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「・・・・・・」

「・・・・・・」                                            

 

奇妙な少女との出会い。重苦しい沈黙。

 

~重なる想い(Side:桜田ジュン)

 

どうしろって言うんだよ。せめて何か喋ってくれないと対応の仕様がない。女の子は未だ目を逸らさずに、ただただ僕の目を見据えている。

・・・意を決した僕は、置物のようなこの女の子と、コミュニケーションを試みることにした。

 

「あの・・・何か御用ですか?」

「・・・・・・」

 

反応、ナシ。

 

「えっと・・・どちらさまですか?」

「・・・・・・」

 

反応、ナシ。

 

「もしかして、真紅の友達とか・・・?」

「・・・・・・」

 

反応、ナシ。

結論。コミュニケーション不能。な、なんなんだよ本当!僕の眼鏡に何かついてるのか?

・・・ん?あれ?何か・・・聞こえてくる。これは・・・何だ?「薔薇」・・・?

 

「薔薇水晶・・・」

「うわぁっ!」

 

お、驚いた。女の子が突然距離を詰め、僕のすぐ前に近付いてきていた。

・・・目線外してなかったのに、一体いつの間に!?・・・やめよう。この子相手に疑問をあげてたらキリがなさそうだ。

と、とりあえず返答しとこうかな。

 

「薔薇・・・水晶?」

「私の名前・・・」

 

・・・どうしてもツッコミを入れたくなる。いや、今この状況に置かれたら、僕じゃなくてもまず同じ質問をするはず。

 

「何で唇を動かさないで喋ってるんだ?」

「腹話術・・・」

 

人形もないのに。それって腹話術って言えるのか?

 

「細かいことは、気にしない・・・」

 

え、今度は読心術!?・・・ツッコミ所満載だな、この子。

 

「ツッコミ所・・・ふふ・・・」

 

な、何でそこだけ反復するんだ?そして、何で微妙に微笑んだんだ?

まあ・・・何となく、笑った理由は・・・いやいや!見当もつかない!断じてわからない!信じてくれ!

 

「・・・ふふ・・・いいけど。」

 

良かった。っていうか本当に読心術?喋る必要がないなんて便利だな、なんてこと思わないからな。

・・・少し、落ち着いた。色々不思議だけど、一応置物ではなく、普通の人間みたいだ。

さっきのコミュニケーション不能は撤回して、僕は再度質問を投げかけることにした。

 

「えっと・・・改めて聞くけど・・・何か、用?」

 

心の中ではタメ語でツッコミを入れてたし、別に敬語で話しかける必要もなさそうと判断。

 

「特に用はないけど・・・」

 

女の子も・・・いや、薔薇水晶も、腹話術喋りを止めてくれた。声が少し聞き取りやすくなる。

 

「これもさっきした質問だけど、真紅の友達?」

「・・・友達・・・は、厳密には違うかも。」

「厳密には・・・?」

 

妙な言い回しを使われた。知ってることは知ってるって感じか?

 

「だって、私は・・・」

 

薔薇水晶が答えを紡ごうとしたとき、カランと涼しい音を立ててティーショップのドアが開いた。

勿論、中から出てきたのは・・・

 

「・・・・・・」

 

真紅である。しかし様子がおかしい。薔薇水晶を見るなり口をぽかんと開けて硬直してしまった。

薔薇水晶は薔薇水晶で、出てきた真紅を見るなり首を傾け、いわゆるお嬢様的な微笑みを浮かべたまま固まる。

二人の関係について何も知らない僕は、何度も二人の顔に視線を往復させるだけ。

・・・この現場に出くわした人が居たら、妙な集団だと首を傾げられるかもしれないな。

最初に口を開いたのは、薔薇水晶だった。

 

「真紅・・・久しぶり。」

 

やっぱり知り合いなのか。対する真紅は、声をかけられたことによりようやく我に返ったようだ。

 

「薔薇水晶!・・・貴女、どうしてここに?」

「お父様の仕事の都合・・・」

「いつから来ていたの?」

「こっちに越してきたのは・・・昨日。」

 

・・・どうやら感動の再会的シーンらしい。状況の飲み込めない僕にはさっぱりだが。

 

「お姉ちゃんも・・・うん・・・」

「じゃあ来週から?・・・歓迎するわ・・・」

 

すっかり二人の空間だ。手持ち無沙汰な僕は、再度壁にもたれかかり、足をぶらつかせる。

 

「ジュン!」

「うお!?」

 

いきなり名前を呼ばれ、壁に後頭部を強打した。・・・今日の僕の怪我回数は異常だぞ、まったく。

 

「なんだよ。」

「この子、薔薇水晶。もう名前は聞いたのよね?」

「あ、ああ。それがどうしたって?」

「薔薇水晶、来週からうちの学校に編入してくるそうよ。」

「ふうん・・・って、何ぃ!?」

 

新学年が始まってまだ一週間も経っていないというのに、こんな時期に編入って・・・何があったんだ?

この後なされた真紅の説明から、以下のようなことがわかった。

薔薇水晶は、僕らと同じ高校二年生であること。本当は、二年生の最初から僕らと同じ高校に通う予定だったこと。

しかし、編入試験を受けるべき日にそれを受けられなかったがために、編入が遅れてしまったこと。以上。

ちなみに、真紅が説明してる間、薔薇水晶はというと、

 

「桜田ジュン・・・変な名前・・・」

 

などとぶつぶつ呟いていた。“薔薇水晶”よりよっぽどありふれた名前だと思うけどな。

説明を聞き終えた僕が、何か薔薇水晶にかけるべき言葉があるだろうかと考えていると、

 

「じゃ・・・私、家の荷物整理手伝わないと・・・」

「そう。それじゃ、次は学校で会いましょ。」

 

と、もう解散の流れになってしまっていた。薔薇水晶はこちらに背を向け・・・なんか危なっかしい足取りだな。

ともかく歩き出した。・・・ん、何の工夫もないけど、一応言っておいた方がいいかな?

 

「薔薇水晶!」

「・・・?」

 

振り向いた薔薇水晶は、まっすぐにこちらの目を見据えてくる。改めて見ると、その透き通った右目がとても綺麗なことに気付いた。

なんだか吸い込まれそうな心地になりながら、僕は常套句を口にした。

 

「・・・えっと、よろしく!」

「・・・こちらこそ・・・」

 

一言ずつ言葉を交わすと、再び薔薇水晶はこちらに背を向けて歩き始めた。

その後ろ姿が曲がり角に消えるまで、僕はただぼーっとそちらを眺めていた。

 

「語彙が貧困ね、ジュン。もう少し言葉を飾ることを覚えなさい。」

「いいんだよ、別に。飾り付けたって意味は一緒だろ?」

 

「わかってないわね」とお説教を始める真紅の言葉を聞き流していると、あることに気付いた。

薔薇水晶にした質問。真紅が出てきたのでタイミングを逃し、答えを聞いていなかった。

すなわち、“真紅と薔薇水晶の関係”について。・・・別に、真紅に聞けばいいよな。

 

「ちょっとジュン!聞いているの!?」

「なあ、真紅。」

 

お説教を遮って、僕は問いかけることにした。

 

「薔薇水晶って、お前とどういう関係なんだ?」

 

・・・何の気なしの質問だった。単なる好奇心。「友達よ」と答えがあればそれで納得したと思う。

でも僕は、この質問がきっかけで・・・今まで気付きもしなかった、驚くべき事実を知ることになる。

 

 

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