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「そう、私たちはみんな、従姉妹同士なのよ。」

「・・・・・・」                      

 

衝撃の告白。開いた口が塞がらない。

 

~重なる想い(Side:桜田ジュン)

 

「・・・驚いた?」

「・・・驚いたというか、どう反応すればいいのやら・・・」

 

正直、全く予想だにしていなかった展開。

 

「何か、質問はあるかしら?」

 

投げかけるべき質問なんて全然思いつかない、が・・・折角聞いてくれているのだから、何か質問しないと。

 

「・・・翠星石と蒼星石、おじいさんおばあさんと一緒に住んでるよな?あの人たちは・・・?」

「父方の祖父母、と聞いているわ。私の祖父母とは無関係ね。」

「いや、そうじゃなくて・・・あの二人の両親は?」

 

少々不躾な質問かもしれない、と思いながらも敢えて聞いてみた。

 

「二人が幼いときに亡くなっているわ。」

 

答える真紅。・・・淡々とした声だったのは、おそらく演技だ。彼女はカップの紅茶に視線を落とし、心なしか俯いている。

 

「そうか・・・悪いな、余計なこと聞いちゃって。」

「・・・構わないわ。私もこれから、もう少し余計なことを言うつもりだから。」

 

今日何度目かわからない、小さな深呼吸。真紅はそれを行うと、ぽつりぽつりと説明を再開する。

 

「私たちはみんな、既に両親を亡くしているの。」

「・・・え?」

「水銀燈も、雛苺も、金糸雀も。・・・例外は薔薇水晶たちだけね。お父様の仕事の都合でこちらに来たと言っていたから。」

「ちょ、ちょっと待てよ。じゃあ、お前の親は・・・」

 

真紅は少し寂しそうに微笑むと、

 

「私は昔、イギリスに住んでいたの。」

 

遠い目をして、語り始めた。イギリスでの楽しかった生活のこと。優しかった両親のこと。

そして、その生活が・・・従姉妹たちを訪ねに日本に来たある夏の日、唐突に終わりを告げたこと。

 

「交通事故、だったのだわ。両親はどちらも即死・・・兄弟姉妹の居ない私は、この国に一人で取り残された・・・」

「・・・・・・」

「私はそのとき、まだ13歳だったわ。」

 

想像を絶する。わずか13歳の少女が、見知らぬ国で親を失うという状況。

真紅が受けた悲しみ、苦しみは半端なものではなかっただろう。孤独と日々戦っていたに違いない。  

 

「でも、両親を失って数日が経ったある日。私の前に一人の人物が現われたの。彼は・・・ローゼン、と名乗ったわ。」

「ローゼンって・・・」

「私はそれまで祖父に会ったことがなかったから・・・そこで初めて知ったのよ、その名前を。」

「・・・・・・」

「私は彼からあることを聞いたの。私と時を同じくして、親を失った従姉妹のことを。」

「・・・誰だ?」

「雛苺よ。彼女はフランスに住んでいたのだけれど・・・私と同じ。従姉妹を訪ねに日本に来て、そのまま・・・」

 

真紅は目を瞑った。僕もなんとなく真紅の気持ちを察し、それ以上は何も言えなかった。

 

「そして、私よりも早く両親を失い、そのショックから心を酷く傷つけてしまった従姉妹についても聞いたわ。」

「・・・・・・」

「それが、水銀燈だった。彼女はそのショックから、病院に入院していたの。」

 

なんて・・・なんて世界なんだろうか。いつもあんなに楽しそうに笑っている雛苺が・・・水銀燈が・・・

そんな、暗い過去を背負っていたなんて。全く思いもよらなかったし、気付きやしなかった。

 

「祖父は言ったわ。雛苺と水銀燈には、私と同じようにもう身内が居ないのだと。」

「・・・待てよ、そのローゼンって人はお前らのおじいさんなんだろ?立派な身内じゃないか!」

 

ゆっくりと首を横に振る真紅。

 

「祖父は、とても忙しい人なの。人形師と聞くと、一見暇な仕事に思えるでしょう?」

「違うのか?」

「違うのよ。祖父は一日たりとも休むことなく世界を飛び回り、完璧な人形を造り上げることを目指していたらしいの。」

 

でも・・・人形造りは所詮仕事じゃないか。そんなことが、実の孫より大切なものなのか?

