※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

短編「図書館」シリーズ五話「水銀燈Ⅱ」

突然だが、私、真紅は図書委員だ。
元々本が好きで、中一のときに初めて図書委員になり…
気が付けば図書室、そして図書委員の常連となり早3年。
その間に図書室仲間ともいうべく、同じく本の好きな友達連も出来て、
図書館をよく利用する人の顔もかなり覚えた。
これは、そんな私の図書室でのある日の放課後のお話。

当番の日は、普通の掃除は免除になる。しかし代わりに広い図書室の掃除があった。
HR後に、同じ掃除箇所のクラスメイトに当番だから、と声をかけて歩き出す。
図書室にたどり着くと、みっちゃん先生が掃除機や雑巾を出して待っていたが、
金糸雀のクラスはまだHRが終わっていないようで姿が見えなかった。

紅「掃除に来たのだわ」
み「はーい。まだ急がなくてもいいけど…はじめるなら掃除機の前に机の雑巾がけをお願い」
金「遅くなりましたかしら~!」
み「じゃあ、一緒に雑巾ね。終わったら掃除機よ」

そして3人で手分けをして掃除を始める。
広い図書室全体を掃除するのは大変であるけれど、
毎日掃除しなければいけない部分はケシゴムのカスが散乱する勉強・読書スペースの周りだけなので、
掃除はそれなりに簡単だ。しかも、教室などの他の場所と違って、
ここには掃除機という文明の利器がある。ちゃっちゃと掃除すれば
そんなに時間はかからない。
そして、その後は入り口の掃除中の札が外されて、放課後図書室の開店だ。

まず最初に返却ラッシュがあって、皆が次々と本を返却していく。
放課後はこの辺りが一番めまぐるしく、たまに友達などがその中に居ても
話なんてしている暇も無い。
今日はその中に水銀燈先輩の姿もあったけれど、さすがにこの時はちょっと手を振るだけ。
あっという間に次に並んだ人と入れ替わる。

それからしばらくたって、やっと列が全部掃けた頃に本を手に持った水銀燈先輩がやってきた。

銀「はぁい。今日はこれを借りていくわぁ」

差し出されたまず一冊目。A・ビアス著「悪魔の辞典」

紅「…良い趣味をしているのだわ」

この本は、私も前に少し読んだことがあるのだけれど。
世の中の様々な物や事柄が、ひねくれた視点と皮肉、そして頷かされる真実で解説されている。
たまにひねくれた考え方をする彼女にはある意味ぴったりな本かもしれない。

銀「久しぶりに読んでみたくなってたのよぉ」

2回目なのか…本の側に挟まる貸し出しカードを眺めてみると、たしかに前にも名前が並んでいた。
そうしてもう一冊貸し出されたのは、いつものライトノベル。
他のものよりも少し分厚い感じのするそのタイトルは、「楽園の魔女たち」
読んだ事の無いタイトルだ。
表紙に広がる楽しそうなイラストを眺めていると、カードを書きながら解説してくれた。

銀「それねぇ、結構面白いのよぉ。見覚えのある感じのキャラクターも居たりしてぇ…」
紅「例えば…?」
銀「別にそっくりってわけじゃないけれど、雰囲気がねぇ。
  まず、あのいっつもにぎやかな雛苺ちゃんでしょぉ、
  それにあなたに似た感じの子とか、蒼星石とか…はい、書けたわぁ」

書きあがった貸し出しカードが手渡される。それを受け取って、未整理分の山に加えていると

銀「これから部活だから、良かったら後で一緒に帰らなぁい?」

特に急ぐ予定はないので、当番が終わった後、部活が終わるまで図書室で待つのも悪くは無い。

紅「わかったのだわ。」
銀「ありがとぉ。じゃあ、なるたけ急いでくるわねぇ」

水銀燈先輩はそのまま急いで図書室から走り出て行く。
それを見送っていた所で、横で貸し出しカードを整理して記帳していた金糸雀が言う。

金「…あれ?水銀燈先輩って確か茶道部だったはずかしら。
  でも茶道部は今日は活動日じゃないかしら…?」
紅「そうなの?私は前に文芸部の部室に入っていくのを見たのだわ」
金「そういわれてみれば、前に歴史研究会の発表にも名前があったような…」

