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最終話 「幸」


「何か心残りがあるようですね」

人の心を見透かすように喋りかけてきたのはラプラスの魔だ。
全く、いつでも嫌な奴だ。

「ああ、まぁ……」
「オディールさんですか?」
「そういう事だ」

オディールはあの後何処に行ったのだろうか?
恐らくは自分の思い出の世界。

「連れて行ってさしあげましょうか?」
「……お願いする」
「ではついてきてください」

そう言うとラプラス魔が前へ前へと進んでいく。
僕はそれについていった。

「……オディールはどこなんだ?」
「“歓喜の第3世界”」

喜びの“思い出”か……。
“思い出”に浸っているのだろうか?
「さて、此処です」

ラプラスが止まった先には一つのドアがあった。
此処の向こうに……オディールが……。
僕は黙ってそのドアを開けた。
中は何処かの家のようだった。
オディールの家だろうか?
周りを見回す。
……居た。
窓の向こうにオディールと誰かが居る。

「……誰だ?」
「あの子の母親ですね」

母親?母親というと……。

「オディールを……虐待していた……?」
「ええ、その母親です」

その母親が何故……オディールと仲良く喋っているのだろう。
……死んだら心の病も治るのだろうか?
僕はオディールに近付いていった。
久々に見た笑顔。
楽しそうなオディールの笑顔。
間違いなく“幸せ”だろう。
僕はオディールの肩をぽんぽんと軽く叩いた。けれどもオディールは気が付かないようだ。
少し強めに叩く。気付かない。更に強く叩く。気付かない。

「オディール、オディール?」

返事はない。

「オディール?」

返事はない。

「どういう事だ……?すいません、あのオディールさんのお母さん……」

オディールの母に声をかけ近付く。しかし、触れれない。
オディールには触れられたのにオディールの母には触れれない。
触れようとすると体がすり抜ける。

「どういう事だ……?」
「“思い出”」

ラプラスの魔がオディールの方に近付いて喋りだした。

「“思い出”とは思念の塊」
「それぐらいわかる」
「思念の中には“妄想”というものも含まれます」
「……何が言いたい?」
「強く思った“幸せな妄想”、それも一つの“思い出”」
何が……何が言いたい……?

「オディールさんのお母さんは精神病でした。それを宣告された時、ヒステリーとなりオディールさんを虐待した」
「ああ、そうだ」
「では、オディールさんがそのせいで発狂していた事もご存知ですね?」
「ああ」
「じゃあ病気の本当の原因については?」
「……原因?」
「精神病と言うものは遺伝する事があるようですね。狂った蛙から生まれるのは狂った蛙だけ」
「遺伝なのか……?」
「ええ、愛し合うべき親子の両方が病となる。なんと悲しい事なのでしょう」

僕はオディールを見た。ラプラスの魔が言う……“妄想”が作り出した母。
それとオディールは“幸せ”そうに喋っている。とても病気とは思えないように。

「死んで消滅するのは己の身のみ、己の心は死にません。
 つまり、心の病は死んでも治らないのですよ」
「……嘘だろう?」
「見ての通りです、彼女は自分を徹底的に殺そうとした。
 自分を殺した先にあったのは崩壊、現が夢に支配され
 彼女に残ったのは“妄想”でした」

嘘だろ?

「彼女の一番の幸せは見ての通り“母との幸せな生活”
 幸せになった彼女が夢から解き放たれる事はないでしょう」
「どうにか……どうにかしてくれよ!
 可哀想だろう!?可哀想じゃないか!」
「どこが?」
「見て分からないのか!?幻想とじゃれあって何が幸せなんだ!」
「それはあなたの考えであって彼女の考えでない、彼女の中では一番望んだ“幸せ”
 最愛の人愛することも、最愛の人に愛されることもなかった彼女にとって
 “妄想”という思い出は至高の思い出なのです」
「……」
「無理に助けると……“壊れますよ”」

壊れる。
精神の崩壊、以前薔薇水晶にもあったような自己崩壊。
そうなったらもうオディールではない。
オディールに似てるだけの“オディール”のようなもの。
オディールは無くなってしまう。

「……」
「どうしましょう?」

僕は黙ってドアの方へ戻った。
……“幸せ”なんだよな。
放っといたら“幸せ”なんだよな。
最高の幸せなんだよな。

「間違ってるよ……こんなの……」
「この世に“間違い”はない。
 己の思った“道”、正解しかない。
 己がよければ全て良しなのですよ」
……振り向かない。
僕は“幸せ”なオディールをもう見なかった。
オディールは“幸せ”でも見てると哀しくなってきて。
涙が溢れそうになって。
けど、泣くのは堪えた。
幸せな親友の前で泣きたくなかった。

「おや、面白い物がありますよ」

ラプラスが指差すはドア。
誰かの“思い出”なのだろうか?

