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「一つ屋根の下 第百話 JUMと新年」



「んっ……ふぁぁ……朝か?」
僕は枕元に置いてある携帯をカパッと開く。何通かメールを受信しているが一先ず置いておく。時間は11時
を少し過ぎたあたり。朝と言うよりは昼に近いようだった。
「日付は1月1日。元旦か……メールは後で返すとして…リビング行くかな。」
とりあえず僕は眼鏡をかけて洗面所へ。とりあえず眠気覚ましも兼ねて冷水で顔を洗う。
「くぅ~、冷たいっ!でも目は覚めたかな。」
タオルで顔を拭く。ついでに眼鏡も水洗いしてやる。耳のフレームの部分が少しだけ冷たい。
少し寒い廊下を歩いてリビングへ。中から暖房の風が体に当たる。うん、温かいな。
さて、折角の新年だ。爽やかに挨拶でも交わそうかな。僕は少し笑顔を作ってドアに手をかける。
「おはよ~、姉ちゃん。あけまして……え…?」
ドアを開ける。ドアを開けた先には、今まさにパジャマを脱いでいる翠姉ちゃんが居た。好きだなぁ、緑。
って、見とれてる場合じゃない。とりあえずこの場を凌ぐ。どうする?何か気の利いた言葉でもかけるか?
「え、えーと……き、綺麗だね翠姉ちゃんの体……」
果たしてこれが吉と出るか凶と出るか。翠姉ちゃんの顔と体がみるみる赤く染まっていく。これは手応えありか?
しかし、そもそもこの状況で吉なんて逆立ちしても出るはずも無いわけで。
「き……きぃやあああああああああああああああああああ!!!!」
翠姉ちゃんが慌ててパジャマを羽織るとコタツの上にある蜜柑を手に取ると僕に向けて豪快に投げ飛ばす。
「ぐえっ!!」
蜜柑は僕の鼻に直撃する。何だかグチャって音がしたけどきっと蜜柑だろう。そのまま僕は廊下に倒れこんだ。

「新年早々着替え覗いてるんじゃねぇーです!!この変態チビ!!」
翠姉ちゃんが倒れてる僕の鳩尾辺りを踏みつけるとバタン!!と大きな音を立ててドアは閉ざされる。
僕は新年早々の激痛に廊下でゴロゴロと悶えて苦しんでいた。
「廊下で何をしているの、JUM?」
スッと屈んで悶えている僕を見つめているのは真紅姉ちゃんだった。だったんだが……
「あけましておめでとう、真紅姉ちゃん。ええっと、それは?」
「ええ、折角だからね。蒼星石に着付けしてもらったの。どう?似合うかしら?」
真紅姉ちゃんが袖を持ってクルンと回って見せる。真紅姉ちゃんを象徴する赤の振袖は華麗でしかなかった。
金色の髪もアップに纏められていて綺麗なかんざしが差してある。
「あ、うん……綺麗だ……」
正直、僕は見とれていた。そして綺麗って言葉しか出てこなかった。他に例えようはあるんだろうけど、残念
ながら僕の貧相なボキャブラリーではこれが限界だ。
「ふふっ、嬉しいわJUM。中……誰か着替えてるの?」
「ん、多分翠姉ちゃんが。全く、着替えてるなら看板でも出してくれよ。」
考えてみれば理不尽である。誰がリビングで着替えてるなんて想像できるだろうか。まぁ、理不尽なのは今に
始まった事じゃないけどね。少なくとも、この家では。
「へぇ。要するに貴方、翠星石の着替えを覗いたと言う事?」
真紅姉ちゃんがジト目で僕を見る。やばい、ダメージを負った体で真紅姉ちゃんの攻撃に耐えれるだろうか。
下手をすれば間違いなく今年最初の死者になれる自信がある。
「え、えーと…その…何て言いますか。そう、不可抗力!まさか着替えてるなんて…」
必死に身振り手振りをして弁解する。すると真紅姉ちゃんはクスリと笑う。
「冗談よ。それじゃあ着替え終わったら教えてあげるから少し待っていなさい。」
そう言って真紅姉ちゃんはリビングへ入る。それから声がかかったのは約20分後だった。



