短編「図書館」シリーズ四話「水銀燈」

突然だが、私、真紅は図書委員だ。
元々本が好きで、中一のときに初めて図書委員になり…
気が付けば図書室、そして図書委員の常連となり早3年。
その間に図書室仲間ともいうべく、同じく本の好きな友達連も出来て、
図書館をよく利用する人の顔もかなり覚えた。
これは、そんな私の図書室でのある日の話。

昼休みも中盤に入ってくる頃、入り口の扉から入ってくる人影。
目立つ銀髪に赤い瞳…高等部一年の先輩、水銀燈だ。
彼女は私の姿をカウンター内に見つけて、近寄ってきた。

銀「あらぁ、今日の当番は真紅なのねぇ…お疲れさまぁ」

そしてにっこり微笑む。少し頬が熱くなるのがわかったが、私はできる限り気にしないようにして、
要件だけを言う。

紅「返却の本は?」
銀「はい、これよぉ」

手渡されたのは美麗なイラストに彩られた表紙の文庫本。要はライトノベル、といわれる類の本だ。
イラストは綺麗だと思うが内容は薄いものが多い。
全体的な貸出量から見れば、読みやすいからか人気の分野であるが、探偵小説好きの私には
内容的に少し物足りなく感じる事も多い。
けれど彼女は好んでこの手の本を読んでおり、しかも読む速度も驚くほど速いために
一日に何度も借りては返却し、借りては返却し、を繰り返す。
基本的に一度には2冊までしか借りられないのだが、返却すれば話は別。
おかげで、一時期は朝借りて昼借りて放課後に借りて…多分一日に6冊くらいは借りていたと思う。
しかし、さすがに最近は新しく入ったもの以外は大部分を読んでしまったらしく、
今はそれ以外の分野もかなり借りるようになった。おかげで、一時期よりは冊数も落ちてきている。
…それでも一日4冊は借りているが。

紅「はい、はんこは押したのだわ。」
銀「ありがとぉ」

貸し出しカードを受け取ると、彼女は奥へ歩いていく。

金「あ、水銀燈先輩こんにちはかしら~」

奥に歩いていくにつれて、図書室で本を読んでいた数人から彼女に向かって挨拶が飛び、
それに対して、にっこり笑って挨拶をしていく。
しばらくすると、彼女が本を選んで腰掛けた周囲にいつの間にか数人の人だかりが出来あがった。

…そう、彼女は図書室のカリスマとでも言うべき存在なのだ。
美少女だと胸を張って言える容貌に、生来のノリの良さ、そしてその良き先輩後輩っぷり。
おかげで彼女が図書室に現れると、その周囲にはいつの間にか図書室常連達が集まって、
様々におしゃべりを始めるのである。

紅「…まったく…」

そんな中、頭を抱えるのは今日の当番である私ばかり。
正確に言えば金糸雀だって当番なのだけれど、
彼女はまた奥まで本を戻しに行って…そのまま読みふけっていたようだ。

昼休みには、図書室常連でなくとも普通に出入りしている人たちは居るわけで、
彼ら以外に話している人が居ないわけじゃない。
けれど、その人数が集まれば、小さな声でもうるさくなってしまう。
常連だろうがなんだろうが図書室でうるさくしてはいけないのだ。
そんなわけで…

み「ねえ、奥が少しうるさくなってきたから注意お願いできる?」

そろそろ注意に行こうかと思っていたところで、奥の司書室からみっちゃん先生が顔を出す。
片手で拝むような感じで片目を瞑ってのお願いだ。

紅「あ、はい。そろそろ行ってくるのだわ。ついでに金糸雀も呼び戻してきます」

今は幸い借りる人も数が少ないので、カウンターから立ち上がって奥へ向かう。
いざ人が来た場合は、みっちゃん先生が対応してくれるだろう。

紅「皆、図書室では少し静かにしてほしいのだわ!」

人だかりに向かって注意する。ここでタムロしている人たちの大半は
当番ではない図書委員達なのだから、もう少し自分で注意してほしいと真紅はいつも思う。
ため息をついた所で、後ろから気配が。慌てて振り向こうとすると

銀「真紅ぅ、注意いつもお疲れ様ぁ♪」

…抱きつかれた。
そう、言い忘れていたのだけれど。私、真紅はどういうわけかこの図書室のカリスマたる先輩に、
やたらと気に入られてしまっていた。何がしか、すれ違ったり挨拶したり…
図書室で本を読んでいては、いつの間にか背後に忍び寄られて抱きつかれるのだ。

銀「あらぁ?今日は反応が薄いわねぇ」
紅「こう毎回何度も抱きつかれていたら慣れます…あ、金糸雀、いつまでも本を読んでないで、
  そろそろカウンターに戻るのだわ!」
金「はいかしら~。お邪魔はしないのかしら~♪」
紅「お邪魔ではないのだわ。当番はちゃんとするべき、ということなのだわ」

周囲のこういったからかいにももうかなり慣れた。
何せ、一年の時に唐突に図書室でつかまってからずっとこうなのである。
そのまま、しばらくはこの大荷物…水銀燈先輩を引きずりながら歩いて、本を片付けていく。
数冊しかないそれが大体片付いた辺りで…

銀「よっし、真紅の感触も堪能したし…借りる本を探してくるわぁ」

やっと私は解放されて、水銀燈先輩も小さく手を振って微笑んでから歩いていく。
少しだけ熱くなった頬を無視して左手の時計を見れば、休み時間はもうあと少し。
そろそろ貸し出しラッシュが始まっている頃、早く戻らないと今頃金糸雀が大変だろう。
私は、少しだけ歩調を速めると、図書室入り口正面のカウンターに向かって急いで歩いていった。

次回「水銀燈Ⅱ」

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最終更新:2006年03月08日 20:00