心に思っただけの疑問だったのだが、表情に何かが表れたのかもしれない。真紅は慌てたように話を戻した。

 

「祖父はしばらく私と話した後・・・私に暮らす場所を与えてくれたの。そして再び、どこかへと立ち去ったわ・・・」

「・・・暮らす場所って・・・この家が、そうなのか?」

「そういうことになるわね。」

 

・・・語り終えた真紅は、くいっと紅茶を飲み干した。釣られて、僕も紅茶を飲み干す。

 

「お代わりは?」

「・・・もらうよ。」

 

紅茶を淹れる真紅の後ろ姿が、いつもと違ってとても弱々しく見えた。彼女は今、どれだけ寂しい思いをしているのだろう。

何を思って真紅が僕にこの話をしたのかわからないけれど・・・とにかく、僕は今更この真実を知ったわけだ。

付き合いが浅いとは言え、彼女の冥い過去に全く気付けなかった自分に、少々情けなさを感じた・・・

 

「・・・あら、もう帰ってきたのだわ。」

 

ふと真紅が、窓の外を見て呟いた。帰ってきたって、誰が・・・?

僕が質問を発する前に、玄関の方から二つの声が聞こえた。

 

「たっだいまーっなのー!」

「あーあ、疲れたわぁ・・・」

 

「・・・え?」

「あら、何を驚いているの?」

「な、何で二人が・・・」

「貴方、人の話をちゃんと聞いていたかしら?ちゃんと言ったでしょう?祖父は私たちに暮らす場所を与えてくれた、って。」

「い、いやいや!僕には『私に暮らす場所を与えてくれた』って聞こえたぞ?」

「人の話はちゃんと聞くものよ、ジュン。」

「いや、絶対・・・」

「あらぁ?思わぬお客さんが居るわねぇ。」

「あー!ジュンが来てるのー!」

「うわっ!?いきなりタックルすん・・・ぐおっ!?」

「ちょっと、ジュン。柱を傷つけないで頂戴。」

「ど、どう考えたって傷ついたのは僕の頭だと思うんだけど・・・」

「真紅ぅ。ジュンと二人っきりで何をお話してたのぉ?もしかして、オトナのお話し合い?」

「・・・発想が愚かね、水銀燈。」

 

そうか・・・僕がローゼンについて質問したとき、ちょうどすっぽ抜けたんだな。この三人は一緒に暮らしてたのか・・・

何だかほっとしている自分が居た。真紅は、一人孤独に過ごしてるわけじゃなかったんだ・・・

 

「あ、こら!雛苺!制服に皴が・・・!」

「駄目駄目、そんな細かいこと気にしてるとすぐおじいちゃんになっちゃうのよ?」

「それで、ジュン?今日は・・・泊まってくとかぁ?」

「な・・・っ!?」

「あはははは、本気にしちゃって・・・ほんっとおばかさんねぇ。」

 

僕の知った過去は、辛く悲しいものだったけれど。どんな過去があっても、これなら心配は要らないかもな。

雛苺の笑顔、水銀燈の笑顔。そして・・・

 

「まったく・・・雛苺。騒ぐのもほどほどにしなさいな。」

 

真紅の笑顔。

それを見た僕は、果たしてどんな気持ちだっただろうか。自分でもよくわからない。

でも・・・一つだけ言える。僕は、間違いなくそのとき・・・

 

「ホントだよ・・・ったくもう。」

 

笑っていた。三人に負けないように。

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