいた…

銀「………」

ザ・ワールド…時は止まる…。

銀「ぎ…ぎぃやぁあああああああああああああ~ッ!!」
時は動き出す。
一瞬の沈黙の後、正気に戻った水銀燈の悲鳴が病院内に木霊した。 

め「あら…この子どこから入ってきたんだろ?」
取り乱す水銀燈とは裏腹にめぐはいたって冷静だ。
銀「な…ななな、なんであんたがここにいるのよぉ!?」
め「水銀燈…この子と知り合いなの?」
銀「知り合いも何も私の最近の悩みの元凶よぉ!!」
め「この子が…?別にそう悪い子には見えないけど…」
メ「ゼット~ン…。」
めぐはメイメイの頭を撫でながら優しく話しかける。
め「あなた…名前は?」
メ「ゼット~ン…」
め「そう、ゼット~ンっていうんだ…私は水銀燈の友達の柿崎めぐ。よろしくね♪」
メ「ゼット~ン…」コクッ

銀「……」

水銀燈は初めて見るであろう異形の生命体とも普通にコミュニケーションをとるめぐに言葉を失っていた。
その時である…

佐原「めぐちゃん!?今の悲鳴は何!?」
先程の悲鳴を聞きつけた看護婦の佐原が病室に飛び込んできたのだ。
め「いえ、水銀燈が椅子から誤って転げ落ちちゃっただけだから気にしないで。」
めぐはしれっとした表情で嘘を吐く。
佐原「そ…そうなの……あら?」
だがその直後、佐原の目はめぐが抱きかかえていたメイメイに移った。 

佐原「めぐちゃん…それは何かしら?」
当然のことながら病院内に動物の連れ込みは厳禁。
佐原は厳しい目をめぐに向ける。
め「あぁ、この子は水銀燈がお見舞いにくれたぬいぐるみよ。」
佐原「ぬいぐるみぃ~?それにしては悪趣味ねぇ…それに、何か生きてるみた…」
メ「ゼット~ン…」
佐原「ちょっ……喋ったわよ!?」
メイメイの鳴き声に反応する佐原。だがめぐは顔色一つ変えずに言葉を続ける。
め「やぁねえ、最近じゃ話すぬいぐるみなんて珍しくもないじゃない。この子は最新型だからコンピューターが入ってて自分で動けるの。」

微塵も取り乱す様子もなくスラスラと嘘吐き続けるめぐを水銀燈は唖然としながら眺めていた。

佐原「…ちょっと見せてみなさい。」
佐原はめぐからメイメイを奪うとヒョイと持ち上げまじまじと眺め始めた。
佐原「う~ん…やっぱりぬいぐるみにしては生々しいわね…」
そして佐原の目がメイメイの顔に移ったその時である…

メ「ゼ~ット~ン…」ミョインミョインミョインミョイン…
佐原「!」

ふいに病室の内部に奇妙な音が反響した。 

銀「…何?この嫌な音…」
メ「ゼ~~ットォ~~ン…」ミョインミョインミョインミョインミョインミョインミョイン…
佐原「ぁ…あぁ…ぁ…ァ…ァ…」
銀「!?」
水銀燈は見た。メイメイの顔を見つめる佐原の瞳が徐々に焦点を失っていくのを…
加えてその口の端からは唾液を垂らし、両足はガクガクと震えていた。

メ「ゼット~ン…」ミョインミョイン……
やがてその音が止むと佐原は静かにメイメイをめぐのベッドの上に置いた。
佐原「ウン…ホントウニヌイグルミミタイネ…」
め「ええ、だから言ったでしょ?」
銀「!!?」

佐原「ゴメンナサイ…ワタシガオロカデシタ…シンデオワビシマス…」
め「いいのよ、わかってくれれば。」
佐原「ハイ…シツレイシマシタ…メグサマ…メイメイサマ…」
佐原は虚ろな目のまま深々と頭を下げると病室から出て行った。

銀「メイメイ…あんた…そんな事までできるのぉ…?」
水銀燈は顔をひきつらせながらメイメイに問う。
気付いての通り、メイメイは相手を洗脳する能力まで持っていたのである。
メ「ゼット~ン…!」
メイメイはどうだとばかりに胸を張って見せた。
銀「はぁ…」
だが水銀燈はまたひとつ知ってしまったメイメイの恐ろしさに目眩を覚えるのであった…。

続く

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