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シャカシャカシャカシャカシャカ

トクトクトク

「お待たせ致しました。」

私は雪華綺晶。コレでもバーテンだ。
--こんな、メイドの格好をしていても。

Bartender-Schoner Schneeglockchen Kristall-

ここは所謂、メイドバー。
とは言え客層に偏りがあるわけでもない。
サラリーマンやカップルも見られ、雰囲気は普通のバーと変わらない。

今日は、ウイスキーがよく出る。
そんな日は、目で楽しむ物を出す。

「ご主人様、アイリッシュコーヒーでございます。」

青い火が、店内の暗さと相まって美しく燃える。

アイリッシュウイスキーのキツさは甘さに隠れる。
だからと言って飲みすぎると、ベースはウイスキー。

--明日どうなっても、知りませんわよ。

少し注意を促しても、聴く人など誰もいない。
まぁ、次の日にはまた足を運んでくれるお客様が多かったりするのだが。

一応昼間は、有栖学園大学の学生をやっている。
経済学部の学生だが、単位をとるだけ取ってしまったために正直なところ暇で仕方ない。

そんな折、もとからやっていたバーテンのバイト先の店長から暇ならココに回ってくれと言われたのが・・
そう、メイドバーだ。
最初は抵抗もあったが、そこまで派手な衣装でもなく白の落ち着いた感じだったのでこの衣装が気に入っている。

今日は形だけのレポート提出を済ませるために学校へ向かう。
久し振りの登校。誰かに逢えるだろうか。

その淡い期待は、私の飲み友達によって叶えられた。

「あらぁ、雪華綺晶じゃなぁい」
--水銀燈。なんだか久し振りだ。

雪「お久し振りですわね。」
銀「そうねぇ。あなた単位取りまくって暇で仕方ないでしょ?」
雪「そうですわね。最近はバイトに勤しんでおりますわ。」
銀「じゃあ、今日当たりどう?」
雪「いいですわね。行きましょう♪」
その日の夜はたまたまバイトが入っていなかったので、久し振りに彼女と飲みに行く事になった。
飲むときには、いつものバー。私のバイト先。

「おや、雪華綺晶さんと水銀燈さんではありませんか。お2人ではお久し振りでしょうか?」
銀「相変わらずねぇ。白崎さんも。」
白崎・・・バイト先の店長だ。
酒好きだが、決して深酔いをしない。

雪「そう言えば水銀燈。」
銀「なにぃ?」
雪「風の噂で聞きましたが、よきパートナーがおられるとか。」
銀「真紅ねぇ。あの子ったら・・。」
雪「よろしいではないですか。うらやましいですわ。」
銀「ふふふ・・・ありがとねぇ。」
雪「私にも春が来ませんかしら・・・。」

暇・・・というのもあって、恋をしたいなんて思うようになった。
私らしくも無い。人間、暇になると何を考えるかわからないなと思う。

暇と金は、人間をおかしくする麻薬。
酒もそうかもしれない。

銀「まぁ、そのうちいい人が現れるわよ。」
雪「他人事ですわねw」
銀「そんなことないわよぉ。」
雪「冗談ですわ。次、何飲みます?」
銀「ローズでも飲む?」
雪「じゃあそれにしましょう。」
銀「雪華綺晶、主体性が無かったら恋なんてできないわよ。」

主体性・・
確かに私にかけているものかと思う。
自分の主張と言うものをあまりしない。これから就職活動に向けて直さなければならない課題でもある。

--主張なくして、恋は実らず。
彼女は、そんなことを言った。

雪「主張・・ですか。」
銀「ねぇ?白崎さん。」
白「ふむ・・・。主張と一口に言いましても、いろいろとございます。」

--さりげない主張、と言うのは雪華綺晶さんにあっているのかもしれませんね。

さりげない主張・・一体何のことだろう?

