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「……落ち着いたかい?」
「……ですぅ」
赤い日差しの差し込んだ教室で、翠星石と蒼星石が二人だけで机を挟み向かい合って座っている。
「それで…えぇと…ジュン君が真紅と一緒にいて…」
「そうです…そしてジュンは…うぅ…し、真紅と…うう……」
翠星石は目を赤くして声を絞った。

「でも、翠星石は現場を見たわけじゃないんでしょ?勘違いじゃないかな」
「翠星石だってそう思いたいですよ…でも他にどんな状況が考えられるです?」
「聞き間違いじゃない?ほら、君はおっちょこちょいなところがあるし」
「なっ!失礼なことを言うなですぅ!翠星石はちゃんとこの小さな耳で聞いたですよ!
今でも耳に残ってるようです…真紅の…あ、喘ぎ声が……あっ、あっ!」
「再現しなくいていいよ…」
「今のは泣き声です!…それにしてもジュンのやつ、許せねぇです…
すぐ傍に翠星石というものがありながら、真紅なんかに誑かされやがってぇぇぇ…」

「ちょっと落ち着きなよ。多分どこかで食い違いが起こってるんだと思うよ?
……それに、翠星石はジュン君と付き合ってるわけでもないんでしょ(ボソッ」
「え……あ、な、な!べべ別に翠星石はジュンのことなんかなんとも思ってねぇです!
ただチビ人間なんかと一緒になった真紅が可哀想で可哀想で哀れんでいるのですぅ!
真紅はあのチビに騙されてるに違いねぇです!」

「わかったから、落ち着きなよ…」
「これが落ち着いていられるかですぅ、姉妹の貞操の危機ですよ!
ってもう危機は去ってるです…。あああジュンは騙されてるです、早く目を覚ましてやるですぅ!」

「翠星石、もう何をいってるのかさっぱりわからないよ」
「どうして蒼星石はそう落ち着いているのですか!
真紅なんかと一緒になったらジュンは一生奴隷生活決定ですぅ!翠星石ならいくらでも尽くして…
あああ違うです違うです違うですぅ!とととにかく手遅れにならないうちに手を打つですよ」
「だから待ってってば!ね、まずジュン君か真紅に話を聞こうよ。それからでも遅くはないでしょ?」
「まだそんなことをいってるですか!いいですよ、それならそうしたって」
「うん、それじゃ…って翠星石!どこ行くの!?
……あーあ、行っちゃった。…やっぱり、追いかけるべき、だよね…はぁ…」




学内の校舎に囲まれた庭園で、真紅は一人ベンチに腰掛けていた。
放課後帰宅する生徒の他にはあまり人影も見られず、
静かで落ち着いた空間として真紅はよく利用しているようで、
耳を澄ませるとちょろちょろ水音が聞こえるのも、彼女の気に入るところだった。
そこには一周するのに十数秒とかからない、ちょっとした噴水があるのだ。

真紅は鞄の中からつい先まで手がけていたエプロンを取り上げると、満足そうに眺めた。
空はすっかり色めいて、できあがったばかりの刺繍を赤く照らしている。
それは少し不細工であったが、真紅は赤ん坊を抱くように撫でて優しく抱きしめた。

そのとき、ふっと影がかかるのを感じると同時に、自分の名前が呼ばれたらしいことに気づいて、
真紅は慌ててエプロンをしまうと、何事もなかったかのように振り向いた。
顔を赤く染め、息荒く肩を上下させた、髪の長いオッドアイの少女が見えた。

「あら…翠星石じゃない。どうしたの、随分慌てているようだけれど」
目の前にいるのは自分の姉であるようだが、あまり見たことのない表情で、真紅は意外そうに言った。
ジュンの家にあった漫画本で、冒険ものの主人公が敵の本拠地に向かうときちょうどそんな顔をしていたなと思った。

「やっぱりここにいたですか。真紅はここが好きですね」
「ええ。ここにいると穏やかな気持ちになれるから。この学園で、一番四季の香がするところよ。
それにしても翠星石…なにか、今から鬼ヶ島にでも向かうような怖い顔をしているわ」
「そうかもしれんですね。実際赤鬼です、翠星石の戦う相手は」
「あまり穏やかではないわね。いったい、何だというのかしら?」

「単刀直入に聞くです…さっき、ジュンといったい、な、何を…」
「ジュンと?あら…もしかしてあのときあの場にいたのは貴女だったのかしら。
だとしたら、少し恥ずかしいところを見られてしまったわね」
「は、恥ずかしいって…やっぱり…な、なんでそんなに落ち着いてやがるですか!?」
「声を荒げるようなことかしら…確かに、普段の私のイメージではないかもしれないけど」
「まったくですよ…真紅がそんなやつだとは思わんかったですぅ!」
「あら、言ってくれるわね。見くびらないで頂戴?私だってレディーよ。
そういうことにだって、興味はあるわ」
「ななななな、なんなん、なんてことを…!」

