-
【恋愛百景】Waltz
第四話
「水銀燈、一つ聞いて良いかな?」
「何?」
「いや、何であそこまで恨まれてるの?」
「嫉妬よぉ」
「嫉妬?」
「そう。嫉妬…男子達が私の所に寄って来るのが気に入らないんだって」
「そんな些細な理由」
「本当、笑っちゃうわよねぇ」
「本当だ」
公園から出た僕達は目的地へと向かう
「此所までで良いわぁ」
「此所で良いの?」
「ええ。今日はありがとうねぇ」
「こちらこそ。じゃ、また明日」
とりあえず任務完了。直ちに帰還する
なんて程じゃないけど、僕も帰ろう。
-
そんな日から数日…
DQN女子達も静かだった
だが、それは嵐の前の静けさと言うもの
こんな出来事が起こってしまうなんて、僕は予想出来なかった
「…これは」
(回されてきた手紙ねぇ…何々、この間の事を謝りたいから放課後に特別棟に来て欲しい…ねぇ)
「罠かもしれないけれど、行くしかないわよねぇ…」
あ、もう放課後か…
今日は早いな
さて…帰ろうかな…
おーい、笹塚…居ない…
「ん? 何だこれは」
そこに落ちていたのはメモ用紙
「何々…笹塚は預かった。取り返したくば、音楽室迄来るべし」
-
何て事だ! 僕が寝ている間に笹塚が拉致されたなんて
僕はすぐに音楽室へ向かった
「ベジータ…」
「笹塚…悪いな…」
「何でこんな事をするんだよ。小学生の時にはあんなに仲が良かったのに…」
「うるせぇ、俺にも事情があるんだ!」
音楽室…此所か…
「笹塚! 無事か?」
「てめぇか…最近調子に乗っている奴は」
「君は…この学校の番長のマックじゃないか!」
「人をおちょくるのもいい加減にしろ!
俺はベジータだ!」
-
「おふざけはこれ位にして…笹塚は返して貰うよ」
「なら、俺に勝手からにしろ」
うぐぅ…
ベジータのボディーブローが入る…なかなかのパンチだ
「伊達に番長を名乗ってはいないんだね…」
「オラァ!」
ぐっ…
次はキックか…
駄目だ…強い…
「オラオラ、どうした? この程度か!」
「僕は…喧嘩は嫌いだ!」
「女に手を上げている奴が何を!」
ぐ…
反撃しなきゃ…やられる…
「彼女達は、殴られて当然の事をした!
でも僕は…本当は喧嘩が嫌いなんだ!」
「世の中綺麗事じゃやっていけねぇよ!」
-
このままじゃ…やられる…
反撃するしかない…
確かバキで、顎を殴ると脳しんとうを起こすんだっけ…
「ぐ…」
当たった。でも…
「この野郎!」
もう一発!
「くそ…なかなかやるじゃないか…」
「もうやめてくれ! 僕はもう嫌だ!」
「…駄目だ。A達に足止めする様に言われているから」
「足止め? あいつら、また何かしようとしているのか?」
「特別棟だ! 特別棟に水銀燈を…ぐはっ…」
「余計な事をベラベラ喋るな!」
「笹塚っ!」
「良いよ…僕には気にせず…向かって…」
-
「分かった!」
そう言うと、僕は特別棟へと急ぐ
「く、騙したわねぇ」
「私達が謝ると思ったのか?」
「ここならあの優男は来ないからな。たっぷりいたぶってやるよ!」
「最低…」
「ああ!?」
「貴女達って最低よ!」
-バチン
「生意気言ってんじゃねぇよ!」
「くっ…」
「私達はなぁ、お前が嫌いなんだよ!」
「いつもいつも男がお前の所に寄って来て」
「うぜぇんだよ!」
「そんなの嫉妬よ!」
-ゴン
「…」
「うるせぇよ…お前なんか消えればいいんだよ!
ジャンク」
「死ね!」
「鬼婆!」
-
音楽室…此所か!
くそ、鍵がかかっている…
なら…ラグビー部奥義、フォワードヒット!
「なんだ!?」
「水銀燈!」
「…貴方…何で分かったの?」
「てめぇは…あん時の」
「お前ら…水銀燈に何をした?」
「あ?」
「何をしたぁぁぁぁ!」
「調教だよ! 聞き分けのない雌豚を調教してんだよ!」
「違うわぁ! 彼女達は…あっ」
「るせぇ! 豚が喋るな!」
…やめろ
「お仕置が必要だな!」
…やめろ
「こうしてやる!」
…やめろ
-
「やめろぉぉぉぉ!」
「あ?」
「ギャァァ!」
まずはAだ
「痛い痛い!」
「まだだ! こんなもんじゃなかった筈だ!」
「てめぇ!」
「邪魔だ!」
そう言ってBを突き飛ばす
Aはもう気絶している
Bも頭を打ったらしく気絶中だ
「ジャンク! てめぇが悪いんだ!」
Cが水銀燈にナイフを突き付ける
「痛っ…」
水銀燈の頬に切り傷が出来てしまった
「…」
もう駄目だ。Cは間違いなく助からない
「ヒャハハハハ! げふぅ」
「C…お前だけは…許さない…」
「痛い痛い痛い痛い痛い」
「水銀燈」
「…はい?」
「逃げるよ」
-
僕は水銀燈の手を引き、校舎を出る
笹塚は…大丈夫そうだ。メールが来ている
どの位走っただろうか
とりあえず学校から離れた公園で休憩することにした
「水銀燈、大丈夫?」
「ええ」
「…」
「きゃっ」
僕は水銀燈を抱き締めていた
理由なんか無い。だが、抱き締めなくていられなかった
「貴方…ちょ」
「水銀燈…辛かったよね、痛かったよね…でも、よく我慢した」
「ふぇ…うわぁぁぁぁ」
「今は誰もいないから…泣いて良いよ。僕が、君の涙を受け止めてあげる」
「うわぁぁぁぁ…うっぐ、ひっぐ…怖かった…怖かったよぉ…」
「良かった…無事で良かった…」
-
「ふぅ…落ち着いたわぁ」
「あの…ごめんね」
「何が?」
「急に抱き締めちゃって…」
「良いわぁ…私も…ちょっと安心したし…」
「うん」
「あ、ちょっと」
「ん?」
-チュッ
へ? キス?
「え? これは…」
「お礼よぉ…あと、貴方への私の気持ちよぉ」
「え? へ?」
「…貴方の告白、受け取ったわぁ」
ああ、告白してたんだ。知らない内に…
「水銀燈」
「はい?」
「あの…今度は、持っと気の利いた言葉を用意するから」
「おばかさぁん、私にとっては、あの言葉が一番気が利いているわよぉ」
第四話・完