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私は今非常に機嫌が悪い……何故かって?
人をあれだけ心配させた幼なじみが、玄関先で女の人と抱き合ってなんかいたら機嫌も悪くなる。
そんなわけだから、今私は幼なじみの桜田ジュンを桜田家のリビングに正座させて、無言で睨んでいる。
辛そうな顔をしかめ、ときどき「うっ…くぁ…」なんて声を出しながら足をよじっているけど、まだまだ解放なんてしない。ちょっとかわいそうだけど、これくらい当然だよね。

さて、ジュンはもうしばらくこのまま放置しておくとして……問題はこのヒト。
着物を着てる…んだよね。でもこの現代に着物?
まぁ最近は和風が流行ってるからね…でも寒くないのかな?
しかもよく見たらかなりの美人。
…やっぱりジュンはこんな感じの大人っぽい人が好みなのかなぁ……?

不意にその女の人と目が合った。あちらもなんだかこちらをじぃーっと見ているようだ。
「…なんですか?それ以前に…貴女誰ですか?」
当然の疑問を口にする。
「私ぃ?私は水銀燈よぉ~」
ニコニコしながら右手を差し出す水銀燈さん。私も右手を差し出し、握手をする。
「貴女は?」
「…私はジュンの幼なじみの薔薇水晶です」
「薔薇水晶ね。わかったわぁ」


「…水銀燈さんはジュンとは一体どういう関係なんですか?」
やっぱり恋人…なんだろうか…?
するとこの美女はとんでもないことを口にした。
「ジュンは私のご主人様よぉ」

ピシッ!


ヤバい…空気が凍る音が聞こえた…
薔薇水晶は握手をした態勢のまま、文字通り固まっている。
コトの現況の水銀燈は「あれぇ~?どうしたの~?」などとぬかしている。お前はこの状況のマズさがわからんのか!?
しばらくして「ギ・ギ・ギ……」という擬音が聞こえそうなほどゆっくりと動きだす薔薇水晶。
こちらに向けられたその瞳からは明らかな殺意が感じられた。
これはマズイ…逃げるか?
そう思って素早くその場からエスケープしようとしたのだが…
「~~~~~!!!!」
しまったっ…正座させられてて足が痺れてるの忘れてた…!た、立てないっ……!
そうこうしている間に薔薇水晶がその顔に鬼もビビって逃げ出すほどの微笑みを浮かべて僕の目の前までやってきた。


「ご主人様ってどういうこと?」
ちょっ…セリフの前に『…』が無いっ!?
薔薇水晶さん本気で怒ってるっ!?
「ば、薔薇水晶…さん…?」
「私があんなに心配してたのに、ジュンはこんな綺麗な人に『ご主人様』なんて呼ばせて喜んでたんだ?」
喜んでないって!それ以前に呼ばせてすらないっ!!
そんなことを言っても今の薔薇水晶には無駄なんだろうなぁ…
「い、いや…だから…」
「問答無用」
「お、落ち着け薔薇水晶…」
「反省しなさい」
拳を振り上げ、今まさにその鉄拳を僕の顔面に叩きこまんとする薔薇水晶。
「(もうダメだ…)」
僕が全てを諦めたとき、突然薔薇水晶がその場に倒れこんだ。


「あ、あれ…薔薇水晶…?」
おそるおそる薔薇水晶に近づいてみると、その口からスヤスヤと寝息が聞こえた。
「寝てる…のか?」
いきなり寝ちゃうなんて…一体どうなってるんだ…?
「間に合ったわねぇ…ジュン大丈夫ぅ?」
いきなりのことに首をかしげていると、水銀燈が心配そうに声をかけてきた。


「あぁ…なんとか…って、もしかしてお前のしわざかっ!?」
「そぉよぉ。ちょぉっと記憶をいじって眠ってもらっただけ」
記憶をって…
「ちょっ…お前なんてことを!」
「大丈夫よぉ。30分ほど前から今までの記憶をちょっとあいまいにしただけ。彼女からしたら『寝ぼけちゃったかな…』くらいにしか感じないわ」
「それでも…」
「貴方ねぇ…あのままほっといたら確実にあの子にボコボコにされてたわよぉ?」
「う……」
それを言われたら何も言い返せない…本気で怒った薔薇水晶ならそのくらいやりかねないからな…
「でしょ?感謝なさぁい」
「…はい……」
「お礼は?」
「あ、ありがとうございました…」
「どういたしましてぇ♪」
…なんだか尻にしかれてる感があるのは気のせいか…?
「それで…その子どうするのぉ?」
まるで他人事のようにのたまう水銀燈さん。
薔薇水晶をこうしたのは貴女だってこと忘れちゃいませんか……?


