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ぶらっく×すとろべりー

#1
「ジュン、雛と一緒に帰るのーっ!」
「あ、あぁ…。わかった」
「ちょ、ちょっと待つですぅ!ジュンは私と──」

翠星石が言い終える前に、雛苺は僕の手を取って教室を出ていた。
…帰り道。夕照が、怪しく彼女の瞳を飾る。

「ジュン?今日はどうしたの?
 翠星石といつまでもいつまでもダベり三昧なんて… 許せないのよ…?」

確認するように言ったその一言は、『いつもの雛苺』のものではなかった。
…いや、これが僕にとってはいつもの雛苺なんだが。
みんなの前で見せるあの甘ったるい口調は完全に失せていた。

「ジュン、聞いてるの?」


僕だけに見せてくれる、本当の雛苺。
僕だけに語りかけてくれる、本当の雛苺。
僕だけを見てくれる、本当の雛苺。

「──聞いてるさ。愛してるよ、雛苺?」
「ふん。わかってるじゃないの」

『倒錯した想い』なんて表現がお似合いだ。

「ジュン、…ご褒美をあげるのよ」
「ん…」

一心不乱に雛苺の口内を貪る。
雛苺の唾液は苺のようにほんのりと甘く、僕を狂わせるのには十分すぎた。


───僕は唇を離すと、雛苺を横たえた。


#2
「…今日は随分強引なのね…?」

文句のようにも聞こえるが、雛苺の顔は笑顔。
乱れた制服を直す様が妙に艶かしかった。

「それは──雛苺が可愛すぎるからだよ」
「…可愛い?『この』私が?」

訝しげな瞳で僕の顔を見やる。

「…私は、可愛くないと思ってみんなの前では『あんな私』なのよ?」
「──じゃあ可愛くないッ」

『ギュッ』と言う擬音が本当に聞こえるくらい強く雛苺を抱き締める。

「む、矛盾してるのよ」
「…雛苺は、僕だけのものだから──ね?」

首筋が交差し、顔は見えないが、今の雛苺の表情が僕にはわかった。




「ジュンのぼりなのーっ!」
「あ、チビチビ!何やってるですか!」

わざとらしい程、否、わざと無邪気を装いながら僕の背中に乗っかる。

「ジュンは嫌がってないのよーっ。べぇーっ」

翠星石を挑発する雛苺と、10cm程の距離で目が合った。

「ね?ジュン…?」

誰にも聞こえないように囁かれたその言葉は、僕だけのものだ。


#3
「キーッ!チビチビの野郎、ジュンと手ぇ繋いでやがるですぅ!」
「雛苺…許せないのだわ………コホン、レディがみっともないわよ?翠星石…」
「じゃ、じゃあ学校の廊下で、恥ずかしげもなく手を繋いで歩くのは良いっていうんですかぁ!?」
「確かにそうね。───ここは一つ、マナーというものを叩き込んであげましょうか?」



「…ふん。来たようね」
「雛苺、どうした?」

雛苺が浮かべた不敵な笑みは、こちらにゆっくりと歩いてくる翠星石と真紅に向けられていた。
……『この雛苺』の笑顔が僕以外の人間に向けられているのが少し腹立たしかったが、
下唇を噛み締め、雛苺の手をより強く握った。

