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――二〇一〇年十月二十五日 六時十分 大河原上空八〇〇〇メートル―――


……寒い……


 操縦桿を握る彼女の手が微かに震えていた。
現在の高度は約八〇〇〇メートル。見上げるだけなら優しく美しい空も、この高さにもなれば極寒と強風が支配する死の世界に変貌する。
当然空気も薄く、生身で居ればあっというまにあの世行きだが、パイロットスーツを着こんでコックピットの中に居る限りはなんの問題もないはずだ。
だったら、この身を切り裂くような冷たさは一体なんだ?
機体がおかしくなったのか? それとも、己が心中に秘めたる空しさが、冷気となって外に漏れ出したのか?
キャノピーの向こう側には色違いの翼で同じ空を行く姉妹の姿。あの子達もこの寒さを感じているのだろうか?


――こんなところからは早く抜け出したい……


が、そんなことは出来ない。出来る筈がなかった。なぜなら……
 
 HUD――前方視野内表示装置――に映された二十以上の緑のマーカー。
戦に破れて剣折れ矢つき、傷だらけの体を引き摺って帰路を行く彼等にトドメをさせという父からの命令。
その愛すべき父のために戦い続け、この戦争の勝利を捧げること。
それが彼女を戦場に押し止めている理由だった。

「空中管制機『アズラエル・アイ』より――隊へ。方位そのまま、敵機エンゲージにそなえて各機攻撃体勢を取ってください」


 遥か上空にぽつんと浮かぶ親鳥からの言葉に、幾多の死闘を潜り抜けてきた彼女と姉妹の体は機械のように動き出す。


「ホーリエより味方機へ。全兵装使用許可。戦闘用意」
「レンピカ了解。対空戦準備。XMAAスタンバイ」
「スィドリーム、兵装選択完了。でもXMAAの残弾は一発しか残ってないですぅ」
「それは皆同じよスィドリーム。あ、ピチカートも準備完了かしら」
「クラインよりホーリエへ。戦闘補助AI異常なし。敵からの電子妨害皆無。即時臨戦体勢可能ですわ」
「うゆ……ヒナ……じゃなかった、ベリーベルも兵装チェック完了。いつでもいけるの」


 互いをコールサインで呼び合い、簡素で事務的な会話を続ける姉妹達。
通信機からの声がいつもよりも淡々としているのは、戦いにそなえて余計な考えを遮断しているからだろう。
確かにこれからの事を考えたらそれが一番かもしれない。
だが、彼女だけは必死で別の事を考え続けていた。


 家族であり戦友である姉妹の事、敵国となった日本の事、祖国にいる父の事、そして――今でも愛している『彼』の事を。


もし考えることをやめてしまうと、瞬間、辺りに漂う寒気に心と体を食いつくされ、彼女は戦闘機を構成する部品の一つに……
……もしくは人形に。
自らの意思はなく、父のために生き、父のためだけに戦い、父の命令であれば喜んで姉妹と殺しあうような人形に成り果ててしまう。
人形になったほうが楽になれるかもしれない。
でも、そんなことをしたら私は、『彼』に会う権利をなくしてしまう。
戦争とは言え、大勢の人を殺めてきた咎人が『彼』の隣に立ちたいなどとは思ってはいけないかもしれない。
けど……だけど……せめてもう一度、一目だけでも『彼』に会いたい。
だから彼女は考える。震える掌で操縦桿をぎゅっと握り締めて考える。


――『私は人形なんかじゃない』と。

 
「目標を射程範囲内に捕捉。いつものパターンでいきましょう。相手は手負い、落ちついて戦えば負けることはないのだわ。いいわねメイメイ」
 メイメイと呼ばれた彼女はなにも答えない。
沈黙を肯定と捕らえた紅の機体を操るホーリエは全ての翼に命令する。
「では行きましょう。全てはお父様のために……ホーリエより各機……槍を放て!」
 ターゲットロックオン。彼女達は一斉にミサイルを敵の編隊に向けて撃ち込み、フルブーストで降下した。