白「ご自身の特技を生かすのも、主張の一つではないでしょうか?」
雪「特技・・ですか?」
白「私は好きですよ?貴方のスティンガー。」

・・スティンガー
材料がこの上なくシンプルなためごまかしが殆ど利かないカクテル。
故に、バーテンの腕がもろに出てしまう。
確かに、それを言われるのがイヤでシンプルなカクテルをうまく作ることを意識してきた。

だが、それのどこが主張なのだろう?
私にはわからなかった。

銀「何辛気臭い顔してるのよぉ。ほら、もっと飲むわよぉ。」
雪「そうですわね。今日はもっと行きましょう。」
白「お二方、深酒は身体に毒ですよ?」

その日は白崎の忠告を無視して、結局ラストまで飲み続け、
翌日頭痛で目が覚めたのは、もはやお約束だった。

頭痛をこらえて、朝を乗り切る。
今日は昼から家庭教師のバイト。
二日酔いだなんてバカみたいな理由で休めない。
自分って変なところが真面目なんだなと思いながら準備をしていた。
‐‐二日酔いの朝は、日本茶で乗り切る。
水銀燈から聞いた話。
実際試すまでわからなかったが、結構な効果があるようで。

とりあえずは、なんとかなりそうだ。

‐‐ここはこうで、このYが・・・。
家庭教師は、冬辺りから始めた。
色んなことをやろうと思って、バイトは様々なことをしている。
バーテンも、その一つ。

元からお酒は好きだった‐と言うか、食べると言う行為の周辺にあるものだったから‐の
でバーテンには向いていると思う。
実際、家庭教師以外は全て飲食店のバイトだったりする。


そんなある日…

いつものようにメイドバーでバイトしているときのこと。
雪「おかえりなさいませ、ご主人様。本日はどのようにいたしましょう。」
「さっぱりしたのがいいかな?」
雪「かしこまりました。しばらくお待ち下さい。」

彼は、この店の常連さん。2日に1回程だろうか?最近はよく来てくれるようになった。
さっぱり系といえば、ひとまず思いついたのはジントニック。
楽といえば楽なんだが敢えてそれに逃げないで水銀燈が言うように、自己主張することにした。

雪「ご主人様、お食事のほうは済ませておられますか?」
「うん。さっき食べてきた。ちょっと重たい食事だったね。」

来た。
私の自信作を堪能してもらうチャンス。

少しきつめのブランデーとホワイトミントペパーをシェーカーに入れ、シェイク。
できあがったものをカクテルグラスに注ぐ。

--ご主人様、スティンガーでございます。

「いただきます。それから、僕のことは笹塚ってよんでくれてかまわないよ?」

メイド喫茶なら珍しい応答かもしれないが、ここに限っては別。
その際は、お客様のご希望に沿う形をとっている。

雪「では笹塚様、ご夕飯のほうは何をお召しに?」
笹「焼肉だよ。友達とカラオケの後にノリで行ってきたんだ。」
雪「左様でございますか。スタミナがついて、何よりです。」
笹「もたれ気味だけどwさっぱりしてておいしいよ。ここじゃ多分君が一番うまいんじゃないかな?」
雪「ありがとうございます。」
笹「じゃあ次もさっぱりしたやつをもらえるかな?」
雪「かしこまりました、笹塚様。」

焼肉の後なら、より強いさっぱり感出したほうがいいだろう。
氷とジンをいれ、トニックウォーター半分にソーダ半分。
炭酸でごまかすといえばそうなるのかもしれないが、実は好みだったりする。