「雛苺。貴女に前から言いたかったことがあるのだわ」
「うゅ?何なのーっ?」

──一瞬の内に雛苺は無邪気な仮面を被っていた。
これには僕も恐れ入った。

「節度というものが貴女には無いのかしら?」
「そ、そーですチビチビッ!わわわ、わかったらジュンの手を離しやがれですぅ!」
「──何で?」


真紅と翠星石が説いた『常識』を、雛苺は一言で遮った。

「雛はジュンのことがだぁい好きなのよ?だからいつも一緒にいたいのよー」
「お、おい雛いち…ご……  !?」

───雛苺の瞳は、僕といる時、もしくはそれよりも本気だった。
僕は気圧され、それ以上何も言えなくなった。

「ジュンは迷惑してるかもしれねーで──」
「翠星石は、何で雛を止めるの?そして、真紅も…」

翠星石と真紅が一瞬フリーズする。…らしくなく慌てた真紅が返す。

「ま、周りの人が不快になるからよ!」
「嘘つきさんは嫌いなの」
「本当よ!」
「ううん、嘘なのよ」

ペースを乱され、熱くなる真紅。
冷たい瞳で看破する雛苺。
その、極めて対照的なやりとりは実に奇妙だった。

「本当は… 二人とも、ジュンのことが好きなんでしょ?」

再び硬直。


「そんなわけねーです!何を馬鹿なことを言ってるんですか!こんなチビ人間のことなんか…!」
「悪い冗談もたいがいにして頂戴!大体ジュンは下僕で──」
「チビ人間?下僕?ふふ… ねぇ、自分の気持ちに素直になれないってどういう気分なの?」

その時僕は悟った。雛苺が今から始めようとしていることを。

「…丁度良いから今告白すると良いのよ。ね?
 ジュンに好きって言われたいんでしょ?ギュッとしてもらいたいんでしょ?
 チューしたいんでしょ? …いやらしい事だってしたいんだよね──?」
「いい加減にしなさい!雛苺!」
「そうです!いい加減に…する…で……す!?」


雛苺は、二人の心をぶち壊そうとしている。二人の心をひねり潰そうとしている。
…そう考えないと、この口付けを証明できない。

「残念なの… ジュンはもう雛にメロメロなのよー?
 ──────ちょっぴり、」

雛苺が大げさに僕の腕を抱く。

「腰が痛いのよー」




「なぁ、あそこまでしなくて良かったんじゃないか?」
「どうして?私はただ単に…自分がジュンのものだって教えてあげただけよ?
 それに雌犬さん達、ジュンを狙っていたもの。ある意味、マーキングにもなったわね」

『ジュンのもの』…

──僕は全ての罪悪感を放棄し、雛苺を抱き締めた。


#最終話(?)

──彼女は、雛苺は可愛い。
みんなの前でこう言ったとしても、十中八九「何を今さら」と返ってくるだろう。
…でも、みんなが知ってるそれは偽りの姿。偽りの愛らしさ。
みんなは知らないだろう。僕の雛苺の本当の姿を。
みんなは知らないだろう。僕の雛苺の本当の可愛さを──…



「ジュン、どうしたの?
 ボーッとしちゃって」

怪訝そうに僕の顔を覗きこんだ雛苺の顔を見て、僕はうつつの世界に引き戻された。

………全部…夢だったの……か。

「何でもないさ」


何でもある。…僕はこの、目の前にいる花のような少女を、
夢の中とはいえ……思うままにしたのだ。
沈鬱な気分の中で僕は、目の前にいる想い人の瞳をじっと見た。

「変なジュン」
「なぁ、雛苺。 ──笑わないで聞いて欲しいんだけどさ」
「何?」
「…夢の中で、君と僕は幸せだったんだ。
 えーっと…その…僕と、ずっと一緒にいて欲しい」

鏡など見なくともわかる。今、僕の顔は鮮やかな赤をしているだろう。
僕にとって永遠とも思える刹那の後、そよ風が吹いたように雛苺が微笑んだ。

「…『夢の中でも』でしょ」


──これは、僕と彼女が紡ぐ、虚構と欺瞞に満ちた日常の断片。



「私はジュンのものなんだから」





私は私が嫌いだった。
本当の私は、いつも醜いから。

いつしか私は媚びることを覚えた。
本当の私は、いつも醜いから。

私は貴方に笑いかけた。
偽りの私は、いつも綺麗だから。

「作り笑いじゃない、君に会いたい」
そう言って、貴方は私に微笑んだ。

──私は私の仮面を剥ぎ取った。


貴方は私を抱き締めた。
本当の私を、抱き締めた。


私は貴方のものになった。
本当の私は、綺麗に笑った。

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