――今、日ノ本の空に七色の翼が舞い踊る。



―ACE COMBAT ROZEN THERevenger 『第六話 レインボゥ』―


―――二〇一〇年十月二十五日 六時四分 大河原上空三〇〇〇メートル―――


「ハヤブサよりタカノメ。作戦は失敗した。これより帰還する」 
「こちらタカノメ。今日のことは残念だったな。現在の方位を維持しつつ帰還せよ。必ず全機を帰還させろ」


「了解」と答えてハヤブサと呼ばれた男は、タカノメ――福島航空師団戦闘指揮所のコールサイン――との通信を終えた。


……どれほど時間がたったのだろう。どれ位たったのかもわからない。
もう、何時間も空を飛んでいるような感じだったが、時計を見れば作戦開始から五分くらいしか経ってなかった。
あれから五分。
あの戦いからやっと五分たったのだ。思い出すだけでも吐き気がする。
忌まわしい……戦いとは名ばかりの虐殺からやっと……。
愛機のF-25隼のシートに持たれかかり、男は唇を噛み締め無言でHUDを睨み続けていた。


 男は、北部航空方面隊所属、第八航空師団飛行第六四戦隊第三小隊長、山本学少尉。二十三歳。
愛機の名称からもわかるように、彼は空軍ではなく、旧日本陸軍航空隊の後継者『JDA』の戦士に他ならない。


 十月十一日午前零時。アビス艦隊の仙台入港から敵の総攻撃を予感した陸軍は、敵艦隊撃滅を目的とした茜作戦を発動。
JDA新潟航空基地の飛行第二四戦隊第一中隊(F-5烈火×八)に出撃を命じた。

軍部は少数精鋭による夜間奇襲でこれを撃滅する算段を立てていた。
ところが、これを事前に察知していた直掩隊に猛攻撃をかけられ、第一中隊はわずか一分足らずで全滅した。
陸軍は、今度は二十日に飛行第二四戦隊第二、三中隊総勢十六機(F-5×八、F-25×八)を送り込む。
海軍も陸軍と共同作戦を取り、潜水艦『やえしお』と『きりしお』が湾内奇襲を行った。
エイリス側は魚雷の直撃により戦艦一隻が中破したが、海軍は虎の子の潜水艦二隻を失い、JDAも十六機中十三機を失った。
それでも敗北を認めない上層部は二十五日早朝、『作戦の王様』こと辻本信政大佐の立案した作戦案に基づき同艦隊への第三次攻撃を決行した。
 

 攻撃の中心となったのは、山本達が属する福島基地の飛行第六四戦隊。
この飛行戦隊は、隊長の加藤武雄中佐を初めとする多数のエースと四十二機のF-25で編成された最精鋭の戦闘機部隊だ。
エイリス軍の東北上陸以降、戦死者の増加や熟練隊員の引抜きも相まって弱体化が進み始めたものの、軍部の評価は今だに高く、
今次作戦においても充分な戦果を期待されていた。


 今回の任務は困難かつ危険なもので、生還率も低かったが、山本達は決して臆してなどいなかった。
なんといってもF-25隼は、日本が航空優勢をエイリス軍から奪回する為に、
結菱重工がSu-27をベースにノースオーシア・グランダーIG社と共同で開発した、現時点でJDA最強の最新鋭戦闘機だ。
その機動性は、空軍のF-15JやエイリスのMiG-29を完全に上回っており、電子機器も第一線級のものを装備している。
それに加えて、常日頃から彼らの支えとなっているもの。
戦闘機乗りとしてのプライド。六四戦隊の一員としての誇り。それが彼らの原動力となっていた。
戦隊の誰もが信じていた。
数々の修羅場を潜り抜けてきた俺達がエイリス軍に負けるはずはないと。


……結論から述べてしまうと、ここで長々と解説した山本達の決意もF-25の性能も、アビス艦隊には通用しなかった。

勝利を誓って仙台へ赴いた彼らを待っていたものは、敵航空隊の先制攻撃と対空砲火の雨霰。
網の目のように張り巡らされたレーダー網により第六四戦隊の接近を察知したエイリス軍は、迎撃態勢を整え磐石の態勢で山本達を迎え撃ったのだ。

