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僕は薔薇水晶を呼び出した。
そこは、初めて彼女に告白された日の集合場所。
駅前の時計下。
彼女はそこにいてくれていた。
本当だったら断ってもおかしくないのに。
「ジュン……」
「一緒に、来てほしいんだ」
「あ……」
僕は彼女の手を取る。
歩き出す、彼女と並んで。
薔薇水晶は何も言わずついて来てくれた。
何も言わずただひたすら、僕は目的の場所へ向かう。
彼女の温もりが握った手から伝わる。
こんなに暖かいのに、僕は気づかなかったんだ。
彼女は僕を好いてくれて握ってくれてたんだ。
それを考えるだけで胸が痛い。
自分の愚かさに胸をむしりたくなる。
だけどそれよりも、僕は今しないといけない事があるんだ。


それは2回目のデート、僕は彼女と観覧車に乗った。
デパートの中に出来た風変わりな観覧車だったけど。
けど、あの時の彼女の顔を僕は覚えていた。
どうして覚えていたのか。
それは、きっと、彼女が、本当に好きだったからだ。
心の何処かで彼女と距離をとろうとしてたけど、無理だったんだ。
彼女と向き合うことを恐れていたけど、それでも向き合いたかったんだ。
あの、嬉しそうな、子供のような無邪気な笑みを見逃せなかったんだ。
あの、屈託のない、僕といる事を喜んでくれた笑顔が離れなかったんだ。
だから、あの、心の底からの嬉しそうな瞳を忘れられなかったんだ。
全てを告げる場所、それは別に何処でも良かった。
けど、僕はそこにしたかった。
彼女の本当を垣間見た場所で僕は本当を告げたかった。
それに、今の時間だったら。
空を見上げる。
そこは夕空、後50分もしたら日が落ちる。
だから急がないと。
二人で人ごみを掻き分けて、目的地へ。
周りを見る。
10人ほど並んでいる。
間に合うだろうか。


二人で何も言わず無言で並んで。
周りの男女の姿は何も目に入らず。
ただ、彼女の手の温もりを確かめて。
残り35分。
僕らの番が来た。
「ジュン……?」
「乗って欲しい……」
微かなためらい、だけどコクリとうなずく薔薇水晶。
二人を乗せて、空へ観覧車が動き出す。
僕は向き合う、彼女と。
それは閉じた函を開く事だ。
とても難解な仕事だ。
だけど、今ならできる。
「薔薇水晶」
「……何?」
ゆっくりと深呼吸、そして、告げる、真実を。
「好きだ」
まっすぐ、惑いを振り切り。
「……うそだよ」
「嘘じゃない、本当だ」
「でも」
「僕は向き合えなかった。怖かった。薔薇水晶と向かい合って、
 本当に薔薇水晶が僕を好きなのかどうかを知るのが怖かった」


「………」
「僕は昔、ある女子に告白したんだ。だけどさ……」
一回言葉を切る、あの出来事をちゃんと話せるように。
噛み締める、脳裏に走る、あの原風景。
「それを全校に知られた。手紙を使ってだったからさ……それを張り出された。
 最悪さ、僕は学校に行かなくなった。そして恋をするのが怖くなった。
 でも、でもさ……僕は薔薇水晶が好きになったんだ」
止める事が出来ない。
もっと、ちゃんと話せるのに。
「だからさ、好きになっても言えなかった。きっと嫌われるんじゃないかって。
 それで、また、あの時見たいになるんじゃないかって!だから……だからさ
 僕はお前に向き合えなくて、それで、自分の気持ちが嘘だって思い込もうとして。
 それで……それ――!」
僕はそれ以上言葉を繋げられなかった。
僕は薔薇水晶に抱きしめられていた。
頭を胸に抱えられていた。
「えへへ……もう、良いよ。ジュンも……だったんだね。そう……だったんだ。
 だから……好きになっちゃったんだね。へへ、不思議……だなぁ」
「……」
「アタシね……銀ちゃんをね、好きだった子に恋をしたの。それでね……
 変なのに、こんなに変な子なのにね……告白しちゃった」
震えていた。
その声は、震えきっていて、泣きそうで。
彼女もまた、僕と同じで。


