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第二十一話 「再会」


「ジュンどうしたですか?」
「……なんでもない」

正直、ショックだ。
メグはもう居ない。
もう“居ない”んだ。
消えてしまった、居なくなってしまった。
……なんでだよ。
なんで、消えることが“幸せ”なんだ。

「“幸せ”、それは個人の概念。
 あなたの幸せは誰かにとっての不幸かもしれない」

声がした方向を向くとやはりラプラスの魔が居た。今度は何の用だ?

「気まぐれで来たのなら帰れよ」
「とんでもない、折角いい事を教えようと思いましたのに」
「……なんだ?」
「お友達が“壊れて”ますよ」
「……?」
「簡単に言えばあるべき方向を見失い、自我が崩壊しかかっています」
「……簡単じゃねえよ。兎に角やばいんだな。
 誰だ!?何処だ!?」
「この扉の先に」

ラプラスが指笛を鳴らす。
すると、いつも色んな世界へ行く時に出るドアが出た。
「早く行ってあげた方がいいですよ」
「そうさしてもらう、翠星石行こう」
「合点承知ですぅ!」

僕はドアを開けて即座に飛び込む。
開けた先には海が広がっていた。
“無意識の海”
様々な思いが流れている。

「一体……誰なんだ?」
「わからんですぅ、けど早く行かないとやばいですぅ」
「だな、急ごう」

僕達はひたすら進んで行った。
此処には道も場所もない。
歩けばいずれ着く。
しかし、じっとしてもられないので僕らは急ぐ。
誰だか知らないけど、大変なんだろ。
早く、早く。
急かす僕らの前に一人の人が現れる。
頭を抱え、悲鳴をあげ、嘆いている。
心のストレス、それが爆発して心を壊そうとしている。

「あれって……」
「薔薇水晶ですぅ!」

薔薇水晶、君は一体なんでこんな所に居る?
「第5世界に引きずり込むですぅ!」
「ああ!」

第5世界は歓喜、“楽しい思い出”の世界。
そこなら薔薇水晶の自我崩壊も治まるかもしれない。
急いで薔薇水晶に詰め寄る。
そして、優しく肩を叩いた。

「全く……お前は何をやってるんですぅ!」
「そんな事言うなって……大丈夫かい?薔薇水晶」

薔薇水晶はきょとんとしている。
そりゃそうだ、昔死んだ友達が目の前に居るんだから誰でも戸惑う。
更には周りの背景が学校になっている。
楽しい思い出というと此処が浮かんだのだ。

「どうしてあなた達が……?」
「ま、ちょっとね」
「簡単に言えば兎に呼ばれたんですぅ」

翠星石がそう言うと納得した表情を見せる。
反応からしてラプラスの魔を知っているようだな。
……あいつが何かしたんだろうか?

「……此処はあなた達の世界?」
「ご名答ですぅ」
「ああ、僕達の思い出が作り出した世界。
 数字で言えば……悦楽の第5世界なのかな?」
「もう心は癒されたか……?」
「……まだ死にたいとは思う」
「何でなんですぅ?」

よっぽど何かひどい事でもあったのだろうか?
そこまで傷ついたなんて。

「私は昔お母さんを殺した……。
 そしてお姉ちゃんを傷付けた。
 私は……“罪人“。
 罪は死んで償うものと思って……。
 けど私は最低な子。
 自分の弱さを隠して愚かさを隠して
 自分から逃げている……。
 死にたいと思っても死ねない……」

薔薇水晶はそう言うと眼帯を外した。
眼帯を外した所は初めて見た。
片目は普通だけども眼帯のしていた目からは涙が溢れている。
哀しみの雫が。

「おめぇは馬鹿ですか?」

翠星石が薔薇水晶に突然言う。

「……!」
「罪ってのは……個人の概念、だから裁く事も償う事も出来ない。
 自分が罪を感じれば罪となる。」
「じゃあ何を何をすれば罪は消えるの?」
「……知らんがなですぅ。」
「……へ?」
「僕は神様じゃないからわかんないけど
 罪とは消えるものとは思ってない。
 イエス=キリストが背負ってくれるものでもない。
 自分が生きて背負うものなんじゃないかなぁ……?」
「……!」
「薔薇水晶……あなたは偉い所もあるけど馬鹿ですぅ」
「……」
「罪を罪とわかってるならそれだけで充分ですぅ。
 罪を受け入れて背負い生きることが最大の償いですぅ」
「……!」