「……ん…」
なんだろう…なんだか体があったかい…
あ…段々視界が開けてきた…
「……えっ…?」
この状況…えぇっ!?私…ジュンにおんぶされてるっ…!?
「あ、起きたのか薔薇水晶」
「…ジュン…なんで…?」
「い、いやぁ……帰ってきたら薔薇水晶がソファーで寝てたからびっくりしたよ…そんでもう遅いし、薔薇水晶を起こしちゃいけないと思って…」
私が…ジュンの家で…?
…そういえばなんだか頭がぼーっとするなぁ……
でもどうしてジュンの家にいたんだっけ…?
それになんか頭にひっかかるんだけどなぁ……なんかこう…
「…巫女さん」
「はい…?」
「…う、ううんっ!なんでもないっ…」
なんで?なんであんな言葉が出ちゃったの?
あぁっ…恥ずかしいよぉ…
「…?まぁいいや」
あー…絶対変な子だと思われたよぉ…なんとか話を変えなきゃ…
「…ね、ねぇ……重くない…?」
「ぜーんぜん。むしろ軽いくらいだよ。ちゃんとメシ食ってるのか?」
あ、よかった…もし『重い』なんて言われたらどうしようかと思った……
「…ちゃんと食べてる」
「そうか。ならいいけどさ。ちゃんと人参も食べろよな?」
「…私もう子供じゃないもん」


「どうだか…うわっ!暴れるなってば!」
「…ジュンが悪い」
「悪かったってば…」
「…もういい…家に着くまで寝る…」
「ん。わかった。着いたら起こしてやるよ」
「…おやすみ」
目をつむるけど、本当は心臓がバクバクして寝られやしない。
もしかしたら気づいてるかな…
…まぁいいか。今はこの幸せな時間を楽しもう…
私は体をジュンに預け、家に着いて起こされるまでそのぬくもりを体に感じることにした。
「(…あったかい)」


「ただいま~…」
薔薇水晶を家に送り届け、自分も帰宅する。
薔薇水晶の記憶が曖昧でよかった…もしあのときのことを覚えてたら確実に殺されてたからな…
「でも…なんか薔薇水晶の様子おかしかったような…気のせいかな?」
そんなことを考えながらリビングに行ってみると、そこに水銀燈の姿が見当たらない。
「メシもまだなのに…どこにいるんだ?」

めでたいなめでたいな
めでたいものはおせんすよ

「ん…?庭から何か聞こえてくる…歌?」

おせんすかなめにいけほりて
いけのしたにたおしつけ

誘われるように庭に出てみると、朧に揺れる下弦の月の光に照らされながら歌を歌っている水銀燈がいた。
楽しげに歌うその姿はとても美しく、それでいてどこか寂しげだった。


そのたにたおしてかるときにゃ
ひとくろかればにせんごく
ふたくろかればしせんごく
みくろもかればこくしらず

僕はその歌に聴き惚れていた。
いや…歌に聴き惚れていたと言うよりも、それを歌う水銀燈の姿に見惚れていた。

そのこめさけにつくして
さけはじょうざけいずみざけ
そのさけいっぱいのんだもんにゃ
まんのちょうじゃとなりそうな
ほんほんえーい
ほんほんえーい


「あら…帰って来てたのぉ?」
「ほえっ…?」
ふいに話しかけられ、すっとんきょうな声をあげてしまった。
「ふふふ…変な声出してどうしたのぉ?」
水銀燈はさっきの僕の反応を見て、おかしそうに笑いながらこっちに近づいてくる。
「う、うるさいな…それよりもさっきの歌…」
「あぁ…あれは『亥(い)の子歌』っていうのよぉ。私が前に仕えてた主人…つまり貴方の先祖がよく歌ってたのよぉ」
いい歌でしょ?と微笑む。
その笑顔にドキっとしてしまい、恥ずかしくなって目を背ける。
「ちょっと…なんで目をそらすのよぉ?」
それがお気に召さなかったようで、僕の頬を両手で包んでじっと目を見てきた。
かっ、顔が近いっ!!


「な、なんでもないよっ…//そ、それより腹減ったろっ?メシ作るから中入るぞっ//」
「あ、そういえばまだだったわねぇ…確か『やきそば』作ってくれるんでしょぉ?」
「あ、あぁ…」
「じゃぁ早く中に入りましょぉ♪」
そう言って僕の横を通り抜け、家に入っていった。

「…なんとかごまかせたな…」
熱くなった顔を冷やすためにしばらくそのままつっ立っていると、
「ジューン!何してるのぉー?早くー!」
と、お声がかかった。
「はいはい、今行きますよっと…」
誰のせいでこんなに顔が熱いと思ってんだよ…

それにしても……今日は本当に色々あったな…正直まだ思考が追いついていない部分もある。
でもただ一つ確かなことは、僕にはとっても強くて頼れる綺麗な式神が出来たこと。
「九尾の狐、水銀燈……か」
「ジューン!」
「わかってる!今行くよー!」
とりあえず今はアイツに美味い焼きそばを作ってやらなきゃな…


こうして僕の長い長い1日は、ようやく終わろうとしていた…

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