奇襲は失敗。結果は敗北。
この一方的な戦いの末、第六四戦隊は数多のパイロットを喪失。山本の上官は全員戦死。
加藤隊長も『あの航空隊』との死闘を演じた後、主翼をもがれて海面へ突入自爆。
生き残った機に出来たことは、無様に逃げ戻って日本側の敗勢を明確にすることだけだった。

 残存機数は二十二機。そのほとんどは機体の損傷によりただ飛んでいるだけといった状態であり、戦闘力はほぼ〇に等しく、編隊を組むこともままならない。
今、山本達は基地からの出迎えである二機の偵察機――RF-5梟――に先導されて福島への帰路についていた。


「どうしてこんなことに……」
 通信機から届いた女の呟きが山本の耳を打つ。
声の主は、自機の左側を並行して飛ぶ山本のパートナー、桑田由奈軍曹。
陸軍で軍曹といえば強面の古参兵を想像しがちだが、パイロットの全てが士官・下士官のJDAでは事情が異なり、
下士官は二十代前半から十代後半の若者が大半を占めている。
彼女もまた、今年の初めに陸軍航空学校を卒業し、先月この部隊に配属されたばかりの新米である。 


「死んじゃった……加藤隊長も……皆……小隊長、なんで皆は死ななきゃいけなかったんですか?」
 今にもわんわん泣き出そうな湿った声。
正直言って鬱陶しい。そんなのでよくあの戦いを生き残れたものだ。
山本は抑揚のない戦闘機乗りらしい声で「仕方ないだろう。これは戦争なんだから」と答えた。

「俺達は軍人なんだから、上から命令が下ればどんな無謀な作戦でも全力で戦わなきゃならない。当然だろ? 加藤隊長もそう思っていたはずだ」 
「でも……そんなの私には……」
「納得できないか?」
 通信機の向こうで桑田が頷いたような気がした。


「納得できなくてもするんだよ。今日のことをいつまでも引き摺ってると次はお前が死ぬんだぞ」
 山本の言う通り、仲間の死や敗北を克服できない者ほど死傷率が高かった。
「敵を恨むなとは言わないし、悲しむなとも言わない。だけどそういう感情は戦場には持ち込むな。心の中にしまっておけ……死にたくないならな」
「……わかりました」
 暗い声でも、桑田はハッキリとそう言った。
「それでいい」と応じた山本はそのまま通信を切る。


(やれやれ、早く感情のコントロールを出来るようになってくれないと……)


 山本は首を軽く回して気を紛らわせる。
感情に身を任せては冷静な判断が出来なくなる。つねに周囲に気を配らないと行けない空戦でそれは致命的だ。
 そうしているうちに部隊は大河原上空を通過した。ここを抜ければ福島基地は目と鼻の先。
ここまでくれば安心だ。山本はホッと胸をなでおろす。
敵機にロックオンされたことを伝えるレッドアラートが鳴り渡ったのは、その瞬間だった。


「…………っ!」
 背筋にゾクッと悪寒が走り、レーダーに視線を向けると、ミサイルを現す白い点が自分達に猛然と接近するのが見えた。
「各機散開!」
 酸素マスク内のマイクに怒鳴りつけ即座に回避行動。散開する味方編隊。回避が遅れた四機が火達磨になって墜落する。
 しかしレーダーにはミサイルを放った敵機の姿は映らない。


「どうしたハヤブサ、何が起こった」
「敵からの攻撃だ! 俺たちは狙われている」
 タカノメからの問いかけに怒鳴り散らす山本。
「敵機だと? しかしこちらにはなにも映ってないぞ?」
「ステルスだ! たぶんあいつらは……」
 そこまで山本が言ったとき、無線に桑田の悲鳴に似た声が割り込んだ。
「小隊長! 敵が上から突っ込んで」
 きます。と最後まで聞かないうちに、前方に居た偵察機が急降下した敵機によってバラバラに砕け散った。
 奇襲を仕掛けた戦闘機隊は、偵察機の爆発を背景に急上昇。
それは、機体の色が紅、黄、翠、蒼、白、黒、桃、の七色に分かれた七機の戦闘機隊。目視は出来ているのに、レーダーには映らない。
山本は、突風のようなその姿にしばし呆然と見惚れていた。


 七色の戦闘機……この技量……そして完璧なステルス性能……間違いない!