翠星石の顔を見ると悲しそうな顔をしていた。
“蒼星石”、あいつの事を思い出していたんだろう。
あいつは自分の罪を自分なりに認め、償っている。

「死んだら……誰かを悲しませるんだよ」

薔薇水晶の眼帯をかけてなかった方の目からも涙が溢れてきた。

「生きる事こそが最大の罪であり罰であり償いであるってね。
 そして死を望むという事は罪から逃げるという事。
 だから……薔薇水晶、死んでもいい奴なんか誰も居ない。
 君は死ぬべき奴なんかじゃない」
生きなきゃならない。
まだ、こっちへ来てはいけない。
悲しむ、雪華綺晶も他の皆も悲しんでしまうから。

「心の……雑草が切れたみたいですぅ」

自分という木にからみついてた
自分への悲しみという雑草が。

「ふふ……もう大丈夫みたいだね、薔薇水晶」
「……ありがとう」

良かった、生きてくれてよかった。
これで“幸せ”なんだ、薔薇水晶も皆も。
そう思っていると何かを叩く音が聞こえる。
振り向くとラプラスの魔が手を叩いていた。

「良かった良かった、これで丸くおさまりましたね」
「ラプラス……」

薔薇水晶が返事をする。
やはり知っていたのか。

「しかし呼んでいないのに蒼いお子さんに会うとは……。
 運命の悪戯ってものなのですかね?」
「蒼……ってもしかして……」
蒼といえば思いつくのは蒼星石、あいつしか居ない。
蒼星石に会ったのか?

「居る場所を教えましょうか……?」

ラプラスが翠星石の方を向いて言う。
予想外のも返答は早くはっきりとしていた。

「だが断るですぅ!」
「ほうほうそれまた何故なのでしょう?」
「あの子は……まだ会いたくないと思ってるはずですぅ。
 あの子は……自分なりの償いをしてるですぅ……」
「ほう、だから会いたくないと。
 大した決心でございますね」

翠星石の目は本気だ。
会いたいのだろう。
会って抱きしめたいのだろう。
けど、駄目なんだ。
蒼星石が帰ってくるまで待たなければならないんだ。
ラプラスの魔は今度は薔薇水晶に視線を移した。

「そうそう薔薇水晶さん、いいお知らせと悪い知らせと
 二つありますがどちらを聞きますか?」
「……良いニュース。」
「わかりました、では言いましょう。
 良い知らせとはあなたの目が覚める事です。」
「……!」
目が覚める……?
ずっと寝たきりにでもなっていたのか?
それならずっと夢の中に居る訳だし全て合点がいく。

「良かったですぅ!」
「ああ……本当に良かった。」
「……みんなありがとう」

夢の中にずっと居たら心が虚ろになってしまう。“現実逃避”してしまう。
目を覚ましても廃人という事が有り得る。
だからよかった、本当に。

「……悪い知らせって何なの?」
「あんたは寝てる時に見た夢を覚えてる事がありますか?」

……そんな事は滅多に無い。
夢は現実にする事が出来ない。
だから夢を見ても大体忘れてしまうし
覚えていても覚えている言ばほとんどない。
つまり……。

「って事は……もしかして」
「そう言う事です、恐らく全て忘れてるでしょう」
「そんな……嫌だ!」

僕も、正直嫌だと思ってしまった。
けど、薔薇水晶はまだ来てはならないんだ。
戻らなければならない。
薔薇水晶はラプラスの魔にしがみついた。
だが、ラプラスの魔は何の反応もせず言いのけた。

「……どうしようもありません」

薔薇水晶はよほどショックだとようだ。
かなり悲しんでいるように見える。

「良いニュースはもう一つありますよ」

ラプラスの魔がそう言うと薔薇水晶はへ?というような感じで振り向いた。
もう一つ……?

