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~薔薇獄陰陽伝~
第五話

「ん…ふぁぁ…む…もう放課後か…?」
辺りを見回してみると、もう教室にはほとんど人が残っていない。
どうやらいつの間にか眠ってしまったようだ。昼に保健室であれだけ眠ったのになぁ…
「それにしても…誰か起こしてくれてもよかったのに…」
「…私は起こしたんだけどね」
「どわっ!?ばばばば…薔薇水晶!?」
突然の声に驚いて横の席を見ると、頬杖をついて苦笑しながら僕を見ている薔薇水晶と目があった。
「…全く…保健室から帰ってきたと思ったらあれからずっと寝てるんだもん…ジュン昼の授業全く受けてないんじゃない?」
「ん…ふぁ…そうかもな…」
ぐっと体を伸ばすと、体の節々がバキバキ鳴る。最近運動不足だったからなぁ…


「さて、そろそろ帰るか薔薇す「…あ、あの…」」
僕の言葉をさえぎり、「ずい」という擬音が聞こえそうなくらい僕の近くに寄ってくる薔薇水晶。心なしか顔が赤いような…
「えーと…どうした?」
「…ご、ゴメン…あのねジュン…その…雪華綺晶さんと…ごにょごにょ…」
「え?なんだって?」
「だ、だから…雪華綺晶さんとは何も…」

キーンコーンカーンコーン…

「あ、下校のチャイムだな…早く帰ろうぜ?」
「…あ…うん……」
「そういえば…さっき何を言おうとしてたんだ?」
「……なんでもない」
「…?」
「…ほら、早く帰るんでしょ?」
「いたた…わかったから腕引っ張るなってば…!」
「(…………ばか)」


薔薇水晶に腕をひかれながら、朝も通った道を歩く。
「なぁ薔薇水晶…腕痛いんだけど…」
「…そう」
「『そう』って…」
「…何か問題でも?」
「い、いや…」
な、なんだろう…ものすごく怖いんですけど…?
…そんなことを口に出せるはずもなく、腕をひかれながらひたすら無言で歩く。


気付いたときには、すでに互いの家へと向かう分かれ道に差し掛かっていた。
「…じゃぁ、また明日」
「あ、あぁ…またな」
そのままスタスタと歩いていく薔薇水晶。
あ、その先は電ちゅ…

ガツン!

うわ…すっごい痛そう……あ、おでこさすってる。
それでもしばらくすると再び歩き始め、とうとう姿が見えなくなってしまった。
「…変なヤツ」
放課後から明らかに薔薇水晶の様子がおかしい。一体なんだったんだろう…

「……とりあえず帰るか。寒くなってきたし…」
明日になれば薔薇水晶も元に戻るだろう。
今日のお詫び(結局原因はさっぱりだけど)もかねて、また今度シューマイでもおごってやるかな。


「…あぅ…いったぁ…」
さっき電柱にぶつけたおでこがまだヒリヒリする…
やっぱり考えごとをしながら歩くのはよくない。止まった考えよう。
まったく…ジュンったら昼休み以降、保健室で雪華綺晶さんと何してたんだか。
「…人の気もしらないで」
あ…思い出したら何かまた腹たってきた。
こんなときは…
「…早く帰ってシューマイ食べよ」
大好きなシューマイのことを考えると、先ほどまでのイライラが多少消えた気がした。


下校まで寝てたせいか、家に到着した時刻はいつもより遅めだった。
水銀燈何か余計なことしてないだろうなぁ…と思いながら、玄関のノブをひねる。
「あ、ジュン~♪お帰りなさぁい♪」
「うん、ただいま水銀燈………ってちょっと待てぇい!」
「どうしたのぉ~?何か変かしらぁ~?」
「へ…へ……変に決まってるだろがぁ!!なんてカッコしてんだよお前っ!?」
僕が思わず大声を出してしまったのも無理はない。
なんと水銀燈は、素肌にYシャツをはおっただけという、非常に目のやり場に困る姿で玄関まで出てきやがったのだ。
「え~?だって『この格好をすれば男はいちころ』って、てれびで言ってたわよぉ~?」
このセリフからわかるとおり、こいつは既にテレビを使いこなしている。いや…テレビだけでなく、家にある電化製品全てと言ったほうがいいかな。
なんにせよ、何百年前の…しかも精霊の類にもかかわらず、完全に現代の生活になじんでしまったのだ。
ちなみにお気に入りは洗濯機らしい。「服の汚れがこんなに簡単に落ちるのねぇ」とのこと。


