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「一つ屋根の下 第百十七話 JUMと1-D」



「JUM…お別れなんだね……」
教室で薔薇姉ちゃんがギュッとスカートの裾を掴みながら言う。眼帯をしていない右目の瞳は少し
ウルウルと潤んでいる。
「そんな大袈裟な……」
「うん、でも……寂しいよJUM……」
「いつでも会えるじゃないか、僕等はさ。」
「うん……分かってる……分かってるけど……」
本当に今にも泣き出しそうな薔薇姉ちゃん。僕、どうすりゃいいんでしょうね?だってさ、さっきからお別れとか
なんとか言ってるけど。本当に大袈裟なだけなんだよ?だってさ……
「やっぱり嫌だよ……来年度は同じクラスになれるか分からないもん……」
「だからって留年するわけにはいかないでしょ。」
そう……言うまでもないだろうけど……今日で僕の一年生が終わりの日だ。今年は知っての通り薔薇姉ちゃん
は僕と同じクラスだったけど、二年生ではどうなるか分からない。それで拗ねているって訳だ。
「ふっ、薔薇嬢……俺とクラスが別れても泣くんじゃないぜ?」
「問題ない。それより……一応進級できたんだね……」
薔薇姉ちゃんはサラリとべジータをかわす。コイツとも春からは多分別のクラス……と思って早何年だろうか。
そもそも、僕はべジータと知り合ってからクラスが離れた覚えが無いな。いい加減、一回くらいは離れたいものだ。
「あははっ、薔薇しーちゃん大袈裟だよ。教室は全部廊下で繋がってるし、そもそも桜田君と薔薇しーちゃんは
同じ家に住んでるじゃないの~。」
桑田さんが少し笑いながら言う。それが普通の感覚なんだけどね。
「む~……でも、来年は同じクラスとは限らない……今年はJUMと二人っきりだったのに……JUMをゲッチュー
できずに一年を終えるとは……ただ、無念だ……」
まるで、某医学ドラマの教授が癌で死ぬ時のように言う薔薇姉ちゃん。そんな感じで僕達1-Dにとっては最後の日が過ぎていく。そんな時だった……もう予想できてるでしょ?奴が勢い良く教室のドアを開けてやってきた。
「おはようみんな!!担任の梅岡だよっ!!」
ああ、今日も今日とて最後まで暑苦しく憎たらしい笑顔だ。



「今日は欠席なしっと……先生、この日に全員出席でとっても嬉しいぞ!今日はみんなの顔し~っかりて
見て目に焼き付けておかないとなぁ~。」
梅岡が教室を歩き回り、ベジータの顔を覗き込むように見る。
「せ、先生。近いんだが……」
「そうかな?先生、よぉ~く目に焼き付けておきたいからねっ!」
うわ、気持ち悪い。心なしかベジータは顔面蒼白、汗ダラダラ出ている。逆に梅岡は顔は紅潮してるし、
さっきからハァハァと息遣いが荒い。ここからが本当の地獄だなぁ。
梅岡はべジータ他、体育会系の男子の顔のみをじっくり見て満足するとそのまま教壇へ歩く。
「先生、教員になってまだまだ日は浅いけど、今年のクラスは本当に最高だったよ!!」
日が短いのに最高なんて断言していいんでしょうか。最高とは書いて字の如く、もっともたかい。つまり一番いい
って事ですぜ?
「特に学校祭は先生を筆頭にクラスが一丸となって盛り上がったね!文化祭の方は、メイド喫茶がとっても
盛り上がったし。体育祭の方は先生の応援の甲斐があって学校優勝までしたからね!」
あれ?いつの間に自分のお陰になってるんだ?まぁ、これもいい加減馴れたしスルーしておこうかな。
でも、確かに学校祭ではクラスが一丸になれたのは本当だと思う。僕も、体育祭では貢献はしてないけど、
文化祭の方では少しは貢献できたと思うし。何より……僕の好きな事をみんなに認めてもらえたのが
本当に嬉しかった。あの時、少し勇気を出してよかったって。そう思う。
「来年は全員がまた同じクラスって事は流石にないだろうけど……でも、またみんな新しいクラスで友達を
見つけて、いいクラスに出来るように頑張るんだぞ?」
何だか珍しくマトモな事言ってるな。普段からこうなら好感度は多分いいんだろうに。
「それじゃあ、成績表返すからなっ!僕のクラスはみんな勉強もしてくれる子ばかりで助かったよ。
みんな無事進級だ……一人ほどギリギリだったけどねっ。」
梅岡お得意の余計な事を言う。まぁ、誰かなんて予想は付く。べジータなんだろうな。