「何なの……?それは……」

薔薇水晶がラプラスの魔に尋ねようとした刹那、体が光りだした。
……目覚めるんだな。

「どうやらお目覚めの時間のようですね」
「い……嫌!」
「薔薇水晶」

僕は名を呼んだ。
薔薇水晶はゆっくりこちらを向く。

「君は還るには早い……まだ君には“帰る場所“があるんだから」
「で、でも……」
「ごちゃくちゃ言うなですぅ!しょうがない事ですぅ!」
そう、これはしょうがない事。
薔薇水晶と僕らの別れは必ずないといけないんだ。
悲しくても、薔薇水晶を必要としている友達が沢山居るんだ。
戻らないと。

「おめぇには帰る場所があるんですぅ!
 わかったらさっさと帰りやがれですぅ……!」
「薔薇水晶……もう大丈夫……君は全てを忘れてても覚えてる事があるよ。
 君の心はちゃんと……」

薔薇水晶から出る光が一層強くなったように見えた。眩しいほどに。

「“生きる“という事だけはちゃんと理解してるはずさ……」
「ジュン……」

もう薔薇水晶の姿はほとんど見えなかった。
光が消え始め、薔薇水晶が帰ろうとする時に微かに聞こえた。

「……ありがとう」

薔薇水晶は消えた。
もう其処には何もない。
「……行っちゃたですね」
「ああ、また……暫くしたら会えるさ」

果てしない年月の果て、その時に僕らは“再会”するだろう。

「……帰りますか」
「……そうだな、また待とう」

ずっとずっと先に皆と“再会”するまで待とう。
僕らはひたすら待ち続ける。
――何十年も後

「久しぶり……」
「待っててくれたのねぇ」

返事をするのは最愛の人。
ずっとずっと待っていた大好きな人。

「約束したろ?誓ったろ?」
「そうねぇ……ふふ……」

手で頬に触れる。
久々に、ぬくもりが伝わってきた。
懐かしくて、嬉しくて、待ちくたびれてて。
言葉じゃ伝えられなう程。

「それじゃあ歌おうか」
「そうね歌いましょう」

一息おいて僕らは同時に言った。

「終わらないラブソングを、私達の地獄で」

僕らは歌った。
名も無いラブソング、鼻歌まじりのでたらめな愛歌。
でたらめで滅茶苦茶で……それでも楽しい。
“幸せ”だ。
私は久々に再会した二人を遠くから見る。
何十年も待っていたのだ。
さぞかし嬉しいだろう。

「……早くきやがれですぅ……馬鹿野郎ですぅ……」

一人呟く。
また涙が流れていた。
流したくなどないのに。


――更に数年後

「久しぶりだな 」
「久しぶりぃ? 」
「久しぶりジュン君、水銀燈、そして愛しの人よ」

久々の再会でクサい台詞を吐く蒼星石を見て皆思わず笑ってしまう。

「待ちくたびれたですぅ!罪は償ったですか!? 」
「勿論、約束は守る主義だからね。
 そして僕はもう1つの約束も果たしに来た。
 翠星石、僕は君を愛している。
 君との永遠を約束どおり誓いたい」

