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「ふぁ…眠い…」

僕の名前は桜田ジュン。由緒正しい陰陽師の一族、櫻田家の末裔だ。
もっとも…櫻田家に生まれた者には必ず宿る霊力が何故か僕には全く宿らなかったために、櫻田家を勘当された身だが。
ちなみにそのときに『櫻田』の名を捨てさせられ、今の『桜田』という名前に変わった。
あ…くれぐれも言っておくけども、僕は別に勘当されたからって何とも思っていない。
むしろ陰陽師なんていうめんどくさい肩書きを捨てることができて清々してる。

そんなわけで今は普通の高校生活を楽しんでいる。今日だっていつも通りに学校へ行って、いつも通りに授業を受け、いつも通りに帰るはずだった………

通学路を歩いていると、道端に一人の少女がぽつんと立っているのが見えた。
年はだいたい10歳くらいだろうか。髪は肩の辺りで切り揃えられている。
それだけなら普通の女の子なのだが……
何故かその少女は今の時代ではほとんど見ない巫子装束を着て、あろうことか頭に狐のものと思われる耳を生やしていた。


普通の人ならそんなおかしなカッコをしたヤツは例えどんなヤツであろうと無視するのだが、僕は何故かその少女に声をかけてしまった。
「なぁ…お前こんなとこで何してるんだ?」

僕が声をかけると、その少女は心底驚いたような表情で僕を凝視した。
いきなり見知らぬ少女に声をかけたのは悪いとは思うが、そこまで驚かれると多少へこむなぁ…
まぁ最近変質者が多いから、その類に間違えられでもしたのだろう……と思っていると、その少女が話しかけてきた。
「貴方…私が見えるの?」
…はい?コイツ何言ってんの?あ、もしかして電波少女?ならこんなカッコをしてるのにも納得がいくな…どちらにしろ、あまりかかわらないほうがよさそうだ。
……よし、無視決定。最初に話しかけたのは僕の方だが、電波とわかった以上は付き合いきれない。
僕は最初から何も無かったことにして、ソイツの目の前を通りすぎた。
「ちょっと!私の質問に答えなさいよっ!」
という声が後ろから聞こえるが、聞こえないフリをして学校へと向かった……


「もうっ!なんなのあの人間はっ!?」
あの人間が行ってしまったあと、その場に残された私は怒りを露にして叫んだ。
何故あの人間には私が見えたのだろうか…?しかもアイツの臭いは、遥か昔にどこかでかいだことがある…
「あの臭い…まさかあの人間…櫻田家の…?」


「あちゃー…すっかり暗くなっちまったなぁ…」
冬ということもあり、辺りはもう真っ暗だ。ときどき街灯がポツポツ置かれているが、それが夜闇の不気味さを際立たせている。
こんなに暗くなるんなら放課後遅くまで真紅たちとだべってるんじゃなかった…
「うぅ…さっさと帰ろう…」
背筋に嫌な寒気を感じ、自然と早足になる。

しばらく歩いていると、向こうからOL風の女性が歩いてきた。
「(こんなに暗いのに…一人で大丈夫なのかな?)」
そう思いながら女性とすれ違った。
その瞬間、背後から
「み~つけた♪ 」
と言う声が聞こえたかと思うと、僕はいきなりコンクリートの地面に叩きつけられた。

「ぐっ…がはっ…」
背中が痛い…息ができない…
「なっ…!?」
今自分の目の前で起こっていることが理解できない。僕の体はネバネバした糸のようなもので体を縛られている…これは一体…?
「ふふ…やっと見つけたぞ…櫻田の末裔よ…」
突然のことに驚いて声のしたほうを見ると、僕は自分の目を疑った。


先ほどすれ違った女性の下半身から巨大なクモの足が生えていて、その鋭い先端が僕に向けられているんだから…

「う…うわぁぁぁぁぁ!?」
こ、これは一体なんなんだ…?
目の前で起こっているコトに混乱していると、クモ女はニヤリと笑って八本の巨大な足のうちの二本で僕の体を締めつけてきた。
「ぐぁぁ…!?」
全身に激しい痛みが走り、骨が軋む音がする。
「ふふふ…死ね……」
締めつける力が更に強くなる。内臓が飛び出そうだ…
「(もう…だ…めだ…)」
そう思った瞬間、突然視界が真っ白になった。



気がつくと、僕は何も無い真っ白な場所にいた。
「こ、ここは…?」
「大丈夫?」
「うわっ!?お前は朝の電波少女!?」
「何を言ってるかよくわからないんだけど…」
「ちょっ…ここはどこなんだ!?そうだ!さっきのクモ女は!?僕はどうなったんだ!?」
「ぎゃーぎゃーうるさいわねぇ…ここは零の空間。それからあのクモ女の名は女郎蜘蛛。どうやら貴方の命を狙ってきたみたいね」
「ぼ、僕の命を!?どうして…」
「貴方…あの櫻田家の末裔ね?」
「なっ、なんでそれを…?」
「それはあとで説明するわ。それより貴方…助かりたい?」
「あ、当たり前だろ!?」
「そう…なら契約なさい」
「…契約?」
「そう。貴方は陰陽師の一族なんでしょ?だから私が貴方に仕える式神になってあげるの。契約のやり方くらいわかるでしょ?」
「あ、あぁ…でも僕には霊力が…」
「大丈夫。貴方は自分で思っているようなちっぽけな存在じゃない。この私が言うんだから間違いないわ。さぁ、契約の指輪を出して」
「そ、そこまで言うんなら……ほら」
「いい子ね…さぁ、次は誓約の詞を」


「わ、わかった…」
少女に促され、小さいころから頭に叩き込まれた詞をつむぐ。


東海の神…名は阿明。
西海の神…名は祝良。
南海の神…名は巨乗。
北海の神…名は禺強。

四海の大神…全知全能を以つて百鬼を避け、凶災を払う。

我…常に月将を以つて占時に加へ、日辰陰陽を視る者なり…!