「レ……レインボゥ!」


 レインボゥ……現時点世界最強のステルス戦闘機F-22ラプター七機で構成され、薔薇学園の悲劇を引き起こしたエイリス空軍最強の航空部隊。
 戦隊のほとんどが最悪の追手の姿を確認した瞬間、微かに残っていた彼等の士気は完全に崩れ落ちた。 


「危険だ、アドラー7!敵機に追尾されている。左に急旋回して離脱せよ」
「アドラー7りょうか……うわああああ!」
「なんだよあいつらぁ! もう見逃してくれてもいいだろぉ!」
「くそぉ! あんなふざけた機体でよくもぉぉ!」
「た……助けて……母さん……」


 追尾されていることに気付かずに撃墜される者。悲鳴を上げて逃げ惑う者。
立ち向かおうとして撃墜される者。戦意を喪失し、現実から逃避する者。
もはや味方は総崩れとなっていた。


「戦隊各機、会敵せずに全速力で基地に帰還するぞ! いいか、絶対にここから生きて帰るんだ!」
 今や隊の最先任士官となった山本が全機に命じ、左手に握られたスロットルを引く。
アフターバーナー点火。ドンッと何かに弾かれたかのように急加速するF-25。
眼球を押し込む凄まじいGが山本の体を軋ませる。次々に機首を翻して残りの味方も逃げていく。


「スロットル全開! 高度を捨て速度を上げろ!」「奴らに近づくなッ! 助けられんぞ!」
「接敵するな! 逃げろ、逃げるんだ!」「ミサイルは全部捨てろ。機体を軽くすれば逃げられる!」

 必死で逃げるJDA機。予備燃料や弾薬まで捨てて速度を上げる。
 投棄されたミサイルによって、眼下の街にドォン、ドォンと爆火が上がる。
 しかし、速度を上げてもスーパークルーザー(超音速巡航戦闘機)であるF-22は徐々に距離を詰めてくる。
 そして、損傷で加速のおぼつかない機体から撃墜されていく。
 次々となぎ倒され、堕ちていく仲間たち。 
 それはもう戦いなどではない。ただの、虐殺だった。


「もうダメです。こんなの……」
 桑田の悲痛な声が聞こえた。
「仲間があんなにやられてるのに……こんなふうに逃げるだけなんて、我慢できません」
「っ! ハートブレイカー、何を考えている? 助けに戻ろうってのか? 無茶だ、死にに行くようなもんだぞ!?」
「だけど仲間が死んでるんですよ!? いっぱい死んでるんですよ!? それなのに小隊長はなにもせずに逃げろって言うんですか!?」
「だからって、隼じゃラプターには勝てない。ここは堪えて逃げてくれ」
「私は……もう仲間が死ぬところなんて見たくありません!」
 山本は必死に呼びかける。しかし彼の言葉は、相次ぐ仲間の死に冷静さを失っている彼女にとどかない。


「ダメだーーーーーっっ!」
 桑田はそのままUターン。彼方から追撃をかけるF-22にミサイルを放った。
 しかしロックオンできない状況で放出されたミサイルは明後日の方向に飛んで行く。
「もう、誰も死なせない!」
 無線がつけっぱなしになっているのか、通信機から桑田の声が響いた。
 助けることも、説得することも出来ずにただ呆然と彼女を見送る山本。


 仲間が次々と撤退して行く中、突出した桑田機目掛けて視野の外からミサイルが殺到する。
必死の思いで回避していくも、一方的にロックオンされミサイルを撃たれまくり、たまたま視界内に機影とらえても肝心のロックオンが出来ず、
機関砲を使おうにも高機動力で振り切られ、また視界外からのミサイル攻撃。
機体性能にもパイロットの技量にも天と地以上の差がついている以上、彼女に勝ち目はない。


 そのとき、彼女のキャノピー脇にあるバックミラーにキラリと何かが光った。
確認した桑田は愕然として目を疑った。
そこにあるのは彼女を取り囲みつつある二機のF-22の姿。
左右からは『蒼』と『翠』のラプターが迫りつつあり、見上げると上空からは『黒』のラプターが急降下する。
 『蒼』と『翠』からミサイルが一斉に放たれた。
鈍い爆発音と共に桑田機は主翼を吹き飛ばされてきりもみ状態になって堕ちていく。
上空から迫る『黒』のラプター。翼を失った彼女はもう回避することも出来ない。