何十年も前から願い続けてきた事。再会、そして幸せの誓い。

「そ……そんなのOKに決まってるですぅ!」
「 ふふ……じゃあ早速誓ってよぉ?」
「ああ、約束通り僕らに誓ってくれ 」

かつて僕らが翠星石達を含んだ友らに誓った時のように。

「うん……翠星石、僕は君を……永遠に愛する」
「翠星石もですぅ……私も愛してるですぅ」

そう言うと二人の唇が重なる。
幸せの誓い、永遠へのスタートの印。二人は間違いなく“幸せ”、僕らもだ。


――更に数週間後

「二人とも久しぶりだな」
「八百八十八時間ぶりくらいねぇ」

八百八十八時間って……まぁ確かにちょうどそれぐらいの時間だろうけどな。
そんな細かくよく覚えれるな。

「久しぶりなのだわ」
「久しぶりなのー!」

元気に走ってくる雛苺。それについてくる真紅。
二人とも、何て久しぶりなのだろう。

「ふふ……そうだわ皆、紅茶を煎れてあげるのだわ」
「どうしたんだ真紅?お前が紅茶を煎れるなんて?お前は飲む方だろ?」

真紅が紅茶を飲む姿は今までに山ほど見ている。だが、紅茶を煎れる姿は一度も見た事が無い。

「失礼なのだわ!あなたが居ない間に修行したのだわ!」
「ほーう、あのノートを見たのか?」
「え……あ、うん……あ、ありがとなのだわ」

当たっていたようだな。
ローゼンメイデンに居た時に書き続けてたものだけど……
あれを本当に真紅が読むとはな。白崎さんに半分は冗談のつもりで渡したのだが。


「楽しみだな真紅の紅茶を飲むの、さて皆飲もうぜ」
「はいですぅ」
「うん、たまには緑茶じゃなくて紅茶もいいね」
「はぁい、真紅早く煎れてねぇ」
「うゆー!」
「わかったのだわ」

真紅は皆から離れて紅茶を煎れ始めた。
……おいおい、僕よりうまいんじゃないのか?
まぁ、あいつは長く生きてたんだから当然だよな。
けど、なんとなく悔しい。

「おいしいな」
「あなたのノートがあったからなのだわ、礼を言うわ」
「こんな旨い紅茶が飲めるようになるとは思わなかったよ、
 ノートを残してて正解だったな」

最も、ノートに書いてないような知識も真紅は一杯学んでいるのだろうけど。

「あ、当たり前なのだわ!下僕の世話をするのも主人の仕事!
 その為には紅茶だってなんだって煎れるのだわ!」
「ふふ……そういや下僕だったな俺」

“客は神、客は主人、敬いなさい下僕”
ローゼンメイデンで紅茶を煎れているとこう言われたのだ。
何と言う理論なんだろう。
自分が世界も中心だという考えじゃないのか?と思った事もあったな。
>>157

「それとみんなでうにゅー食べるのー!」
「いいわねぇ」
「太るです」
「死んでるんだから関係なんかないのじゃない?」
「それもそうなのだわ」

それもそうだ。
此処は思い出の世界。
“在ると思えば在るし無いと思えば無い”
自分の思う事の他は何も起こらないのだから。
終わらない。
もう何もかも終わらない。
“幸せ”も。


――更に数年後

「久しぶりかしら」
「遅かったのだわ」
「久々なのー」
「久しぶりだね」
「遅かったですぅ」
「久しぶり」

皆は金糸雀に次々と言葉をかけていく。
もう年月さえも忘れてしまった。
そんな長い時の果てに“再会”した親友。
ほんとに嬉しい。
金糸雀はバイオリンを構えて言った。

「みんな歌うのかしらー!」

僕らは歌った。
久々の再会という事でテンションが上がっていて。
賑やかに、楽しく、幸せに。
“終わり見え無き幸せの愛歌”を。


「この曲はエンドレスなんだな?」

歌い終わった後、僕は金糸雀に尋ねた。
金糸雀の弾いてたバイオリンの曲はある程度いくとまたその繰り返しというエンドレスだった。

「そうかしらー、カナオリジナルの“オーベルテューレ”かしらー」
「“オーベルテューレ”?」
「“序曲”、始まりの曲かしら。
 けれどもこの曲に終わりは無いかしら。
 幸せが永遠に終わらないという意味を込めているかしらー」
「……いい曲だな、そりゃ」

まだまだ僕らの幸せは始まったばかりかもしれない。
そしてそれは終わらない。
まさに曲通りだな。
……終わらない“幸のオーベルテューレ”
いいな。


「はてはて、皆様楽しそうで」
「ああ、自慢じゃないがとても幸せだ」
「とーってもねぇ」

僕らの世界にラプラスの魔もやってきた。もうお馴染みとなってしまって皆慣れている。
金糸雀に至っては会った事を覚えていたらしい。やっぱりあの時の事はラプラスの魔が関係していたんだな。