「全く!翠星石は最悪一年の始まりです。いきなりJUMに着替えを見られたですぅ。」
緑の振袖を着、長い栗色の髪をアップにしている翠姉ちゃんが僕を見ながら言う。
「だからそれは悪かったよ。まさか着替えてるなんて思わなかったんだし。」
とりあえず弁解。そもそも着替えるなら自分の部屋でやってくれと思う。
「あらぁ、謝らないでいいのよJUM。翠星石ったら、JUMを追い出した後で一人で顔赤くして『か、体綺麗
って言われちまったですぅ…』とか一人で照れて悶え…もががっ!?」
黒の振袖を着てお茶をすすっている銀姉ちゃんが言う。髪は面倒なのか下ろしたままだ。僕はそのまま
視線を翠姉ちゃんに移す。目が合う。翠姉ちゃんは顔を赤くして銀姉ちゃんに飛び掛っていた。
「な、な、なななな!何を言ってやがるですか!翠星石はそんな事言ってなんかねーです!!」
必死に銀姉ちゃんの口を塞ぐ翠姉ちゃん。時すでに遅しな感が漂うんだけど。とりあえず、そろそろ解放して
あげてね。何だか銀姉ちゃん死にそうだからさ。
「ごめんね、JUM君。あの後雛苺と金糸雀の振袖も着付けしてたら遅くなっちゃって。」
青の振袖の蒼姉ちゃんがコトンと湯のみを置いてくれる。蒼姉ちゃんも髪はいじっていない。
「別にいいよ。蒼姉ちゃんが悪い訳じゃないし。でも大変だね。着付けできるのって蒼姉ちゃんだけ?」
「ううん、薔薇水晶も出来るよ。今は雪華綺晶を起こしに行って貰ってるけど。」
そう言えば薔薇姉ちゃんとキラ姉ちゃんの姿がさっきから見えない。起こしたついでに着付けしてるんだろうか。
「JUM~、おめでとうなの!どうどう?ヒナ似合う~?」
パタパタと足音を立ててヒナ姉ちゃんが僕の隣に来る。ピンクの振袖は実にヒナ姉ちゃんらしい。さらに髪も
お団子にされていてヒナ姉ちゃんの可愛さを7割増しくらいにしている。
「JUMカナはどうかしら?少しだけ大人っぽくしてもらったかしら~。」
カナ姉ちゃんは黄色の振袖。髪は何時もの巻き髪じゃなくてアップに仕上げられていた。ヒナ姉ちゃんもそうだけど
二人とも基本巻いてあって気づかないが髪は結構長い。そのお陰で色んな髪型が出来る訳だ。
「うん、二人とも髪型と合ってて可愛いと思うよ。蒼姉ちゃんも結構着慣れてる感じだね。」
僕がそう言うと3人とも嬉しそうに笑ってくれる。と、ドアがガチャリと開かれる。やって来たのはあの二人。
「きらきー起こしてきた……あ、JUMも起きてたんだね……」
「ふぁぁぁ……おはようごじゃいましゅ……」
薔薇姉ちゃんは紫の振袖で髪は矢張りアップに。キラ姉ちゃんは白とピンクを基調の振袖で髪は特にいじって
いなかった。キラ姉ちゃんは相変わらずの寝起きの悪さで未だに眠そうだ。ともあれ、姉妹が全員揃った。
「みんな揃ったわねぇ。それじゃあ、改めて……あけましておめでとう御座います。」



