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涙は枯れた
感情も無くなった
声も失った
あるのはあなたに捧げる最期の欠片…

『寒空の下に咲き誇る雪の華』

200X年大晦日
少女は病院で歳を越す予定だ
少女は病に侵されていた、原因不明の病
直る見込みは無く、人間らしさが一つ一つと消えていくのだ
雪華綺晶は長い間この病気と闘っていた

ジ「やぁ」
雪「…やぁ」
ジ「気分はどう?」
雪「…気分はどう? …最悪」
ジ「えっ、なにかあったの?」
雪「ジュン、約束の時間、10分遅れた…」
ジ「あっ、ゴメン!」
雪「…でも来てくれた。嬉しい」

二人は中学からの知り合い
高校に入ってからは恋人となった
高校2年の春、雪華綺晶に症状が現れ始めた


最初の症状は涙が枯れることだった
愛犬の死に対して涙が出なかったのだ
彼女はその事実に酷くショックを受けた
どうして泣けないのか?ずっと自分を責めてきた

そして、嗅覚が消え、味覚もおかしくなった
クリスマス前には喜怒哀楽のうち、怒哀の感情を失った

雪「もう、来年…」
ジ「そうだね。1年後は受験生だ」
雪「私、看護師さんになりたい」
ジ「一杯勉強しなきゃね」
雪「…うん」

何故だかわからないが、ジュンは雪華綺晶の病気がそれほど重いものには思えなかった
事実、少しずつ人間味を失っていく雪華綺晶がいて
後数年もすればただの抜け殻になってしまうことが予想されるのに…
それでも、来年も再来年も雪華綺晶は雪華綺晶のままであると思っていた


年が開け、1月2日にジュンは再び病院を訪れた

ジ「やぁ」
雪「…」
ジ「どうした?」
雪「…」

彼女は”声”を失っていた
大晦日にジュンが帰った直後だった…
最期に交わした言葉は「いいお年を」「…いいお年を」
ジュンはそれでも焦らなかった
直ると思っていたわけではない
むしろ、症状が酷くなってきている事を自覚していた

ジ「耳は聞こえるだろ?」

雪華綺晶は黙ってうなずく

ジ「今日ね、学校で水銀燈が男とキスしてるの見ちゃった。
  もう次に乗り換えたんだな。今度は何時まで続くか…。」

肩を竦め、可笑しそうにジュンが笑うと雪華綺晶も微笑んだ
口が動いているが声は届かない
でも、微笑んでくれている雪華綺晶がいる
彼女の微笑みは雪の花弁のように儚く、微かだ
だけれども、眼を凝らせば世界一の微笑になる


一ヵ月後
とうとう彼女は感情のすべてを失った
ただヒトという塊が動いているだけだ
そこには何の人間性も感じない
ジュン以外の人間には

ジ「今日は期末テストだったんだ、また数学赤点かも…」
雪「…」

ジ「今日は卒業式、来月になったら3年生だね」
雪「…」

ジ「明日はとうとうセンター試験だ! 夏にもっと勉強しとくんだったよ…」
雪「…」

ジ「僕近くの大学に決めた! この病院の近くにアパート借りたんだ♪」
雪「…」

ジ「僕達付き合い始めてから3年目だ! ほら、プレゼントの指輪だよ」
雪「…」

来る日も来る日もジュンは話し続けた
雪華綺晶は失える物はすべて失っていたのに
周囲のヒトはジュンもおかしくなってしまったと避けていた
それから数年が過ぎた…


ジ「ねぇ、雪華綺晶…。僕達そろそろ、あの、け、結婚いてもいいんじゃないかな?」
雪「…」
ジ「真面目だよ、大真面目! 君が病気でも、君に変わりはない…。」
雪「…」
ジ「…そろそろ返事してくれよ。さすがに辛いよ…」

ジュンが思っていたことは勘違いだったのか
そう思うとジュンは涙を抑えきれなかった
数年分の、雪華綺晶を失った悲しみが涙となって流れ出した

ジ「本当は、君を失うことが怖かったんだ。僕は強がっていたんだ…」

初めて声を上げて泣いた
涙はとめどなく流れ、外に降る雪と相まってジュンの心から熱を奪う

綺麗な綿雪は大地に降り注ぎ
結晶を作って冬に華を咲かす
綺麗な華は、そう、まるで少女のよう…


雪「…ジュン」
ジ「!?」

耳に久しい微かな声

雪「いっぱい話してくれた。…指輪。ありがとう…」
ジ「き、雪華綺晶!?」

どれほど待ち望んだか…

雪「?」
ジ「話せるのか!?」
雪「…うん。待たせた♪」

久々に聞く彼女の声
世界一の微笑みは、世界一の笑顔で戻ってきた…

雪「…結婚、喜んで!」

~fin~

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