「さて、また一輪の薔薇が咲こうとしてます」
「何?誰か来るのか?」
「ええ、かつて無意識の海に飲まれかけた少女が」

無意識の海に飲まれかけた少女……薔薇水晶か。

「迎えに行くか」
「そうねぇ、皆で行きましょう」
「ちょっとお待ちを、迎えに行くのは水銀燈、金糸雀さんだけの方がいいでしょう」
「何でだ?」
「特に理由はありません、しかしそうする事をお勧めします」
「……」
「まぁいいわ、私達は此処で待ってるから貴方達で行ってあげなさい」

真紅が優雅に紅茶を飲みながら言う。まぁ、結局は此処に連れてくるんだからな。

「じゃあ行くか」
「ええ」
「かしらー」

僕は返事を確認して“現の第一世界”へと向かった。


「ひどいわぁ……」
「……なんてこったい」
「悲惨かしら……」

薔薇水晶の所へ向かうと着いたのは車の事故現場。
二つの車が大破している。中のドライバーも無事でないだろう。
そして、そのドライバーは薔薇水晶……。

「あ、来たかしらー」

見てみると薔薇水晶が昇ってきていた。
以前見た時とは違って眼帯が無かった。
こっちを見て少し驚くものの薔薇水晶は微笑んだ。

「久しぶり……」
「ああ、何年ぶりだか」
「もう忘れてしまったかしらー」
「しかし、これはどうしたのぉ……?」

水銀燈は車の方を見ながら呟いた。
そりゃそうだ、こんだけ大破する程の事故ならば誰でも気になる。

「思いっきりぶつかられたの……お姉ちゃんと乗ってたら……」
「……!」
「雪華綺晶はどうしたのかしら!?」
「大丈夫……私が死んだけどお姉ちゃんは無事……」
「怪我ないのねぇ、けど……貴方達に車をぶつけてきたジャンクは誰なのぉ?」


穏やかそうな口調だが怒っているのがよくわかった。
僕も内心かなり怒っている。友達を殺す奴なんて……。

「多分……死んでる……それがあの人の目的だから……」
「……どういう事?」
「ずっとお姉ちゃんに殺してと懇願していた人。
 もうずっと会ってなかったけど間違いない」
「殺してって……?じゃあこれは……?」
「せめて、形だけでも殺されたかったと思う……」
「……そんなの、狂ってるかしら」
「なによ、なによ、なによぉ!そんな理不尽な理由でぇ!?」
「うん……あ、出てきた」

薔薇水晶が出てきたのとは別の車から誰かが昇ってきた。
雪華綺晶に殺されたがり薔薇水晶を殺した奴。一体どんな奴だ?

「お前は……え……」

誰だと思い尋ねようとした。けどそれは途中でやめた。
知っている人だったから。僕と金糸雀と水銀燈だけが知っている人。

「嘘かしら……」
「なんでよぉ……」
「オディール……」

オディール、精神を病み入院生活を余儀なくされた親友。僕の事に一生懸命になってくれた人。


「なんで……」

絶句する僕らにオディールは気付いたようで驚いた表情を浮かべていた。
そして、暫くすると微笑んで何処かへ行った。
恐らく自分の思い出の世界。

「知ってる人……?」
「……ああ」
「凄く大切な友達よぉ……」
「ジュンの為に頑張ってくれた人かしら……」
「……」

皆、何も言えなかった。
あまりの出来事だったから。
予想もしていない事だったから。

「……行こうか」
「そうねぇ……」
「じっとしててもしょうがないかしら……
「うん……」

全員が全員、沈んだ気持ちのまま思い出の世界へと帰っていった。


「どうもこんばんわ」

いつの間にか姿を現したのはラプラスの魔だ。
もう慣れたことなので気にしない。
さて、今日は何か話でもしてくれるのか?

