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【アンニュイな日】



薄闇が街を覆い、電灯の光が微かに揺れた、と同時に音を立てて砕け散った。
「光は嫌い」と黒いドレスを身にまとった少女が呟いた。
ーあれは…私?
「光は影を映すから。私は自分の影なんて見たくない」
 そう言うと少女は背中から黒い羽根を生やして闇の中へと姿を消した。

 目覚ましで目を覚ます。「変な夢」
 水銀燈はそう呟いて、頭を軽く振った。長い髪がしなやかに舞う「でも悪くはないわね」



 今日から高校3年生だ。将来についても真面目に考えるべき時期に達してきている。「まぁ、なるようになるわ」
 小さな頃から大抵のことは人一倍出来た水銀燈は特に焦ることもなかった。
「行ってきます。お父様」
 父の遺影にそう挨拶をして、彼女は軽やかに学校へと出掛けた。
聖ローゼン高校の制服を着た少年少女達が初々しい緊張感で登校している。恐らく新入生だろう。私と真紅には初々しさのかけらもなかったわね、と思い出して微笑んだ。



 校門をくぐり、新しい教室に向かう。雛苺は今頃2年のクラスに間違って入って、しかも気付かず馴染んでる頃ね。金糸雀は今日も遅刻かしら。蒼星石は朝一で新しい教室の掃除や花を飾ったりしてるかも。
 新しい教室のドアの前に立ち、開けようとすると真紅達の笑い声とジャンクという聞き慣れない言葉が聞こえた。その言葉は水銀燈の心を締め付けた。何これ、何でこんなに苦しいの。いや、助けて、真紅。
 震える手で教室の引き戸を引く。生徒全員が水銀燈の方を向いた。
 真紅、雛苺、翠星石、蒼星石、金糸雀みんな揃って固まって笑っている。いつものように笑っておはようと言おうとしたが、どんな顔をして何て言えばいいのか分からなくなった。声がでない。
「おはよう。水銀燈」と真紅から声をかけてきてくれる。「どうしたの?」

 水銀燈の心にジャンクという言葉が這いずり回る。真紅達の笑顔が自分を見下し、馬鹿にしているような嫌みなものに見えた。
「き、気分が悪いの。保険室に、行くわ」
「雛苺、あなた保険医院でしょ」
「はいなの~一緒に行くの~」
「来ないで!」自分の声に自分で驚いた。「私は、大丈夫だから、ひとりで行ける」



 教室のドアを閉めて保健室に向かう。「どうかしてるわ。今日は変ね。後で謝らなきゃ」
 ひとりになると幾らか気分はマシになった。彼女はそのまま昼の掃除まで保健室で時間を潰した。途中真紅達がお見舞いに来たが寝たフリをしてやり過ごした。話し方を忘れてしまった。



 掃除には参加した。心配する翠星石をよそ目に溝掃除を張り切った。ふと黒い塊を見つけ、拾いあげるとカラスの死骸だった。
 きゃあ、と翠星石が悲鳴をあげる。「す、水銀燈…汚いです。捨てるです。バイキンつくです」
「うるさい、黙れ!」と水銀燈は激しく怒りをぶつけた。「汚くなんかない。汚くなんか」
 水銀燈は両手で優しく包んだまま、カラスの死骸を木の根元へと埋めた。「ジャンクなんかじゃない。お前は汚くなんかない。とても美しく誇り高い生き物だよ。ふふ」




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