「そんなに驚くことはないでしょう?それにやっぱり…ジュンの好きなことだもの」
「!?な何をいってるですか、ジュジュジュ、ジュンはそんなこと好きじゃねぇです!」
「?貴女こそ何を言ってるの?ジュンはああいうこと大好きじゃない」
「なななんてことをいってくれるですかこの女は!」
「…翠星石、大丈夫?あなた、少し変よ」


(挿絵:【冬色が】【薄れて】>>193様)

「ふ、ふふ…真紅は落ち着いてますね…勝者の余裕ってやつです?ふふ…」
「いったい何のことだかさっぱりなのだわ…。
まあいいわ。ところで、これからもジュンとやろうと思うんだけど…」
「…それをわざわざ翠星石にいうですか…」
「毎回ジュンに頼むのもなんだし、ジュンにリードされるのもしゃくだわ」
「聞きたくない、聞きたくないです…」
「それで、よかったら翠星石にも教えてほしいんだけれど…」
「ききた…え?」
「だから、翠星石にも教えてほしいの。まったく、何をぶつぶついってるのかしら」

「ほあーー!?すす翠星石がそんなこと教えられるはずないですぅ!」
「…そう、残念ね。じゃあ、蒼星石に頼もうかしら」
「そそ、蒼星石に!?ダメです、無理です、なにほざいてるですか、
女同士ですよ!?姉妹なんですよ!?」
「だからいいんじゃない。お互いのこともよくわかってるし」
「ああ、お父様!知らない間に真紅はとんでもない娘になってたですぅ」

「そんなにいうほどのことかしら…。
蒼星石はジュンともたまに一緒にやったりするらしいから、ちょうどいいと思うのよ」
「え?蒼星石がジュンと一緒に?」
「ええ。知らなかったの?ジュンが褒めていたわ、蒼星石は上手だって」
「上手って…そんなまさか…。
もしかすると、それで蒼星石は翠星石の言ってることにまともに取り合わなかったんでしょうか?
蒼星石はこのことを知っていた?それとも知らなかった?
どっちにしても、蒼星石はジュンと関係を持ちながら、翠星石と話して…
ああ、蒼星石!ひょっとして、翠星石は知らない間に恐ろしい裏切りにあっていたのですか!?」

「翠星石?本当、さっきから貴女どうかしてるわよ」
「どうかしてるのはどっちですか…」
「はぁ…本当にわけがわからないわ。この娘、頭がおかしくなったんじゃないかしら?
…そういえば、最近蒼星石が『翠星石が最近太ってきたらしくて、すごく苛々してるんだ。
でも、僕に八つ当たりするのはやめてほしいよ』なんて言ってたわね…。
………無理なダイエットでもしていらついてるのかしら?」

「真紅?何を言ってるですか?」
「いえ、何でもないわ。それより翠星石、あなた運動してる?適度な運動は美容のために必要よ」
「何の話ですかぁ!…それで、真紅は何ともないのです?」
「え、私?おかげさまで。バランスのよい食生活と、就寝前のストレッチは欠かさないもの」
「だから何の話をしてるんですか!蒼星石のことをどう思ってるのか聞いてるんですぅ!」
「あ…そ、そうだったの。ごめんなさい。
蒼星石のことなら、経験の差だもの、仕方ないのだわ。
でも、蒼星石ほどにはならなくても、ジュンにバカにされない程度にはなりたいわね」

「ああ!なんだかもう翠星石はどうかなってしまいそうですよ」
「もうどうかなってるように見えなくもないわ。早く家に帰って休みましょう。
今日の晩ご飯は野菜を中心としたものがいいわね」

「…翠星石はまだ帰りませんよ。話つけてくるです」
「そう。いいけれど貴女、私にも話があったんじゃないの?
結局何が言いたかったのか全然わからないんだけれど。
…美容と健康のことなら相談に乗るわよ?」
「…遠慮しとくです。ただ、翠星石は許せないです。
ジュンの野郎、蒼星石にまで手を出して…二股かけていやがったなんて!」
「ふ、二股!?ジュンが?ちょっと、翠星石、どういうこと!?」
「今更何を言ってるですか?翠星石はもう真紅なんかに何も言うことはないですよ。
でも…蒼星石は……蒼星石も許せんです!翠星石を嘲笑っていやがったですね!」
「待ちなさい翠星石!いったい何が起こってるの!?」

真紅の声は翠星石に届くことはなく、後に残ったのはいつも通りの静寂だけだった。
ただ花冷えの肌寒い風が頬を打ち、噴水の水面を静かに揺らしていた。

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