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「それじゃあ真紅、行ってくるよ。」
「行ってらっしゃい、ジュン。」
朝8時20分、今日も会社へ出勤する夫、ジュン。
専業主婦として家を守る私。
私たちはまだ新婚3ヶ月余り。
私は少し前まで紅茶も自分で淹れられず、料理もできず、すべてジュンに任せっきりだった。
少し前まで、と言ったように、今は違う。といってもやっと紅茶が自分で淹れられるようになり、
ご飯の炊き方を覚えてほんの少しおかずを作れるようになった程度だが。
それまでの私は、いいところのお嬢様という言葉が似合うような育ちで、
身の回りのことは何もかも他人任せにして過ごしていた。
ジュンと結婚してからは専業主婦ということで、一応家事は自分でするようになった。
結婚した相手に任せっきりというのはいくらなんでもどうかと思ったからだ。
私が変われたのはなにもかもジュンのおかげ。
料理をするようになったきっかけも、ジュンの誕生日に夕飯を作ってあげたかったからだ。
ジュンの好物の「はなまるハンバーグ」を苦労しながら作り、結局完成したものは焦げてはいたが、
私の最愛の人、ジュンとの愛をより深められたと思う。
あらあら、少しノロケが入ってしまったようね(////)
 
さて、今日は3月14日、ホワイトデー。
バレンタインデーが、女性が愛する人にチョコレートを渡す日であるように、
ホワイトデーは、男性が自分にチョコレートをくれた人にクッキーやキャンディをお返しする日だ。
ちなみに韓国では、4月14日は「ブラックデー」と呼ばれ、
バレンタインで縁のなかった人達が集ってジャージャー麺を食べるらしい。
いや、それはともかく。
よくバレンタインデーやホワイトデーを「チョコ会社の陰謀だ」なんて言う人がいるが、
私はそうは思わない。
女性が周りの目を気にすることなく想い人に愛の告白ができるだなんて、
女性にとっては幸せな日なのではないだろうか。少なくとも私は幸せな日だと思う。
 
 
(ジュンは、何をお返ししてくれるのかしらね…?)
フローリングの床に掃除機をかけながら考える。
先月のバレンタインデーでは、私も妻として、ジュンにチョコレートを渡した。
実はその時も手作りチョコをプレゼントしようかと考えたのだが、やめた。
なのでわざわざデパートまで出かけ、情けないがラッピングまできちんとされてあるチョコレートを買った。
それをジュンに渡したときは、かなりヘコんでいた。
無理もないか。愛する妻からのバレンタインのチョコレートが、デパートで売っていたものならば。
ヘコんでいるジュンを見て、ちょっと悪いことしたかしら、と思った。
お詫びにその夜は…おっとっと(////)
 
さて、ひととおり掃除は終わった。洗濯も終わらせた。
今の時間は…12時半か。
「お昼にしましょうか。」
一人つぶやき、ジュンの作ってくれたお弁当を冷蔵庫から出してくる。
本当においしい弁当は、冷めてしまってもおいしい。
学生時代誰かが言っていたが、その人が言っていたことが正しいのならば、
きっとジュンの作ってくれたお弁当は「本当においしい弁当」だろう。
主婦顔負け、と言っていいほどおいしい。
私が炊いたご飯にごま塩のふりかけ。
ほどよい甘さの卵焼きに、アスパラベーコンと焼き塩鮭。
エビシューマイと、栄養バランスが偏らないようにポテトサラダ。
さすがに昼食で紅茶は飲まないので、おいしい緑茶もいれてくれてある。
そういえば、あのはなまるハンバーグを作った日の夜、
 
「真紅も、やっと料理できるようになったんだな。えらいえらい。」
ジュンが感心したといった様子で、ほめてくれる。
「うふふ。惚れ直した?」
ほめられて嬉しくて、頬がゆるんでしまう。
「ああ、真紅のこと、惚れ直したよ。でも、もうちょっと練習しないとな。」
さっき食べたときも思ったことを、口で指摘されると悔しい。
「うぅ…わかったわ!次にはなまるハンバーグを作るときは、もっとおいしいのを食べさせてあげるわ!」
「ハハハ、楽しみにしてるよ。…そういえば、料理できるようになったんだし、もう弁当はいらないな?」
ジュンの、ごもっともなお言葉。でもそんなことされると私は困る。
「い、いやよ…お昼ご飯はジュンの作ってくれたお弁当じゃなきゃ…」
「そんなこと言われたって、僕だっていつ弁当作る時間を確保できなくなるときが来るかわからないし…」
「………ダメなの?」
上目遣いでおねだり。いつこんなスキルを収得したのか自分でもわからないが、
「あーあーもーわかったよ。これからも作ってあげるよ。」
少なくともジュンには効果絶大だ。
こんなやりとりがあったので、今日もジュンはお弁当を作ってくれているのだ。ジュン、いつもありがとう。
  