「あなたの知っている人ですよ、見てみるといいですよ」

……見るぐらいいいか。
オディールの事がショックすぎて心神喪失しかけた僕はドアを開けた。
入った瞬間に目に映ったのは。

“哀しみ”““苦しみ”“憎しみ”“妬み”

そんな醜い、醜い“思い出”だった。

「なんだ……これ……?」

場所は“歓喜の第3世界”
喜びの“思い出”の世界になんでこんなに嫌なものばかりが……?
僕は何故かが気になって進んでいった。
よく見てみるとこの“思い出”映る人は全て違う人だ。
他人の“哀しみ”などばかりが映し出されている。
……なんなんだ此処は?
そう思った僕の目の前に一人の少女が現れた。
嫌でも見覚えがある少女。
かつて、自分に恐怖を与えた少女。  

「桑田……」

桑田はそんな醜い思い出ばかりに囲まれているのに笑顔だった。
嬉しそうで、“幸せそうで”
他人の不幸で喜んでいた。

「これも一つの“幸せ” 
 他人の不幸は蜜の味」
「……」
「彼女も“幸せ”になろうとしているだけ。あなたと同じですよ」

僕と……同じ……。

「考え方は違うものの“幸せ”になろうとしているのは同じです」
「……」

……色々な幸せがあるんだな。
昔の蒼星石もそうだった。
人を殺して“思い出”を奪って“幸せ”に浸っていた。
あれも一つの“幸せ”
「ラプラスの魔、今日は色々な所に連れてってくれてどうしたんだ?」
「あなたに教えておこうと思いまして」
「何を?」
「私はもう貴方達に飽きましてね、そろそろ別の所に行こうかと思ってるのですよ」
「……そうか、それで?」
「ですから最後に貴方に教えておこうと思いました」
「何を……だ?」
「“幸せ”とは個人の概念、自分が思えばそれが“幸せ”
 故に“幸せ”とは万色とある。
 貴方の“幸せ”は何ですか?」
「僕の……幸せ……」

そうやって話している内に皆の所に着いていた。ラプラスの魔と一緒に来る僕を皆は迎えてくれた。

「何処に行ってたのぉ?」
「……ちょっとね」
「秘密なんて女々しい奴ですぅ」
「そんな事言わないの」
「それより、ラプラスの魔がお別れをするだってさ」
「お別れ……?」

皆がほぼ同時に言った。

「なんでなのー?」
「私の暇つぶしは貴方達じゃもう満足できないようになりまして」
「つまり……飽きた……?」
「はい」
「飽きたなんてひどいかしらー」
と言うより、暇つぶしの道具にするほうがひどい。
まぁ、こいつはそんな奴だしな。

「さて、もう去りましょうか」
「いざ居なくなると、少し寂しいわ」
「そりゃ光栄、道化はきまぐれですからね。
 また来る事もあるかもしれませんね」
「まぁ……結局お前は最初から最後までそういう奴って事か」
「ええ」

長い間一緒にいたが本当に変わらないな……。
ずっとあいつはあんな感じだ。

「では、さようなら」

ラプラスは空中に手をかざす。
蝶の形のような光が照ったかと思うとラプラスの魔はそれを掴み
空中に光の線を描く。
光の線は入り口のようだった。

「それと……もう“ラプラスの魔”という名前もいりませんね。
 元々貴方が付けてくださった名前を皆様が言いやすいように名乗ってただけですから」
「……そうか、じゃあ気をつけろよ“道化”」
「ええ、さようなら」

光の中にラプラスの魔が消えていった。
少しすると光の線が消え居た場所は無くなった。
「少し寂しいですね」
「うん」
「最後までよくわからない兎でしたわ」
「……だね」

皆が去ったラプラスもとい“道化”の事を此処に口走る。
なんだかんだいって、あいつにとっての“暇つぶし”は
僕らに役立った事も多かった。
……少しだけ感謝しとこう。

「皆、“幸せ”って何だと思う?」

いきなり僕は皆に尋ねた。

「何言ってやがるですぅ?」
「いやなんとなくね」
「そうねぇ……幸せなんて自分が思ったら幸せじゃないのぉ?」

水銀燈もあいつと同じような事を言った。

「じゃあさ、皆にとっての幸せは?」
「変な事聞いてくるのねぇ」

自分でもそう思う。
オディールと桑田を見てどうも変な気持ちなんだ。
「私の幸せわねぇ……“今まで”、“今”、“これから”よ」
「……へ?」
「皆と作った“今までの思い出”、貴重な“今という一瞬”、“まだ見ぬこれから”
 全部が全部幸せよぉ。だって皆と一緒だものぉ」
「水銀燈、貴方にしてはいい事を言うのだわ。
 私も同意見だわ。貴方達と一緒にいる“いつも”、それが“幸せ”よ」
「私も……」
「私もですわ」
「僕も」
「翠星石もですぅ」
「カナもかしらー」
「ヒナもなのー」

皆が皆、同じ事を言った。
ベジータ達も言っている。

「皆同じだね」
「そうねぇ、そうだ。ジュンはどうなのぉ?」
「僕?」
「おめぇだけ言ってないですぅ。さっさと言いやがれですぅ」
「ずるいのー」

……僕の幸せは。
「大好きな恋人と暮らして
 大切な親友の皆と暮らして
 皆で作った“思い出”で囲まれて
 皆でこれから作っていく“思い出”に期待して
 ……あれ?」

僕は一息おいて言った。

「はは……僕も皆と同じだ」
「ほんとね、という事は皆が皆“幸せ”ね」
「じゃあ歌でも歌うかしらー!」
「何でそうなるんですぅ」
「いいじゃない歌おうよ」
「そ、蒼星石が言うなら……歌ってやるですぅ」
「ジュンも歌いましょう?」

僕は確信した。
僕はわかった。
“幸せ”なんだな、僕も皆も。
これが“幸せ”なんだな、僕も皆も。

「……歌おうか、終わらない愛歌を」
ここで終劇
皆様どうでしたか?
“幸せ”な“思い出”と
“幸せ”な“思い出”を作っていくお話は?
彼らは永遠を選びました
だから終わることはないのです、この物語は
様々な“幸せ”がありました
そしてこの世界には沢山の“幸せ”があります
これはその中の一つの物語

――愛歌が響きます、幸せの愛歌が永遠に――



fin
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