「……っ」
桑田は自分の死を自覚した。
黒い猛禽から吐き出された銃弾は、寸分違わずコックピットに打ち込まれ、機体をバラバラの鉄片に、彼女の体をひき肉へと変えていく。
すっぽりと黒煙に包まれた機体は徐々に高度を下げていき、
数秒後、桑田由奈は、機体と共にオレンジの光に飲まれて、この世から永遠に消え去った。

「桑田ああああああぁぁぁぁぁぁぁっっっ!」
 山本は絶叫した。声の限りに絶叫した。
桑田への攻撃を最後にレインボゥは追撃を諦め、あっというまに消え去った。
最初の攻撃から二分足らずの出来事。アラートも聞こえなくなり、速度を抑えても攻撃はない。
山本は、やっと自分達が虎口を脱したのだとわかった。


 仙台攻撃から今までに生き残ったのは四十二機中わずかに九機。
ほんの十数分前までは基地で笑いながら語り合っていた仲間達が、なんの戦果も上げぬまま散っていったのだ。
ここに、最強と呼ばれた第六四戦隊は事実上壊滅した。


「ちくしょう……」
 奴らに対して、俺はここまで無力なのか。俺が今までやってきたことは一体なんだったんだ。
 敵に嬲られている桑田に何も出来なかった悔しさ。
助けに行ったら死ぬだけだと言い訳して何もしなかった情けなさ。
色々な感情が込み上げてきて、山本の視界をじわりと滲ませる。
「加藤隊長……桑田……皆……ちくしょう……ちくしょう……」
「ハヤブサ、早く状況を報告しろ。どうした? 返事をしろハヤブサ」


タカノメからの通信音声に答えることなく、山本の声にならない叫びが大空に吸い込まれていった。


―――――――――――――


「ん~皆さん上出来です。ローゼン閣下もさぞやお喜びになるでしょう。では、帰還してください」


 空中管制機『アズラエル・アイ』からの称賛にも耳を貸さず、彼女は一度深呼吸してから空を仰いだ。
 戦いは終わった。でも、これでまた何人の命が空に散っていったのか。
ドッグファイトという名の日本機狩り。単機で向かってきた日本機への集団リンチ。
自らのことだが、思い出すだけで反吐が出る。
人間が作り上げた大空の征服者。戦闘機。悪魔のように真っ黒なこの機体。
何故私はこんなものに乗って戦争なんかしてるんだろう。『彼』が大嫌いだった戦争を。
……そう……全ては父のために……だけど……私は……


「……イ……メイ……メイメイ。応答しなさいメイメイ」
 無線からの聞きなれた声に、彼女は紅い双眸を細めて「聞こえてるわよ真紅ぅ」と答える。
「任務中は本名で呼ばないで。それより貴女は無事なのね? 機器に不調は無い? 後は貴女だけなのだわ」
「別に大丈夫よぉ。怪我も無いし、ちゃんと何機か堕とせたから問題ないでしょう」
 心底面倒くさそうに答える彼女。
「―――っ、ふん……だったらいいわ。他の子達にも異常はないから早く帰りましょう。いいわね水銀燈」


――貴女も本名で呼んでるじゃなぁい。


 了解と言う気にもなれず、隊長機である真紅にジッパーコマンド(通信機のスイッチを二回押して了解を示す方法)で応じ、
そのまま彼女――


――エイリス空軍第一航空師団第一戦闘飛行隊『メイデン隊』所属、水銀燈・M・ローゼン中尉――


は命令に従い、機体を旋回させる。
昇り往く太陽をバックに、七色のF-22は紺碧の空に白い航路を描いて巣へと戻って行く。


「ジュン……私は……でも……」


 狭いコックピットの中では、『彼』への呵責に悩む水銀燈の葛藤が何時果てるともなく繰り返されていた。



続く


次回


―ACE COMBAT ROZEN THERevenger 『第七話 メイデン隊』―

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