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四時。僕は彼女の家に着いた。蒼星石は外に立って待ってくれていた。
声をかけると、寂しげな、けれど嬉しそうな笑いを顔に張りつけて近づいてきた。
ジ「駅まであるいていこう」相変わらず間が悪い。もう少しさらっと言えそうなものだ
蒼「いいね。歩いていこう」
断られるかと思ったのに。やや遅れて彼女が着いてくる。

君はなにを想い、考えているんだろう?
今ほど君のすべてを、感情を、思い出を、欲望を、苦しみを、喜びを、嘆きを知りたいと思ったことはない。
しゃべらなきゃ話さなきゃ、焦れば焦るほど言葉は逃げてしまう。
商店街の方から、曲が聞こえてきた。
蒼「ゆずだね。これ。」
蒼星石が口火を切ってくれた。ありがたい。
ジ「うん。でも、あんまり聞いたことないな、これ。結構古い奴じゃないかな?」

♪予定時刻は6時 あとわずかで僕らは別々の道

君は僕の少し後ろ 涙ぐんで下を向き歩く♪


なんだ、これ。洒落にもならねぇ。思わず振り返ったじゃないか、くそっ。
蒼「…はは、いい曲だね」
ジ「…そうだな。……ところで家業の造園業ってやっぱり日本庭園?」
あー、そんなことどうでもいいだろ。口が勝手に動く。
蒼「そうだよ。柴山造園っていって結構大きいんだ。」


いつからなんだろう 互いに素直になれぬまま

大切に思うほど大事な事が見えなくなって


うざい。ゆずは嫌いじゃないが今聞きたい曲じゃない
蒼「温室もあるし庭も広いんだ。品種改良もやっててスターストーンっていう青と緑の花びらがきれいなあれは、
そこで生まれたんだ。だから最近は日本庭園ばっかりじゃないんだよ」
ジ「あー、あれか。ネットに写真あったな。すごいな」
くそっ、そんなところの跡ついだらほんとに二度と会えねぇじゃねぇか。
これで今生の別れか。縁起でもねぇ。
蒼「うん、あれは僕と翠星石の名前からとったんだってさ。」
ジ「へぇー、そうだったんだ」
蒼「うん。…あっ駅…着いちゃったね。」
ジ「あ、ああ。そ、そうだ。この駅ってあくまで特急が止まるだけじゃない?」
蒼「うん、そうだね」
ジ「だからさ、もう少し歩いてバスに乗ってさ、新幹線の出てる駅まで行って新幹線で帰ったら?今晩中にはつけるかもよ?」
蒼(…この駅から急行でその駅まで行くのでいいのではという疑問はあえて口に出すのはやめておこう)
蒼「…そうしようかな。新幹線なら向こうについて電話して迎えに来てもらうのにちょうどいい時間につけるし」
ジ「そうだろ?」
サヨナラバスはもうすぐ 君を迎えにきて

僕の知ることのできない明日へ君を連れ去ってゆく


おいおい、ほんとに洒落にならねぇぞ。さっきから何なんだよ。
どうしてこうも商店街に流れてる曲ってのは遠くまでよく届くんだ?
どうしてこうも同じ曲を同じタイミングで流してる店がいくつもあるんだ?
蒼「あ、あれ見てジュン君!」
『商店街にBGMを流そう
 今月の曲
 サヨナラバス

 なお、これに違反すると罰金1万円徴収します』
ジ「なるほど」
蒼「いい運動だね」
ジ「そうか?」
蒼「そうだよ」


サヨナラバスよ どうか来ないでくれないか

やっぱり君が好きなんだ

そういや、最後に蒼星石に『好きだ』っていったのいつだっけな?
蒼「もう少しだね」
ジ「そうだな…」
一ヶ月?いや、もっとまえか?
蒼「残念だね、もう着いちゃったよ。」
ジ「ああ、結構早かったな。」
当たり前すぎてすっかり忘れていたな…。


今ならまだ間に合う ほんの少しの言葉も出ないまま


蒼「…まだ流れてるよ。」
ジ「…これで何回目だろうな。商店街はとっくに抜けたってのに…」
蒼「えっ?あれは商店街同盟。あっちこっちに加盟してる店があるってうわさだよ」
ジ「そうなのか…。バス、もうすぐ来るな。」
蒼「うん…」
いまならまだ間に合う。蒼星石、君に伝えたいことがあるんだ。
ジ「そうせいs…」
蒼「あっ、バスが来たみたいだ。」
ジ「えっ?もう?」


おつりを待ってる君の振り向いた最後の笑顔

どうしてなんだろう 気付くのが遅すぎて

蒼「うん。ジュン君ともこれでお別れか。じゃあね。また…きっとあえるよね?」
ジ「おう」
くそっ、さっきから何なんだよ?この曲は?俺の邪魔ばっかしやがって!ゆずなんか、バスなんか大嫌いだ!!
蒼「じゃあね」
そういって君はタラップを上る。
今声をかけなきゃ、もう話せやしない。そのことに気づいた僕は、君に追いすがる。
光よりも早く、世界が疾走しているなら、僕はそれに逆らい、それよりも速く走る。君に追いつけるまで。
ジ「蒼星石!!」
君がゆっくり振り返る。君は、君は本当に…
蒼「なに?」
ジ「好きだ!」
君は、相変わらず美しい。
蒼「えっ?」
ジ「愛してるよ」
そういい終わるとバスの扉が閉まる。それと同時に君の目から涙がこぼれだす。
声は聞こえなかった。でも君は確かにこう言っていた。
『僕も愛してるよ』と。


さようなら さようなら また笑って話せる

その日まで僕は僕らしくいるから


ふん。サヨナラなんて、くそくらえ。
僕は携帯を取り出すと、僕の、一番大事な、一番頼りになる、友人に電話をかけ、君に追いすがる。
世界が、時という弾丸を撃ち込んできても、僕は走るのをやめない。


君はいつも何か考えている。
さあ、これで彼ともお別れだな。
なんていって別れよう。
大学院、がんばってね、かな?
僕のこと忘れないでね、でも。
いい人早く見つけちゃいなよ、僕のことなんか早く忘れて。とでも言ってやろうか?
いろいろ考えているうちに、バスが来ちゃった。
何も言い出せない間に。
仕方がないからありきたりな言葉を並べてタラップを上る。
後ろから君の声がした。
信じられない。今まさに、望んでいる言葉を君がかけてくれた気がした。
思わず振り向くと君ははっきりといってくれた。
『愛してるよ』
待ち望んでいたその一言。ずるいよ。最後の最後に。
扉は閉まってしまったけど、涙をこらえ僕もこう答えるんだ。
『僕も、愛してるよ』
だめだ、こらえきれない。
涙が、次から次にあふれてくる。もう二度と、彼みたいにすばらしい人には会えないんだろうな。
さようなら、君という名の僕の魂よ。

三転目へ
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