「一つ屋根の下 第九十六話 JUMとめぐ」



ボボボと音を上げながらバスは僕等の住む町へ走っていく。時間はすでに24時近く。外の景色は所々
ポツポツ光る街灯と微かに光る星の明かりで照らされていた。
バスの中は静かだ。姉ちゃん達や柏葉の寝息しか聞こえてこない。日中、遊びすぎた疲れが出てきたんだろう。
後ろの座席を見れば翠姉ちゃんと蒼姉ちゃんが毛布を被って抱き合って眠っている。
前ではカナ姉ちゃんとヒナ姉ちゃんが柏葉にもたれ掛かって寝ている。
通路を挟んだ隣の席ではキラ姉ちゃんと薔薇姉ちゃんが双子のように眠っている。
最後部では、普段は口喧嘩が絶えない銀姉ちゃんと真紅姉ちゃんが、手なんて繋いで仲良さそうに寝息を
立てている。自分で姉の事言うのも何だけど、天使のような寝顔だ、みんな。
一通り姉ちゃんの寝顔を見て気づく。めぐ先輩、どこいったんだ?
「おはよ~ございます……起きていますか~?」
ふと、斜め後ろからそんな声が聞こえる。言うまでもない、探していた人だ。
「めぐ先輩、何ですかそのドッキリみたいな声は。」
「あははっ、分かってくれた?明日の早朝にみんなにやろうと思ってね。もちろんデジカメを回しながら。」
めぐ先輩はそう言いながら僕の隣の椅子に座る。そしてバサッと僕にも被るように毛布を膝に乗せた。
「まぁ、そんなネタは今はどうでもいいんだ。JUM君、もう少し起きていられるかな?」
「?別にいいですけど。何かあるんですか?」
「うん、ちょっとお話したい事がね。まぁ、夜は長いし。ゆっく~り語り合おうか。」
ギシッと音を立ててめぐ先輩が椅子に深く座る。一体、どんな話なんだろうか。
どうせロクでもない話。そう思っていた僕は少し後悔する事になる。
それは、いつか決めなければいけない事。時が止まらない限り。



「早速だけど…JUM君って好きな子はいるのかな?」
「は?いきなり何を言ってるんですか。」
「ん~、こういう旅行での鉄板中の鉄板の会話じゃないかな?お前誰が好きなんだよ~、とかそういう感じの。」
まぁ、修学旅行とかでは比較的定番……というか、最早お決まりともいえる会話ではあるだろうか。
中学の修学旅行の時もべジータを筆頭にそんな話をした覚えがある。そういえば、アイツって中学の時から
蒼姉ちゃんにゾッコンだよな。どうでもいいけど。
「それって普通、男同士とか女同士でやるものじゃないですか?」
「まぁ、そうだろうね。私も男の子とそういう話するの初めてだし。」
「普通はしませんから。まぁ、別に僕には好きな人なんて……」
いない。そう言おうとする前にめぐ先輩が口を開いた。
「いないって、そう言うんでしょ。本当かなぁ~?」
「ん…本当ですよ。大体、僕はそんなに女子とかと話したりしないし。めぐ先輩とか柏葉とか。後はクラスに2,3
人多少話すかなってくらいの子がいるだけで……」
そのクラスの2,3人さえもせいぜい桑田さんくらいしか名前が出てこない。
「へぇ~、奥手だね少年。私はJUM君って眼鏡外すと案外可愛い顔してると思うけど。」
めぐ先輩はそう言って僕の顔をマジマジと覗き込んでくる。
「あ、あの…先輩顔が近い……」
僕は思わずドキドキしてソッポを向く。分かってはいたけど。やっぱりめぐ先輩も普通に可愛らしい人だ。
生粋の日本人らしい黒くて長い髪は見る者を魅了するほど美しい。
「ん~、案外女の子に免疫ないね。水銀燈達なら平気でしょ?これくらい。」
「そ、そりゃあ姉弟だし……」
そう、姉弟だから。だから平気だと思ってた。ずっと一緒に居たから。
「そこ!!そこなんだよね……JUM君ってさ。水銀燈達を…どんな風に思ってるの?」



「へ……?」
僕は目が丸くなる感じがした。よく意味不明な事を口走るめぐ先輩だけど、今回は相当きてる。
「だからさ、JUM君は水銀燈とか…姉妹の事どう思ってるの?もっと簡単に聞けば、好き?嫌い?」
「どうって……そりゃあ好きか嫌いかなら好きに決まってますよ。姉ちゃんだし。」
一般的に家族が嫌いなんて人はそうそう居ないと思うんだけど。
「ん…それは姉妹だから好きなのかな?それとも……異性として?」
「なっ…!?」
当然分かってはいた事ではあった。姉ちゃん達は言うまでもなく女の子、要するに異性だ。僕が男だからね。
小さい頃ならともかく、中学、高校となってくれば姉ちゃん達を嫌でも異性と感じざるを得ない時もあった。
「何言ってるんですか。大体、僕等は姉弟だし……」
「でもさ。JUM君養子でしょ?だったら問題ないじゃん。それとも、姉妹は好みじゃないかな?」
「そ、そんな事はない…けど……」
好みじゃない。何て言ったら世の中の男に殴られても文句は言えない気もする。僕が言うのも何だけど、
姉ちゃん達はみんな普通に可愛いと思うし。好みじゃない訳じゃない。
「だったら、いいじゃない。水銀燈は……というか、みんなだと思うけど。金糸雀も、翠ちゃんも蒼ちゃんも。
真紅ちゃんもヒナちゃんも、きらきーちゃんも薔薇しーちゃんも。みんなJUM君の事が好きなんだよ。
それは、姉弟としてじゃなくって……異性として。男の子として。」
僕自身……自惚れだけど気づいていた事。知っていた事。でも、それを改めて他人に言われると僕の心臓
は高鳴った。姉ちゃん達が?僕を……?それを思うと僕は何も言えなくなった。
「思い当たる節はいくらでもあるでしょ?いくら仲良くても姉弟でキスまでするトコは私は知らないなぁ。」
「なっ…何でそこまで……」
「ん?よく水銀燈が嬉しそうに話してくれるし。あ、クリスマスの時真紅ちゃんとキスしてたのも知ってるよ。
私起きてたし♪いやぁ、モテる男は辛いね。」
めぐ先輩は心底嬉しそうに言う。もう頭を抱えるしかない。銀姉ちゃんもどうして喋るかなぁ……
まぁ、喋ってなくても見られてたなら同じな気もするけど。
「まぁでも……真剣な話。JUM君は将来どうするの?」



