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「いいかぁ、みんなー。二年生になってんますます勉強が忙しくなる、この一学期、ボケッと過ごしていたらあっという間においてかれるからなぁ。気を引き締め行くように!」
気の抜けた返事をする生徒を他所に一人張り切る梅岡。いつもこうだ。
「それとみんなんに知らせたいことがある!入ってきなさい」
梅岡は一段とうれしそうな声で廊下に向かって話し掛ける。
ガラァッ
開いた扉の向こうにいたのは…
「!し、真紅ぅ!?」
「し、知ってるですか!?ちび人間」
あの金色の髪に青い目、そして凛とした表情。間違いない、真紅だ。
「紹介するぞ、新しくうちのクラスの仲間となる真紅だ」
「宜しくなのだわ」
「桜田~、知り合いなのか?」
「えぇ、まぁ一応…」
「それじゃあ真紅の席は桜田の隣だ」
なんでだ?イギリスに行ってたんじゃ…
「あらっ、帰ってきたのよ。久しぶりねジュン」
読心された。そういえばこいつには隠し事できなかったよな…
「よ、よぉ!久しぶり。戻ってきてたんだ」
か、変わった?なんか、その…
「どうしたの?ジュン」
「い、いやなんでもない。ちょっと変わったかなって…」
「あら、それは褒め言葉?ありがたくいただくわ」
彼女はからかう様に言って教科書に目を落とした。
(き、強敵ですぅ~~)
休み時間のたびに教室は沸く。真紅が質問攻めにあってるのだ。
「綺麗な髪~」
「どこに住んでるの~?」
「つ、付き合ってください!!」
他愛のない質問は放課後まで続いた。

放課後の鐘と同時に僕は下駄箱に向かう。いつも帰りは一人なのだが…
「ジュン、一緒に帰りましょう」
後ろから呼び止められる
「何で僕が」
「あら、私はこの辺の地理に詳しくないのだわ。そんなレディーをほっとくの?」
「はいはい、わかったよ。ご主人様」
「それでこそ私の下僕だわ」
中学の時からこの何ともいえない主従関係は続いてるようだ
真紅からイギリスの話を聞いてるうちに家の前まできていた。
「うちここなんだけど、真紅のうちまで送っていこうか?」
「大丈夫よ、そこの駅から電車に乗ってすぐのところだから」
「そ、そう?なら大丈夫か。じゃっ、また明日な」
「ええ、また明日」
ねぇちゃん帰ってるかな?真紅のことはなしたら驚くかな?そう思いながら玄関の取っ手に手をかける。
「ただいま」
「あら、お帰りなさい。早かったのね」
「寄り道しなかったしね」
軽い会話を交わして二階の部屋に上がる。
足をとめ耳を澄ます。聞こえてくるのは不快な鼾。胸糞が悪い。
出来るだけ足音を立てずに自分の部屋に入る。着替えを済ませ、勉強に取り掛かる。
十分、二十分、勉強に集中できない。頭の中ではまったくべつのことを考えている。
どうして、どうしてねぇちゃんはあいつをこの家においとくんだ?何時までいるつもりなんだ?

夕食は手作りのパスタだった。見た目も味も最高だ。姉の作る料理はとてもおいしい。
「今日転校生がきたんだ」
「へぇ~、女の子?」
「それが聞いてよ、あの真紅だよ!イギリスから帰って来たんだって」
「真紅ちゃん?ジュン君の仲良しだったわよね、よかったわね~♪」
「ま、まぁ久しぶりに会えて素直にうれしいけどね」
幸せだと思う。姉は優しいし、学校も楽しい。あいつさえいなければ…
ガチャッ
「……」
「(糞ッ!)」
「お、お酒ですか?」
「……」
「…どうぞ…」
無言で姉から酒を奪ったそれはもと来た道を引き返す。
「…」
「…」
「何時までいるの?あいつ」
「行くところがないのよ、あて先が見つかるまでは…」
「でも…」
「短かったけどお世話になった人なのよ?これぐらいは…」
「…」
食事中、それ以上の会話はなかった。
また静かに二階に上がる。酒のにおいと、野球中継の音声が漏れている。
全てが癪に障る。目障りな顔と体、耳障りな声に鼾…嫌だ、理由はあいつが存在すること。それがあいつを嫌う理由。

いつのまにか朝になっていた。いつもの様に身支度をし、おいしい朝食をとって姉と一緒に家を出る。
二人とも友達と待ち合わせているので途中で別れる。
「おはようですぅ!」
「おはよう、ジュン君」
「おはよう、ジュン」
いつものメンバーに今日は真紅が加わっていた。双子とは家が近いらしい。
楽しそうに翠星石と真紅が話している。ちょっとだけ安心した。

一日もすぐに終わり、今日も真紅と帰る。
「ジュン、覚えてる?私たちがはじめてあった時のこと」
「うん、一応な。確か中一のマラソンの時だよな?」
「えぇ、厳密には同じクラスなのだから入学式の時からだけども…」
「それがどうした?」
「いえ、ただ、またこうして合えたのも何かの運命かと思ったのだわ」
「なんだよ突然」
「デートしましょう」
「あぁ、いいよ」
いつものことだ、からかってるんだろう。その手には乗らないぞ
「いつにする?」
「そうだな、今度の日曜でどうだ?」
「いいわ、じゃあ日曜の12時に迎えに来るのだわ」
そう言うと顔を真っ赤にして走っていってしまった。
「……」
取り残された気がした。肩透かしを食らったような…
あれ?俺嬉しがってる?まさか

「ただいま~」
姉はまだのようだ、二階に上がる。
隅の一室からラジオの音が漏れている。競馬だろうか?あいつお金ないんだよな?何で競馬なんかしてるんだ?
くそっ、やめだやめ。あいつの事なんか詮索していても胸糞悪いだけだ。
昨日全然勉強してないし、宿題もたまってきた。勉強道具を机に広げる。
大学には行きたいが姉に負担をかけることになるので、国立の大学に通おうと思っている。
私立よりは学費が安くて済む。それには人一倍勉強しなくては…

「おねぇちゃん?」
夕食の時の姉は少し暗かった、
「ジュン君、あの…」
「何?」
「(いえないわ、通帳のお金が減っているだなんて…)」
「あいつの事?」
「ち、違うわよ!」
「やっぱり…、あいつが何したんだ!」
「あの人と関係あるかは知らないけれども…、その、預金が減ってるの…よ」
「!…あいつが取ってるの?」
「そ、それはわからない…」
糞ッ!どれだけ迷惑かければ済むんだ!しかも親の遺産に手をつけるだと?
糞ッ!糞ッ!糞ッ!糞ッ!糞~ッ!
「ジュン君!」
姉に呼ばれはっとする。
噛み締めた唇には血が滴っていた。握り締めたこぶしは真っ白で、手のひらにつめがめり込んでいる。眉は今にもくっつきそうだ
「まだ、まだあの人と決まったわけじゃないから…」
「……あいつ、夕方に競馬してた…」
ポツリと呟き自分の部屋に向かおうとする。
「ジュン君…」
「…あいつに出て行ってもらえよ」
強く扉を閉める。
姉は弱みでも握られているんだろうか?あんな寄生虫なんてすぐに追い出せばいいだろ?

…もし、もし姉が弱みを握られてるとしたら?
……僕がやるしかないのかな?
やるって、何をやるんだよ…。
心に片隅にどす黒い感情が湧いた。自分でも気づかないような、小さな小さな変化…

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