雪「お待たせいたしました、笹塚様。ジントニックにソーダをいれたものです。」
笹「ありがとう。あ、そう言えばね・・」

--僕の友達に、君にそっくりな人がいるんだ。

心当たりはあった。
水銀燈の妹、薔薇水晶のことだろう。
しかし間違えてるとそれはそれで恥ずかしいものがあるので一応確認してみる。
が、その前に言われてしまった。

笹「薔薇水晶、って子なんだけどさ。君によく似てるよ。性格は違うけど。」

確かにあの大胆不敵でありながらどこかシャイ、なんて要素は私には持ち合わせていない。
そんな彼女がなんとなくうらやましかった。

ん?
じゃあこの人もしかして・・・

雪「笹塚様、今おいくつでしょうか?」
笹「へ?あ、あー21だけど・・・」

わかりやすすぎる挙動。
私の覚えが正しければ、薔薇水晶は今年つい1ヶ月前に卒業したばかり。
同い年ならまだ18。

雪「笹塚様、おいくつですか?」
笹「・・・18です。」
観念したのか実年齢を明かした彼。
だからといって今すぐ追い出すのもなんとなしに嫌だった。

--また来て下さるのなら、このことは秘密にさせていただきます。

明らかに店の規約違反だが、私は彼と過ごす時間を気に入っていたためにそんなことを言っていた。

笹「え?いいんですか?」
雪「必ずまた来て下さるのなら、ですわよ?」
笹「ありがとう。必ず来るよ。」
雪「じゃあ次、何になさいますか?」
笹「そうだなぁ・・・今の時期にあったやつを。」

3月といえば卒業シーズン。
春の訪れと桜のイメージが重なる。
そうだ・・・

チェリーブランデーとブランデーをベースに、
グレナデンシロップとオレンジキュラソーにレモンを2ダッシュづつ加え、シェイクする。

--チェリーブロッサムでございます。

雪「甘いの、お嫌いですか?」
笹「大丈夫だよ。この類の甘さは好きだから。」
雪「ご卒業おめでとうございます。」
笹「ありがとうございます。」

--大学は、有栖学園大学なんですよ。

私と同じ大学。気になるから学部も聞いてみる。

雪「学部はどちらなんですか?」
笹「経済学部です。」

これまた私と一緒。

--じゃあ、一昨年のテスト問題差し上げますわ。
彼はキョトンとした。
笹「同じなんですか?」
雪「えぇ。同じですわよ。」
笹「そうなんですか。なんか奇遇ですね。」
雪「奇遇・・・世の中に偶然なんて存在するのでしょうか?」
笹「・・・言われてみるとそうかも。多分、自分がこう選択するってのは決まっていること。」

--でも、そんなことわからないから寄寓とか偶然なんて言葉が生まれたのかもね。

ドキッとした。
18で一人で酒を飲みに-しかも、メイドバーに-来るあたり、高校卒業したての奴がやることじゃない。
どこか、大人びていた。

私の胸の高まりも、必然なんだろうか。

その日は、チェリーブロッサムを最後に彼は店を後にした。

あの日から、私は毎日メイドバーにシフトを入れた。

なぜかはわからないが、彼に会いたいという衝動が私を支配する。

--これが、恋なの?

そんなある日のこと。

笹「こんばんは。雪華綺晶さん。」
雪「こんばんは。笹塚様。何になさいますか?」
笹「雪国・・お願いできる?」
雪「かしこまりました。」

雪国・・日本人が作ったカクテル。
このカクテルには、なんとなく親近感を覚えていた。

ウォッカに、ホワイトキュラソー、ライムジュースをシェーカーに入れる。
グラスをスノースタイルにして、シェークしたものを注ぎ込む。
最後に、ミントチェリーを沈めて出来上がり。

雪「お待たせいたしました。」
笹「ありがとう。」

--やっぱり、自分じゃうまいことできなかったな。

雪「雪国でございますか?」
笹「うん。好きな人にね、飲んでもらいたいなって思ったんだけど。」

雪「そうなんですか・・・」
私の淡い恋は、深々と降る雪が春に溶けるように引いてゆく。

--でもね、その人が作ってくれた雪国のほうが本当においしんだ。

・・・?
今なんて?
笹「今日さ・・・何時に終わるの?」
雪「ラストまでですが、お付き合いいただけますか?」
笹「もちろん。」

今思えば、メイドバーで出会った2人なんて馴れ初めで言われるのは少々恥ずかしい気もするが、
そんなことは問題ではない。

私の好きなお酒を通じて、めぐり会えたのだから。

--これは偶然じゃないよ。

はっきりそう言ってくれたことが私には一番うれしかった。

いつしか彼もバーテンとして白崎の店でバイトするようになり、今では私より【雪国は】上手く作るようになった。
こんな出会いも、2人にとっては素敵で大切な思い出。

今日も季節はずれの雪が、降っている。
私のグラスの中に。

Bartender-Schoner Schneeglockchen Kristall-
おしまい

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