「将来って言われても……どんな仕事したいとか考えてないし…」
「あー、違う違う。そんな面白くもない話じゃなくて…結婚とか…ね。分かってると思うけど、今の日本の法律
じゃあJUM君は誰か一人としか結婚できないの。まぁ、JUM君がしないってのなら別だけどね。」
いきなり話が吹っ飛んだ気がしなくもない。でも……最終的に行き着く場所、決めなくてはいけない場所。
「JUM君が他の姉妹以外……例えば巴ちゃんや…まぁ私とか。他の子と結婚するならいいと思うよ。
それはあの子達が許さないと思うけど。でも、姉妹と結婚する事になったとして……君は誰かを選べる?」
「けっ……けけけけ…け、っこ…こ…コケー!?」
「落ち着いてよJUM君。私もそこまで動揺されるなんて思ってなかったよ。」
僕だってそんな事言われるなんて思って…なかったと言えば嘘だけど、言われるとそれはそれで。
「結婚って…大体、僕等は姉弟で…結婚なんて…」
「また同じやり取りだね。JUM君は血は繋がってないでしょ?私が聞いた話だと、血縁じゃなければ
余程じゃない限りOKだったはずだけど…」
その辺はやたらややこしい話だから省略するとして。
「ねぇ、JUM君。女の子にとって結婚ってさ、やっぱり夢の一つだと思うんだ。もちろん、私だってしたいと思うよ。
まぁ、ちゃんとした人がいればだけど。って、私のどうでもいい話は置いておいて…いいかな、JUM君。
多分君はずっと今のような日常が続く。きっと続けばいい。そう思ってるよね。」
僕の日常。姉ちゃん達に囲まれて、騒がしいけど楽しい日々。続いていく日々。続いて欲しい日々。
「でもね、永遠なんてないんだよ。いつかは歳をとって大人になって…好きな人が出来て愛し合って…
その人と生涯を共にして。JUM君……君は選ばないといけないんだよ。」
それは突き付けられた現実。永遠なんて、ない。僕の選択。決して避けられない選択。僕は…
「君は……選べる?」
めぐ先輩が僕に問いかける。考える。もっと考える。考えて考えて…答えが出なくても考えて…
そして出した答え。きっと今の僕には精一杯の答え。


「すいません、先輩。今の僕にはやっぱり選べません……」
選べるわけがない。僕は姉ちゃんが、姉ちゃん達が…みんな好きだから。でも…それでも気づいた事もある。
「そっかぁ。まぁ、簡単に答えがでるような話でもないしね。」
「はい。でも…今なら僕はめぐ先輩の別の問いに答える事が出来ると思います。」
「別の問い?」
めぐ先輩は少し首を傾げる。めぐ先輩と話して。今まできっと考えないようにしてきた事を考えて。出てきた答え。
「はい、姉ちゃん達をどう思ってるかってヤツです。僕…好きですよ。銀姉ちゃんもカナ姉ちゃんも。翠姉ちゃん
も蒼姉ちゃんも。真紅姉ちゃんもヒナ姉ちゃんも。キラ姉ちゃんも薔薇姉ちゃんも。姉妹としては勿論……
異性として……8人の人が好きなんて傲慢でしかないと思うけど。好きですよ。」
姉ちゃん達が好き。改めて分かったこと、気づいた事。それは姉妹として…そして異性として。
「ふふっ、8股とは凄いね。うん、でも……私はそれが聞けただけでも満足かな。JUM君と恋バナできたしね。」
クスッと笑う。すぐにソレを受け入れることが出来るかは分からないけど。でも、いつかきっと…
「恋バナなら…さっきから僕ばっかりですしめぐ先輩も何か話してくれないと。居ないですか?好きな人とか。」
「ええっ!?こ、これは参っちゃうなぁ~。」
僕はそうしてしばらくめぐ先輩と話を咲かせた後眠りについた。朝、目が覚めるとそこはもう家の前。
「ん~、楽しかったわねぇ。またみんなで行きたいわね、旅行。」
バスを降りて銀姉ちゃんがん~~っと伸びをする。そして続々と姉ちゃん達がバスから降りる。
「それじゃあ桜田君。また今度……」
「ん、ああまたな柏葉。いつでも遊びに来てくれ。」
ペロペロを手を振る柏葉に僕は言う。
「JUM君、昨日の夜の事忘れないからね。」
「変な言い回しはやめてください。でも…有難うめぐ先輩。」
僕はそう言って会釈をしてバスを降りる。すでに姉ちゃん達は門を潜り家のドアを開けようとしている。
「JUM、ぼーっとして何をしているの?早く来なさい。そして私に紅茶を淹れなさい。」
いつかは決めなくてはいけない事。でも、それはすぐに答えを出す必要なんてない。いやきっと……
その答えを出す為に僕は日常を過ごしてるんだろう。さて、気持ちを新たに日々を過ごしていこうかね。
END

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2007年01月08日 23:17