「柿崎―。柿崎―?」
「めぐは今日定期通院でお休みよぉ。」
新しい一年の最初に。2年B組、点呼中。
~重なる想い(Side:蒼星石)~
2年生。新しいクラス。翠星石とは同じクラスになれるかな?他のみんなとは・・・
そんなことを考えて、ドキドキしながら迎えたクラス発表は、ちょっとビックリな結果だった。
「柏葉―。」
「はい。」
みんながみんな、全員同じクラス。凄い確率だけど、何はともあれ嬉しい。
今、ボクの前には翠星石が座っている。そして、隣には・・・桜田ジュンくん。彼の姿がある。
自分の番の呼名が終わって、今は退屈そうにペンを回してる。
「金糸雀―。」
「はーい!」
去年の秋、柏葉さんが彼と一緒に待ち合わせ場所に来た時は驚いた。
・・・同じ学年の割に見たことない顔だったし、何せ男の子だったし。
女子七人のグループに男の子が紛れ込むってどうなのかな?と、思った記憶がある。
「真紅―。」
「居るわ。」
事情を聞いてからも、しばらくの間はろくろく会話もしなかったっけ。翠星石なんか目すら合わせなかった。
いつも通り賑やかなのは雛苺だけで、妙にみんな静かだった。
でも、一緒に登校するようになって三日ぐらい経ってからだったかな。真紅がジュンくんに荷物を持たせようとして・・・
「水銀燈―。」
「はぁい。」
始まった言い争いがきっかけだった。雛苺が争いに便乗して、金糸雀がそれを煽って・・・
次の日からは、固い雰囲気が嘘のようになくなってた。みんな自然とジュンくんと打ち解けたみたいで。
いつからか、人見知りな筈の翠星石まで言い争いに参加するようになって、水銀燈は毎朝ジュンくんをからかうようになって・・・
「翠星石―。」
「はいですぅ。」
ボクは一歩離れたところからそれを見てるだけだったけれど、そのうちジュンくんとも会話するようになって・・・
不思議なことに、それはなんだかとても楽しい一時だった。ジュンくんと話してると、なぜか心が温かくなったように感じた。
そのうち、会話の中でふとしたときに見せるジュンくんの笑顔が、妙に気になったりしてた。
それで、気付いた。きっとボクは・・・
「蒼星石―。蒼星石―?」
「ぇ?あ、は、はい!」
「コラコラ、新学期早々ぼーっとしてちゃ駄目だぞー?」
「す、すいません・・・」
どっと笑い声が起きた。・・・うう、恥ずかしい。ちょっと顔が熱くなったみたい。
「何をやってるですか・・・まったく。」
翠星石にまで呆れられちゃった。今度から考え事するときも人の話は聞けるように心がけないと。
ふと、隣を見た。ジュンくんがニヤリとしている。なんだか、さらに顔が熱くなった気がする。
・・・きっとボクは、ジュンくんに惹かれてる。
半年間、朝だけの関係だったけど、その中でちょっとずつわかったジュンくんの優しさとかそう言うものに。
と、そんなことを思っていたら、ジュンくんがポツリと呟いた。
「いやいや、意外だな。」
「え?」
反射的に聞き返す。
「蒼星石ってしっかり者なイメージがあったからさ。ぼーっとすることなんて縁のない奴だと思ってたよ。」
「そ、そうかな?結構物思いに耽ったりすることあるんだけど。」
・・・早速、情けないとこ見せちゃったなぁ。まったくもう・・・
「ま、今まで朝以外は会ったことなかったし。」
「あ、それもそうだね。」
「でも、これからは学校でも一緒なわけだな。改めてよろしく、蒼星石。」
「う、うん。よろしく。」
・・・紛れもなく、ボク一人に向けられた笑顔。それを見ただけで、ちょっと恥をかいたことなんて忘れてしまいそうになった。
そう。これからは今までより一緒に居れるんだ。ジュンくんと、一緒。ジュンくんと・・・
・・・なんだか、また顔が熱くなってきた。ボ、ボクってばなに考えてるんだろ。平常心平常心。落ち着いて深呼吸を・・・
「蒼星石!今度は号令まで無視するつもりですか!」
気付けば周りはみんな起立して待機中。うう、視線が痛い。慌てて席を立つ。
やれやれ、反省した矢先にこれじゃ、先が思いやられるなあ。本当、しっかりしなきゃ。
礼を終えて席に着いたボクは、自分の頬をぱちんと二回叩いた。