「…お前は一体どんな番組を見てるんだよ……」
「えっとぉ……あら?」
「どうした?」
急に鼻をひくつかせ始めた水銀燈。
一体なんだろうと思っていると、突然顔を覗きこまれた。
「なっ、なんだよっ…?」
心臓の鼓動が速くなるのを感じる。そりゃそうだ。いくら狐だって言っても、目の前にいるのは絶世の美女なんだから。
しかも今の水銀燈は裸Yシャツ……Yシャツの隙間から見えそうな胸や、尻尾が揺れるためになびいているシャツの裾から見える真っ白な太ももが破壊的に色っぽい。
って、僕は何を考えているんだ!?
そ、そうだ!こんなときは素数を数えたらよかったんだった!
えっと…1、3……
「……血の臭いがする」
7、11……ん?何かヤバい単語が聞こえたような…
「ち…血の臭いっ!?」
「えぇ…それになんだかケモノの臭いもするわぁ。ジュン、貴方まさか物の怪に襲われたの?」
血と聞いて慌てふためく僕とは対照的に、水銀燈はあくまで冷静だ。


「襲われたって…今日は別になんにもなかったよ。もし仮にそうだとしたら今頃僕はここにはいないだろう?」
「この臭い…もしかしてヤツかしら?うぅん、ヤツがこんな昼間に出歩けるわけがない……第一、ヤツは私が…」
そっちが聞いたクセにスルーですかい…まぁいっか。実際今日は何にもなかったんだし。
ところで『ヤツ』って誰だろう…?

「なぁ、『ヤツ』って誰だよ?」
「え?あぁ、そうね……昔――貴方の先祖に仕えていたときに、一匹の吸血鬼を封印したことがあるの。ソイツと同じ臭いがしたから、まさかと思って…」
「吸血鬼…か。でも今日はホントに何もなかったぞ?気のせいじゃないか?」
「うーん……そうかしら…すごく特徴のある臭いだから間違うはずはないんだけどぉ…」
「………とりあえず…僕は部屋で着替えてくるから。お前もそのカッコなんとかしとけよ」
水銀燈はまだうんうん唸っている。聞こえてないのかよ……
とりあえずさっさと着替えよ…


「吸血鬼って…まさかな。最近は何も無いし、今日だってそんなもんに襲われたなんてことは……」
学ランを脱ぎ、壁にかける。すると、何やら長いものが付着しているのに気付いた。
「ん?これは……?」
手にとって見てみると、それは動物の体毛らしきものだった。
昼休みにベジータと笹塚にシメられたときにでも付いたのか?と思ったが、どうやらそうではないみたいだ。
その体毛は金色をしていて、明らかに人間の髪よりも長かったんだから。
「げっ…こんなのいつついたんだよ……」
特に公園で犬とじゃれあった…とかはないんだけどなぁ…
はっ!もしかしたら雪華綺晶さんと喋ってたときにもついてたのかも!?
もしそうなら恥ずかしすぎる…気付かれてなきゃいいなぁ…
………とりあえず捨てとこう…気持ち悪いし。

「ジュンー!ご飯まだぁー?」
おっと、どうやら式神様はお腹を空かせているご様子だ。さっさとご飯にするか。


ジュンが部屋に行ってからも、私は先ほど感じた違和感を拭いきれずにいた。
ちなみに服はジュンがここを出てすぐにいつもの巫女装束に着替えた。私にかかれば服なんて指を鳴らすだけで一瞬で着替えられる。
それにしても……さっきの臭いはヤツ特有のモノ…だからヤツがジュンに近づいたとした考えられないんだけど……
「でも…ヤツは確かに私が昔あの人と一緒に倒したあとに封印したはず…だったらどういうこと…?」
しかも明らかにケモノのものと思われる臭いも感じた。それも相当凶暴な。
「ジュンはそれほど気にしていない様子だったけど……念のためにアレを持たせようかしら…?」
果たしてアレが今のジュンに使えるかどうかはわからない…しかし、あの人もジュンと同じくらいのときには既に使えていた。
あの人と全く同じ霊力を持つジュンなら、使うことも可能なはず……

きゅるるるる………

「………お腹空いたわねぇ…」
…真剣なことを考えているときに空腹を感じるなんて…それもこれもジュンのせいだ。あの子が美味しい食事を作ってくれるから、いつもこのくらいの時間になると空腹を感じてしまう。
「ふふっ、昔は空腹なんてあまり気にならなかったのにねぇ…」


そういえばジュンは二階にあがったっきり降りてこない。いつもなら着替えてさっさとご飯を作ってくれるのに。
全く…私を待たせるなんてどういうつもりなのかしら?
「ジュンー!ご飯まだぁー?」
二階に向かって大声で呼んでみる。

返事はすぐに返ってきた。
「すぐ行くから待ってろー!」

ふふっ、今日は何を作ってくれるのかしら?
アレについては夕食が終わったあとにジュンに話すことにしよう―――

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