「JUM……最後に見せあいっこしよ……」
「ん、じゃあ僕の通知表。」
僕はそう言いながら薔薇姉ちゃんと通知表を見せ合う。ん~、やっぱり薔薇姉ちゃんには総合的には
成績勝てなかったかぁ。部分的は勝ってるんだけどね。家庭科とか家庭科とか家庭科とか。
「うん、でも……JUMも平均は4くらいあるから……とっても優秀……いい子いい子……」
薔薇姉ちゃんはそう言いながら僕の頭を撫でてくる。ちなみに、我が校の成績表は一、二学期は10段階
だけど、三学期のみ5段階になる。そこで、1が付いてると留年ってわけ。
「ふぅーはは~!俺の通知表見るかい?」
そこへべジータが割り込んでくる。どうしてこ~、コイツは通知表見せるときは無駄にイキイキしてるんだろうか。
バッと広げられたべジータの通知表には見事なまでに2が並んでいた。明らかにお情けで進級って感じがする。
でも、流石と言うべきか体育だけは5だった。他に家庭科、音楽、美術は3や4だ。
要するに、主要科目はてんでダメって事だね。
「ふっ、これで俺も無事に二年に進学できるって訳だ。来年はどんな可愛い娘っ子と同じクラスになれる
か今から楽しみだぜ。来年も一層漢に磨きをかけていかないとな。」
この成績を全く省みる事なく楽観的にべジータは言う。僕にも少しこのポジティブさを分けて欲しい。
「はいはい、じゃあそろそろ終わるからみんな席につけ~。」
梅岡がパンパンと手を叩いて声を上げる。もうじき昼だし、そろそろか。
「じゃあみんな、今年一年お疲れ様。来年同じクラスになった子とは、やっぱり仲良くしてもらえば先生
とっても嬉しいぞ!そ・し・て……このクラスの子だけにはビッグニュース教えておこうかな!」
フンッと梅岡の鼻がプクッと膨らむ。いい事ってなんだろ……来年はクラス変えは無しとか?いや、それはそれで
一年に一度の楽しみが無くなる。そう思ってると梅岡は言った。
「実はね、先生来年は二年生受け持つんだ!だから、来年僕のクラスの子は超ラッキーだね!
だから、来年もよろしく頼むよ!特にべジータと桜田♪」
ビシィと気持ち悪いウインクをして、親指を突き出す梅岡。何となく僕は確信する。きっと、僕は来年も
コイツが担任だ。そして同じクラスにべジータがいる。ああ、新学期の楽しみがすでに減っちゃったなぁ……
寧ろ、不安要素をすでに抱えてしまった気すらする。でもまぁ……何とか、なるさ。



「あらぁ、JUMじゃないのぉ。学校終わったのぉ?」
放課後、薔薇姉ちゃんはバイトだって言うんで一人で帰っていると私服で歩いている銀姉ちゃんに出会った。
銀姉ちゃんはジーンズに黒の布地に白の十字架の柄が入ったTシャツ。そしてジーンズと揃いの色のジージャン。
さらには少し大きめの帽子を被っていた。随分ラフな格好だなぁ。
「うん、銀姉ちゃんはお買い物?」
「そうよぉ、私達はする事なくて暇だしねぇ。ああ、金糸雀は車校行ってるわよぉ。」
カナ姉ちゃんが車か……果たして免許取得までいけるのでしょうか?そして、取った場合僕達も覚悟する
べきなんでしょうか?いやいや、案外カナ姉ちゃんは天才的な運転技術があるかも……ないか、ありえないな。
「そうなんだ。一緒に見て回る?それとも帰る?」
「そうねぇ……別に見てるだけだったしぃ。一緒に帰りましょうかぁ~。」
銀姉ちゃんはそう言うと、僕の右手をギュッと握ってくる。よっぽど家は暇だったのか、随分嬉しそうな顔だ。
「さ、帰りましょぉ~。私ぃ、今日は退屈すぎたから沢山遊んでねぇ~。」
銀姉ちゃんはそう言いながら手を繋ぐだけじゃ飽き足らず腕を絡ませる。もうすっかりお馴染みになってる
行動だ。だからかな、僕だって動じない。
「遊ぶったって、何するのさ。ゲームくらいしかないんじゃない?」
「ゲームでもいいわよぉ。JUMがお好みなら大人の遊びでもいいけどぉ。」
何ですか、それ?多分競馬とかパチンコだな。うん、そう思っておこう。
「でもよかったわぁ。明日からみんな春休みでしょぉ?時間持て余してたからとぉっても助かるわよぉ。」
銀姉ちゃんは多分、もっとも退屈を嫌うお人だ。卒業して、大学も決まってれば暇に決まってる。
明日からの春休みで、どうやって僕等にその鬱憤を晴らすのか、今からある種の恐怖が絶えない。
「今年はお父様もお帰りになられるしぃ、今年の春も楽しくなりそうだわぁ。」
銀姉ちゃんがニコニコ顔で言う。でも……この時の僕は当然ながら知る由も無かった。僕にとってこの春休みが
僕の運命を変えてしまうような春休みになる事を。
その発端は、もうじき帰国する父さんの帰還から始まる事になる……
END

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