※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

 きっかけは、些細な事だった。クラスの中で若干浮いている僕に、彼女は話しかけて来た。只それだけ。
 もしかしたら、その時には既に恋が始まっていたのかもしれない。今思うと、そうとしか思えないのだから。


【恋愛百景】Waltz


 いつもの学校……僕は適当に授業を受ける。勿論、学生の本分が学業にあるのは承知の上だ。だが、周りの世界が妙に色あせて見えるんだ。小さいころ、僕の思い描いていた未来は色鮮やかであったのに、気がついたらその色は、いやに煤けた灰色になっていたんだ。
 でも、そんな毎日がまた色を取り戻すことになったんだ。僕の世界が変わったのは、まさにその時だった。


「貴方って変わってるわよねぇ。」

 不意に聞こえる声。僕は声の主の方向を見据えて、こう言い返した。


「ろくすっぽ話した事無い人に対する第一声がそれ?」
「そうでしょう? いつもぽけっとしてるし」
「……。」


 そう言われると返す言葉も無い……確かにぽけっとしてるよ、僕は。でも流石にそんな事言われてしまったのは初めてであって、僕は久しぶりに思った事を言葉に出した。


「初めてだよ……そんな事言われるのは。」
「あらぁ、私は別にけなしている訳じゃないのよぉ。」

 どう考えてもけなしているようにしか見えない。僕も少々むっとしながらこう切り返した。


「オブラートにすら包んでいないのに?」
「わ、悪かったわねぇ……。」
 

 そうすると、彼女は少々ばつの悪そうにこちらを見た。まだ休み時間には余裕がある。本当は惰眠をもう少しむさぼりたいところだけど、女子と久しぶりの会話をしていると、それも少々もったいないと思う。
 

「全くだよ。」
「でも、何でいつもぽけっとしてるの?」
 

 いや何でって聞かれてもね……退屈以外の何者があると思うんだい? いや、まぁ後は集中力もないけどさ。


「退屈以外に何があると思う?」
「そうねぇ……やっぱり思春期だしぃ……。」
「残念ながらやましい事は考えない主義でね」
「つまんなぁい。」
 

 いや、言って来たのは君じゃないか…てつっこもうと思ったけど辞めた。何だか今はそんな気分じゃないし、また別のことで飄々と返されるのが落ちだろう。


「でも、何だか貴方って面白いわねぇ。」
「変わってると言われたと思ったら今度は面白い。」
「ええ、とりあえず私の回りの奴等と比べれば……歴然よぉ。」
「君も十分面白いけどね。」
 

 それは本心から出た言葉だ。そりゃあそうさ。人のことを変わっている、そしたら今度は面白い。数分もないうちにここまで意見を変えられる人ってのは案外面白い人なんだな。と、僕は思う。
 

「ありがとうねぇ……じゃ、ばいばぁい。」


 ……帰って行ったか。一体何がしたかったんだか。そうしたら、僕の数少ない友人の笹塚が話しかけてきた。


「おい、さっきのって水銀燈じゃないか?」
「何だよ笹塚。」
「全く、水銀燈と話せるなんて、君も隅に置けないね。」
「知らないよ。あっちが勝手に話しかけてきたんだ。」
「でも彼女、女子の人気が無いんだってね。」
「勝手に話を進めないでくれないか?」

 

 人の話はちゃんと聞きましょうとこいつは学んでこなかったのだろうか。そもそも会話とはキャッチボールでありだね。


「とりあえず、彼女と話している時に女子の怒りの視線が全部君と水銀燈に向けられていたよ。」
「…そいつは怖いな。」
「だ・か・ら、気をつけろよ。」
「大丈夫、どっかの阿呆とは違うから。」
「まぁ頑張ってくれたまえよ。じゃあね。」

 結局笹塚は一体何を言いたかったんだか……全く分からないね。ま、分かった事と言えばさっき僕に話しかけて来てくれた子についてか。名前は水銀燈。銀の髪の色をした、とても同年代とは思えないほどの艶やかしさを持つ、ちょっと面白い同級生だった。女子の人気がないってのが引っかかるけど。……さて、これ以上居ても面白くなさそうだし、そろそろ帰ろうかな。
 

「先生、これから腹痛の予定ですので帰らせて頂きます。」
「ああ、次は笹塚だ……。」

 

 

 

 

 



 暇だ……授業も暇だがサボってからも暇とは。こりゃあ失敗したかな。と、そんな時、また彼女に声をかけられた。

「あらぁ、学校を抜け出すなんて、いけない子ねぇ。」
「そういう君も抜けているじゃん。」


 何でまた会っちゃうんだろうね。こりゃあ不思議だ。
 

「やる事無いし、ちょっと遊んでく?」
「あら、ナンパならお断りよぉ。」
「まさかぁ。」

 

 水銀燈は軽く笑いながら受け流すと、急に真剣な面持ちになってこう口を開いた。


「でも、やる事無いなら、ちょっと私に付き合ってぇ……。」
「え? あ……。」


 ちょ、急に腕を引っ張らないで。とりあえず僕は彼女に腕を引かれ、ついて行く事になったのであった。あれからまさかこうなるなんて、本当に僕は思いもしなかった。まずはそうとだけ、言っておきたいんだ。

 




第一話・完
 

|