「今日はちょっとお知らせが」
「何だ?」
「最後の花が咲こうとしています」
「最後の花……雪華綺晶か」
「ええ、もうすぐ此処に来ようとしていますし
 誰か側に行ってあげたらどうです?」
「……私が行く」

薔薇水晶が手を挙げ名乗り上げた。
自分の姉、雪華綺晶を見届けたいだろうしな。

「きらきーの……お姉ちゃんの側に居る……」
「そうと決まったら早く行ってやれ、実の姉の所に」
「……うん、行ってきます」

薔薇水晶は“現の第一世界”へと行った。
雪華綺晶の最後の時に。


さっき私が見た時、此処の土地の持ち主と話していたからきっとこの土地を買ったか借りたかしたのだろう。

「死のうかな……」

今はこのローゼンメイデンの主であろうお姉ちゃんが呟いた。

「駄目……」

すると振り向いた。
けど、きょろきょろしている所からしてまだ姿は見えないのだろう。
声だけが聞こえてるようだ。

「死にたいなんて思っちゃ駄目……」
「ばらしーちゃんなのね……」

実に落ち着いた口調。死を目の前にした人間はこんなもんだ。
どうも、何か悟ってしまうのだ。お姉ちゃんは空中に腕をかざし抱きしめるような動きをする。
私はそれに近付き同じように抱きつくような動きをしたので抱き合った形になる。
最も、ぬくもりも感じないのだけれど。

「ずっと居てくれる……?」
「うん……」
「……ありがとう、ばらしーちゃん」
「けどね……」
「ん……?」
「もう長くないと思うし……そろそろ会えるかな?」
「多分ね……けど早く会いたいからって自殺したら怒るよ……?」
「ええ……」


何日もそのまま側にいた。
声だけが聞こえる姉の側に。
そんな日も早くに終焉が来た。

「ばらしーちゃんが見えたよ……」
「……ほんと?」
「ほんとですわ、体も軽い……」

お姉ちゃんは昇っていた。
生との決別、死んだんだ。

「体……遠くなってきたね……」
「うん……」

さっきまで動いていたお姉ちゃんの体がもう動かず
首が垂れた状態となっている。

「こうやって……二人で昇ってみると天使みたいだね……」
「ふふ……そうですね。天使なんて久しぶりに言われましたわ」
「誰かが言ってたの……?」
「……ええ、けど秘密ですわ」
「う~……意地悪……」
「ふふ……あ、粉雪ですね」

ちろちろと雪が降っていた。
小さいけれどもずっと記憶に残る粉雪。


「これで全員集合だな」
「そうですぅ、ようやく全員揃ったですぅ」
「ふふ……嬉しいね」
「かしらー!最高かしらー!」
「なのー!」
「……また賑やかになるのだわ」
「そうねぇ、楽しくなるわよぉ」
「雪華嬢が来て遂に薔薇乙女に薔薇紳士全員集合だなっ!」
「君は紳士に見えないけどね」
「よく言うわね……あなた」

先程、雪華綺晶が薔薇水晶と共に来た。
薔薇水晶が側に行っている間に
ベジータ、笹塚、柏葉も来た。
皆と“再会”した。
柏葉は今は柏葉でなく結婚して笹塚だとの事。
全く意外だ。

「歌でも歌うか」
「幸せの……」
「愛歌をですぅ……」

皆が愛歌を歌いだした。
幸せそうに、楽しそうに。終わりの無い曲を。


そんな中、微かに降る粉雪の中別の歌を歌う雪華綺晶が居た。

「からたちの……花が咲いたよ……」

特に好きでもなく頭に妙にメロディーが残る
からたち……花言葉が“思い出”の曲。
メグに教えた寂しさを紛らわせる歌。

「からたちのうたか……」
「ええ、知ってますの?」
「ああ、昔人に教えたんだ」
「そうですの、私はある人に教えられたのですわ。
 ばらしーちゃんが入院している時に……。
 その人は死んでしまって、今でも会えないのですわ」

……メグ。
雪華綺晶もメグを知っていたのか。
そして、もう“居ない”事も知っている。

「けど、ずっと心に留めておこう」
「ええ、絶対に忘れませんわ」
「それがきっと……“幸せ”だ」

粉雪が降っていた。
粉雪が消えていった。
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