あいつは僕らの生活にはあまり干渉しない。酒と少しのつまみだけもって部屋にこもってる。
それが堪らなくムカツク。何様だ?当たり前のように食料を要求、終いには預金にまで手をつけやがった。
どうしてだよ、なんで何も言わないんだ、ねぇちゃん。
どうすれば、どうすればあいつはいなくなる?
「ジュン!ジュン!」
「どうかした?」
「どうかした?じゃないわよ!あなた変よ?ずっと怖い顔してたわ」
感情を顔に出さないというのは難しいな
「大丈夫なの?」
「あぁ、大丈夫」
「それよりどこに行くのだわ?」
今日は約束のデートだ。私服の真紅は新鮮で、朝合ったときは柄にもなくドキッとしてしまった。
「そうだな、映画でも見に行こうか?」
「それなら、くんくん探偵の新作が発表されたのだわ!それを見に行きましょう」
くんくん探偵、彼はまさしく天才、事件解決の裏にくんくんありと世間は騒いでいる。
鋭い洞察力に観察眼、そして優れた推理力。気になることは全て自分で確認するという行動力。
正直彼を相手に完全犯罪をする事は不可能だろう。
有名になると同時に本やドラマなどが作られる。今では映画まで作られるほどだ
「くんくんは天才よ」
これは真紅の口癖だ。彼女は中学の時からくんくんに惚れ込んでいる。
「くんくんか、好きだなお前も」
「うるさい下僕ね、いいからついて来るのだわ!」
「ちょっとまった!」
「どうしたんだ、くんくん探偵」
「どら猫警部、何か違和感を感じませんか?」
「どういうことだね」
「ガイシャの首を見たまえ!」
・
・
・
話はクライマックスになるにつれテンポを上げていく。
「違う!俺じゃない!!!」
「それではこれをどう説明する!」
「うっ…」
追い詰められる犯人、次々と矛盾を突いていく探偵。
正直面白い、どんどんのめり込んで行く…
「やはりくんくんは天才なのだわ」
「意外と本格的だよな」
「あら、それは当たり前よ!実話を元に作られているんだもの」
「そうなの?フィクションじゃないんだ」
「当たり前よ、くんくんの解決した事件を忠実に再現してるのだわ」
現実に起きた事件か…。もし犯罪を、やつを抹消したとしたなら僕も映画の犯人のように追い詰められ、そして…
だめだ、やるからには完全犯罪を。発覚はすべての崩壊を意味する…
「ジュン!ジュン!」
「えっ?」
「まったくしっかりして欲しいのだわ。私とデートじゃ不満でも?」
「そ、そんなことないよ!楽しいって」
「嘘だわ、さっきから浮かない顔ばかり…」
「真紅…」
だめだ、今はデートに集中するんだ!
「ごめん。ご飯でも食べに行こうぜ?おなか減ったろ」
「…」
「ほら、ほら。奢るからさ」
「~♪」
「…ドンだけ食うんだよ」
テーブルに並べられた料理のあまりの量にメマイがした
「あら、御代はジュンもちだから私はかまわないわ」
「お、おまっ、僕は高校生だぞ!そんな余裕ないっての」
「ふふっ、主人を悲しませた罰なのだわ」
「悲しかったのか?」
「だ、誰が!」
「素直じゃないなぁ」
人から見たら仲の良いカップルだろうか?互いに軽口を言い合いながらも楽しく同じ料理を食べる。
真紅とずっとこうしていたい
「今日は楽しかったのだわ。」
「僕も楽しかったよ」
真紅は僕にそっと口付けをする。
「!…」
「…鈍感な下僕にはこれぐらいが丁度いい告白でなくて?」
真紅の顔が真っ赤だ。僕の頭は対照的に真っ白だ。
「えと、その、あの…」
真紅は恥らいながらも僕の眼を見つめている、応えなくては…
「スッ、スキdヨ!!」
しまったぁ、ここで噛むなんて…
「ぷっ。何緊張してるのよ」
「だって、いきなり」
「嫌だった?」
「とんでもない!好きだよ、真紅のこと」
もう一度キスを交わす、今度は長く
「ただいま~♪…?」
幸せが吹っ飛ぶ。部屋が暗い、すすり声が聞こえる。次いで聞こえる怒声。
「金って要ってるんだ!!!早く出せ!」
「この間、渡したばかりですが…」
ドガッ!
「キャッ!!」
「使っちまったんだよ!」
ねぇちゃんがマズイ!悲鳴の聞こえたほうへ急ぐ。奴だ、姉に手を出しやがった!
「ねぇちゃん!」
「ジュン君!きちゃだめ!」
奴と目が合う。どす黒い、欲で濁った眼。
ふと記憶がよみがえる。
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ピンポーン
「ジュン君出てくれるぅ?」
「わかったよ」
ガチャッ……!?
「久しぶりだな、坊主。ねぇちゃんいるか?」
「ウッ……ハイ、イマス…」
奥へと上がって行く叔父。依然とは違う。荒んでいて酒臭い
どうしてここに?連れ戻しに来たの?怖い、眼が…怖い
その夜
奴がうちに居候することになった。交通事故で家族を失ったとか…その日から悪夢が始まった。
何もすることなく部屋を占拠する。二階には常に酒のにおいが充満している。
少しは同情した、同じ境遇だったから…
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だが、その同情は今そぐに憎悪に掻き消された。
「ねぇちゃんに何をしてる!」
「ちっ!金だよ金!遺産相続したんだろ?」
「最初から金目当で来たのか?」
「それ以外に何がある!お前らが俺の家から出なければ、その金は俺のになってたんだよ!!」
狂ってる。すぐに殴り飛ばしたい。金欲しさに僕の幸せを壊しやがって…
「やるのか?コブシを握り締めて、」
嘲笑するかのように僕をからかう。
だめだ…僕には出来ない。あの目で見られると足が竦む。
「餓鬼が調子に乗りやがって。おい、金だ!」
叔父は姉の財布の中の札を全て取り出し家を出て行く。
悔しい、こんなに悔しいことはない。何も出来てないじゃないか…姉さえも守れない。
後ろから呼び止める声がしたが無視して部屋に上がる。
『やる…』
姉を守るため、幸せを取り戻すため…
あいつは悪だ、対抗する僕は正義だ。誰にも文句は言わせない。奴になくて僕にある力がひとつある。
力なき正義は無力…
正義に裏打ちされた力が最も実効性のある解決策…