…一体あの人はいくつの部活をかけ持ちしているのだろうか。謎は深まるばかり。

そのうちに、またいつものようにかしましい雛苺が現れ、
さらに水銀燈先輩の部活の謎が深まったりなど、いつも通りの光景が繰り広げられながら、
時間は過ぎていった。
貸し出し終了の20分前には、また本を戻しに行って帰ってこない金糸雀と
それについていった雛苺もついでに連れ戻し、記帳を急ぐ。
そして、最後の貸し出しラッシュが終わり、当番の時間は無事すぎた。
当番時間が過ぎてしまえばもう帰っても良い。

金「また明日かしら~」
雛「また明日なの~」

下級生二人組は、司書室にも声をかけてから、ぱたぱたと楽しげに図書室を出て行く。
残った私は、みっちゃん先生に「別に全部はやらなくても後でやっておくよ?」と言われた
残りの記帳を済ませながら時間をつぶす。
それも終わって今日の貸し出し数を記入、提出し、借りた本を読み始める。
タイトルは、「楽園の魔女たち」先ほど水銀燈が借りていった本の一巻である。
ライトノベルなんて普段はあまり読まないのだけれど、しかし気になってしまったのだ。
なので、本を返却に行くついでに、棚から一巻を取り出して借りた。
一冊はもう読み途中の本を借りているので、これ以上は借りられない。

ページをめくって徐々に読み進めていく。
途中で、ああ、確かにこの子は雛苺と雰囲気が似ているかもしれない。
こんなに細かい所まで気が回る子じゃあないけれど。そんなことを考えてふっと笑ったところで…
後ろから唐突に何かが覆いかぶさってくる。

紅「きゃ!?」
銀「待たせてごめんねぇ」

水銀燈先輩だった。いつの間にか閉館時間も近くなっており、
部活もそろそろ終わるころあいと言った所。驚いた私の反応に満足したのか、
先輩はぱっと体を離すと、かばんを持ち上げて歩き出す。

銀「さ、そろそろ帰りましょうかぁ」

司書室のみっちゃん先生に挨拶をすると、彼女はとっとと図書室の出入り口へと歩いていく。
私は、ため息をついてから同じく司書室で挨拶し、その後を追った。
帰り道でしたのは、大体は普通の学校の事や、最近読んだ本の話。
道を歩きながら、あの探偵はどうだこうだ、と話し合う。
そんな中で、ふっと先ほどの本の話が出る。

銀「そういえばぁ、さっき読んでたでしょぉ。楽園の魔女たち」
紅「…ええ。気になったから読んでみることにしたのだわ」
銀「で、今のところの感想はどぉ?」

先輩が、にっこり笑って問いかけた。

紅「そうねぇ…雛苺は、確かに似ているかもしれないわ。
  でも…私はあんなにすぐに激昂したりなんてしないのだわ」
銀「あらそぉ…?」
紅「しないのだわ!」

にやにやしながら言ってくる。思わず語調強く言ってしまい、慌てて口を押さえる

銀「ほらぁ♪」

結局、私は分かれ道まで延々とからかわれ続ける事になった。
そして分かれ道で、先輩はいつもの別れ間際の言葉を私に投げかける。

銀「じゃあねぇ、真紅ぅ。愛してるわぁ♪」
紅「…はいはい。先輩、また明日」

冗談とも本気ともつかない、手を振りながらのいつもの台詞。
初めて言われた頃は戸惑っていたものの、今はもう慣れた。
私は軽く受け流しながら微笑んで手を振り返し、見送ってから家路へとついた。

その日、本を読み終わってから寝て見た夢の中…私は魔法使いの弟子だった。
雛苺や金糸雀、双子達と一緒に、ぐーたらで面倒くさがりな水銀燈師匠から魔法を習う。
見たのはそんな、楽しげな日常の夢。
起きたらきっと忘れてしまう非現実的な夢の中で、
私はやっぱり先輩にからかわれていたような気がした。

次回「写真集の少女」
|