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あの日から数日…僕は物の怪に命を狙われるということもなく、いつも通りの日常を過ごしていた。

「相変わらずお前の弁当は美味そうだなぁ桜田…なぁ笹塚?」
「うん。しかも自分で作ってるんだっけ?」
「まぁね。でもお前らだって一人暮らしが長いこと続けば自然と出来るようになるよ。アメリカに一人ぼっちで放り出されたら自然と英語が身につくのと同じ」
そんなわけで今は昼休み。
僕は友人のベジータ、笹塚と一緒に弁当を食べている最中だ。
「そんなこと言って…実は薔薇嬢に作ってもらってるんじゃないのかぁ?くぁー…幼なじみってのはいいもんだなぁオイ!」
ベジータがニヤニヤしながらこづいてくる。
「ち、違うっての!ま、まぁ確かに薔薇水晶は料理上手いけどさぁ…」
すると笹塚が顔をしかめて割り込んできた。
「む…なんで桜田は薔薇水晶さんが料理が上手いことを知っているんだい?」
「え…だってたまに晩御飯作ってもらうし」
「なにぃ!?それってもう完全に『恋人』じゃないかっ!?」
「怪しいとは思ってたけど…やっぱり…この裏切り者っ!」
「はぁ!?何言ってんだよ!?僕と薔薇水晶はそんなんじゃないって!」


「この後に及んでまだそんなことを言うのか!オイ笹塚!そんなヤツはどうしたらいい!?」
「殺せー!」
「ちょっ…ぐえっ!?」
笹塚の叫びを合図にバカ2人が飛びかかってきた。
抵抗できない間にベジータにヘッドロックをかけられ、笹塚には逆エビ固めをきめられる。
「…い、痛いっての…やめろバカっ!!」
「問答無用っ!」
「モテない男たちの怒りを受けろっ!」
な、なんて理不尽な…
「ぐぇぇ…ギブギブギブ!!!」


「あのバカたちは何をやってるのかしら…」
ベジータ君と笹塚君にもみくちゃにされているジュンを眺めていた私の数少ない友達の1人である真紅が冷ややかに言う。
「…ま、まぁいつものことだし…」
「それもそうね…ところで薔薇水晶」
一転、さっきのベジータ君のようにニヤニヤしだす真紅。
「…な、なに?」
「貴女…本当にジュンとは何もないの?」
うっ……痛いところをついてくるなぁ…た、確かに私はジュンことが…そ、その……好き…だけど…


「…な、何かって…?私たちはただの幼なじみで…」
「ふふっ…そういうことにしといてあげるわ」
あからさまに挙動不振になった私を見て吹きだす真紅。
「…だ、だから」
でもね。と急に真剣な顔になる真紅。
「自分に素直にならなきゃ…いつか誰かに奪われちゃうわよ?」
「…う…」
そんなのわかってる…わかってるけど…
「まぁじっくりいきなさいな。焦ってもいいことなんてないわ」
「…うん…ありがとう真紅」
「わ、私は別にっ…」
素直にお礼を言うと、たちまち名前のように真っ赤になる真紅。それを見て自然と笑顔になる私。
普段クールなこの子のこんなとこが可愛いんだよねぇ…
「なっ、何を笑ってるの!?だいたい貴女は……」
文句を言おうとしていた真紅が、再びジュンたちの方へ視線をやる。
「…どうしたの真紅?」
彼女の急な変化に驚き、私も視線を移してみると、1人の女子生徒がジュンたちに近づいていくのが見えた。


「うふふ…楽しそうですわね」
上からいきなり声をかけられた僕を含めた野郎3人は、一斉に声のした方に視線を動かした。
確かこの人は…
「えーと…雪華綺晶さん…どうしたの?」

雪華綺晶さん…腰まである白くて美しい髪と柔らかく上品な物腰が特徴の、まさに『お嬢様』と呼ぶにふさわしい人だ。実際彼女の親はこの辺りでも有数の大金持ちで、その家はどこぞの国の宮殿並にでかいとらしい。
ちなみに彼女には一つ伝説がある。
なんでも…ある日彼女は遅刻しそうになったとき、遅刻ギリギリの時刻になんとでっかい白馬にまたがって登校してきたというのだ。
その姿はとても優雅で美しく、それを見た他の生徒たちが『歩くヴェルサイユ宮殿』と名付けたほどだったらしい……その雪華綺晶さんの方から僕たちに話しかけてくるなんて…どうしたんだろう?