「分かってたんだよ?オタクだもん……嫌われるって、変な子だって……。
 でもね、好きだった気持ち……抑えられなくて、それで、そしたら……!」
僕を抱きしめる力が強くなる。
「言われたんだ……キモイ、変人、消えろ、って。それで、イジメられちゃった。
 机に落書きされて、本を破られて、ゴミをいれられて……他にも色々。
 でね、アタシね……気づいたら目が見えなくなってた。精神的なものだって。
 イジメられたせいだって……だから……眼帯をしてるの、今も。
 それでね……銀ちゃん怒ったんだ。御父様もおねえちゃんも……みんな」
暖かいものが僕の頬を伝う。
それは薔薇水晶の涙。
「イジメはなくなったけど……けど、アタシの目は治らなかったんだ。
 だからね、御父様にも、銀ちゃんにも、お姉ちゃんにも迷惑……かけた。
 苦しかった……つらかった!!恋なんかしないって……二次元だけでいいって!
 でも……でも、好きになっちゃった……ジュン、好きになっちゃった……。
 怖くて……でも、銀ちゃんのおかげで……告白できてでもそれは私のせいで。
 それで………銀ちゃんに悪くて……でも、ジュンが好きで……辛かった」
僕は、力なく僕を抱きしめる薔薇水晶の腕を解いて、
「ジュン?あっ……!」
逆に抱きしめた。
この行為がお互いの傷を舐めあうだけだと言われたって良い。
僕は、薔薇水晶が愛しくて仕方なかった。
彼女を抱きしめたくてしょうがなかった。
なぜなら、僕は、彼女を、好きになったから。
なぜなら、僕と、彼女は、同じだったから。


「幸せになろう」
「え……?」
「いっぱい、幸せになろう。最初は間違えたけど、今から始めよう。
 恋で傷ついたからさ、辛かった分、恋で幸せになるんだ」
「……どうやって?」
「甘えあって、キスしあって、抱きしめあって、一緒の時間を過ごして
 今を一生懸命好きになりあう」
腕に力がこめられて、
「アタシ、ものすごい甘えん坊……」
「構うか」
「ジュンが思う以上にオタクだし……変」
「そんなの障害にならない」
「きっとジェラシー妬きまくる」
「最高だ」
もっと、腕が、僕を離すまいと、
「浮気は許さないよ?」
「しない。薔薇水晶を悲しませる事はしない」
「エッチなことするんだよ?」
「恋人同士だからな」
「……アタシで、良いの?」
そして、彼女は僕を見上げる。
「薔薇水晶だから、良いんだ」
「ジュン……ん」
「……ん」



それは宵闇が訪れるほんの一瞬前、オレンジとダークブルーが
入れ替わるほんの一瞬だった。
彼女の笑顔はオレンジ色で、涙もオレンジ色。
僕の顔はオレンジ色で、観覧車の中もオレンジ色。
全てがオレンジに染められた夕暮れだった。

お互いの身体を抱きしめあい、手を重ね

お互いの体温を感じあい
 
それは契約のようで、それは契約で

函を閉じていた二人で

開いた二人


僕らはキスをした


「ん……あ、ふぁ」
「……ん」
どれだけの間キスをしていたのか、観覧車は天辺まで。
唇が名残惜しげに離れる。
気づけば夕焼けは地平線に落ちるところ。
僕と薔薇水晶はその光景を一緒に、肩を抱き合って見ていた。
「ジュン……」
「ん?」
「好き……だよ」
「ああ、僕もだ」
「今度は本当……だよ、ね?嘘、じゃないよね?」
「ああ、嘘じゃない、本気だ」
薔薇水晶が僕の顔を見上げる。
その目は何かに縋るようで、でも、それだけじゃなくて。
互いの手を取り合い、互いを支えあい、互いを癒し、互いを許す。
そんな綺麗なものでできていた。
「じゃあね……ずっと、一緒だよ?」
「ずっと……?」
「ずっと……このまま、一緒」
「ああ……一緒だ」
手を握り合う。
指を絡め、離れないように。
どちらからともなく、そして、僕らはまたキスをする。



閉じた函は開かれて、僕らは一つになった。
それは、とても優しい時間で、満たされていて。
お互いの心と身体を共有しあった時間で。
目を覚ますと彼女は僕の隣で静かに眠っていた。
眼帯を外した彼女の寝顔はとても安らかで、僕は彼女を抱きしめる。
起こさないように、壊れないように、優しく。
「ん……ぁ」
ゆっくりと彼女の瞼が開く。
両の瞳で、彼女は僕を見ていた。
僕を見とめ、微笑んだ。
僕も微笑む。
「えへへぇ……おはよ」
「おはよう、薔薇水晶」
顔にかかった髪の毛を払いながら僕は。
「ん……」
キスをする。
「ふにぃ……なんか、しあわせ」
また、微笑む。
生まれたままの姿、僕らはまた抱きしめあう。
差し込む夏の日差し、それは僕たちを祝福していた。

こうして、僕たちの物語は終わり、また始まる


きみとぼくと、えがおのオレンジ ―fine―


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