「第5話」
むかぁしむかしのはなしです。
【女の子】がどうなったかって?今から読んで差し上げますよ…
村人は神殿の中に鏡と女の子を残し逃げる様に去りました。
中は薄暗く、暗がりが口を開けて迫って来るようです。
女の子はこわくてガタガタ震えました。
と、鏡がぼやっと光を放ったではありませんか。
『怖がらなくていいよ。鏡の前に立ちなさい。』
何処からか声が聞こえます。
女の子は恐る恐る鏡の前に立ちました。
そこには青ざめて涙を流した女の子が映っていました。
女の子が鏡に手を翳すと……鏡の中の自分がその手を握ってきたのです。
鏡から出て来た女の子は笑いながら言いました。
『見て…これが私…私の姿。』
パンッ、パンッ、パンッ、パンッ、パンッ、パンッ。
空に時間を知らせる花火が上がります。
「みんな、準備はいい?」
「ばっちりよぉ。」
「お財布も持ちましたし、お腹の空き具合も頃合いです。」
「それじゃ行こうか。」
今日は【宵祭り】です。
3日続きの初日とはいえ、神社への道は既に人で溢れていました。
神社に近づくにつれてはしゃいだ声が聞こえ、美味しそうな香りも漂ってきます。
お腹を盛大に鳴らしながら走り出そうとする雪華綺晶を引き止めながら、水銀燈が提案しました。
「ねえ、このコ落ち着かせる為にまず何か食べましょ?それから見て回らない?」
「離し、離して!焼きそばが、焼きイカが、焼もろこしが私を呼んでるんです!」
「そうだな、何か食べながら見て回るのもいいしな。」
「お腹も空いてきたしそうしましょう。」
30分後、満足な笑みを浮かべた雪華綺晶とげんなりした顔の3人が出店の通りを歩いていました。
「……30分で4つの店潰すなんて、どんな胃袋してるんだ?」
「考えたら負けよぉ、ジュン…」
「あ、すみません、リンゴ飴15本下さいな♪」
そのまま、4人は流しながら射的屋に向かいました。
「…ふふふ、さあ水銀燈、勝負なさい!」
「いいわよ、返り討ちにしてあげるわぁ!」
1分もしない内に人垣が出来、どよめきが上がりました。
2人は台に置いてある銃を全て強奪すると、近くにいた子供にコルク玉を付けさせて、次々に発砲しだしたのです。
「真紅ぅ、この私に勝てると思ってるなんて、ホントにおバカさぁん!」
「水銀燈、その減らず口黙らせてあげるわ!」
次々に景品を落としていく2人と、応援しながらリンゴ飴を平らげていく1人を見て溜め息をつくジュン。
仕方なく一人でぶらつく事にしたのでした。
ぶらぶらと人混みを抜けて歩いて行くと、突然後ろから誰かがしがみついてきました。
「ジュ~ン♪捕まえた♪」
「あれ、雪華綺晶?2人を見てたんじゃないのか?」
「ジュンと見て回りたかったの。いいでしょ?」
「そりゃ構わないけど…とにかく抱きつくのは止めてくれ。」
「…ジュンのケチんぼ。じゃあ腕くんでくれたら許す。」
「それ、抱きつきと大して変わらないだろ。」
そんな事をいいながら金魚すくいやくじ引きを楽しんでいると、ジュンはある事に気がつきました。
「なあ、どうして左目に眼帯してるんだ?」
雪華綺晶は不思議そうな顔をして、
「それは【鏡映し】だからだよ?」
と答えると取った金魚を嬉しそうに眺めました。
(【鏡映し】?なんだそりゃ?)
ジュンが首を捻っていると、雪華綺晶が持っていた金魚の袋を渡して来ました。
「はい、ありがと。たのしかったよ♪」
「自分ですくったんだから、自分で持てって…あ、おい!どこいくんだよ!?」
雪華綺晶はあっという間に人混みの中に見えなくなってしまいます。
ジュンは仕方無く真紅達の所に戻る事にしました。
ジュンが射的屋に行くとそこには、拍手で称える野次馬と台に突っ伏した真紅、雪華綺晶に右手を挙げられて勝ち誇る水銀燈。
「あら、ジュンどこにいっていたのよ?今年も私が勝ったわぁ♪」
「…どうして?…何故なの?」
ジュンは溜め息をつき、抱きつこうとする水銀燈をかわすと雪華綺晶に金魚を渡そうとしました。
「急にいなくなるなよ。ほら、お前の金魚。」
「なんのことですか?私はずっと御二人を応援していましたよ?」
右目に眼帯をした雪華綺晶は不思議そうに首を傾げました……