食べ終わって、今度は洗い物。といっても二人分だし、すぐ終わる。
終わると私の自由な時間。夕飯の用意を始めるまではのんびりできる。
「ふぅー。」
ソファに座り、テレビをつける。姿だけを見れば、中年のオバサンのよう。少し反省。
別に見たい番組があったわけではないが、こうしてぼんやりとしていると和む。
 
 
机が整然と並べられた部屋。
一般の部屋と比べると大きめなその部屋には、教卓があり、教壇があり、黒板があり、ロッカーがある。
外は夕焼け。
そこにドアを開けて入ってくる少女。
少しこわばった表情。察するに緊張しているようだ。
手には何か綺麗な紙で包まれた小さな箱。
ゆっくりと少女が歩いて向かった先は、その部屋に残っていた少年。
少女は少年へと箱を突きつける。そして頬を染めながら何かを言う。
一方の少年は、目を丸くする。続いて声をあげて笑い出す。
少女はその様子を見て、頬をさらに赤く染める。
 開けていいか? ええ、どうぞ。
少年が箱を開けて目に入ったものは、なんだかよくわからない黒っぽい物体。そして甘い匂い。
なんだこりゃ?と言いたげな怪訝な表情をする少年。
照れくさそうにしている少女。
少女の様子を見て、仕方なしに口へとその黒い物体を運ぶ少年。
 …これ、ホントにチョコレートか? …もちろんよ。そうでなければ何だと言うの?
 …あんまりおいしくない……
ボソリとつぶやく少年。一呼吸おいて少女のビンタ。
そして見る見るうちに少女の目に涙が溜まっていく。堰を切って流れ始めた頃、振り返って走り去る。
その姿を追う、眼鏡をかけた少年。
泣きながら走る、金髪・ツインテールの少女。
そう、この少女は学生時代の…
 待ってくれ!ごめん、…んく!し…く!
 
 
「真紅!」
気がついて、始めに目に入ったものは、ジュン。
肩を掴まれ、前後にガクガクと揺らされている。
私が気がついたのを見て、揺らすのをやめるジュン。
「はぁ…よかった。呼んでも返事しないから…。寝てたのか…」
ふぅ、とジュンがため息をつく。ジュンの後ろには、つけっぱなしのテレビ。
視線をテレビの上の時計へと向ける。時刻は、6時半。
「しまったのだわ!夕飯の用意!」
寝てしまっていたのか。夕飯の用意を忘れてしまっていた。
焦る私に、ジュンが落ち着いて、半ば呆れながら言う。
「いいよいいよ。今日は何か出前でも頼もう。」
主婦失格…。居眠りをして夕飯の用意を忘れるだなんて。
「それよりほら、ホワイトデーのお返し。」
自己嫌悪に陥っている間に、ジュンが鞄からかわいい包装紙でラッピングされた包みを取り出す。
箱の形からしてクッキーらしい。
「でも、夫婦なのにバレンタインのチョコレートがデパートで売っているやつって…ひどいんじゃないか?」
そこでふと、ついさっき見た夢の内容を思い出す。
「ねぇジュン、覚えているかしら?」
「…ん?何を?」
ジュンが聞き返す。
「私もついさっきまで忘れていたのだけれど、昔、私が貴方にチョコレートを作って渡したことがあったの。
 たしか高校の時だったかしら?」
夢を思い出しながら言う。
「高校の時…?……あぁ、そういえばそんなことあったな。放課後渡しに来たときだろ?」
ジュンも思い出したようだ。
「それで、私の作ったチョコレートを食べて、貴方はなんて言ったかしら?」
「うーん…?おいしいって言ったんじゃなかったか?」
いや、やっぱり忘れてる。
「『あんまりおいしくない』って言ったのよ!貴方の方がよっぽどひどいんじゃなくて!?」
「な!?そ、そんな昔のことで怒られても困る!」
ジュンのこれまた正しい反論。あぁ、思い出すんじゃなかった。
「私、そのときから貴方にはもうチョコレートは作ってあげないことに決めてたのよ。貴方のせいなのよ!」
「…そうだったのか…昔のこととはいえ、ごめん。」
ジュンが頭を下げる。こういう素直なところはかわいいわね。
「もう…。ひどいのだわ。…まぁ、もう時効だし許してあげるのだわ。」
「やれやれ…。……この前のはなまるハンバーグは僕のために、だったな。だからこれは真紅、君のために。」
ジュンから包みを受け取る。
「ありがとう、ジュン。愛してるわ。」
「僕もだよ、真紅。愛してるよ。」
 
二人は見つめ合い、ゆっくりと近づいていく。
そして重なる、二人の唇。
 
 
 ~FIN~
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