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短編「図書館」シリーズ三話「司書の先生」

突然だが、私、真紅は図書委員だ。
元々本が好きで、中一のときに初めて図書委員になり…
気が付けば図書室、そして図書委員の常連となり早3年。
その間に図書室仲間ともいうべく、同じく本の好きな友達連も出来て、
図書館をよく利用する人の顔もかなり覚えた。
これは、そんな私の図書室でのある日の話。

「真紅ちゃん、これ手伝ってくれる?」

奥の司書室から声がする。今は貸し出しも少ない放課後の時間帯。
私は、隣の金糸雀に声をかけてから立ち上がって奥へと向かった。

司書室内では、つみあがる新しい本にカバーを付ける司書の先生の姿が。

「はい。わかりましたなのだわ。先生」
「ああん、もう先生って言わないでみっちゃんって呼んで~」

…変な先生である。図書委員や、他の図書室常連の子達と仲の良い気さくな先生であるのだが、
何故だかみっちゃんと呼ばれたがる。私が初めて図書委員になったときも、自己紹介は

「私が、この図書室の司書をやっています。みっちゃんってよんでね♪」

とかそんな感じだった。しかし先生は先生なので…一部の子以外は大半「みっちゃん先生」と
呼び習わしているらしい。
ともかく、私はカバーかけのお手伝いを始めた。図書室の本のあのビニールのカバーをかけるのは、
慣れないとそれなりに難しく…私も始めて手伝った時には何度も失敗して間に空気が入ってしまった。
結局、何度張りなおしても上手く行かないものや、仕方ないと諦めた事もあり…
今でも図書館にはその本は置いてある。見ると少し恥ずかしい。
それ以外にもたまにカバーと本の間に空気の入った本があるあたり、
失敗したのは私だけでは無い事がわかった。嬉しくは無いけれど。

「いつもありがとうね~。終わったら少し休憩して、お茶にしましょう」

先生が、にっこり笑う。趣味の本等の話をしなければ、基本的にこの人もおとなしい人だ。
…趣味の話さえしなければ。

しばらくして、つみあがって居た10冊ほどのハードカバーにはカバーをかけ終えた。
ハードカバーは、大体が現在のベストセラーなどであり、図書室に置かれた後しばらくは、
予約なしでは借りられない本の一つになるだろう。

「あ、この本読んでみたかった本なのだわ…予約しても良いですか?」
「ああ、かまわないわよ」

そんな本にいち早く予約が出来るのも図書委員の特権である。
学生にはハードカバーの本は高すぎてなかなか買う事ができないし。
みっちゃん先生は、本を背の低い棚の上に置いてから、急須を持ってポットの元へと向かう。
司書室には、なぜかポットやコーヒーメイカーがこっそり置いてあり、
いつでもお茶などを入れることが出来た。

一息つく。この司書室での静かな時間は私の図書室での楽しみの一つだ。
紅茶ではなくて緑茶なのが少し難点であるけれど、これはこれで悪くはない。
今は外のカウンターも混雑しても居ないし…あとは下校時刻間近の貸し出しラッシュくらいだろうか。

「はい、これお茶請け。…内緒よ~」

タッパにつめられているのは、先生の、いつものお手製の黄色い卵焼き。
砂糖がたくさん入っているので甘く、お茶請けにぴったりだ。
ありがたくお相伴に預かっていると…

「真紅先輩、そろそろ溜まってきた本を棚に…って!一人でずるいのかしら!」

金糸雀が司書室に入ってくる。

「これは先生を手伝ったお駄賃みたいなものよ」
「でも、カナだって食べたいかしら。みっちゃんの卵焼き~!」

そういえば、金糸雀はこの卵焼きが好物だった。仕方がない…

「じゃあ、交代なのだわ。代わりに、カバー付けの手伝いも後でちゃんとやるのよ」
「う、カバー付けは苦手かしら…」
「大丈夫よ、カナにもう一回ちゃんとやり方教えてあげるから」
「なら、がんばるかしら。卵焼きっ♪卵焼きっ♪」

私は立ち上がって、金糸雀と場所を交代する。
空いているといって人が来ないわけではないので、さすがにカウンターを空けるわけにはいかない。

「じゃあ、カウンターに戻るのだわ。金糸雀、あんまりさわいじゃダメよ。
 司書室の方がうるさくては生徒に注意なんて出来ないのだわ」
「わかってるかしらー♪」

聞いているか少しうかがわしい返事。まあ、金糸雀と特に仲の良いみっちゃん先生だけれど、
その辺はちゃんと注意してくれるだろう。思ってカウンターの席へ戻る。

「あ、真紅ー!金糸雀はいるなのー?」

…ああ。今日も斯様にして図書室の静寂は奪われる事になるのか。
私はため息をつきながら、奥の司書室を指差したのだった。

次回「水銀燈」
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