詞をつむぎ終えると、次は少女が何やら呪文のようなものを唱え始めた。


我は誓う。
そなたの手となり足となり、あらゆる物からそなたを守る。
我の名は………九尾を持つ誇り高き妖狐、水銀燈!


言い終えた少女が指輪に口づけると、突然まばゆい光に辺りを包まれ、元いた場所へと戻ってきた。
目の前ではクモ女が怒り狂って、突然消え…突然再び現れた僕を睨んでいる。
「貴様…一体何をしたぁ!?」
「くっ…さっきのは…一体…」
「死ねぇ!!」
考える間もなく、巨大な足が振り下ろされる。
そしてそれが僕に当たる瞬間、いきなりそれが青い炎に包まれた。
「グギャァァアァ!?」
一瞬にして二本の足を失ったクモ女は、苦しさでのたうちまわっている。
「な、何なんだ!?」
「なんとか間に合ったわねぇ…」


その声に振り返ると、そこには一人の女がいた。
どこか見覚えのある白の巫子装束を着て、腰まである美しい銀色の髪を風になびかせている。顔立ちはとても美しく、見るもの全てを魅了する妖しさをかもしだしている。
「お、お前は…?」
「貴方ねぇ…さっき契約したでしょぉ?」
美女はぶすーっとふくれた。あ、拗ねた顔もいいな…じゃなくて!
「もしかして…水銀燈?でもお前…でっかい…」
「そぉよぉ。さっきまでは主人がいなくて霊力が供給されなかったから、消費を抑えるためにちっさくなってたのよぉ~」
なるほど…ん?てことは…
「今は僕から霊力が供給されてるってことだよな?でも僕には霊力は……」
「それは…」
水銀燈が次の言葉をつむごうとした瞬間、火を消し終えたクモ女が起き上がった。
「ギギギ…コロス…コロスコロスコロスコロス!!!!」
「あらぁ…理性を失っちゃったのねぇ」
あくまで落ち着きはらっている水銀燈。
「ど、どうするんだよっ!?」
「大丈夫。あんな小物楽勝よぉ」
水銀燈が一歩前に出て戦闘態勢にはいる。
すると彼女の頭に狐の耳が、腰の辺りからは長い尻尾が九本生えていた。

「貴方に見せてあげるわ…『九尾の狐』の力を!」


「くわぁーん…」
水銀燈が哭くと同時に大きな青い火の玉が九個浮かび、彼女の周りをぐるぐる回り始めた。
「…終わりよ女郎蜘蛛!」
水銀燈が手を振ると、火の玉はまるで生きているかのようにものすごい速さでクモ女に向かってゆく。
火の玉がクモ女の体に当たると、一瞬で全身に燃え広がり、その体を燃やし尽くしてゆく。
「ァァァァァア!?」
声にならない叫び声をあげ、クモ女の体が崩れてゆく。まさに一瞬。
僕はその光景をただじっと見つめていた……

全てが終わると、僕はその場に尻餅をついてへたりこんでしまった。それを見て水銀燈が苦笑する。
「軟弱ねぇ」
「うるさい…ところで色々聞きたいことがあるんだけど」


「なんでもどぉぞぉ」
じゃぁ…と言って話し始める。
「まず第一。何故僕が櫻田家の人間だとわかった?そして第二。あのクモ女はなんだ?何故僕が狙われた?最後に第三。なぜお前は僕と契約できたんだ?僕の体には霊力は宿っていないはずだけど…」
水銀燈はしばらく「うー…」と唸ると、ゆっくりした口調で話しだした。
「じゃぁ第一から答えるわぁ。私はね…遠い遠い昔に貴方の先祖に仕えていたの」
「なっ…」
「そのときに仕えていた主人と全く同じ臭いがしたから、貴方が櫻田の人間だとわかったわけなの」
「な、なるほど…」
「その主人の霊力はすごい特殊なものでね。普通の式神はそれを感知できなかったのよ」
ちょうど今の貴方と全く同じ種類のねぇ。と水銀燈は付け足した。
ん?ちょっと待てよ…
「てことは…」
「そう。貴方には霊力が宿ってなかったわけじゃないの。かなり特殊なものだったから、式神が感知できなかったのよ。霊力に敏感な式神が感知できないんだから、人間がわかるわけないわよねぇ」
「だから貴方は自分を卑下することなんてしなくてもいいの。むしろもっと誇るべきだわ。なんせこの『九尾の狐』と同調できる霊力の持ち主なんだからぁ♪」


『九尾の狐』…
確か式神の中でも最高ランクだよな。
こんなすごい式神が僕に…?思わず顔がにやける。
「第三もついでに解決したからいいわよね。それで第二の『貴方を襲った理由』だけど…」
急に真剣な顔になる水銀燈につられて、僕も気持ちをひきしめる。

「わかんないのよぉ…」
「…は?」
まさに拍子抜け。
この狐…一番重要なところを…!
「そっ、そんな怖い顔しないでよぉ…」
「ハァ…まぁいいや。そのかわり…また狙われたらちゃんと守ってくれよ?」
「当たり前よぉ。だって私は貴方の式神なんだからぁ♪」
「じゃぁ…改めてよろしくな。最強の式神さん」
すっと右手を出す。
「えぇ。ご主人さま♪」
水銀燈も右手を出し、僕らは握手を交した。


「あ、そういえば貴方の名前何なのぉ?」
「はぁ?さっき名乗って…」
「ないわよぉ」
「そうだっけ…えーと、僕の名前は…」

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