「えぇ。少しジュン様とお話したいなぁと思いまして」
天使のように優しい顔でにっこりと微笑む雪華綺晶さん。
あぁ…貴女は本当に天使のようだ…
ん…?ちょっと待てよ…僕の聞き間違いじゃなければ彼女はさっき…
「ぼ、僕と話を?」


「えぇ。一度貴方とゆっくりお話がしてみたかったんですの」
にっこり。
「え…あ、あの…」
急激に顔が赤くなるのを感じる。そりゃそうだ。学園1,2を争う美女に笑顔を向けられたんだから、ドキドキしないハズはない。
しかも今は先ほどからポカーンとしているベジータと笹塚に床に押さえ付けられていたため、自然と雪華綺晶さんを見上げる形になる。短いが上品に感じられるスカートからこぼれる雪のように白い脚から…その…彼女の聖少女領域が…

「…白」
あ、ヤバい…口に出ちゃった…
「きゃっ//」
僕が発した言葉の意図に気づき、慌ててスカートを押さえる雪華綺晶さん。真っ赤になった顔と恥ずかしそうに潤んだ瞳が格別に色っぽい。
「あ、あの…ジュン様…そんなにジロジロ見ないでください…//」


「あっ…ごっ、ごめん雪華きし「ガスッ!」あべしっ!?」
「じゅ、ジュン様っ!?」
「だ…誰…が……」

薄れゆく視界に映っていたのは、今起こったことが理解できずにただオロオロしている雪華綺晶さん、何故か僕を睨んでめちゃくちゃ怒ってる薔薇水晶、そして頭の横に転がっている英和辞典だった。
あぁ…そういえば昼休みのあとは英語のリーディングの授業だったっけ…と思いながら、僕の意識は落ちていった。


次に目を覚ましたときに見えたのは、白い天井と気持ちよさそうに眠っている雪華綺晶さんの顔。しかもなんか頭にやわらかい感触…こ、これはまさか…
「えーと……これはどういう状況なのかな…?」
確か僕は昼休みに教室で…
「いったぁ……」
途端、頭に劇烈な痛みが響く。同時に先ほど何が起こったのかを瞬時に理解した。
「いたたた…薔薇水晶のヤツ…なんであんなもん投げるかなぁ…」
全くもってわけがわからん。
…それにしても……
「くー…すー…」
「よく寝てるなぁ…」
苦笑しながらその長く綺麗な髪に触れようとしたとき、
「ん…ふあ……あ、ジュン様おはようございます」
にっこり。
どうやら眠れる森の姫はお起きになったご様子。とりあえず挨拶を返そうか。
「お、おはよう雪華綺晶さん…ところで…なんで僕が君に膝枕されてるのか説明してほしいなぁ…なんて思ってるんだけど」
「えぇ。ジュン様が気絶されたので、私が保健室に運ばせていただきました。それでジュン様ったらあまりにも気持ちよさそうに眠ってらっしゃいますので、可愛いなと思って膝枕させていただきましたの♪」


「そ、そうなんだ…あっ!授業はどうしたの…?」
「えぇ、サボりました♪」
まるでイタズラが成功した子供のように舌をぺろっと出して笑う雪華綺晶さん。
なんだ…こんな表情もできるんだ。
「は、はぁ…雪華綺晶さんって意外と大胆なんだね…」
「ふふっ…よく言われますわ」

それからしばらくの間、僕と雪華綺晶さんはお喋りをして時間を過した。
話題に合わせてコロコロと変わる彼女の顔を見るのがなんだが嬉しくて、友達のことや恥ずかしかった体験など、時間を忘れて喋り通した。

キーンコーンカーンコーン…

「あら、もう授業が終わってしまいましたわね…」
「あ、うん。そうだね。じゃぁそろそろ教室戻ろっか。よっ…くぁっ…」
ベッドから降り、伸びをする。うん、もう頭の痛みも消えたな。
「ジュン様」
保健室を出ようとしてドアに手をかけると、未だベッドの横にいる雪華綺晶さんに声をかけられた。
「ん?何?」
「今日はジュン様と話せてとても楽しかったですわ。本当にありがとうございました」
「あー…うん。僕も楽しかったよ」

「それでジュン様…もしよかったら明日の放課後にもう一度…今度は屋上でゆっくりとお話したいですわ」
「明日の放課後?」
今日じゃダメなの?と言いたかったが、「(いや、何か用事があるんだろう)」と思い、口に出すのはやめた。
「うん、全然いいよ。雪華綺晶さんみたい美人さんななら大歓迎だよ」
「ふふっ…そう言ってもらえたら嬉しいですわ」
「ははは。じゃぁ教室行こっか?」
「あ、私まだ少し眠いのでもう1時間寝ていきますわ」
「あ、あははは……じゃぁ先に戻ってるね」
「はい。明日楽しみにしてますわね」
「うん、僕も。じゃぁね」


ジュンが出ていったあと、残された雪華綺晶は不適な笑みを浮かべた。
「本当に楽しみですわ…『櫻田』の末裔さん」
そして何もない虚空を見上げると、まるで誰かに話しかけるように言った。
「ねぇ、『貴方』も楽しみでしょう?ふふっ…ふふふふ……あははははっ…!」
誰もいない保健室に、雪華綺晶の笑い声だけが響いていた―――


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