姉妹と新年の挨拶を交わす。まぁ、約一名未だに半分寝てるけど。
「さぁてぇ……じゃあいきなりお楽しみといきましょうかぁ。翠星石、御飯持ってきてぇ。私もちょっと部屋行くわぁ。」
銀姉ちゃんはそう言うと、いそいそお部屋に戻っていく。翠姉ちゃんは蒼姉ちゃんと台所から御節とはいかないが、
充分に豪勢なオカズを筆頭に御飯を運んでくる。御飯の匂いを嗅ぎつけたキラ姉ちゃんも徐々に覚醒していく。
しばらくすると、銀姉ちゃんが年賀状と共に9つの茶封筒を持って戻ってきた。
「はぁい、じゃあ雛苺と金糸雀。年賀状きてたから分けておいてぇ。」
ヒナ姉ちゃんとカナ姉ちゃんが仲良く手分けしてそれぞれの席に年賀状を置いていく。お、べジータからきてる。
後は桑田さん他クラスメイト。めぐ先輩にみっちゃんさん。白崎さんからも来てるな。これは……まぁ、担任は
クラスの子には出すものだろうしね。後で返事書いておかないと。僕が年賀状を眺めてると二人は配り
終えたようだった。続いて銀姉ちゃんがコホンと咳払いをする。
「じゃあきっとみんなのお楽しみいきましょうかぁ。お父様からの手紙とお年玉よぉ~。」
お年玉の言葉を聞くと姉ちゃん達の目が一斉に輝くのを見た。もちろん僕だって楽しみだ。
「じゃあ先ずは金糸雀からぁ~。ちゃぁんとお父様からの手紙を読むのよぉ?」
銀姉ちゃんが順番に茶封筒を渡していく。
「はい、JUMの分よぉ。お父様から頂いたお金無駄使いしちゃダメよぉ?エッチな本とか買うならお姉ちゃんに
言いなさいねぇ。本なんかよりイイコトしてあげるからぁ。」
「とりあえず封筒は貰うけど、銀姉ちゃんの好意?は遠慮しとく。」
む~と不満げな銀姉ちゃんから封筒を受け取る。む、少し重い…うっすら諭吉先生が見える。
「さ、これでとりあえずやる事はおしまぁい。でも最後に私からぁ。今年もみんな仲良く元気に……少しは喧嘩
とかあるかもしれないけどぉ。誰も欠けることなく来年の正月を迎えましょうねぇ~。」
銀姉ちゃんはそう言ってニッコリ笑った。ああ、やっぱり長女だなって。僕はそう思った。


時間は夜11時ごろ。あれから御飯食べたり甘酒飲んだり正月番組見たり。実に充実した正月だったと思う。
まぁ、甘酒で酔っ払った銀姉ちゃんが乱れた振袖で迫ってきたり、それを見た同じく酔った真紅姉ちゃんは
「胸なの?やっぱり胸なのね?」と一人で勝手に泣き出したり。あやうくキラ姉ちゃんに料理どころか僕ごと
食べられそうになったり。翠姉ちゃんがコタツで眠ったヒナ姉ちゃんとカナ姉ちゃんの顔に落書きしたり。
はしゃぎ過ぎたせいか姉ちゃん達も今は部屋で休んでいるだろう。リビングには姉ちゃん達が脱いだ振袖
がシワにならない様に片付けられている。僕はリビングの電気を消すと部屋に戻る。
「そういえば手紙もあるって言ってたな……」
僕は父さんからの茶封筒を開いた。中にはお年玉と思われるお金と(金額は秘密。)手紙が一通。
ベッドに寝転がると僕はその手紙を読み始めた。
『JUM君へ   明けましておめでとう。日本は今の時期寒いと思うけれど風邪とかは引いていないかな?
姉妹とは仲良く過ごせているかい?さて、君が来て早10年の月日が流れた。君にとってこの10年がプラスに
なった時であったならば、僕はとても嬉しく思う。以前、手紙で報告したと思うが春先、僕は家に戻る。
その時に人間として。そして男として成長した君を見れるのを楽しみにしているよ。
それから、今回はきっと君にとって一番のプレゼントと一緒に帰る予定なんだ。楽しみにして待ってて欲しい。
それじゃあ、体に気をつけて。         ローゼン』
そんな内容だった。僕は手紙を机に置くと考える。僕にとって一番大切なもの?一体なんだろう。
僕はその疑問を胸に、今年最初の眠りにつくのだった。
END

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